来年4月に結成25周年を迎える日本一のライブバンド、我らがフラワーカンパニーズ。2008年にメジャー復帰を遂げ、数々の名曲を生み続け、そして生命力溢れるライブを全国各地で展開してきた彼らの新たな入門盤『新・フラカン入門』がリリースされた。今作は、メジャー復帰以降の全シングル曲とアルバムから選び抜かれた名曲に加え、現時点のフラカンを封じ込めた新曲2曲で構成された、これぞ2013年型フラカンと言える名盤。前アルバム『ハッピーエンド』以来の表紙となる今月号では、鈴木圭介のソロインタビューを敢行。新曲が生まれるまでの苦悩と空しさの先に見る希望、そして25周年を目前にした現在の心境を赤裸々に語ってもらった。
●今回、2008年のメジャー復帰から現在までのベスト盤『新・フラカン入門(2008-2013)』がリリースされますが、メジャー復帰以降の5年間を振り返ってみるとどうでしたか?
鈴木:早かったですね。“もうそんなに経ったのか”っていう。まだ2年くらいのイメージなんですよね。あと、やっぱりいろんなことがやれるので、慌ただしいと言えば慌ただしかった。「こういうのはどう?」って言ったらすぐに実現化できるくらい、スタッフもスピーディーに動いてくれるんで、すごくありがたい状況というか、ラッキーだと思いますけどね。30代のときとかは「やりたい!」って言ってもそう簡単にはいかなかったんですよ。だから「やりたい!」っていうアイディアも出さないようにしていたというか、そういう思考回路にいかなかったというか。
●“どうせできないんだから”みたいな。
鈴木:「試しに言ってみる?」みたいなノリもなく。今だと「言ってみたらもしかしたらイケるかも」っていう気持ちもあったりするから、そうなると自然とやりたいことも増えてきたりするんです。すごく面白いですよね。
●それによって、発想がより自由になるということですか?
鈴木:そうですね。発信できるというか。今まではお金の面とかいろんな理由でできなかったことの方が多かったから“できる範囲でやろう”っていう感じだった。自分たちだけでやっていたときは、ツアーがメインで、他はアルバムを作ってっていう感じだったんです。今はそれ以外のこともできるし、いろんなところに顔を出せるので、いろんな人と一緒に「こういうこともやってみませんか」っていう話が来たりとか。そういうことを今まで俺たちはほとんどやっていなかったので、面白いんですよね。「(タイアップ用に)曲を書いてください」とか、ここにきてまたテレビに出してもらったりとか。
●視野が広がりました?
鈴木:そうですね。いろんな世界が見えた。「CM業界ってこうなってるんだ」とか、裏も知れたりするんですけど(笑)、そういう1つ1つを純粋に楽しめていますね。
●曲作りという部分に於いて、メジャーに復帰した5年間で変わったという実感はあるんですか?
鈴木:徐々に変化はしていますね。この間のアルバム(14thアルバム『ハッピーエンド』)はちょっと特殊というか、震災後というのも若干影響はあったし、かといって今は「はい、終わりました」っていう心境でもなくて。変わってまた元に戻るわけでもないので、震災がきっかけとなってもう一回自分でも考え直したっていうか、それを未だに考え続けているっていうか。
●曲作りの部分では震災が大きかった。
鈴木:そうですね。そこをどうしていくかっていうのを、考えながらやっているというか。今年は、曲作りに関しては上手くいかなかったという実感なんです。
●あ、そうなんですか。
鈴木:全然ダメでしたね。ここ数枚のアルバムは俺が全部作っていたんですけど、逆に最近は俺以外の2人(グレート&竹安)が作ってきて。ツアーの合間にレコーディングばかりしていたんですけど、2人の曲をメインにデモ録りをしています。いかんせん歌詞が全然できてないので“ラララ”で歌った曲ばかりがめちゃくちゃ貯まってるんですけど。
●曲作りが上手くいかなかったことは今までもあったんですか?
鈴木:いや、ここ10年くらいなかったですね。30歳を越えてからはなかったです。20代のときはあったけど、それでもこれだけの期間書けなかったことはなかったです。書けないんですよね。さっきも言ったように今はいろんなことができるから、逆に“新しいことをやらなきゃいけない”っていう意識があるのかもしれないし。いろんなことに自分が追いついていないというか。だから今年は“俺、出遅れちゃってんな”みたいな年。自分から切り拓いていって「ついてこい!」っていう感じではなかった。割とそういうタイプではないんですけど、完全にメンバーから一周遅れくらいの、抜かれちゃってる感じがありますね。
●焦りみたいな気持ちはあったんですか?
鈴木:ものすごくありますね。自分に対して“どうすんだよ?”みたいなのはずっとありますよね。でも、焦るとあまりいいものができないとわかっているので、なるべくのんびり構えるようにはしようと思っているんですけど。でも、そうそう言っていられない感じですよね。作ってみても、“また同じだな”みたいな。今までだったら“同じでもいいか”みたいな感じだったんですけど、今年は同じではピンと来なかったんです。
●歌詞も同じですか?
鈴木:そうですね。特に言葉が全然出て来なかったです。今まで曲自体はそんなに変わんなくても、30代は言葉で詰まるということがなかったんですよ。“まあ、そういうこともあるよな”っていう風には思っているんですけど、未だ雪解けが遠いです。それがパァッと解けるのか、徐々になっていくのかも、自分ではわかんないので。
●今作はメジャー復帰後のベスト盤というかフラカンの入門盤ということですが、どういう基準で曲を選んだんですか?
鈴木:まず、今年出したシングルになっているM-2「夜空の太陽」とM-3「ビューティフルドリーマー」があって、後は今のレーベルに入ってからのチョイス。以前『フラカン入門』(2010年1月リリース/それまでのオールタイムベスト盤)を出したんですけど、あれはお客さんからリクエストを募って、そのリクエスト数の多い順にそのまま収録したベストなんです。
●そうでしたね。
鈴木:今回は割と歌モノというか、歌がちゃんと聴けるアルバムにしようと思って。ライブだと前半飛ばして、真ん中で歌モノをやって、最後は飛ばして終わるっていうのが毎回のパターンなんですけど、アルバムもそういう風になっているんですよね。
●毎回バラエティに富んでいますよね。ライブに通じる緩急があるというか。
鈴木:今回、自分たち的に言葉が強い曲…バンドのノリ重視ではない曲を選びたいという想いがあったんです。通して聴きやすいというか。でこぼこしていると、例えば雑貨屋さんでよくボサノヴァ系のCDがかかっているじゃないですか。あれがずっとかかっているから普通に雑貨を見れたりするんですけど、途中でいきなりデスメタルが流れたらでこぼこするじゃないですか(笑)。そうじゃなくて、同じテンションのまま聴けるような感じにしたいなと。普段のアルバムだったらダッ! と映える曲があった後にゆっくりな曲になったりするけど、ベストだからそういう風じゃないので固めようと。
●ライブで定番になっている曲を選んだわけではないですよね。
鈴木:ではないです。M-5「日々のあぶく」とかM-9「たましいによろしく」とかはあまりやってないですし。個人的には、M-11「大人の子守唄」とかはすごく入れたかった曲です。
●今回は新曲が2曲入っていますよね。先ほど「今年は曲がなかなか作れなかった」というお話がありましたが、この2曲はいつ作ったんですか?
鈴木:これはレコーディングの前日。ギリギリでできたんです。
●え? 歌詞が?
鈴木:いや、曲もです。だからメンバーに聴かせたのはレコーディングの前日です。
●ええっ! 切羽詰まりまくりじゃないですか!
鈴木:詰まりまくりです(笑)。新曲は作ったら入れられるだけ入れたいと思っていて。1曲は少ないから、最低でも2曲は入れたいなと思っていました。この2曲は、ギリギリで前日に弾き語りで聴かせて。デモのレコーディングはいつもはプリプロ用のスタジオでなんですけど、今回はエンジニアの人も含めてみんながいる前で歌詞を作りました。そこから「さあ、アレンジはどうする?」って感じで、その日のうちに1日でアレンジして、次の日がレコーディング。それこそアレンジもレコーディングの場で入れ替えたりしながら。本当に滑り込みですよね。
●M-1「ロスタイム」は、アレンジがすごく洗練されているというか、ちょっと大人な感じで、練りに練っているイメージがあったんですよね。だから1日でアレンジしたと聞いてびっくりしました。
鈴木:この曲、すごく仕掛けをしているんです。録り方もエンジニアの方がすごく頑張ってくれたんですよ。短時間ではなかなかできる曲じゃないんです。俺が作ってきたときはおもいっきり弾き語りでやっていますからね。なんのリフもないし。
●キャリアがあるってすごいですね(笑)。
鈴木:これは今までで最短でしたね。曲とメロディがあって歌詞がない、っていうのは20代のときにもあったんですけど、30代はなかったんですよね。直前まで曲もなかったっていうのは初めてでした。
●でも、さっきも言いましたけど、そんな短時間で作ったとは思えないほど洗練されていて。
鈴木:そうなんですよね。だからやっと「あぁ、よかった」って感じになれた。
●M-14「ローリングストーン」も、同じように?
鈴木:そうです。これはおもいっきり弾き語りですね。
●これ、めっちゃいい曲ですよね。
鈴木:ありがとうございます。逆にこれは弾き語りそのままで「この形でいいんじゃないの?」って感じだったんです。
●この2曲の歌詞を見ていて、歌詞の表現がおもしろいというか、味わい深いなと思ったんです。表現したい想いや感情を、別の言葉に置き換えて伝えるというか。ひとつの単語をそのまま言うんじゃなくて、別の言葉で上手く例えられるような表現の豊かさがある。気持ちや感情など形がないものを別の言葉で表現しているのに、説得力やリアリティを感じるんです。
鈴木:歌詞は歌録りギリギリまで書き直していたんですけど、歌いたいことはずっとあるにはあったんですよね。やっぱり俺の場合、どうしても同世代に向けてみたいなところにはなっちゃうんですけど。若い子に向けてっていうのも考えたりはしていたんですけど「やっぱり無理だな」っていう。どうしても同世代に向けて歌う歌になっちゃう。
●でもそれが説得力になっていると思うんですよね。
鈴木:特に震災以降はそういう感じで。これくらいの年齢になると、新しく出会う人よりも離れちゃう人の方が多いんですよ。リアルに死んじゃう人とかが多いし。同級生もそうだし親とかも含めると、下手したら今後どんどん増えるじゃないですか。震災のこともあってワッ! となって、ちょっと憂鬱な感じというか、空しい感じ。
●ああ〜。
鈴木:今年はすごく空しかった。なんか抜けきれないというか、ワァー! って気持ちはあるんだけど、どこかで心底楽しめていない自分もいるんですよね。例えば今までだったら、ライブでワァー! っとやって最高に楽しくて真っ白になって、ホテルに帰って、いい気持ちのまま頭を洗ってすっと寝る、みたいな感じだったんですけど、去年くらいからふと“うーん…”みたいな、ガクッと空しくなるというか。
●それはさっきおっしゃっていたように、“今後失っていくものがどんどん増えていくんだろう”という実感が強くなってきたからこそですか?
鈴木:そうそう。いろんな人がどんどん死んでいくんだろうし、自分もいつか死ぬんだろうし。あと“景気もよくならないしなぁ”とか、日本全体の感じも“どうなっていくのかな”って考えてたり。商売としては夢を与えていく商売だから…とは言っても「夢を持とうぜ」みたいな歌を歌うタイプではないんだけど…例えネガティブなことを言っていたとしても、それを歌にして自分が歌うことによって、お客さんはそういう風に取らないなっていう自信があったんです。「死んじまえ」みたいなことを歌ったとしても、俺たちの場合はそれによって聴き手が死のうとは思わないから。そういう意味では、力づけたり勇気づけたりできると思っていたんですけど、それが揺らいでいるというか。“俺はいったい何のために歌ってるんだろうな?”みたいな。震災以降ってそういうことを考えますよね。
●そうですね。ミュージシャンに限らず、みんなが考えたと思います。
鈴木:そこを抜けきれていないんです。整理できていないし、後片付けは全然終わってない。実際の話、まだ全然問題は終わってないじゃないですか。だからこっちも終わってないんですよね。ふと我に返って空しくなっちゃうっていうか。この先のことを考えると“大丈夫?”っていうか。だから、すごくそんなこと関係なく元気で頑張っている人を見ると…今まではそういう人って“自分とは違うな”と思っていたんですけど…今年はそういう人に勇気づけられた。
●そうだったんですね。
鈴木:“こういう人がいると助かるし、羨ましいな”って。うちのリーダー(マエカワ)とかはそういうタイプなんです。ずっと前向きなんですよね。今年は俺が調子がよくなかったけど、彼が頑張ってくれていたから。あの人は後ろ向きな発言もあまりしないし、心底そういうタイプだと思う。昔から。割と行動力もあって。
●確かに。
鈴木:俺は真逆だから、前は“自分とマエカワは真逆だからこそバンドとして上手くやれてるのかな”と思っていて。俺にないものを彼が補ってくれているんだろうなっていう距離感で見ていたものが、今年はその姿にリアルに勇気づけられた。言ってないですけど“リーダーはこんなに頑張ってるのに、俺は何をやってるんだろう”っていう気持ちは散々あったし、“しっかりしなきゃ”と思えば思うほどできなくなっていくという。そういう負のスパイラルが今年は多かったかな。気持ち的には、いいものを作るための充電の時期だと思うようにしたいんですけど、振り返ると自分的に思い描いていた感じではなかった。もっとバシバシとクリエイティブに攻めて、逆にスタッフが引いちゃうくらいのことをやってやろうと思っていたんです。でも守りでいっぱいいっぱいだった。だから今回の新曲2曲ができたことが本当に大きかった。
●そういう状態の中でも、曲を作ることができたと。
鈴木:今の自分をリアルに出せたっていう感じです。ちょっと空しいけど、先があるはずだと思いたいというか。このまま歳を取れば身体も弱っていくだろうし、周りもみんな死んでいくし、日本の状況もよくならないし、税金も上がるし。オリンピックが決まったことは唯一よかったけど、震災のことも後に回されちゃうし、“あんまりいいことねえな”っていう感じで、それしか考えられなかったから。2曲ともそういう感じをおもいっきり出してる。
●もしかしたらこの2曲で歌っていることって、結論は出ていないのかもしれませんね。
鈴木:そうなんです。両方ともまだ強い意志にはなっていない状態というか。「ローリングストーン」は“転がされている感じでもこのまま継続する”っていう気持ちですよね。「ロスタイム」も、ロスタイムってことはまだゲームセットじゃないから、続けるつもりでいる。
●そういう感情がすごく出ていますね。
鈴木:そう。だから今年が俺にとってのロスタイムというか(笑)。そういう感じなのかな。でもそういう凹の時期があるから、次に凸の時期があるのかなって。今は丁度霧がかかっているところで、ここからパァッと開けて景色が見えるといいなと思っているんです。
●子どもの頃って、未だ見ぬ将来に漠然と“幸せな結論が待ってるんだ”と根拠のない期待をしているじゃないですか。でも歳を取っていくと、“あれ? 子どもの頃描いていた幸せはないのかも?”と気づいていく。むしろさっきおっしゃったように、失っていくものの方がどんどん増えていくと思うんです。僕はあまり明るい性格ではないから、そういうことをリアルに考え出すと、どんよりしちゃうんです。それってある意味死に対しての恐怖なのかもしれないですけど、それをちょっと脇に置いといて毎日生きているみたいな感覚で。
鈴木:基本は俺も避けて通りたいですよ。そういうことを普段は考えないようにしていたんですけど、今年はそれができなかったんですよね。常にそういうことばかり考えていたというか、どんよりしていることの方が多かったです。ツアー中やライブをやっているときはいいんですけど、ハレとケの差が大きかったというか。上がるときはMAXまで上げられるんです。でも普通のときがあまりないというか。ズドーンって落ちたらそのときが長い。
●もともとそういう性格なんですか?
鈴木:割と上下は激しいんですけど、基本は楽天家だから、沈んでもそんなに長続きしないというか。ふた晩くらいで収まったりするんですけど、今年はずっと曇りが続いてましたね。
●でも、そういう中でその感情を今現在の自分なりに曲にできて、しかも新曲2曲ってものすごくいい曲だと思うんです。できてよかったですね。
鈴木:そうなんですよね。これができることによって楽になった。ある意味、曲ができるというのが自分にとっていちばんのストレス解消でもあり、空しさの先へ行くということなんだと思うんです。曲ができたり、いいライブができたり、いいアルバムができたりっていうところだと思うんです。だからこの2曲は大きいですね。もちろん「夜空の太陽」もそうなんですけど。
●曲ができたということが、自分にとってプラスに作用するんですか?
鈴木:作用しますね。自信に繋がります。いい曲ができたときはですよ。つまんない曲しかできないときは、もっと溜まります。自分でいいなと思える曲ができたときは、ものすごく浄化されますね。この2曲ができたときは、本当にホッとしましたもん。
●そう考えると、一生曲を作り続けた方がいいんでしょうね。
鈴木:そうです。これだけ長いこと作り続けていたわけですから、もうこれしかないと思うんです。同じような曲であっても作り続けるしかない。自分がそれを作って手応えがあって浄化されるんだったら、それは「いい曲だ」と言っていいと思うんです。万人がどう思うかはさておき、自分の中でクリアした曲は世に出していいなと。
●ここ最近の新曲たちはモードが真剣モードというか、別にふざけて曲を作っている人ではないと思いますけど、全部腰が入ったフルスイングのような感じがするんです。
鈴木:遊びの部分があまりないですよね。余裕がなかったんじゃないですかね。例えば「チェスト」っていう曲みたいに笑いながら作ったような感じじゃないから。ある程度余裕がないとああいうのって出て来ないんですよね。どっちかというと、このアルバムに入っている曲は余裕のないときにできた曲が多いです。
●あ、確かに新曲だけじゃなくて、今作に入っているものはそういう曲が多いかも。
鈴木:「リアリティ」って言うのも生易しい感じがしますもん。リアルだからね。リアリティって割と狙って作れるでしょ? 大体歌詞を作る人って何を求めるかというと、「リアリティだ」って言うじゃないですか。でも、それはリアルじゃなくても、テクニックでリアルっぽく見せたものもリアリティに含まれるじゃないですか。
●そうですね。
鈴木:逆に、俺はそれができないですもん。それは自分の弱点でもあるんですけど、そんな生易しくない。
●ザ・リアルだと。
鈴木:だからこの2曲に関しては、どう思われてもいいんです。「そうだったんですか」って言われてもしょうがない。本当にこれだもん。かといって日記みたいなもんじゃないので、そのままダラーッと書いているわけではないですけど、基本はリアルですよね。リアルって言葉もちょっとあれですけど。
●今おっしゃった“リアル”というものが、伝わる/伝わらないに影響すると僕は思うんですよ。それは言葉遣いを変えるとかのレベルじゃないと思うんですよね。そこに100%純粋に気持ちが入っているか否か、みたいな。そういう意味で、すごく響く。
鈴木:そうあってもらえるといいですね。「ロスタイム」とかは、あまり深刻な顔をして歌いたい曲ではないんです。歌詞の内容だけ見るとちょっとそういう風に感じるかもしれないけど、曲調が明るくなったので、すごくいい感じにできたと思っていて。ミスタードーナツでかかっていてもいいと思う。
●確かに(笑)。
鈴木:すごく気持ちよく歌えるんですよ。だから歌いながら自分が浄化される。1回歌えば1回浄化されるし、2回歌えば2回浄化されるし。
●どんどん“空しさの先”へ行けると。
鈴木:そうそう、そんな感じなんです。だからライブでも決して深刻な顔をして歌わないと思います。
●来年の4月で25周年を迎えますよね。そのことに関して、今はどういう心境なんですか?
鈴木:うーん、特には。ずっと続けていることなので、ある意味そんなに…ピンと来ないとまでは言わないですけど…ツアーもずっと続いているし切れ目がないので、なかなか気持ちが「25周年です!」って感じになってないんですよね。ただ、タイミングとして25周年だというくくりで新しいことをやれるタイミングでもあるとは思っていて。そういう意味ではいろいろ面白いことができるから、チャンスだと思っていますね。ただ、決して25周年で終わるんじゃなくて、25周年が終わった次の日からすぐに続くわけですから。スゴロクのゴールに行くわけではないし、アガリがないことなんです。パァーとやりたいのはパァーとやりたいですけどね。
●ニューロティカも毎年「今年は○周年」と言ってますもんね(笑)。
鈴木:そうそう(笑)。でもね、本当そのままですよ。誕生日を毎年祝うような感覚。“今年も1年よく続いたな”みたいな。そういうのが毎年あっていいと思いますよ。そうは言いつつ、25周年は24周年よりも区切りがいいじゃないですか。ちょうど四半世紀なので。さらに次は30周年で50歳に近いので、もっとパァー! っとやりたい。
●25周年に向けて、リリース日からワンマンツアーが年またぎで始まりますね。
鈴木:ライブはずっとやっているので、どこがどこだかっていう感じですけどね(笑)。ライブは大体週1でやっていて、2週間空くことがほとんどないんですよね。
●このツアーはどんなツアーにしたいですか?
鈴木:一応“上京20才まえ”っていうタイトルのツアーで…俺たちが上京して来年2月で20年なんですよね。それもあるから、ツアーのテーマは“上京のときの気持ち”。初めて東京に出てきたときのフレッシュさを取り戻したいです(笑)。
●ハハハ(笑)。
鈴木:東京の何を見ても楽しかった。今でも楽しいし、名古屋に帰りたいとは思わないですけど、特に初めて出てきたときはすべてが鮮烈だった。
●上京された頃のことは覚えてます?
鈴木:すっげぇ覚えてます。当時の自分は今よりギラギラしてましたよね。田舎者だったし一人暮らしもしたことがなかったので、メンバー全員で出てきて、東京でいろんなバンドと対バンをしたりして。まだ契約もなかった時期だから、一旗揚げたいという気持ちが強かったし。当時はまだバンド同士が仲良くするっていうのがなかったんですよ。だから対バンをしてもあまり口をきかなかったりして、メンバー4人だけで固まっていて。若いバンドにありがちなことなんですけど(笑)。
●上昇志向の塊みたいな。
鈴木:そうそう。「周りのバンドはみんな敵だ」みたいな。
●ハハハ(笑)。本当にギラギラしていたんですね。
鈴木:今のフェスとかって、あまりそういう感じがないじゃないですか。当時はフェスとかなかったですけど、当時の俺らがフェスに出ていたら、きっと楽屋から一歩も出ないですね。食事も楽屋に持って入って食べる感じだったと思います。すごく内にこもっているというか、4人でなんとかする、みたいな。
●そういう感覚だったんですね。
鈴木:今になってギラギラしているところを戻したいとは思わないですけど、初めて行った街で「こんなものもあるのか!」と言っていたフレッシュさは大切だと思っていて。いちいち面白かったですよね。東京って、名古屋にあるものが全部あるじゃないかっていう。しかも都会だけじゃないんですよね。名古屋で俺らが住んでいたのはベッドタウンで、みんな団地育ちなんです。買い物をするにもスーパーマーケットやデパートとかばかりなんですよ。個人商店の八百屋さんや風呂屋さんをほとんど見たことがない。商店街がない。
●あららら。
鈴木:テレビで『ぶらり途中下車の旅』みたいなロケ番組でしか見たことがなくて。東京に来たら下町っぽいところが残ってるし、家の近所にお風呂屋さんもいっぱいあるし、緑も多いし公園も広い。逆に名古屋の方が整理されまくっていて、「東京には全部あるじゃないか!」っていう感じがしていて。俺たちがいた地元は、たまたま新しいものが揃っちゃってる地域だったっていうことですよね。みんな高校を出たらすぐに免許を取って車に乗って、車で行ける範囲で行動するじゃないですか。東京は電車とかいろんな交通機関があるし。
●20年前は目に入るもの全部が全部、フレッシュで衝撃的だったんですね。このツアーはそういうフレッシュな気持ちでやると。
鈴木:あのときのフレッシュな自分を思い出しつつ。あと、メンバーに向けて…もちろんこれからもいろんなことをやっていこうという気持ちもありますけど“よくやったじゃないか”っていう気持ちもありますよ。“よくやったね俺たち”っていう感謝の気持ちもお互いに入れつつ。
●いいですね。
鈴木:メンバーはずっと一緒で、仲が良いとか、もうそういうのもよくわかんないくらいの感じなんです。微妙な距離感を保っていて、4人が上手いこと自分の立ち位置を見つけたから、ずっと続けられているというか。それが上手くいかないとやっぱりギクシャクするじゃないですか。そういうことも全部ひっくるめてのお祝い気分もありますね。
●なるほど。
鈴木:あとはまあ、歳も取ってくるから、ここからどれだけ続けられるかわからないっていう気持ちもあるじゃないですか。事故とか、いつそういうことがあるかもしれないし。そういうことがなくても“俺たちはあと何回夏を迎えられるんだ?”とか考えるようになってくる。そういうことを逆算していろいろ考えていくと、今も俺たちはすごくラッキーなところにいるんだから、楽しめるときは100%楽しんでいかないと駄目だなって。一回一回満開にしていかないとね。
Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子
Cover/Artist Photo:中野敬久
Live Phto:HayachiN