今、関西圏で最もネクストブレイクの呼び声高いバンド、空中ループが活動5年目にして初のフルアルバムを完成させた。プロデュースに大谷友介(Polaris/SPENCER)、エンジニアに益子樹(ROVO)を迎えて最強の布陣で始まった、今回のプロジェクト"Walk across the universe”。
今年3月に発売したトレモロイドとのスプリット盤『トレモロループ』を皮切りに7月の『Walk across the universe EP』を経ての第3章で、遂にフルアルバムのリリースとなる。かつて完全自主制作で活動してきた彼らが、信頼できるスタッフと組んだことで自分たちの奥底にあるピュアな表現衝動へと立ち返った。まさに『空中ループ』というほかない今作は、どこまでも開放的で普遍的な空気を漂わせている。
●今回の1stフルアルバム『空中ループ』に向けては、かなりの曲数を作ったそうですが。
松井:最初は自分1人で曲を作っていたんですけど、ほとんどがボツになってしまって。もう僕1人じゃ立ち行かなくなったところで、他のメンバーも曲を出すようになったんです。最終的には"曲作りハイ"みたいな状態になって(笑)、70曲分くらいある素材の中からピックアップしていった感じですね。
●他のメンバーも曲作りに参加するようになった。
和田:いつもは松井が作ってきたものをみんなでやる感じだったんです。でも今回はレーベルオーナーの加藤さんから「どんなものでもいいからメンバーもまず作って、たくさん曲がある中から選んで良いアルバムにしていこう」という提案があって。
森:実はメンバー個々の中にあるプレイヤー性だったりとかでバンドの中にはまだ出せていない部分が、去年やった1回目のレコーディングで加藤さんには見えていたらしいんです。そこで「フルアルバムを作るにあたって自分の中にある全ての要素をバンドに対して出していないのは、メンバーとして怠慢なんじゃないか?」という指摘があって。自分たちでも"そうかもしれない"と思ったんですよ。
●今までは作ろうともしていなかった?
森:個人的に曲を作ったりはしていたんですけど、それは誰に聴かせるわけでもなくやっていて。そういった素材や自分の中にあるルーツ的な音楽の要素を、今回は出したほうが良いんじゃないかとなったんです。
●前回のインタビューではLUNA SEA以外のルーツは出て来ませんでしたが…。
一同:(笑)。
森:実は元々、僕はブラックミュージックが好きで聴いていたし、そういう感じのベースも得意なんですよ。でも松井くんが持ってくる曲は打ち込みの音が北欧っぽかったりしてどちらかというと白人音楽寄りなので、そういうビートを潜りこませる余地がなかった。
●デモを聴いた段階で合わないと判断していたと。
森:でも今回はそういう元々のデモに入っていた打ち込みの音や色んなものを削ぎ落して、"バンドそのもの"の音をパッケージングしていきたい気持ちがあって。じゃあ、ブラックミュージック的なビートもありなんじゃないかと思ったので徐々にスタジオで提示するようになった感じですね。
松井:それを聴いた時に全然アリだと思ったし、"こんなこともできるんだ!"っていう発見もあったんです。それによって自分の中でもイメージがふくらんで、"じゃあ、こういうのはどう?"って新しい提案をしたりして。そこから森や和田と一緒に歌詞を書いたり、森が1人で歌詞を書いたりするようにもなった。バンドとしての新しい作り方を見つけられたと思いましたね。
●歌詞の書き方も変わったりした?
松井:曲を作る時はだいたい鼻歌からできるんですけど、今回は歌詞もその鼻歌に忠実になろうと思って。メロディに言いたいことを当てはめるんじゃなくて、鼻歌自体から聞こえてくる語感とかを大事にしながら歌詞を書いていく方法を取ったんです。メロディを作った時に浮かんだ言葉がそのメロディが本来持っている言葉だと思ったので、あえて意味をまとめようともせずにそういう言葉をいかに引き出せるかっていう作業をやっていきました。
●その話はM-11「言葉では」の歌詞にもつながってくる気がします。
松井:この曲の最初の4行("言葉が出てこなくて/夜が逃げていく/でも/言葉じゃ伝わらないような気がしてさ")は、実際に鼻歌を歌っている時に自然と出てきたものをそのまま使っていて。曲で伝えようとしているメッセージも、奇しくも今話したような内容になっていますね。
●歌詞に関する考え方が変わったことで、他のメンバーが作った曲も自然と歌えた部分もあるのでは?
松井:他のメンバーが作った曲を歌うのは初めてだったけど、"自分たちの曲"という感覚で歌えました。
和田:松井が作る曲にはどこか"松井っぽい"感じがあって、それが昔からの空中ループのサウンドになっていたんです。でも僕が考えたコード進行に松井が歌メロを乗せたらどうなるのかっていうことも試したかったので今回やってみたら、それが上手くハマったりもして。それも新たな発見でしたね。
●和田くんの中からも初めて出したルーツはある?
和田:僕はLUNA SEAしかないですね。
一同:(笑)。
和田:LUNA SEAの影響でU2とかも聴いてみたんですけど、僕にとってはLUNA SEAのほうが良いんですよ(笑)。だからLUNA SEAを突き詰めようと思って、SUGIZO(G.)がソロでやっている曲の雰囲気とかも踏まえつつ自分が個人的に昔作った曲の素材を出してきたりして、みんなでやりましたね。
●ちなみに僕はM-3「長い夜」の歌い出しが、LUNA SEAっぽいと思いました(笑)。
松井:言われてみれば…(笑)。僕はRYUICHI(Vo.)さんのボーカルスタイルが好きなので、その影響も少しは出ているかもしれないですね。
●こういう歌い方は今までになかったですよね?
松井:今まではウィスパーボイスで、声をできるだけ響かせずに散らすっていう手法を取っていて。それに逃げていたところもあったんですけど、ボイストレーニングも経て今回は自分が本当にやりたいことやルーツを掘り下げた結果、僕の中にはRYUICHIさんのスタイルが残っていたんだと思います。RYUICHIさんのスタイルは頭蓋骨に響くので、歌も届きやすいから。
●RYUICHIさんの歌は頭蓋骨に響くんですね…。
和田:それは僕も同感ですね。
一同:(笑)。
松井:RYUICHIさんというのはわかりやすいたとえで、要は歌の響かせ方が今までとは変わって。上手な歌だけが人の心を動かせるかというと自分の経験上、そんなことはない。カッコつけたり上手に見せようっていう余計な考えを全部取っ払って自分の素直な声で歌えば、たとえ音程が外れていても自分の芯から出ているものは人の心に響くと思うんです。そういう部分で、判断する基準をガラリと変えたのは大きかったですね。
●今作ではさとうさんのコーラスもフィーチャーされているわけですが、どんなことを意識しましたか?
さとう:スタジオで練習している時に、松井くんにどういう意識で歌ったらいいのかアドバイスをもらったりしました。私はメロディの上にハーモニーを重ねる部分が多かったので、ボーカルの歌い方や息遣いをしっかり聴いてからコーラスを乗せるようにしていましたね。
●そのコーラスが印象的なM-5「ステレオ」はカバー曲(プロデューサーの大谷友介がやっていたLab LIFe)にも関わらずEPに続いて今作にも収録され、PVまで作られていますが…。
松井:しかも最近のライブでは、最重要曲にもなっているという(笑)。
森:ライブでやるとすごく盛り上がるんですよ。松井くんもこの曲をやっている最中にお客さんをステージに上げたりして、一番弾ける曲になっています(笑)。
和田:お客さんに歌ってもらいやすいメロディなので、コミュニケーションも取りやすいんですよ。
●ライブのやり方も変わってきた?
森:今までのライブでは、ダイレクトにお客さんとコミュニケーションを取ることはあまりなかったんです。自分たちがひたすらストイックに演奏する中で出てきた音から自由に感じ取ってもらう形だった。「ステレオ」を通してライブのやり方も変わってきているし、"こうして欲しい"っていう投げかけも増えてきましたね。
●外に向けて開けたライブになってきたというか。
森:「言葉では」みたいなパーティー感のある曲も今までの僕らにはなかったので、最初は異質な感じがして。でも今回の制作中にライブでエンターテインメント性のある「ステレオ」とかを披露している内に、徐々に受け入れられるようになったんです。開けたライブができるようになったことで、こういう開けた曲も自分たちのアルバムに受け入れられるようになった。
●今回の制作を通して、音楽や歌に対する根本的な向き合い方が変わってきたのかなと思います。
森:音楽に対する向き合い方について、色々と考える機会ではありましたね。今まで自分の中だけで貯め込んでいた曲をバンドに提案していくことで、自分もだんだん"発信源"になってきて。今までは"松井省悟"というものが中心にあって、いかにそれを色彩豊かに見せるかを考えていたけど、今回はメンバー4人が同じ大きさになって横並びでいる感覚になったんです。
●以前は"いかに松井省悟の世界観を全員で表現するか"だったところから、バンドのあり方が変わった。
松井:僕自身、"松井省悟の世界観"っていうものを一度疑ってみたところもあって。否定するわけじゃないけど、自分と向き合って"どうなっていきたいのか"を考えたんです。それがライブでの「ステレオ」には表れていて。この曲をライブでやる時の僕はエンターテインメントに徹していて、ギターも置いてハンドマイクで歌うんです。今までの空中ループだったら"ハンドマイクはないかな"っていう、何となくの固定観念でやらなかったようなことを今はやれている。
●今は固定観念に囚われていない。
松井:そもそも僕はカラオケに行っても、一緒にいる人を楽しませるために服を脱いで歌ったりパフォーマンス的なことをしていて(笑)。そういうサービス精神的な部分も自分の中に元々あったから、「ステレオ」のライブでも自然とそういうことがやれているんですよ。今回で自分をもう一度見つめ直して音楽と向き合ったことで、ルーツにあるものや本当にやりたいことを見つけた気がしますね。今まで自分がナシだとしてきたことを"全然アリじゃないか"と思えるようになったのも、感覚が開放されていったからというか。
さとう:"空中ループはこういうものなんだ"っていう固定観念が、私にもあって。今回のレコーディングで自分のドラムについても見つめ直したことで、自分の音に自信を持てるようになってきましたね。
●冒頭のM-1「SKYLINE」を聴いた時にまず感じたのが"開放感"だったんですけど、それは今回のアルバム全体を通じて漂っている気がします。
森:自分たちが思っていたことを形にする上で開放しないと、そこには辿りつけなかったんです。
松井:開いていく感じや、隠さない感じがありますね。
●自分たちを包み隠さず開放したアルバムだから、セルフタイトルにもなっている?
松井:色んなタイプの曲が入っているんですけど、何らかのテーマに沿って作ったわけではなくて。自分たちの奥底にあるものを表現した曲の集まりなので、本当に自分たち自身のようなアルバムになったんです。だから、このタイトル以外は考えられなかったですね。
森:余計なものが削ぎ落とされていった結果、どんどんむき出しになっていって。その過程で"松井省悟"だけじゃない4人の中にあるものが現れてきたので、これはもう『空中ループ』と言うしかないなと。
和田:LUNA SEAの1stアルバムもセルフタイトルだったので、そこは全員一致でしたね(笑)。
●結局また、LUNA SEAに帰ってきた!
一同:(爆笑)。
Interview:IMAI