ここ数年のSABOTENに不満と苛立ちを感じていた。しかし、今回の作品でSABOTENが更に好きになった。本誌9月号のクロスレビューだけじゃおさまらないこの感情!! すぐにメンバーに電話を入れ、対談を申し込んだ。キヨシとこんなにゆっくり話したのは何年ぶりだろう? 僕は思いのたけを飾ることなく、キヨシにブツケタ。改めて感じた。思慮深く、謙虚な生き様とSABOTENのそして、キヨシの意志と熱い闘志を。
●SABOTENは、周りから期待されてメジャーデビューしたじゃないですか。よく吹田のスタジオYOUでやっていたから、行く度にポスターが貼ってあって当時は“このバンドはどんだけすごいモンスターなんやろう”ってイメージだった。
キヨシ:確か24歳の頃ですね。もともと20歳で結成して、21歳で初めて自主制作アルバムを作って借金を抱えながらツアーをしていたんですけど、そこでSHACHIのTAKEさんが『HI ROCK HI』の再リリースをしてくださったんですよね。
●JUNGLE☆LIFEでも表紙をやったり、特集を組んだりといろいろと絡んでもらった思い出があるね。
キヨシ:やりましたねぇ〜。“東京を観光しよう!”とか言ってメイド喫茶に行ったの覚えてます? いろんな人にアルバムを聴いてもらって。
●覚えてるよ。本当によくJUNGLE☆LIFEに登場してくれるよな。
キヨシ:僕自身、ずっと読んでいた雑誌ですからね。
●今じゃキヨシ自体が関西パンクロック界の中堅というか、ベテランに近い域になってきているやろ。
キヨシ:えへへ、まいったなぁ〜(照)。結成からもう13年経ちました。
●それで、3年くらい前だっけ。ヤッソーが腱鞘炎でベースを弾かれへんようになったのは。今思えば、腱鞘炎になって3人が考え込んだというか、正直落ちてたと思うのね。その時期があるからこそ今回に繋がっていると思うんだけど、やっぱり苦しかった?
キヨシ:やっぱり、ヤッソーが一番キツかったと思いますね。正直今でも残っているんで、完治ではないですし。ヤッソーは辞めるか続けるかの瀬戸際だったんで「一晩考えさせてくれ」って言ったんです。ヤッソーが辞めるんやったらSABOTENとして続けることは出来ひんし、その時はきっぱり辞めようって話をしていて。翌日ヤッソーが「やっぱり俺、ベースを弾きながら歌いたい」って言ったんで、腱鞘炎が直るまで待とうと。
●見てると辛そうだったもんな。SABOTENのメンバーってそんなに明るい方ちゃうし。キヨシは最初はっちゃけてるタイプなのかと思っていたけど、結構大人しいもんね。
キヨシ:僕はどっちかというと頭の中で“こんなんやったらオモロいな”っていうのを考えちゃうタイプですね。サケはどんな環境にあろうがあのまま、ぼーっとしていて天然ですし。
●3人とも絡み辛い性格やもんな(笑)。
キヨシ:JUNGLE☆LIFEさんにも苦労をかけてると思います。初めての取材なんか、相当めんどくさかったんじゃないかな(笑)。
●一番困ったのは、サケが日本語ができないこと! あいつは敬語を知らんやろ(泣)。
キヨシ:敬語も知らないし、社会を知らなすぎる(笑)。
●ほんま、それでよく生きてこられたな。キヨシの歌や歌詞は、まずサケに理解させなあかんよね。
キヨシ:あははは(笑)。でもあいつ、勘は良いんですよ。だから曲に対する読解力は結構あるんです。例えば“今日のPJはこういうテンションだから、こういうモードなんだろうな”っていうのを読み取るのが上手くて。それに対してどうこうしようっていうのはないけど、取りあえず地雷だけは絶対に踏まないようにしていると思います。
●そうなんや。意外と賢いよね(笑)。さて、今回の『WHITE POOL』は、すっごく評判が良いよね。
キヨシ:ありがたいことに、こんなに良い評判を貰えるとは予想してなかったです。
●それはキヨシが今まで何にも考えてこなかったから。
キヨシ:そんなことないですよ! パインフィールズ(レーベル)にも迷惑かけられへんし、いろんなものをしょっているから“みんなを幸せにせなあかん”って気持ちでした。
●だってSABOTENにはこれだけ引き出しがあるのが、今までわからへんかったもん。
キヨシ:今作はバラエティに富んでますもんね。
●特に“キヨシの歌ってこんなにええんや”と思って。コーラスもツボをついていて、ええ感じやん。
キヨシ:コーラスは基本ヤッソーが作って、みんなでジャッジしながら足し引きしていったんですよ。
●ヤッソーのベースラインもセンスあるもんな。電車の中で何回もループして聴いてるけど、全然飽きない。今回は“背負っているものがある”と本当に感じるよ。
キヨシ:それはすごく感じました。レーベルオーナーの松原さんたちと一緒に考えたり、常にミーティングしたりするのは本当に楽しいんですけど、それだけの時間を使ってもらってるからこそ、余計に裏切れない。みんな良い仲間なんで「SABOTENのためやったら何でもやるよ!」て言ってくれるんですけど、おんぶにだっこは嫌いなんで。これは絶対に恩返ししないと、という気持ちで挑みましたね。
●松原くんも言ってたよ。「今回のアルバムでもう一軒家が建てれる!」って。
キヨシ:あはははは! スケールが大きいなあ。でも、ぜひ建てたいですね。僕らは別に大金もいらないし、バンドが軌道に乗ればそれだけで楽しいんで。
●俺はキヨシのそういうところにもの申したい! これだけ気持ちを込めて作って、周りのみんなも応援してくれる作品を“売らな”どないすんねん! せっかくええもん作ったんやから、ちゃんと“売らな”あかんで!!
キヨシ:わかりました。僕も家を建てるくらいの気持ちでやります!
●気持ちじゃなくて、建てなさい!
キヨシ:わかりました(笑)。
●でも、キヨシはほんまに才能があるねん。ギターだけじゃなくてソングライティング能力やコーラス能力も高いし、歌も上手いから。それを、パンクキッズだけのものにしてたらもったいない。
キヨシ:J-POPもヒップホップも好きですし、オールジャンルに音楽が大好きなんで、パンクという枠にこだわりはないんですよ。
●今やSABOTENはパンクロックの代名詞みたいになっているけど、もっと一般にも訴求できるポテンシャルを持っているのが、今作でハッキリわかった。演奏も色気があるし、何でこういう良いモノがもっと広がっていかないのかと思って、本当にもどかしい。
キヨシ:どこにでもあるような作品としてさらっと流されないよう一歩突き抜けたいけど…いろいろ作戦を考えても、決定的に“コレだ!”っていうのが出ないんですよね。
●一般の人たちも同じように悩みを抱えているだろうし、社会性があんまりない3人が楽器を持って歌を歌い出したらこれだけのパワーを持ち出すということを考えると、歌詞がちゃんと届くかどうかが大事だよね。ライブで演奏は出来てるんだから、キヨシが歌っている内容がわかるようプロとしての見せ方を意識しないとね。それでSABOTENはこれから何をテーマにやっていくの?
キヨシ:結果を出していかんとあかんなって思いますね。安定感のある活動より、変化したり向上したりしたいと思ってやっているんで。
●SABOTENはこのアルバムで、もはや日本の音楽シーンに無くてはならない存在になったと思ってるから。こう思わせた以上、絶対に納得させるようなライブをやってくれないとね。
キヨシ:今までは何が起こるかわからないのを楽しんでいた部分もあるし、行き当たりばったりなことも多くて。曲に関してはしっかり仕込んできたけど、全体を通して“こういうものにしよう”っていう風に作ったことがないんですよ。今作では、バンド感とミュージカルを組み合わせたようなものにしようと思って。
●俺の好きなM-7「俺をなめてる奴は俺になめられてる」みたいに語りの入っている曲があるよな。そのセンテンスだけで“SABOTENのライブに来て良かった”と思えるような一瞬を作れるバンドになれたら素敵だよね。
キヨシ:体が覚えている分、さらっと歌っちゃう時もありますからね。だけどやっぱり魂を込めて歌うことは忘れちゃいけないですね。
●キヨシの歌は55歳の大人を感動させる力があるんやで。ミディアムテンポの曲もアリなんじゃない?
キヨシ:そうですね。これまではこのテンポじゃないと納得してくれないお客さんも多いと思って、なかなかチャレンジ出来なかったんですけど…。今なら僕らがやりたいようにするのを、お客さんも望んでくれているかもしれないですし。今作もスカの曲を入れてみたり、後半の1曲でスローテンポな曲を入れたりと一歩壁を取っ払ってみたんです。でもやり過ぎちゃうと、今来てくれているお客さん的にどうかな……とか考えちゃう部分もあって。
●“このくらいにしとかなあかんやろな”と思うようなテンポや、ディレイの掛け方とかの葛藤もよくわかるよ。でも、それを越える一歩目として、今回は完全に狙い通りのところに行けてると思う。“SABOTENってこんなバリエーションがあるんだ!”って感じたし、だからこそ飽きへんねん。
キヨシ:僕も展開がいろいろある方が面白くて良い作品だと思うし、ライブを観たくなる。
●今までは難しく考え過ぎだったかもね。キヨシがソングライティングをやっているわけだから、やっぱりキヨシの考えていることが反映されるんやな。
キヨシ:サケとヤッソーは僕にとって最強のサポーターやと思ってるんです。2人は新たに曲を生み出すのは苦手かもしれないけど、僕が用意した楽曲を完璧に実現してくれるんです。
●この人だからええし、この人たちにしか出来へんよな。『WHITE POOL』は俺的に文句なしやもんね。
キヨシ:なかなか時間がなくて、宅録したりもしたんですよ。ラインでギター録りをして、スタジオに持っていってアンプで鳴らして、マイクで拾って…みたいな。ミックスは前回と違う人にお願いして。逆にマスタリングはスタジオYOUさんにお願いして。ここまで冒険したから、一旦原点に戻ろうと、いろいろ工夫はしました。
●それが本当にピタっとハマったな。特にこのミックスの人、SABOTENのことをようわかってるよね。バンドのメンバー以上にわかってる。
キヨシ:天才やと思います。僕の歌のこともすごくわかってくれているし、もし僕がエンジニアの能力をもっていたとしても、この人の方がそれ以上の力を出してくれると思う。
●すぐ事務所に「今回はミックス違うやろ」って言ったもん(笑)。これだけ話題沸騰の作品ができたわけだし、絶対に売りたいよね。そしてゆくゆくは億万長者に!
キヨシ:売りますよ! お金自体に執着はないけど、今リアルに考えているのは、スタジオを作りたいと思っているんですよ。避暑地に音楽制作合宿所を作って、都会で音楽を作る環境がないミュージシャンに場所を貸し出すような。都会のようにごちゃごちゃした場所だと、ごちゃごちゃした楽曲が生まれると思うんです。バーベキューもできて海にも行けて、山も行けるような環境でレコーディングができれば、すごく良い音楽が生み出せるんじゃないかと思うんです。
●お金を求めているわけじゃなくて、そういうことをするためにお金が必要なんでしょ! キヨシは音楽の才能を持っているんだから、楽曲提供とかプロデュースとかでその才能をどんどん発揮したら良いと思うよ。
キヨシ:これから、いろんなステージに打って出ますよ!
●どんどん打って出てください。キヨシならできる!SABOTENの第二章に期待しています。
Interview:PJ
Edit:森下恭子