タイフーン・ミニスターズが6/6にリリースしたアルバム『Here we go!』は、プロデューサーに佐久間正英&ホッピー神山、マスタリングにオノセイゲンを迎えた“匠の3大競演”的作品。
今回はホッピー神山氏に、タイフーン・ミニスターズが奏でる音楽の魅力、そしてプロデューサーとしての鋭い視点に迫りました!!
●ホッピーさんは、タイフーン・ミニスターズ(以下、タイフーン)をmyspaceで見つけたとのことですが。
ホッピー:そうですね。リンクを辿っていくとタイフーンが出てきて、聴いてみたら面白かったんですよ。だから、ライブ会場で面白いと思ったアーティストに楽屋で「面白いから一緒に何かやろうよ」と言うのと同じように、ネット上で「機会があれば一緒にやりましょうね」とお便りしておいたんです。
●どういうところが面白いと感じたんですか?
ホッピー:ドラムとピアノだけのサウンドが、シンプルでなかなかいいなと。あと、非常にポップなんでだけど、今どきの作風ではないところも若い子にしては面白いと思いました。
●メンバーと初めて会ったのは?
ホッピー:東京にライブで来る機会があると聞いたので、その時に「お茶でもしましょう」と。そこで2人から「自分たちは今後どうしたいのか」というような話を聞きました。
●その後、ライブを観たと?
ホッピー:いや、ライブはまだ実際には観ていないんじゃないかな。
●え? 現時点でも?
ホッピー:ええ、観ていないですね(笑)。その後、佐久間さんからも声がかかったと聞いて「よかったね」と言ったんですが、2人が私にも関わって欲しいと言ってきたんですよ。「佐久間さんの所で出すのなら、私はレーベルの人でもないし、出番もないんじゃないの?」と言うと、彼女たちが佐久間さんに相談して、数曲なら私が関わってもいいということになって。
●先ほどおっしゃいましたが、彼女たちの音楽は本当にポップだと思うんです。ただ、一般的な"J-POP"のポップではなくて、少し癖があるというか。ホッピーさんのプロデュースは、彼女たちの魅力を際立たせるために何かを加えるという作業だったんですか?
ホッピー:もしもこれが初めてのアルバムで、私のレーベルでやるのであれば、ドラムとピアノと歌しか入れないようなアレンジにしたと思うんです。私としてはそこで何ができるのかを見たいから、彼女たちのライブにいちばん近い形の音源を作っちゃう。尚且つ、それに捻りを入れて、面白くしたい。
●ライブの形をベースに、音源なりの面白さを出すと。
ホッピー:ライブそのままの感じだったらライブを観に行った方がいいんだから、その楽器の構成の中でいかに面白い音作りができるか、ということをやってみたでしょうね。
●なるほど。でも今回は違ったんですね。
ホッピー:そうです。彼女たちはもう2枚のCDを出していて、その過程はもう経ているし、今作は佐久間正英さんという日本のメジャー界の中でも大プロデューサーのレーベルから出すわけですから、それだけのクオリティに持っていかないといけないわけですよ。今作は総合的には佐久間正英プロデュースで、私がそこでお仕事をするということであれば、ちゃんと構築したものを出さなきゃいけない。
●そうですね。
ホッピー:他の曲とのバランスもあるから、ベースもちゃんと入れて低音のレンジも作って、普通のポップスの構造になるようなサウンド作りをしていきました。
●ホッピーさんのカラーは封印したということですか?
ホッピー:いや、それはないです。きっと彼女たちも"私の色も出してほしい"と思ったからこそのコラボレーションを望んでいたと思うし。
●なるほど。確かにそうでしょうね。
ホッピー:でも私は無理をしたくないし、相手にも無理をさせたくないので、強引に変えることはなく。
●プロデューサーのカラーを加えつつ、ミュージシャンの魅力を引き出すことが、ホッピーさん的に上手くいったといえるプロデュースなんでしょうか?
ホッピー:「上手くいく」といっても、アーティストの魅力を出すことと売れることとは、結びつかないことの方が多いですからね。会社から依頼された場合は、個性を出すよりも売れなきゃダメなわけですよ。とくにメジャーのシーンだと、ここ10年ほどはありがちなものの方が売れているわけで、個性的なものは枚数が伸びない。
●そうですよね。
ホッピー:本当は、差別化ができているから個性的なものほど一攫千金になり得るんですけどね。今のメジャーのシーンには、そういうものを理解して、制作して、売ろうとする気のある人間がいないと思います。
●そうかもしれないですね。
ホッピー:売り手が「どうせ新しいものの作り方が分からないし、作っても仕方ない」と開き直ってしまったんです。それで今は、懐かしの音楽を再販するばかりで、何とか食い繋いでいる。でもそろそろ新しいものでドカンとやらなきゃ。…とは言っても、その新しいものがアイドルではダメなんですよね。実際に今売れているものって、全部が"エンターテイメント産業"じゃないですか。"音楽産業"として売れているものがほとんどないということは、このままだと音楽産業がなくなっちゃうことにもなりかねない。
●そういう意味では、現在の音楽業界に対してすごく危機感を感じていらっしゃるんですね。
ホッピー:というか、世の中的には危機を通り越したまずい状態ですよ。世界的にもそうですが、音楽に対する価値観が非常に低くなっていると思いますし。自分がメディアで手に入れた音楽を、大事に愛を持って聴けるような状況にしないといけないですよね。使い捨てではなくて。
●本当にそう思います。
ホッピー:そのためには、もっとちゃんと"売る"ということを考えないといけないけれど、音楽の会社の中には売ることのプロフェッショナルがいないから、他の業界から売ることの専門家を呼んで仕掛けていけばいいんじゃないかなとも思います。
●ああ~、なるほど。
ホッピー:他の業界の視点から音楽を見て、面白いものを売っていくことが必要なんだと思います。だから、まず音楽産業のひとくくりとして、メジャーという大きなものが動かないと、インディーズも動かないんですよね。だから、なんとかメジャーに頑張ってもらいたいんです。
●なるほど。
ホッピー:そのために必要なのは、やっぱり"プロ意識"。ものを作って売るんですから、プロフェッショナルでいなきゃダメなんですよ。そこが欠如しちゃったら、ものは売れないです。商品"価値"ですからね。作る人も演奏する人も売る人も、みんなプロの意識が大事なんだと思います。
●そんな中、ホッピーさんは今後もスタンスを変えずにいいものを作っていくと。
ホッピー:まあ、変えようがないですからね。相も変わらずでやっていきますよ(笑)。
Interview:Takeshi.Yamanaka / Edit:Hirase.M