4/4にシングル『ホタル』をリリースした藍坊主が、6枚目のアルバム『ノクティルカ』を4/18にリリースした。アルバムごとに大きな成長と変化を続けてきた彼ら。
前アルバム『ミズカネ』はその“音楽性”に深みと高みを見せ、バントとしての成長を作品に克明に刻んだが、アルバムとして約2年2ヶ月ぶりと なる今作は、聴き手の感覚を直接震わせるような生命力と体温に包まれている。
感性と人間性と音楽性を更に深化させた藍坊主。
5/4から始まる “aobozu TOUR 2012 ~夜型人間は朝眠る~”で、彼らの瑞々しい音楽に触れてほしい。
「自分の中の"これだ!"というものを思い出させてくれる感じがする。自分の中から湧いてくるものに届くような曲がすごく多い」
「俺は"普遍性"を強くしたくて脇道に逸れていったはずだったんですけど、実は忘れていたのかもしれないなって」
●今作『ノクティルカ』の印象なんですが、藍坊主は"光"や"森"、"水"とか、自然物を想起させる作品が多いという印象があるんです。今作からもそういう印象を受けるんですが、それ以上に生命力というか、体温というか…なにか強いものを感じたんです。"強い音楽"というよりも、音楽の根底にあるものが強い。そして歌詞の傾向としては、今まで哲学的にいろいろなことを追求してきて、ひとつの過程を通り過ぎたような感じ。音楽的であるんですけど、それ以上に"人間的"な気がする。前アルバム『ミズカネ』はイメージとしては"音楽的"なんですよね。
田中:真っ直ぐな感じの曲が多いかなと思いますね。でもそれは"ストレート"とか"単純"というより、俺たちが今までやってきた「マザー」(2008年11月リリースのシングル曲)からの流れだったり。いろんなものを全部まっすぐに繋いできている力強さという感じがあるんです。だから、単純にストレートということではないというか。
●そうそう、シンプルではないですよね。
田中:飾りが飾りっぽくない。俺はこういうものの方が力強さを感じるんですよね。自分の中に入ってきやすいというか、自分の中の"これだ!"というものを思い出させてくれる感じがする。自分の中から湧いてくるものに届くような曲がすごく多いなと感じます。
藤森:今回、そういう意味では自然にできたかなと思うんですけど、拓郎が「あまり考えずにドラムを叩きたい」と言っていて。その想いもすごく伝わってきたし。
●制作する時点で背伸びするんじゃなくて、今までの蓄積でできることをやったということ?
藤森:そうですね。hozzyは家で歌を録っているから、その分自然体だし。
●拓郎くんが言った「あまり考えずに…」というのは?
渡辺:それは常々思っていることなんです。自分が思う"いい演奏"はなんだろう? と考えたときに、たぶん"こう演奏しよう"と思ってやっていたらそこでもうダメなんだろうなと。例えるなら、告白をするときにああだこうだ言うよりも「愛してる」と勢いで言ってしまった方が伝わるんじゃないかということですよ。
●「愛してる」と言ったことはあるんですか?
渡辺:ありますよ、そりゃあ(笑)。
一同:おお~!
渡辺:え? みんなあるでしょ?
●「好き」と言ったことはあるけど「愛してる」と言ったことはないです。
hozzy & 藤森 & 田中:うんうん。
渡辺:まあその話は置いといて(笑)、僕自身、頭を使っていろいろ考えるのが苦手な人間だからかもしれないですが、何かを考えながらやったことって、あまり上手くいった記憶がないんですよね。それは演奏も一緒で、結果的に考えずにできるところまで自分で落とし込めばいいのかなって。例えば箸を使うのって、最初は大変じゃないですか。でも今は脳みそを使わないでも使える。
●スティックを箸のレベルまで持っていこうと。
渡辺:そのレベルまでいけたらいいなと思っていて。俺は"どうやったら藍坊主でうまくやっていけるのか?"と考えながらやっていた時期があったんですが、最近、ひょっとしたら一区切りしたのかもしれないと思える演奏が録れたんです。
●おっ。
渡辺:そこから先は、10代後半の思うがままにやっていた感じでやりたいという気持ちがあって。今回は、まず自分の中で正解を1個置いておくんですけど、レコーディングのときにこれが正解かどうかを考えながらやっていたらもう遅いから、その前にそこまで持っていっておこうかなと。
●なるほど。ところで今作でかなり衝撃的だった曲があるんですが…M-1「天国からの手紙」という藤森くん作詞/作曲の曲。歌詞の内容も決して浅く歌えるものではないと思うし、歌詞の乗り方も普通の譜割じゃないというか、ものすごく歌うのが難しい感じがする。
hozzy:難しいです(笑)。
●なぜこういう曲が生まれたんでしょうか?
藤森:なんででしょうね?
●知らんわ(笑)。
藤森:去年の夏くらいから作り始めたんです。そこから少しずつ構築していって、メンバーには「もうちょい待って」と言って。ぶっちゃけ、僕は去年の武道館以降はこの曲しかやっていないというくらいです。それ以外の曲は武道館よりも前にできていたので。とにかくこの1曲を絞っていこうと。
●これはタイトル通り、まさに"天国からの手紙"というひとつの形をとっているじゃないですか。この曲に込められているのは自分の死生観というか、生きている理由というか。
藤森:実は、今作のインタビューでこの曲を突かれたら"なんと答えようかな?"ってずっと考えていたんですよ。今までの取材は上手くかわしてたんですけど(笑)。
●あ、弱点を突いてしまってます?
藤森:もう触れないでください(笑)。
田中:いちばん時間をかけて作った曲なんだからしゃべっておけよ(笑)。
●でも色んな想いがこもっているだろうから、軽く語れないだろうなとは思っていたんです。
藤森:作った経緯も明確にあるんですが。正直、説明したくないんですよね…(苦笑)。
●じゃあ詳しくは訊かないでおきます。説明しない方が伝わる場合もありますからね(笑)。
藤森:そうですね(笑)。
●絶対に軽いきっかけで作った曲ではないと思ったので、まずこの曲が衝撃的だったんです。藤森くんはこういうことをフィクションでは絶対に書かない人だと思うから。
藤森:フィクションではないですね。想像で自分以外の主人公を作って描いた曲ではないことだけは確かです。
●生命力を感じるという部分では、M-2「イエロームーンチャイルド」やM-10「涙が滲む理由」とかが印象的だったんです。意味は分からないんですけど、メロディと一緒になったときにすごく力を感じる言葉が使われていて。「涙が滲む理由」の"子等(こら)"が最たる例で、歌詞を見るまで何と歌っているのかよくわからなかったんですよね。聴き手に思考させる以前に、まず感じさせる。その後、歌詞を読めば思考させるというか。言葉選びも今まで以上に磨いている印象があるんです。
藤森:今までは言葉の意味ばかり考えていたんですけど、響きやイメージの方が歌にすると飛び込んでくる感じがあるというか。今回はそこに重点を置いてやったし、その言葉のイメージをどうせなら覆してやりたいという気持ちもありました。伝わる人に、雰囲気だけで受け取ってほしくないなって。1個1個がメロディに合うことと、仮歌を録った時点でも自分の奥に気持ちが入るような言葉を使っていきたいなと思いましたね。
●"子等"という言葉のチョイスは?
藤森:『ミズカネ』を作り終えた辺りに、この言葉が面白いなと思って、すごく好きだったんです。怒るときの「コラ!」にも似ていて、僕の中では「Attention please」みたいに、すごく大事なことを言う前に「注意して聞いてくれよ」という意味で「コラ!」と言ってから大人が話し始めると思うんですよね。そう考えると、子供たちと「コラ!」という言葉にはすごく関連があると思って。調べたら、そういう意味はないらしいんですけど(笑)。
●語源が同じというわけではないんですね(笑)。
藤森:僕も絶対そうだと思ったんですが、違うみたいです。でも、すごく力強くて優しい言葉だなと思って。
●なるほど。それとhozzyの作ったM-9「ホタル」とM-4「花火計画」なんですが、ノスタルジーではないですけど、音楽には過去の記憶を呼び起こす作用があると思うんですよ。この2曲でそれがすごく強いと思ったことが、今作から温かみや生命力を感じた理由でもあるんです。あまりhozzyからこういう曲が出てくるイメージがなかったんですよね。
hozzy:まず「ホタル」は、シングル『生命のシンバル』(2011年12月)を録り終わって、アルバムに向けてそろそろ動き出そうかというときに、アルバムの前にシングルをもう1枚切りたいとなって、藤森も俺もそういう曲を目指して作っていたんです。その中でできた1曲だったんですけど、メロディができたときに"なんか懐かしい"と思って。
●メロディができた時点で既にそう感じたんですか。
hozzy:そうなんです。いつもデモの時点で仮歌詞も付けるんですけど、頭の4行は、仮歌詞で出てきたものをそのまま使っていて。仮歌詞のときって何も考えないんですよね。言葉の乗りがいいものをただ選んでいたり、メロディやコードのイメージに合うものをただ当てはめたり。それこそが、曲が持っている潜在的なものなのかもしれないんですけど。そんな感じで最初の4行は残したんですが、すごく懐かしいなと感じたこのメロディが、"すごく青春っぽい!"と思ったんです。
●青春?
hozzy:そう。それで、とりあえず仮歌を録ったんですが、この曲は仮で付けたタイトルが「フジモリーズ」で。高校生のときに地元でつるんでいた友達とのチーム名みたいなもので、別にヤンキーとかチーマーではなかったんですけど「俺たちフジモリーズだぜ」って言っていたんですよ。
●ヘッドは藤森くんなんですね(笑)。
hozzy:そうなんです(笑)。このメロディを聴いたときに、その頃の雰囲気を思い出したんです。今まで俺は青春っぽい曲を書きたいなと思っていたんですよ、青春パンクじゃなくて。青春パンクって自分たちがモロに青春真っ只中じゃないですか。でもそうじゃなくて、青春を表現する形で、聴いたときに青春が蘇ってきたり、青春っぽい情景を呼び起こせるような音楽を俺も作ってみたいと、ずっと思っていて。
●hozzyがそんなこと思っていたというのはちょっと意外。
hozzy:でもずっと上手く表現できなくて。なぜ今まで表現できなかったというと、きっとその間はずっと青春だったんでしょうね。ずっと長く続いていたけど、やっと今青春じゃなくなったんです!
●終わったんかい(笑)。
hozzy:この曲ができて"この曲は青春だ"って思った瞬間、"俺もう青春じゃないわ"って分かったんです。寂しいけど、これでようやく青春の曲が書けるんじゃないかと。そこから火が点いちゃって、わりと青春っぽい曲をアルバムに入れようと(笑)。さっき言ってくださったように人間力や生命力…聴いた人がどこかでざわっとしたり、懐かしいと思ったりしたときに"生きている"と実感すると思うんです。ちょっとだけでいいんですけど、そのちょっとをいっぱいにしたくて。そういうことが、俺のアルバムに向けての目標でしたね。
●なるほど。「ホタル」はとくに情景描写が印象的で。例えば"錆びた一斗缶を囲む草"とか、全員が見たことはないと思いますけど、その情景がまさに青春じゃないですか。
hozzy:そうですね。俺が実際に見たものしか書いていないですけど、この曲を聴いたら"ああ、あそこには転がっているな"と、すぐにその情景に飛べる。"すげえ素敵なことだな"って青春を思い出せる。だから、そういう意味で大人になるのは悪くないなって思っています。
●「花火計画」も青春ですよね。
hozzy:久々に言葉を削って、単純でシンプルにしました。当たり前の言葉を音楽に乗せるということをやりたいなと。
●それは普遍性だと思うんですよね。
hozzy:そういうところですね。俺は"普遍性"を強くしたくて脇道に逸れていったはずだったんですけど、実は忘れていたのかもしれないなって。去年、地震が起きたせいもあるのかもしれないけど、我に返ったんですよね。"俺はなんで音楽をやっているのかな?"と思い返したときに、普遍的なものがすごく好きで、普遍性を否定したいから難しいことをやり始めたわけじゃなかったなと。
●きっと、人と違う方法で普遍性を求めていたんでしょうね。
hozzy:そうでしょうね。その中に突っ込んでいくんじゃなくて、違った方法でやらないと、俺はこっちだということが分からないんじゃないかなと思っちゃう人間なので。今回作っていて、何年か前よりも、より自分が作りたかったものに近付けたかなと思った。これを作るまで、ちょっと迎合していると思ったんです。いい曲を作ろうとしているみたいな。もちろん、いい曲は作りたいんですよ。でもその気持ちは不純だと思っちゃっていたんですよ。シングルのために「ホタル」を作るとか、動機に金が絡んでいると嫌だなって思います。
●商業音楽的な考え方ね。
hozzy:そうじゃない部分でできた音楽なら100%肯定できるけど。でもちょっと待てよと。最近少し考え方が変わってきて、"商業音楽にしたかったのはなんでだったのかな?"と考えると、やっぱり聴いてもらいたかったからじゃないかと。やっぱり俺はこういう曲を作りたいし、聴いたもらいたいんだって思い出したんです。
●それはきっと"思い出した"というか、自分の作ったもので表現したかっただけじゃないんでしょうか?
hozzy:そうですね。聴いてもらうために誰かの真似をするんじゃなくて。そういう意味でも、このアルバムを作っている途中で、絶対すごくいいアルバムになると思っていて。『ミズカネ』よりも分かりやすいし、聴いている人が素直にいいと思ってくれるんじゃないかな。
●そしてツアーがありますが、今作が完成したことによってまた少しライブの雰囲気が変わるような気がするんですが。
田中:そうですね。ライブ中は楽しいけど、ライブが終わったらまた普通の日常に戻りますよね。でもそうじゃなくて、日常が変わるようなライブをやりたいなと思っています。その場だけじゃなくて、その人の中で何かが変わって、ライブじゃないところに持ち帰ってからも何かが生まれたらいいなと。ライブのやり方が変わるわけではないんですが、俺は今作にそういう部分をすごく感じるんです。ただ音楽でどうこうじゃなくて、聴く人の中で何か気付きみたいなものがあって、反応が生まれるようなアルバムだなと思っているんです。その作品をライブでやるからには、そういうツアーにしたいと思います。
●拓郎くんはどう考えてます?
渡辺:ライブについては、"自分がこういう風にやっていきたい"と思っていたものと、"藍坊主をやる上でこういうことを学ばなければならなかったんだ"というものが、最近は同居し始めている感じを受けていて。それがまだおぼろげで、ざっくりとしていて明確ではないんですけど、たぶんこのツアーは、それにトライすることになりそうだなと。藍坊主で自分がこういうことを見せなければならないんだなということと、理想としているミュージシャン像のようなものになるためには、何をしなければならないのかが見えてくるツアーになりそうだなと思っています。
●楽しみですね。
渡辺:でも、ただ楽しいだけじゃ終わらないような気もしているんですけどね(笑)。
●藤森くんは?
藤森:やっぱり楽しんでもらいたいですね。観に来てくれた人が、「楽しかったね」って言うもの。それを僕は音楽を通してしかできないので、音楽できっちり伝えて、「いいものを観たね。楽しかったね」って言ってもらえるライブにしたいです。
●今作を聴いていると、hozzyのボーカルの肌触りも曲によって全然違う気がするんですよね。家で録ったからかもしれないですが、リラックスしているというか。
hozzy:結構やりましたよ。何度も「違う!」「違う!」って。1曲で8時間歌ったものもあります。あと、「この曲は座って録った方がいい」と言って、病人みたいに座って歌ってサビだけ立つとか(笑)。いろいろやりました。
●ということはライブも…。
hozzy:もちろん座って歌います!
一同:アハハハ(笑)。
hozzy:リハをやるごとにだんだんイメージに近付けるにはどうすればいいのか分かってきたんです。今回のツアーは、会場で俺がいちばん楽しんでやろうかなと。
Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:Hirase.M