尖ったサウンドと絶対的な“歌声”で人々に衝撃を与えてきた小林太郎は、昨年夏“小林太郎とYE$MAN”というバンドを結成するも、今年1月には 再びソ ロに戻ることを発表。“ロック”と呼ばれる得体のしれないものを自らの手で完成させたいという挑戦…1st、2ndで我々を魅了した“ヒリヒリとした世界 観”は苦悩との闘いの産物でもあったのだが、「自分は何者でもない。才能は親や自分以外から受け取ったに過ぎない」と気づいたとき、彼の中で何かが大きく 崩れ去った。新レーベル・STANDING THERE,ROCKSからリリースされる小林太郎のMajor 1st EP『MILESTONE』は、ロックが持つ根源的なエネルギーに満ち溢れつつ、その音の1つ1つには彼の人間性がリアルに浮き出ている。「自分のやりた いことというよりも、自分のやるべきことをやる」という宣言の下で生み出された今作は、これからもずっと続いていくであろう小林太郎の音楽人生の大切なマ イルストーンとなるだろう。
●今回再びソロに戻った心境として「自分のやりたいことというよりも、自分のやるべきことをやる。そう考えたらすごく気持ちが楽になって、モヤモヤしていた部分がすっとした」とおっしゃっていて。
小林:そうなんですよ。自分の努力以外で先天的にもらったものがあると考えていて。それは具体的に「これとこれ!」とは説明できないので自分でもよく分 かっていないのかもしれないけど、なんとなく大きいものがあると思っているんです。それを交通整理するというか、そのまま出したらいいんだと気付いたんで すよね。それまでは、自分が持っているものをもっと良くしなきゃいけないと思っていたけど、良くできるような頭もなければ、技量も器もなくて…。
●特に壮絶な人生を送ってきたわけでもないし。
小林:そうそう。以前は、もともと持っているものを良くしなくちゃいけない気がしていたんですよ。でも良くできないだけじゃなくて、邪魔しかしていない気がしていたから。邪魔をして大変だなんて、いいことがひとつもないじゃないかと。
●うんうん。
小林:もともと持っているものは今のような音楽の形だったんだけど、いろんな音楽を聴いて、いろんなことを経験して、ずっと"自分でも何かしなくちゃいけ ないんじゃないか"と自分で自分につっかえ棒をしていたのを「そんなのじゃ無理だ!」と言って蹴り飛ばしたんです。そうしたら、中から出てきたものが今の 音楽だった。もともと自分が持っているものを、そのまま還元してあげるだけ。それに尽きるという感じですね。
●今作のタイトルは"MILESTONE"ですが、今までの流れを知っている立場からするととてもスッと入ってくる言葉だったんですよ ね。この作品が結果的に小林太郎というアーティストの"MILESTONE"になるんでしょうけど…というよりも前作からの流れで、東日本大震災があって "自分は音楽人として何ができるんだろう?"という苦悩があったらしいですが、そういった経緯も含めての"MILESTONE"なんじゃないかと。
小林:そうですね。"MILESTONE"という言葉は、自分が歩んできた道に印を付けておこうという意味でもあるので、前の作品とか今までの自分が垣間見えるタイトルだと思うんです。
●はい。
小林:自分は器を持って歩く人であって、後ろには"MILESTONE"という今まで通ってきた道があるんだけど、見えていないだけで前にも道があって、 要所要所で持っているものが器からこぼれていく。"MILESTONE"という言葉自体には"それまでの道"や"道標"という意味があるんですが、そうい うものが音楽だけに限らず、自分の中にある気がして。そこを歩いて行くだけでいいんだと気付いたことでもあるというか。
●そういった心境的な変化を経た上での今回のソロだと思いますが、アウトプットされた音楽は、今までの小林太郎と比べてガラッと変わったとは思わないんですよ。でも1曲1曲に込められたメッセージや意志が、すごく見えやすくなったと感じて。
小林:見えやすくなっていますか?
●うん。必然性があるというか。見えやすくなったとはいえ、分かりやすいメッセージが込められているのではなくて、今作のメッセージは きっと自分自身に照射されているようなもので。ただそれが整理されているし、自分は何をするべきかが見えているからこそ、聴く側にも伝わりやすいんじゃな いかと。過去の作品は、何かよく分からないけど"すごく熱い"とか"尖っている"みたいな、感覚的にしか受け取ることができなかった。
小林:以前の作品の、1枚布が被さっているようなモヤッとした感覚というのは、自分で布を被せていたからだと思うんですよ。自分が"こうしなきゃいけない んじゃないか"とか"もっとこうしたらどうか"と。もともと持っているものはすごく分かりやすいものだったはずなんです。
●ああ~、そういうことか。
小林:逆に言うと、以前の方が責任感は強かったかもしれない。でも今回は、感覚としてはもともとが整理されていて、もともと熱量があるものだったから、とくに手を加える必要がないんじゃないかと思って作っていたんです。
●「手を加える必要がない」か。なるほど。素直に出したという。
小林:すごく面白いですよね。前の方が聴いている人に対して感覚的に訴えているのかもしれないんですが、今回の方が分かりやすくなっている。それは多分、途中で俺が自我をできるだけ入れないようにしたからこそ、布が取れていったんだと思うんです。
●そうですね。
小林:そこで嬉しかったのは、布が取れただけで中身は変わっていないことなんですよね。すごく怖かったんですよ。中身のものが変わってしまっていたら、俺 にはどうしようもないんです。変わっていなかったら、この方向は間違いではない。俺としては、こんなにも楽なことだったのかと驚いているんです。今までは どんな布を被せようかといろいろ悩んで考えていたのに。「あなたはこの位置、あなたはこの位置にいなさいよ」と交通整理して、そのまま出しているだけに なったので、音も然り、歌詞もすごく変わったと思うんですよね。
●変わりましたね。
小林:もともと頭で考えるような歌詞ではなかったので、以前のゴタゴタと考えていた頃でも感覚というか無意識で出てきたフレーズを繋げていく作業だったん ですが、今回は感覚に任せっきりにした。前はそれではできないと思っていたんですけど、今回は"そうしてもいいものになる"と思ったというか。うまく説明 はできないけど、前と比べて1枚も2枚も布が薄くなっていたんです。
●なるほど。
小林:だから、俺としては以前とまったく感覚が変わらないまま、ただ感覚で書いてみたという。何か主題を持ったわけでもなく、メッセージ性を出したわけで もなく。相手が聴いて分かりやすいと感じるものを、後から付け加えた感覚は一切ないんです。もしかしたら分かりやすいかもしれないし、もしかしたら分かり にくいかもしれないけど、とにかく出してみただけ。
●以前は作詞ですごく悩んでいたし、「もう書くのは嫌だ」ともおっしゃっていましたよね。
小林:そうなんですよ。でもそれは作詞が嫌いということではなくて、書き方が分からなかっただけだったんですよね。人によっていろんな書き方があると思う んですけど、自分にとっての書き方が分からなかった。でも今回それが分かって。書く内容というか、書いているときの気持ちは以前とまったく同じなんです よ。
●あ、そうなんですね。
小林:でも、負担がまったく違うんですよね。堰を切ったようにすーっとできる。書いた後に少しの手直しはありますけど、元になるものの出てくるスピードが 全然違うんです。書いたものを客観的に見てみると、やっぱり根幹は変わっていなくて、現状がそのまま歌詞に出ているというか、今の自分が置かれている立 場、状況、そしてこれから向かって行く所への歌詞になっているなと。
●今作の歌詞からは"小林太郎"という人間が見えやすいんですよね。前作までは"この人は何なんだろう?"という驚きしかなかったんだけど(笑)。
小林:アハハハハ(笑)。
●作曲に関してはどうでした? 先に曲を作るんですか?
小林:まず曲を作ります。ギターリフとかが好きなので。
●曲の作り方は、今までと変わらず?
小林:変わらずですね。今作を作りながら感じたのは、楽に作れるようになったというだけじゃなく、もともと持っているエネルギーをスムーズに出せた。俺の 作業量としては、そんなに変わっていないし、むしろ減ったくらいなんです。作っているときは楽チンというわけではないんですけど、作り終えてみると、ある ものを表現するだけで、それ以上のものは何もなかったなと。
●以前から、M-1「飽和」のように尖った感じのサウンドもあれば、一方でM-5「白い花」のようなミドルテンポのバラードの両面を持っていましたよね。そういった2つの楽曲は、もととなるスタート地点が違うんですか?
小林:まったく同じだと思います。
●まったく同じ?
小林:もともと持っているものがロックだったらバラードを書くときに頭を使わなきゃいけないし、ポップだったらロックを書くときに頭を使わなきゃいけない と思うんですけど、もともと持っているものがロックかポップかではなくて、手段を用いて、その人のエネルギーを表現する手段のひとつが音楽なのか、何なの かっていう。
●そういうことか。
小林:そのときに出てくるものに合わせて、曲という器を用意してあげればいいと思うんです。俺のエネルギーがそこに表現されているのであればいいのであっ て。最近よく思うんですが、音楽的に自分は整理だけをしていればいいとは言っても、音楽を始めた理由は外からのきっかけがあって、自分がゼロから始めたも のではない。…とは言っても、やるんだったら音楽は自分だけのものじゃなくてお互いのものなんだから、お互いが良くならないといけないじゃないですか。
●そうですね。
小林:そこは絶対に考えないといけないんですよね。そのために、俺にとっていちばんいい方法が交通整理だっただけであって。だから、ロックだとかバラード とかで分けるんじゃなくて、どっちでも強い音楽であれば申し分ないと思うんです。ボサノバでも、ヘヴィメタルでも、表向きは尖ったり柔らかかったりするか もしれないけど、中身が濃縮還元100%じゃない限り弱い音楽だと思うんですよね。強い音楽こそ、音楽を良くすると思うんです。
●そうなんですよね。"強い音楽"というのはよくわかる。
小林:だからそういうことは考えないといけないし、強い音楽を自分が作ることが好ましいんじゃないかと。今作はミドルバラードっぽい曲がけっこう入ってい ますけど、制作の途中まで自分では気付かなかったんです。曲がある程度できて並べてみて、意外と入っているなと思って。それまでは、どんな曲調が多いかと か気にせずにいたんですよね。
●このタイミングで楽曲は他にもあったんですか?
小林:けっこうありました。いっぱい作った中から収録曲を選んだんですけど、がっちりと定義があるわけじゃないものの、やっぱり『MILESTONE』と いうアルバムに見合うというか、このタイミングにハマるような曲を選んだり作ったりしていきました。ほとんどがこのタイミングで作った新しい曲なんですけ ど、M-3「鴉」は高校生からサビを作り置きしていて。高校2年くらいのときに、"これは作れないな"と思ったんです。そのときの自分にとっては大きすぎ て。
●手に負えないという?
小林:そうそう。作れるときになったら作ろうと思って置いていたんです。曲作りに対する自分なりのやり方をもっと確立したら作りやすいんじゃなかろうか と。そして今回ちょうどしっくりきたタイミングで作れた曲だったので、すごく良かったなと思いますね。他の曲はゼロから作り上げた曲だったけど、「鴉」は このタイミングでやっとできた曲という。
●なんだかひとつの象徴みたいですね。ずっと一緒に歩んできたものが、やっと"飛び立つ"というか。
小林:そうなんですよ。上手いこと言いましたね(笑)。歌詞に"飛べない人達"とありますけど、それが今までの自分だったんでしょうね。飛べないとか、飛 ばないとか、今まで俺が言ってきたことを、俺自身が作り込み過ぎていた。でも自我を捨ててもともと持っているものを表現するということは、もしかしたら "無理して飛ぶことをやめる"ということにもなりますよね。でもいちばんの目標は"できるだけいいものを作る"だったから、自分で本質の部分を見極めると いうところで、やっと飛び立てたという実感があるんです。ずっと付き合ってきたものといい意味でおさらばできて良かったと思っています。
●「自分のやりたいことというよりも、自分のやるべきことをやる」という心境の変化があったということですが、今作はその覚悟というか宣言でもあるわけですよね?
小林:そうですね。だからといって自分の考えを他人様に押し付けるわけではなく、どこまで行っても音楽をするなら「そのときの自分はこうなんです」としか 言えないと思うんです。でもそれくらいしか言えないのなら、それをできるだけ言うべきだと思うんです。今までの音楽の歴史を見ても、それだけでいいと思う んですよ。やる人がどう思っていようが、本当にそれだけでいい気がする。そのときのその人が出ているなら、あとは勝手に広まっていくものなんだろうと思っ ています。
●なるほど。
小林:そういう意味では、的を得た音楽がもっと売れるのがいちばんいいんだろうと思います。そういう流れになればなと。
●今の音楽シーンをどう見ているんですか?
小林:"◯◯のジャンルが流行っている"とかはどうでもよくて、"強い音楽"。居酒屋でも街中でもどこでも、愚痴を言いたくて座っているかもしれないし、 晩ご飯のおかずを考えながら歩いているかもしれないけど、そんなときでも耳に飛び込んできて、その人のスケジュールを全部狂わせるような音楽。「なにこの かっこいい音楽は!」とか「なにこの不思議な曲は!」と、できるだけ意識を引きつけて掻き乱すような音楽が、強い音楽というか、音楽のあるべき姿だと思う んですよ。
●うんうん。
小林:それは、ロックとかポップとか関係なく。映画『魔女の宅急便』を観たらユーミンの歌が頭から離れないでしょ? あれはすごく強い音楽だと思うんです。みんな頭から離れなくてずっと歌っているじゃないですか。ということは"楽しい"ということなんだと思うんですよ。
●確かに。
小林:だから、聴く人は無意識的に取捨選択しているけど、作る方はどうにかして強い音楽を作らなきゃいけないと思うんですよね。昔と比べて"もっと良くな るんだろうな"という伸びしろを俺くらいのぺーぺーでも感じるくらいだから、俺なんかよりも相当才能のある方がたくさんおられる中で、もっと良くなると 思っているし、もっと良くしないとやる意味がないんじゃないかと思うんです。昔は昔、ユーミンはユーミンでいいけど、「今はこれもいいね」と言えるものが ないとダメだと思うんです。「昔の方がいい」と言われてしまうのは悲しいですからね。
●なるほど。
小林:何をしなきゃいけないのかというと、「いい音楽」とされているものと張り合えるくらいの音楽を作らなきゃいけない。それができなくても、できるよう にやっていかなきゃいけない。そこに気付かないでやろうとしないのはダルいなって。だったらやらない方がいいと思う。なんだか、必要以上に音楽がデカく なっている気がしているんですよね。
●必要以上にデカくなるとは?
小林:「音楽というものが人を救うんですよ」とか。
●ああ~。
小林:「今はロックでいいミュージシャンがいないね」とか言ってしまうと、ロックは限られた人しかできないのかということになってしまうけど、もともとは 黒人の有名な人の曲を誰もがやっていて、コピーしてCDを出していたような世界じゃないですか。ロックで新しい人がいないのは当たり前のことだと思うんで すよ。みんなができるものだから。そのズレがなんか嫌だなって。ロックは別に同じことをしていても楽しいんだから、新しいもクソもないんじゃないかと思う んですよね。もちろん刺激として新しいことに挑戦するのはいいことだと思うんですけど。
●小林太郎としてはそこに挑戦していきたいと。
小林:そうですね。
●そしてリリース後はインストアライブとフェスが控えていますが、5/25に久々にライブをしたんですよね。感触はどうでした?
小林:すっごく久しぶりだったので、"ライブをやるのは自分なの?"みたいな。準備期間に余裕はあったんですけど、すごくプレッシャーを感じていたし"ど うなるんだろう?"と思っていたんです。でもステージに出ていったときにお客さんが歓声を上げてくれて"ああ、これは堪らないな"と思いました。
●痺れた?
小林:"痺れる"っていうものじゃなかったですね。…生まれるくらいでした。
●えっ、生まれた? 何が?
小林:アハハハハ(笑)。俺も何が生まれているのかは分からなかったし、生まれたようで、死んだようでもあって。瞬間的で、後先のことを考えなくてもよく なるというか、何の恐怖感もなくなる。やっぱりああいう場所なんだと思いました。理性を保たなきゃいけないし、歌詞も忘れちゃいけないんだけど(笑)。
●理性が飛びそうになった?
小林:飛んでいたと思います。だから、ちゃんとライブをする演者さんやミュージシャン、ちゃんとロックをしている人達は、理性的に飛べている人達なんだと 思う。"理性的に飛べている"って矛盾しているし分からないかもしれないけど、感覚としてはそうなんですよ。生まれているようで、死んでいるようで、悲し いようで、嬉しいようで。"感情"という意味でそれぞれの大元は一緒じゃないですか。興奮しているかしていないかの起伏だけであって。本能的な部分が、観 ている方も聴いている方も、ライブではいちばん揺さぶられやすいんだろうと思います。本当に"ロック"ってよく言ったものですよね。久しぶりに"ああ、そ うなんだなあ"って思えたライブでした。
●なるほど。気持よかった?
小林:気持よかったですね。でも、気持よすぎて怖くなる感じがありました。
●ハハハ(笑)。
小林:それはもう、穏やかな実生活の中にあるささやかな喜びとは真逆だから。その場で死んでも別にいいという感覚になれるんですよ。それっておかしいじゃないですか(笑)。
●生物としておかしいですね(笑)。
小林:しかも、エネルギーも取られたり、もらったり、よく分からない感じだし。さっき言っていた「音楽の器がどうのこうの」というのは"音楽を作る"とい う意味の器なんですけど、その器が壊れるんじゃなかろうかという激しさがライブにはあって。「楽しい」と言ってしまえば簡単なんだろうけど、楽しいなんて ものじゃない。
●以前とは感覚が違ったんでしょうか?
小林:戻って来ることができたという感覚はすごくあるんですけど、自分がけっこうはっきりしたというか。以前は自分にも布があるような状態だったから、刺 激がガツンときても、布越しだったんですよね。でも5/25の赤坂BLITZでは、自分の布も取っ払えていたようで、刺激が直できたんです。"うお おー!"って思いましたね。今まで俺はこんなに大きな刺激を受けていたのかと。
●ちょっと怖いかもしれないけど、いいことですね。
小林:そうですね。でも、やっぱり落ちる感覚は前から同じで。"もうここで終わってもいいや"って。だから"やっぱり変わらねえな"とも思ったという(笑)。
Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:Hirase.M