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フーバーオーバー

こんなにも幸福感に溢れた解散ライブを体験させてくれるバンドは他にいない

hooverフーバーオーバー解散ライブ
2012/12/9@下北沢GARDEN

 

 

 

 

驚きの発表がなされたのは、2012年7月末。オフィシャルホームページ上で“フーバーオーバーから解散のお知らせ”というタイトルで、12年間の活動に幕を下ろすことが発表された。あまりにも突然の出来事と、その理由に別段触れるわけでもない簡素な発表文に何が起こったのかと困惑してしまった人も多いのではなかろうか。9月には最後のオリジナルアルバムとなる『夜明けの晩』をリリース。フーバーオーバーの魅力が健在であることを証明するような新作に、解散を惜しむ気持ちがより一層高められてしまう。本誌では10月号から3ヶ月連続で、解散ライブに向けてのカウントダウン連載を掲載。そこに寄せられた数々のアーティストからのコメントは、いかに彼らが愛されているかを物語っていた。
会場となった下北沢GARDENの入り口は開演前から長蛇の列で、中に入るとフロア内は前から後ろまでギッシリと人で埋まっている。SOLD OUTということでここには入れなかったファンも多数いることだろうが、その想いも全て届いているかのように熱気が会場内に充満していた。モッズスーツでビシッと決めたメンバー4人がステージに登場すると、大きな歓声が湧き起こる。1曲目を飾ったのは「DC7」。いきなり炸裂するVo./G.岩沢正美の速射砲のような早口言葉ボーカルに“これぞフーバーオーバー!”とうれしくなると同時に、やはりこんなバンドは世界中のどこを探しても他にいないのだと思うと一抹の寂しさも湧く。
だが、そんな気持ちを吹き飛ばすかのように冒頭から名曲のオンパレード。「チョコレート」や「炭酸水」といった過去の名曲が矢継ぎ早に演奏されていくと、もう悲しんでいる暇などないくらいの楽しい気持ちに包まれていくのだ。G.遠藤ナオキがギターソロで観客を沸かせたかと思えば、Ba.阿部元は「まみむめも」で身体を左右に振りながらいかにも楽しげにベースを弾く。解散ライブだということを忘れさせてしまうほどに、軽やかでポップなライブチューンの連発。さらにはメンバーの超ユルいMCも、心を和ませてくれる。岩沢が文房具の話をしたかと思えば、男子メンバーによるDr.宮崎喜生の体型イジりなど、仲良さそうに話すメンバーの様子に会場は笑顔が絶えない。
“本当に解散ライブなの?”と信じられなくなるくらい、幸福感が漂うライブはあっという間に終盤へと入ってしまう。“楽しい時間はあっと言う間”とはよく言ったもので、まさにそのとおりの感覚。「さよならの時間」や「赤い花」では切ないメロディが胸を打ち、グッと想いが高まる。だが、気持ちを決して沈ませまいとするかのように本編ラストは「コレクション」で、観客をぴょんぴょん飛び跳ねさせて終了した。そこから終わりを惜しむファンの声に応えて、ダブルアンコールで計5曲を披露。「やっぱり明るく終わりたい」という岩沢の言葉通り、最後の最後は「ニトログリセリン」でメンバーとフロアが一体となった“ギュっとね”の大合唱でラストライブの幕を下ろした。
正直、“悲しい”という気持ちよりも“楽しい”という気持ちがライブ中に勝っていたのは、自分だけではないだろう。時間が経った今でこそ寂しさや喪失感も湧いてくるが、ライブが終わった瞬間は“本当に良いライブだった”という想いが心を満たしていたのだ。こんなにも幸福感に溢れた解散ライブを体験させてくれるバンドは、他にいるはずがない。フーバーオーバーがまさしく不世出の“POP'N ROCK”バンドであることを改めて実感した。これで最後のはずなのに「またね」と一言残して、笑顔でステージを立ち去った岩沢。またいつか彼らのライブが見られることを夢見ながら、音源に残された“奇跡の音楽”に今日も心躍らされている。

TEXT:IMAI

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