2007年結成、溢れ出る激情と真っ直ぐな言葉を鳴らす若きリアルパンクス、ムスリムホット。仙台在住の彼らは昨年の東日本大震災で大きなダメージを受けたが(メンバー2人は仙台市、1人は名取市、1人は相馬市出身)、“この4人なら何かを変えることができるかもしれない”という想いを持ち続け、記念すべき1stシングル『Tribal Music』を完成させた。被災地に立ち、音楽を始めたときの原点に立ち返って鳴らしたという今作は、感性と感覚と感情に直結するエネルギッシュなライブ仕様のキラーチューン。熱い魂を持った若きパンクスたちと共に、ライブハウスで暴れよう。
●ムスリムホットは高校のときに結成されたらしいですが。
BAM:ジャッカスと了英が別のメンバー2人とムスリムホットを結成したんです。でも高校卒業と同時にメンバーが上京したりしてその2人が脱退して。その後2009年に俺が入り、2010年に龍哉が入って今の形になりました。
●高校を卒業しても、了英さんとジャッカスさんはバンドを続けたかったんですね。
ジャッカス:辞める意味がわからなかったんです。俺は就職したんですけど、だからといって別に好きなものを辞める必要はないと思っていて。
渡邊:俺は大学に行っていたんですけど、普通に平日でもやりたいときにバンド活動をしていたんです。ジャッカスは仕事でヘロヘロに疲れているときもあったんですけど。
ジャッカス:1度、次の日が仕事なのに夜中の3時に家に来たことがあってキレました。
一同:ハハハハ(笑)。
●BAMさんはそのときは何をしていたんですか?
BAM:俺はグランジっぽい3ピースバンドをやっていたんですけど、ムスリムホットとも何度か対バンしたことがあって、ちょこちょこ了英と連絡を取っていたんですよ。そしたらムスリムホットのメンバーが2人抜けるということになって“寂しいな”と思っていたら、了英から連絡が来て「ヴォーカルとして入ってくれないか」と。
●お。
BAM:その日のうちに了英とジャッカスに会って、夜10時くらいから朝の7時くらいまで話をして。ジャッカスは次の日も仕事だったんですけど「仕事なんかよりバンドが大事だ」って。
ジャッカス:結局仕事は行かなかったです。
●パンクですね(笑)。
BAM:俺がやっていたバンドも学校の卒業を控えていて転換期だったんです。だから3人で話したそのままの自然な流れで、交わした言葉の通りにムスリムホットをやろうと。
●交わした言葉通りとは?
BAM:俺はもともと“仙台の音楽シーンは何かおもしろくねぇな”と思っていたんですけど、3人で会ったときに「俺たちだったら変えられるんじゃねぇかな」と言っていたんですよ。要するに熱くなっていたんですけど(笑)。
●仙台のシーンはどういう感じだったんですか?
BAM:なんかオシャレなバンドが多くて。でも俺がやりたかったのはそういうのじゃなくて、激しい音楽を全面的に出したシーンを作ることができないかなと。
●村田さんはどういう経緯で?
BAM:その3人が揃ったときに「じゃあドラムを探そうか」ということで、メンバー募集サイトで知り合ったんです。
村田:俺はもともとハードコアとかスクリーモをやっていて。同じ仙台の中なんですけど、ムスリムホットとは1度も会ったことがなかったんです。当時やっていたバンドを脱退したタイミングで、その募集を見つけて連絡して。いちばん最初にスタジオに入ったときに“下手クソだな”と思ったんですけど(笑)、でも3人とも熱いものを持っていたので一緒にやってみようと思いました。
●そういう経緯で揃ったメンバーですが、4人とも東日本大震災の被害が大きかった地域出身じゃないですか。前号ではBAMさんに震災当時のことを書いていただきましたけど、震災が起こったとき“バンドを続けるかどうか”と迷わなかったんですか?
BAM:しばらくメンバーと連絡が取れなかったんですけど、震災から2週間後くらいに電気が復旧してSkypeで連絡を取り合ったんです。俺は5日間くらい小学校に避難していて、その後実家に戻ったんですけど、当然いろんな被災の話を聞くんですよ。そんな状況の中で、気づいたらアコギを鳴らしていて。
●そうだったんですね。
BAM:そしたら了英も同じことをしていたらしくて。Skypeで「曲を作ったから聴いてみて」みたいなやり取りがあったんです。それがきっかけで2人でアコギユニットを結成したんですけど、4人で揃うことができなくても、とりあえずやれることをやろうって。
●渡邊さんもアコギを鳴らしていた?
渡邊:はい。俺は好きだった人が閖上(宮城県名取市)に住んでいて、亡くなってしまったんです。
●ああ…。
渡邊:それで空っぽになっちゃって何もやる気が起きなくて、アコギを持って1人で歌ったりしていたんです。メンバーのみんなに「お前そのままバンドやらなかったらただのダメ人間だよ」と言われて(笑)、「確かにこのままだと俺はダメになる」と思ってムスリムホットでがんばろうと思ったんです。
●ジャッカスさんはどうでした?
ジャッカス:俺はバンドを辞めることはまったく考えなかったですね。実は俺も友達が何人か亡くなったんですけど、何もしようがないじゃないですか。誰かに殺されたりとかしたらまた違うかもしれないけど、仕方がないとしか言いようがないというか。だから今回の震災については、俺は特に結論を出していないですね。考えはそこで止まったままです。
●村田さんは?
村田:俺の家は福島県相馬市の沿岸部なんですけど、家はギリギリ大丈夫で。でもその後、原発事故の影響で自宅待機がずーっと続いてて。電気もガスも水道も出ないという状況だったんですけど、バンドを辞めることは考えなかったですね。“バンドいつからできるかな?”と思っていました。“早く集まってやりたいな”と。
●みなさん大変だったんですね。今回リリースとなる1stシングル『Tribal Music』は、震災前から着手していたんですよね?
BAM:そうです。M-4「UNDER GROUND THE WORLD〜少しの希望と絶望〜」だけは2010年に作った曲でレコーディングも進めていて、他の3曲は震災後に作った曲です。
●「UNDER GROUND THE WORLD〜少しの希望と絶望〜」は作詞/作曲が渡邊さんで、M-1「生き様」とM-3「限界を超えろ」の作詞/作曲はBAMさん、M-2「soho」は作詞がBAMさんで作曲がジャッカスさん。3人が曲を作るんですね。
BAM:そうです。でも今回、震災後に4人で集まって曲を作ったりしたんですけど、曲がすごくダークな方にいっちゃうんです。“怒り”みたいなネガティブな感情が強い楽曲だったり、逆にすごくポップなものが出てきたりして。だんだんムスリムホットの音楽が定まらなくなってしまったんです。
●そうだったんですね。
BAM:ライブでも作った曲をやっていたんですけど“なんか違うな”と。俺は1人でアコギを持って公園とかで歌ったりするんですけど、1回“無”になってバンドを始めた感覚を呼び覚まそうと思って。それで曲を作っていったら、「生き様」や「限界を超えろ」みたいなアグレッシブでエネルギーのある曲が出てきたんです。
●「soho」はジャッカスさんが作ったということですが。
ジャッカス:俺もみんなみたいにわけのわかんない曲しか出てこなくて、それをそのままパソコンに録り貯めていたんですけど、後から聴いたらわけがわかんないから“俺は何をやってんだろう?”みたいになって。それで冷静になって、何も考えずにコードだけを弾いていたら「soho」ができたんです。
●きっとムスリムホットは嘘のない音楽を鳴らしてきたからこそ、そのときの心境がそのまま曲に出ていたんでしょうね。
渡邊:俺も震災後に作った曲はパンクじゃないんですよね。だからバンドに合わないと思うし、それ以前に自分で作ったときに“なんか違うな”と思ってしまうから、今のところは1人で弾き語って歌っている感じです。
●BAMさんの歌詞は精神性も見えつつ、さっき「アコギを持って公園で歌ったりする」という発言もあったように、具体的な情景描写も多いですよね。歌詞に地名が出てきたりして。
BAM:そうですね。作詞については、“ここだったらこの言葉だろうな”みたいな感じで、直感的にバーッと出てくるんです。日記というわけではないんですけど、俺的には歌詞は日記っぽくなっていて。いつでもその瞬間に感じた感覚や感情を取り戻すための歌、みたいな。
●ということは、理論的に考えて歌詞を構築したりはしない?
BAM:しないですね。感情のおもむくままというか“自分がこういう感情になったらこういう言葉を吐き出したい”という気持ちに忠実に書くというか。
●それはきっとリアリティなんでしょうね。
BAM:そうですね。俺が作った曲の歌詞についてはそういう感覚が強いです。でも、ジャッカスや了英が作った曲の歌詞を書くときはまたちょっと違うんですよ。曲から受ける感じをカヴァーするような感じというか。
●あ、そうか。自分が作曲したものかどうかによってモードが違うんですね。
BAM:そうです。今作だと「soho」なんかは歌詞の書き方やスタイルが違いますね。自分が作った曲は、曲と詞が一致するという前提で、感情のままに書いているんです。
●今作の4曲の歌詞を見ても、大きく2パターンに別れるかもしれない。
BAM:ですね。
●誰が作詞するかについては、どうやって振り分けるんですか?
BAM:曲を持ってきた段階でいちおう作曲した本人に「書いてみて」と言うんです。了英の場合は1人でアコギを持ってライブハウスをまわったりもしているから歌詞も結構お任せな感じなんですけど、ジャッカスは「無理」って。
●ジャッカスさんはなぜ歌詞を書かないんですか?
ジャッカス:「書いてみてよ」と結構言われるんですけど、言われても何も出てこないというか。言葉自体がよくわからないというか…。
●え?
ジャッカス:歌詞として成り立つ言葉がうまく出てこないんです。俺は共感覚(※文字に色を感じたり、音に色を感じたり、形に味を感じたりする特殊な知覚現象)を持っているみたいなんですよ。音が色で出てくるっていう。例えば高い音だったら黄色というか。
村田:メンバーとかも色で識別するんです。
●え? マジですか?
ジャッカス:BAMは黄色で了英が緑、龍哉が紫です。
●僕は何色ですか?
ジャッカス:黒。
●黒…なんか嫌だ(笑)。
ジャッカス:いや、でもその色が何を意味するかはわからないんですよ。
了英:ジャッカスは何色なの?
ジャッカス:俺は赤。だから昔からギターは赤しか使っていなくて。
一同:へぇー!
ジャッカス:でも厳密には単色というわけではないんです。俺の中ではいろんな色がグラデーションになっている感じなんですけど、そのイメージを言葉で説明するときに単色で言っているだけで。音とか言葉とか人に対してそういう色のイメージが出てくるんですけど、歌詞も頭の中でよくわからない感じに再生されるっていうか。だから歌詞は書けないんです。
●そうなんですか。
スタッフ:ビリー・ジョエルも共感覚があるらしいです。
一同:おお〜!
村田:仙台のビリー・ジョエルだ!
●今後ジャッカスさんは化けるかもしれない(笑)。
BAM:じゃあさ、今作の4曲は何色なの?
ジャッカス:「生き様」は赤黒い感じで、「soho」は黒と青が混ざったような色。「限界を超えろ」は黄色っぽくて、「UNDER GROUND THE WORLD〜少しの希望と絶望〜」は黒と灰色みたいな感じです。
一同:おお〜〜〜!!
●なんかすごい(笑)。そしてリリース後はツアーがありつつ、ファイナルは地元でワンマンですね。ライブに対してはどういう感覚ですか?
BAM:ライブはすべてを吐き出す場所というか。いい感情も悪い感情もどっちも。そこでお客さんが「ウワーッ!」ってきたら、「こいつらもそうなんだな」って感じたりするのがすごく好きなんです。変な踊りをしているヤツが居たりとかして「こいつみたいに俺も気持ち悪くなりてぇな」って。
●わかるわかる。
BAM:ライブっていろんな変なことが起きるので、こっちも客としてフロアを観ている感覚もあるんです。いろんな視点があって。楽しいですよね。
interview:Takeshi.Yamanaka