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円広志

1978年、「夢想花」でヤマハ主催の第16回ポピュラーソングコンテストグランプリを獲得した円広志。40年に及ぶ音楽に対する“恋心”を探るインタビュー!!

 ZOOMは円広志の音楽の原点となるロックバンドだ。70年代初頭、東に「サザンオールスターズ」「シャネルズ」と個性豊かなバンドがデビューする中、西の正統派ハードロックバンドとして活動した。まさにインディーズの元祖バンドとして、大型フェスにも出演していた過去がある。今ではTVの司会・タレントとしての顔が定着しているが、音楽家としての楽曲提供はもとより、新人のプロデュースも行っている。デビューから33年。円広志の本当の姿が見えてくるニューシングル「俺だ」は、そのハードなサウンドと強烈なメッセージが突き刺さる問題作に仕上がった!!

Interview

「生きてる限り、ある日突然に衝動が訪れるのよ。それがエネルギーに変わってくるし、そのためだったら何でも出来る。まさに恋です」

円:ジャングルライフも大きくなって良かったね。ずっと出してくれって頼んでたけど、取材してくれたんは初めてや。

●いやいやいや、頼まれたのは今回が初めてじゃないですか!

円:前にも「お願いします」って言ったけど全然相手にしてくれなくて。

●そんな事ないですよ! でも今回満を持してロックなCDが発売されて、ZOOM(円さんが学生時代に組んでいたロックバンド)時代の篠原(円広志)の姿が30年振りに復活といった感じですね。

円:いろんな曲を書いてんねんけど、久々に自分が歌ってみたい歌を書いたという感じやね。

●どういう経緯でこの曲が出来たんですか?

円:いつもは"今はこういうメロディがウケるんちゃうか"っていう売れ線を考えながら、職業としてやってるでしょ。 でも、ロックバンドをやってたやつが「夢想花」というポップスでデビューした訳じゃない。そういう事ばっかりやってるうちにストレスが溜まるというか、何か怒りのような感情が込み上げてきて一気に溢れ出した。自分の持ってるハードな一面を表現したくなったんだよね。

●今までは森昌子さんの「越冬つばめ」など、提供した楽曲が大体的に取り上げられる事が多かったように思いますけど。

円:「俺だ」って歌を出すのも、言うたら恥ずかしい事やねん。最初に比べて少し抑え気味にしたとはいえ、"この世で生き残るのは俺だ"とか、結構過激な歌やからね。でも人に聴いてもらうならそういう部分を歌っていかないと、歌ってる意味がないんちゃうかなと。ポップスでデビューして売れたんやったらポップスをやればいいんやろうけど、それでは物足りない自分が出てくるのね。そのくせロックをやると今度はメロディックなものが欲しくなってまた戻っていく。その一連の流れで今回のシングル「俺だ」が生まれたっていう事やと思うね。

●でも歌詞を聴いた時に、これこそ円広志だと思いましたけどね。いやらしさも含めて、性格がよく出ている。

円:ええ歳していやらしい自分を表現するのは恥ずかしい事や。だけどそういう恥ずかしい事を表現できる場所は歌の世界しかないのよ、俺には。テレビはテレビで楽しいけど、本当のものを吐き出せるのは歌の世界。どうせ歌うなら自分のいやらしいところも出せばいい。

●なるほど。先程「抑えた歌詞」という事をおっしゃいましたけど、そこをあえて聴いてみたいですね。"円広志のいやらしさはこんなもんじゃないやろ"って。

円:"最後に勝ち取るのは俺だ"っていうところが、構想段階では"最後に笑うのは俺だ"になってたのよ。

●出ましたね(笑)。

円:やらしいでしょ(笑)。ホンマにやらしい。

●昨今の時流では、絶対にない歌詞ですもんね。

円:今の若い人って、会社の組織じゃなくて1人で頑張ってる人ってたくさんいるのよ。この曲は自分が頑張らないとあかんっていうのが基本の歌やからね、そういうやつらにも聴いて欲しい。誰かのために頑張るとかじゃなくて、まず自分だけのために頑張る事が、最終的には他の人を元気づけられたりする事に繋がるんじゃないかな。

●なんとなくサビだけで訴えるものがありますからね。曲調から言うと完全に80年代のハードロックサウンドですよね。

円:そうなんですよ。音楽って時代に乗って変わっていくから、もう少し小洒落た新しい音楽をやろうとは思うんだけど、何故かそれでは満足出来へんねん。自分を表現できない。ガッツリした8ビートじゃないと納得できないってのがあるんでしょうね。だから売れないとは思うんですけど。

●意外と売れるかもしれませんよ? (笑)。

円:いやいやいや、そんな事になったら大変な事になりますよ(笑)。要はこういう歌をまだ歌ってるんだという"自分"を分かって欲しいだけやから。音楽というのはアイデンティティや。俺らは商業歌手でもなければ売れっ子歌手でもない。俺らはシンガーソングライターやから、自分が今感じた事を自分で歌って伝えていくというのが基本であり、それをやっていきたい。その中でヒット飛ばすのは大変やけど、ヒットメーカーっていう人は確かに現存してる訳よね。サザンはずっと大ヒットし続けてるでしょ?

●大学の時にバンドを始めた頃は、サザンオールスターズやシャネルズと一緒にやってましたもんね。

円:ある人に曲を書いたとすると、詞が悪いから書き直しだとか、1オクターブと何度までにしてくれだとか、A~Bメロ間は何秒だとか…歌謡曲っていうのはそれが細かく決められてる訳よ。桑田くんは才能もあるし勉強もしてるから、その分苦しい思いも辛い思いもしてると思うわ。ヒット曲を作っていかないといけないっていう宿命をしょってるからね。俺らはそういうところで仕事してないから、ヒットを飛ばさなくても自分のある姿を出していけばいい。それもひとつの音楽やしね。

●今回あえてJUNGLE☆LIFEで円広志というアーティストを捉えたいと思ったのは、俺は円さんの考え方や生き様がロックだと思ってるからなんです。円さんの基本はロックでしょ?

円:基本っちゃ基本かもしれない。でも俺の曲は今を吐き出してるものだから、次どうなるかなんて分からへんし、そういうものやねんなと思うけどね。次のロックシングルが5年後に出るとしたら、それはそれでええかな。

●5年は長いでしょ。1年に1枚くらい。

円:そらしんどいで! めっちゃしんどいわ。でもこの歌を作った時には"まだ行けるかな"と思ったけどね。

●この曲は最近作ったんですか?

円:つい最近、一気に作って一気に録った。コードだけを先に決めて、ギターの吉田くんに弾いてもらいながら歌をその場で書き込んでいくという方法で、詞とメロディはその場で書いたな。

●まさに"今吐き出した"ものですね。

円:メロディもコードにあわせて自分が感じたメロディやし、詞も15分くらいで出来たし。凄く面白かったね。

●ほな、なんぼでも出来ますやん。

円:出来るな。

●出来るんや(笑)。

円:でもやっぱりいろいろ考えるよ。責任もあるしお金もかかってるから、"ちゃんと元もとらなあかんな"とか。

●正直、PVもやり過ぎた感がありますか?

円:やり過ぎたね。写真はわざわざマカオに行って撮ったんだけど、それは俺の中でマカオのギラギラ光るネオン街の窓越しから撮りたいってイメージがあったからなのよ。でも結局窓越しから撮れなくて…。

●あはははは!

円:せっかく部屋も一番ゴージャスな部屋で撮影したのに。そのうえPVは上海で、ライブ録音はライブハウスのAKASOで録って…3箇所でやってるからね、ずいぶん金かかってんちゃうかな。だけどやっぱ金かけなあかん。我々だってテレビで一生懸命稼いだ金を音楽につぎ込んでやってる訳やから、それが丁度ええんちゃいます!!

●それほどまでに音楽に打ち込むエネルギー源というのは?

円:凄く簡単な事でね、恋をする事なんですよ。誰でもしんどい仕事ってあるじゃない。しんどいけど一生懸命やってしまう。何でかというと、その仕事に恋をしてるからです。今、とある歌手のために作曲してるんだけど、没頭してると時間を忘れて次の日は寝不足でフラフラになるんだよ。最初はいつも"この仕事受けるんやなかった"って後悔するんやけど、やり出すとひたすらに没頭して、デモを何度も聴き返しながらやり直す…それのくり返しです。ものづくりって"みんなここで止めるんやろうな"ってところからが勝負やと思ってるから、そこからはもう執念やね。この曲もミキシングが終わってから部分的に修正してるし、歌も詞も何回もやり直してもらった。自分のスタジオがあるから良かったんだけど、人のスタジオやったらめっちゃ金かかるよな。

●そのためにスタジオ作ったようなものですもんね。

円:そう。もともとバンド練習するのに自分がいつでも使える環境を作りたかったのよ。録音する事によって音楽は凄く上達するから、録音システムも作って。自分が音楽を続けるためにスタジオを作ったんだよね。

●でも、もう30年経ちましたね。

円:何で30年も出来るかって言ったら、やっぱり好きだからですよ。恋をしてる。よく冷めないで続いたなとは思いますけど。普通1人の女性を30年も好きになるってしんどいし、途中で飽きるやん。

●飽きるんや。

円:飽きるよ。5年周期で嫁さんも変えた方がええんちゃうかって思うくらい。だけど今の嫁とも30年も一緒にいるけど、やっぱりどこかに愛があるというか、恋をしてる部分があるんでしょうね。だから止めようと思っても止められない。俺と一緒に音楽やってたやつで、売れなくなっても音楽続けたやつって世良公則くらいやで。音楽に人生を捧げてるのよ。音楽をやり続けるためにテレビも出る。

●たぶん読者は逆やと思ってるんですよ。音楽をやってる円広志を知らないし、もともとロックをやってたってのも分からない。

円:ロック魂は人それぞれ持ってると思うねん。俺が尊敬しているアーティストでポール・ロジャースという人がいるんだけど、コード進行も簡単で音楽的に圧倒されるような曲ではないんだよ。でも彼はどんなに踏まれても踏まれても立ち上がって、今では世界的に有名なアーティストになった。その生き方がロックであり、カッコいいと思ってる。俺はロックンロールで生きるって言ってる人もいるじゃない。誰とは言いませんけどね(笑)。あの人はほとんど歌を歌ってないんだけど、生き方をロックンロールだって言ってる。それも一種のロックやと俺は思うんやけどね。

●そんな円さんを知ってるからこそ「夢想花」を聴いた時、俺は「魂売ったんか」と言ったんです。でも30年経った今振り返ると、自分のやりたい音楽のためにいろんな事を乗り越えて来たのかなって思う。

円:違う違う! 俺はその時に一番感じた事を歌にするだけやねん。だからあの「夢想花」は俺が本気でそう思った時、泣きながら歌った魂の叫びやもん。音楽は衝動によって生まれるんやけど、歳をとるとその衝動がどんどんなくなってくるから、凄く苦労する。あなた(PJ)だって昔は3分の1くらいの体重で、雨の中俺と一緒にポスター貼りのバイトをしたりしてたじゃない。「もう嫌や」なんて夜空に向かって泣いたやんか、2人で…

●あの頃は2人とも貧乏でしたね。(円さんは)ちょっとくらい金持ってるかと思ったら、実は俺達2人とも一銭も持ってなかったしね。

円:そうそう(笑)。そういう時代もあったやん。だけどあなたも会社の社長になって、体も3倍くらい大きくなって、もう飯食う事には困らないでしょ。そういう中で君に衝動が生まれる?
●僕も円さんと同じで常に衝動と過去にやり残した事にケリをつけたいと。

円:でも昔に比べて、衝動が生まれる事は減ったでしょ。だけど俺はある日突然"今のままでは嫌だ"っていう衝動が来たのよ。これを歌にしないで何がシンガーソングライターやと。

●深い話ですね。

円:あなたも社長としていろんな人をプロデュースしたりしてるけど、本当にそれがあなたの胸を打つ歌なのかどうかが大事やと思うねんな。もし本当にそうなら、私財を全部投げ打ってでもそいつをスターにしたいと思うよ。ちょっと気に入ってる程度の音楽を勧められても、いいねとしかコメントのしようがないけど、ホンマに凄いなと思ったら俺の事務所に来てくれよって言うね。そんな衝動に駆られるアーティストが、今の音楽業界にどれほどいるかは分からん。でも生きてる限り、ある日突然に衝動が訪れるのよ。それがエネルギーに変わってくるし、そのためだったら何でも出来る。まさに恋です。

●なるほど。円広志の衝動の原点は"恋"だと。

円:そうです。私は音楽にずっと恋をしてます。

●素晴らしいお言葉をありがとうございます。最後に読者の皆さんにメッセージをください!

円:ミュージシャンはみんな平等やし、若い連中が頑張ってるのと同じように俺も同じ場所で頑張ってる。だから若いやつに負けたくないし、音楽ではライバルでいたいという気持ちがありますね。今の若い人は素晴らしい才能のある人がたくさんいるから、正直若い人の才能には勝てないかもと思ってる。でも魂という部分では負けたくないと思ってます。一緒に頑張りましょう。

Interview:PJ
Edit:森下恭子

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