金切り声を上げるかのようにザクザク刻むギターに続いて、いきなり“恥を知れ!”なんて叫びが続く。初期衝動に満ちたエナジーと共に放出されるのは、何かに対する遣り場のない怒りなのか?
作品の冒頭を飾るM-1「愛と正義」や続くM-2「苛立ちとタスク」だけを聴いて、前頁に掲載したアーティスト写真だけを見れば、誰もが“何か怖そう…”というイメージを十中八九は持つだろう。彼らの名前は、五月女五月(さおとめさつき)。昨年末に結成されたばかりの、平均年齢21歳という若い4人組バンドだ。YouTubeを検索してみれば彼らのライブ映像を観ることも出来るが、それを観ても大方、上記のような印象を持つ人が多いと思う。そんな怖そうなイメージを抱いて中心人物の関田諒(Vo./G.)に会うと、別の意味での驚きを覚えた。こちらの問いかけに淡々と受け答えする関田の落ち着いた姿からは、音源やライブでの荒々しさとはかけ離れた所謂“常識人”的な印象を受ける。好きなバンドのライブを観て自分もバンドをやりたくなったというエピソードなんて、そのへんによくありそうな若者の話だ。
だが、そこから表面的な話の先を突き詰めていくと、どんどん印象は変わっていく。バンドを組む前はライブ自体、2度しか観たことがなかったという関田は、そのライブが終わった瞬間から今まで「“バンドをやる”っていうことしか考えていない。“なんでやるのか?”ということは考えていなくて、“やらなきゃいけない”というか」(以下「」内は全て関田の発言)と語る。当時、留学していた海外の大学に退学届を出して、親にも無断で日本に帰国。「僕の中でバンド=高円寺だった」という理由で上京し、メンバーを集めてバンドを始めた。やみくもなまでに思える行動力と、それを突き動かす衝動。そこには狂気すら覚える。「海外に留学したこともそうだし、それを急に辞めたことも、今ではバンドをやっているっていうことも中学や高校時代の知り合いからしたら想像もつかないんじゃないかな」と本人も語るように、内に秘めた“何か”が急に放たれたかのような変貌ぶりだ。
メンバーとのエピソードもまた狂っている。mixiのバンドメンバー募集コミュニティで誰かが書いた“当方プロ志向で、~な音楽が好きな人を募集”というよくありそうな書き込みの下に“↑”を向けて、「“こういうクソ以外の人を募集”みたいなことを書いたら、今のベース(Ba.与那城哉斗)が連絡してきた」という。書いた方もおかしいが、応募してきた方も普通じゃない。しかも与那城は当時ベースが全く弾けなかったらしいのだが、いきなりオリジナル曲で活動をスタート。「“コピーから始めましょう”って言ってるような人たちとは、最初から見ているところが違ったのかなって。上手い下手とかは関係ない」。まさに初期衝動のみを原動力にしながら、動き始めたわけだ。初期はまだ青春パンクなどの影響が前面に出ていたようだが、「“青春パンク”じゃなくて、”パンク”をやろう」とあるライブでメンバーに言った時からそこも変わっていった。「“パンク”って何だろうと考えたんですけど、“囚われない”ことだなっていう結論に至って。自分を作らないで音楽をやろうと思ったし、そこから書く曲も変わってきたかな」。だから今、五月女五月の音は唯一無二だ。
趣味は「色んな考えごとをする」ことだという関田の性質が、このバンドを音楽的にも歌詞的にも独自のものにしている。彼は“常識”というものに恐怖と疑念を抱いているのだ。「人を殺してはいけないと思うのと同時に、“なんでだろう?”とも思って。“誰かが悲しむからだろうな”と思うんですけど、“どうせみんな死ぬのになんで悲しむんだろう?”って思う。そこから“悲しい”って何なんだろうなって思うんですけど、“悲しむから人間なんだろうな”と思って。また“じゃあ、人間って何なんだろうな?”っていう感じでぐるぐる続いていく」。決してふざけているわけではなく、全力で自分や世の中にある“常識”と向き合い、そこにある“前提”を覆したいと彼は願う。そして上記のような思考もメンバーと共有し、4人の全会一致でしか動かない。「俺は音楽が好きでバンドをやってるわけじゃねぇから。人間とバンドやってます!」と、関田はライブで叫んだ。“音楽が好きだからバンドをやっている”なんて誰もが当たり前に思うような大前提すら、五月女五月という“バンド”は覆そうとしている。
一見、冷静で“まとも”そうな青年。だが、その内面には獰猛な狂気が潜んでいる。「話していることは全部本当なんですけど、僕の中にナイフみたいに尖った強い力があるのかなって。逆に言えば嘘をつかないだけなので、自分には怖いものがない」。関田が淀みのない澄んだ瞳でそう言った瞬間、僕は背筋に冷たいものを感じた。作られた見せかけだけの“狂ったふり”が横行する世の中で、五月女五月の音には本当の狂気が宿っている。そのことに気付いてしまったら最後。心の震えが止まらなくなり、彼らの世界から抜け出せなくなるだろう。
Text&Interview:IMAI