高知県より突如現れた謎の4人組、宇宙人。おそらく2008年頃に結成されたということ以外は素性もほぼ一切が公開されておらず、その多くを謎に包まれた存在だ。今までデモ音源の発表すらしていない彼らだが、なぜか2010年には一般応募で“FUJI ROCK FESTIVAL ‘10”のROOKIE A GO-GOステージに出演。同年になんばBEARSでギューンカセット・オーナーの須原敬三氏と偶然出会ったところから、今回の1stアルバム『お部屋でミステリーサークル』リリースへとつながった。神聖かまってちゃんを世に送り出したPERFECT MUSICよりリリースされた先行シングル『アメーバダンス/あこがれのネクタイ』でも、その不思議な中毒性を持ったポップセンスは既に話題沸騰中! どこまでも掴みどころのない宇宙人の実態に迫るべくJUNGLE★LIFE編集部随一の天然インタビュアー・森下に須原氏を交えた座談会形式で、しのさきあさこ(Vo.)に話を訊こうとしたのだが…。宇宙人はやはり宇宙人だった。
●今日は暑い中、高知から大阪までお越し頂きありがとうございます。今日は須原さんも交えて、座談会のような感じで話してもらえたらと思います。
須原:"座談会"と"三段階"って似てない?
あさこ:びろびろーん。
須原:(爆笑)。
●不思議な雰囲気の方ですよね(笑)。プロフィール的にも謎が多いし、プライベートでは普段どんなことをしているんですか?
あさこ:家にいて…家にいます(笑)。何してるっけ?
●音楽を聴いたりとか?
あさこ:音楽はあんまり聴かないです。テレビしか見ません。
●どんな番組を見るんですか?
あさこ:え~と…テレビをつけた時にやってるのを見ます。最近はそんなに見てないかもしれません(笑)。
●メンバー同士でプライベートの話をしたりは?
あさこ:しません。
須原:会話は多い方だと思いますけどね。たぶん、この人達は"知られたくない"んやと思う。知り合ってからしばらく経つけど、お互いに何も言わないんですよ。メンバーの名前もレコーディングの日まで知らんかったし。エンジニアさんに「名前を教えてもらえますか?」って訊かれた時、「何やったっけ?」となって(笑)。
●名前すら知らないって(笑)。
須原:コミュニケーションがない、ということではなくて。そういや知らないね、という。エンジニアさんに伝える時も、偽名を書いて渡してたよね、"ドラム・ドゥエイン"とか(笑)。僕と電話していても、気がつくと互いに擬音でしゃべってたりする。
あさこ:"びろーん"とか。
須原:なんだかそういう方法が多いんです。口癖というより、それが言語みたい。ドラムを叩いて会話する部族みたいな感じ。
●本人たちの間では、それで通じているんですね。
あさこ:たぶん。
●メンバーとはどんなお話をされるんですか?
あさこ:治安が悪いとか。"高速道路の風が強いのも治安が悪いからや"みたいな話をします…謎です。
●…このバンドのコンセプトは"謎"?
あさこ:コンセプトは…ないです。
須原:ホンマにこの人たち"そのまんま"やから。意味そのものには重きを置いてないっていうか、この人は言いたい言葉を発音しているだけのような気がしてならないんですよ。例えば「治安が悪い」ということを言いたいがめに、"治安が悪い"を探してるような気がする。
あさこ:遭遇するんです。
須原:"呼ぶ"よね、求めてると。
●私は酔っぱらいのおっちゃんがカラーコーンをかぶって歩いてきたのに遭遇したことがあります。
あさこ:雨宿りしてたのかな? カラーコーンは雨がしのげるらしいです。『インスタント沼』っていう映画でやっていました。
●私がおっちゃんに会った日は晴天な上に、屋根の下でしたけどね(笑)。映画がお好きなんですか?
あさこ:三木聡監督の作品が好きです。『ダメジン』とか『亀は意外と速く泳ぐ』とか。
●タイトルからして面白そう(笑)。そもそも須原さんと出会ったきっかけは?
あさこ:なんばBEARSでライブをした時に、須原さんがいました。
須原:ホンマにそれだけだよね(笑)。たまたまライブを観に行った時、宇宙人が出ていたんですよ。そのライブがすごく面白くて。
●須原さんからライブの後に声をかけた?
あさこ:おでこにケータイをくっつけていました。
●…え?
須原:ライブ後に俺が受付の前でおでこにケータイをくっつけて遊んでた(?)ら、いきなりドアが開いてあさこちゃんが入ってきて。
あさこ:その時なぜか「こんにちは」って挨拶したのが最初です。面白かったですよ。
●須原さんは、宇宙人のどこに惹かれたんですか?
須原:言葉の使い方がすごく面白いんです。M-3「キンバリー先生と朝食」に"お時間の都合どうですか"って歌詞があるんですけど、俺の中では"この言葉をここに持ってくるか"っていう衝撃がありましたね。でも一番の理由は、ライブが終わった後も「あこがれのネクタイ」が耳に残ってて、寝てる時に無意識に再生されたからだと思う。
●不思議な中毒性がありますよね。「キンバリー先生と朝食」では"ファンキーなのはハトだけでいい"っていう歌詞もすごく耳に残りました。
あさこ:ハトって、すごくファンキーな気がする。"ファンキー"がどういう意味かわかってないけど。
●(笑)。どの曲もすごく耳に残るんですけど、全然押し付けがましさがなくて。
あさこ:押し付けがましくなくて良かったです。あ、この本(JUNGLE★LIFE 165号)読んでもいいですか?
●どうぞ。
あさこ:あ! 宇宙人が載ってる!
須原:ホンマや。何て書いてある?
あさこ:えっと、"名古屋近鉄パッセ店…"。
須原:そこじゃなくて(笑)。そういえば、フジロック(FUJI ROCK FESTIVAL '10)に出たきっかけって何だったの?
あさこ:募集のところに音源を送ったら出れました。
須原:マジで!? ああいうフェスって出るの難しいのに。
●その時送った音源はどの曲なんですか?
あさこ:確か…M-1「アメーバダンス」とM-2「点」とM-6「ヤノコーイチ」ですね。
●その3曲は2010年の時点で出来ていたんですね。
あさこ:M-5「あこがれのネクタイ」とか高校生の時に作った曲も、今回のアルバムには混ざってます。「キンバリー先生と朝食」とM-10「サイとんで、サイレン、ナイ」もその頃からあった気がする。
●逆に最近作った曲もあるんですか?
あさこ:最新曲はシングル(『アメーバダンス/あこがれのネクタイ』)に入ってる「脳がかゆい」です。"テレパシーを送信~"って歌詞なんですけど、着うたにどうかな?
須原:受信出来なさそう!(笑)。
あさこ:あ、「ヘヴィ~メタルバイオレンス」(同シングル収録)も新しいです。
須原:この曲のレコーディングは、端から見てて面白かった。ギターもベースも利き腕とは逆に持って、ドラムも左向きにセットを組んでレコーディングしたんだよね。
あさこ:偽・初期衝動を表現したかったから、中学生っぽい感じでやりました。中2っぽさ?
須原:sick of中2(笑)。…俺も何かフェスに呼ばれたいな。
あさこ:暑いのに?
須原:フェスは山の中が多いから涼しそうやん(後記:うそです、ほんとは暑いです)。
あさこ:そっか。じゃあ来年はフェスに出たい! ライジングサン(RISING SUN ROCK FESTIVAL)に出たいです。お寿司が食べたい!
須原:君らが出ることになったら、俺もひっついて遊びに行くよ(笑)。
あさこ:やった! 須原さんも一緒に出ましょう。ボーカルで!
須原:宇宙人の歌は難しいからなあ。
●リズムが掴みにくそうですよね。
須原:天然で拍子が変わるところがあるんで、それが難しいですね。曲はどうやって作ってるの?
あさこ:弾き語りみたいな感じでメンバーに聴いてもらってから、図で説明します。その図を見て、各々が感じたことをアレンジにする。あと、たまに「絶対こうやって欲しい」みたいに言うこともあって、擬音とかで具体的な音を伝えたりもします。「脳がかゆい」のイントロ部分で鳴ってる"みゃおみゃお"っていう音とか。そのために、わざわざ新しいエフェクターを買ってもらいました。
須原:こまつくん(G.)がエフェクターを買いたいだけと違うの(笑)。
●こだわりに対する敬意ですよ、きっと。
あさこ:たぶん違います。…(再び宇宙人が掲載されている本誌に戻って)大絶賛されてますね(笑)。
●宇宙人の曲ってすごくノれるから私も好きですよ。
あさこ:新たな発見! たいてい、どこに行っても壁があってアウェイやのに。
●アウェイで思い出したんですけど、M-6「ふりかえる、フレネミー」に出てくるフレネミーは"フレンド"と"エネミー"を足した造語ですよね。
あさこ:「ホンマでっか!? TV」で心理評論家の植木(理恵)さんが言っていたので使ってみました。アメリカの若者言葉らしいです。
●M-13「おばけ」の歌詞は、今回の『お部屋でミステリーサークル』というアルバムタイトルにリンクしている気がしました。
あさこ:あ、本当だ! すごい偶然です!(笑)。そうやって、みんながそれぞれ考えてくれたら良いと思います。
●見事に深読みしてしまいました(笑)。作詞作曲は全部、あさこさんがしているんですよね?
あさこ:そうです。テレビや身近なものからひらめいたり…書き方は全部違います。
須原:レコーディングでは音のこだわりがすごかったんですよ。ミックスが終わってマスタリングをしている時に、メンバーから電話がかかってきて「ここはこうして下さい!」って。で、後戻りしてやり直したり。
あさこ:歌録りより、ドラムの重ねに使う時間が長かったです。歌は1日で終わりました。
須原:すごくこだわってるんやけど、一般的に言う"こだわり"とは少し違うような…。よくわからないよね。
あさこ:謎です。
●本人も謎なんですね。「サイとんで、サイレン、ナイ」にはヘリコプターみたいな音も入っていましたが。
あさこ:ヘリコプターに聴こえましたか(笑)。あの録り方を教えてもいいんかな?
須原:誰もマネしないからいいんじゃない(笑)。
あさこ:あれを録るのは時間がかかりました。バスドラを逆さに向けて、大太鼓みたいに叩いたんです。
須原:その音をちょっと細工したと。でも全体を通して、あんまりヴォーカルにエフェクターは使ってないよね。基本的にあさこちゃんの声だけで出してるんです。
●え!? そうなんですか?
須原:ピッチが変わってるところやディレイ部分は全部彼女の声ですよ。あまりにも上手すぎて、ネタばれしないのが悔しいです(笑)。
あさこ:"自分ディレイ"と"自分ピッチ"です。
●じゃあ、M-9「生活ガイド」の声もエフェクトをかけずに録ったんですか?
須原:あの曲はかけてます。「おおっぴらにPerfumeっぽくしよう!」って、あさこちゃんが言い出して。
●Perfumeをイメージしたんですね。
須原:かしゆかです!
あさこ:あーちゃんです!
●のっちです! 3人合わせて…
一同:Perfumeです!!! よろしくお願いします!
須原:Perfumeのライブに行きたいな~。最近はファンクラブに入っててもチケットを取るのが難しくなってきた。
あさこ:人気者や。AKB48みたい。
須原:宇宙人もあほみたいに売れたらいいのにな。
あさこ:そんなに売れたらどうしよう。人に見られますか? 悪口とか言われるのかな?
●ところで、今まではどんな場所でライブをやっていたんですか?
あさこ:東京・大阪・京都ですね。知り合いに観られると恥ずかしいから、地元の高知ではやりません。ライブは歌のテストみたいで恥ずかしいんです。
須原:わかるわかる! 先生のところに呼ばれて演奏するみたいな感じやね。
あさこ:レコーディングだけしてたいです。でもライブも好きですよ。
須原:めっちゃ矛盾してる(笑)。
あさこ:今年に入ってから毎月ライブをしてました。意外と活動的です(笑)。7・8月はなかったけど、もしかすると9月に大阪でやるかもしれません。2ヶ月ぶりのライブになるかもしれないので、楽しみですね。
●そろそろまとめに入ろうと思いますが…、どうやってまとめましょうか?
あさこ:えっと…まとめられません。
●ある意味、キレイにまとまったと思います(笑)。
Interview:森下恭子