安易なリバイバルとは決定的に異なる本物の2010年代の音を響かせた1stアルバム『El Primero』から1年、キドリキドリがさらなる進化を遂げて帰ってきた。
9mm Parabellum Bulletやサカナクションなどを手がける小島康太郎のマスタリングも経て、完成された2ndアルバム『La Primera』。
本当に幅広い音楽のリスニング経験から昇華された独自の音楽性は、熱量の高いメッセージと共に切れ味をさらに増している。
●今作は2ndアルバムなのに、なぜ"最初の"という意味の『La Primera』というタイトルにしたんですか?
マッシュ:1stアルバムの『El Primero』と今回の『La Primera』はどっちもスペイン語で"最初の"という意味で、男性形か女性形かという違いだけなんですよ。前作には会場限定で売っていた自主制作盤から8曲入っていたんですけど、自分の中で1stアルバムは全曲新曲という形で出したかったんです。その想いをやっと遂げられたという意味で、これが1stアルバムだなと。
●前作は結果的に、自主制作でやっていた頃の集大成的な意味合いも強かったというか。
マッシュ:そうですね。だから今聴くと、自分でも"若いな!"って思うアレンジもあって。でも実際に10代の時に作った曲もあったりするし、それはそれで面白いかなと。まだ模索中な感じがあるところは、やっぱり1stアルバムっぽいんですけどね。
●前作と比べて、今作はアレンジ面にすごく凝っているのが冒頭からも伝わってきます。
マッシュ:大学を卒業して環境が変わったこともあって、価値観が変わったというか。10代の子たちが活躍している現在のシーンで、23歳になった自分が"若いぜ!"っていう感じの音楽をやるのもちょっと違うなと思ったんです。それならもっと凝ったものにしてもいいんじゃないかなと。今作はどの曲もじっくり時間をかけて考えながら作っていったので、パッとできたのはM-6「浮世ヴェイナー」くらいですね。
●"浮世ヴェイナー"って何なんですか?
マッシュ:"ヴェイナー"って何やねん? っていう感じですよね(笑)。実はこれは"浮世離れ"のことなんですよ。"離れ"をアルファベットで"vanare"と書いて発音すると"ヴェイナー"で。それを組み合わせて「浮世ヴェイナー」という完全な造語を作りました。
●造語だったんですね。
マッシュ:個人的にはすごく良い曲だなと思っているんです。他の曲はどれもルーツが想像できるんですけど、「浮世ヴェイナー」だけは正体不明な感じがするところが気に入っていて。自分のどこからこんな音楽が出てきているのかわからないのが面白いですね。
●キドリキドリの曲は、すごく幅広い音楽からの影響を上手く消化している感じがします。
マッシュ:意図して作っているわけじゃないんですけど、メンバーが好きなものもバラバラすぎて…。僕らについて「◯◯っぽい」と言う人もいれば「△△っぽい」と言う人もいるっていう、よくわからないバンドですね(笑)。
●普段からたくさん音楽を聴いているそうですね。
マッシュ:プロフィール欄に書ききれないくらい、好きな音楽が多いんです(笑)。最近はバンドマンでも、ちゃんとルーツを辿って音楽を聴いている人が少ない気がしていて。だから表面上をなぞっただけの、薄っぺらい音楽が増えてしまっている。逆にたとえば全部のジャンルについてルーツや文化的背景を理解した上で作ったとしたら、すごい音楽が自ずとできると思うんですよ。そういうものを作るために、今はひたすらリスナーとしての資質を上げていきたいなと思っています。
●その結果、前作以上に今回は幅が広がった?
マッシュ:前作は自主音源から人気曲を集めたことによって、似ている曲が集まってしまったという面もあったんです。あと、当時はまだリスナーとしての聴きこみが足りなかったので、"それではいかん。もっとできる!"と思ったんですよね。だから今回は色々とやってみたくて、歌い方1つにしてもM-7「Stand Up! People!!」では叫んでいるし、M-9「This Ocean Is Killing Me」では語るように歌ったりしていて。
●「This Ocean Is Killing Me」では世の中を"海"にたとえて、その中での生き苦しさを歌っていますが、実際にそういう心境だったりもした?
マッシュ:この曲を書いている時は、激"病み"だったんですよ(笑)。自分の中で、すごく葛藤している時期で。今回はそういうことを考えている途中に作ったアルバムなので、歌詞がとにかく暗いんです。M-4「Hug Me」は急に蒸発した友人のことを歌っているんですけど、その頃は本当にショックで落ち込んでいて…。だから結構明るい曲調の割に、歌詞はすごくエモい感じですね。
●「NUKE?」は原発についての歌ですよね。
マッシュ:タイトルからして「原発?」っていう意味なんですけど、単純に原発反対を歌っているわけじゃないんです。反対派と推進派のどっちの主張についても「そうだよね」って思うところはあるから、どちらとは言い切れない自分がいて。ただ、そことは違う部分で本当に"どうなのかな?"と思う部分があるんですよ。
●それはどんな部分が?
マッシュ:たとえば"1+1"の答えや"Hello"の意味が誰でもわかるのは、その答えを子供の頃からメチャクチャ詰め込まれたからで。そういうことは教え込まれるのに、なぜ政治や経済についてはちゃんと教えないのかと。地震が起きてからの数日で、原発に対する僕らの知識がどれだけ増えたのかっていうことですよ。たとえば社会科の授業で3時間もあれば教えられる話なのに、それをやらない教育のあり方について怒っている歌ですね。
●そんなシリアスな内容を歌っておきながら、最後のM-10「Nerd In The Room」は…。
マッシュ:1曲目から9曲目までズーンと重い感じの歌なんですけど、最後の「Nerd In The Room」だけはバカ明るいんですよね。この曲は、ンヌゥ(Ba./Cho.)の歌なんですよ。これが今作のオチです(笑)。
●(笑)。上手くオチも付けられて、満足のいく作品ができたんじゃないですか?
マッシュ:でも「これが俺たちの100%だ!」っていうことは一生、言いたくないんですよ。今回の2ndアルバムについても、自分では「ぼちぼち良いアルバムだよ。次の3rdアルバムのほうがもっと良いけどね」と言っていて。もし3rdアルバムができたら、また同じことを言うと思うんです。終わりが来るまで一生"ぼちぼち"で、「ここで辞めよう」と思った作品が最高傑作なんじゃないかな。だからいつも模索中だし、そういう意味ではずっと1stアルバムなのかもしれないです。
Interview:IMAI