偉大なる先人たちから受け継がれてきたロックの血脈をすくい取り、時代の最前線で自らを信じて鳴らすオワリカラ。
音楽のみで魂をぶつけ合える4人が集い、2010年8月にリリースした1stアルバムで活動の扉を開いた彼らは、中毒性の高い音楽と研ぎ澄まされたステージで多くの音楽ファンを唸らせてきた。
そんな彼らが昨年12月にリリースしたシングル『シルバーの世界』に続き、待望の3rdアルバム『Q&A』を完成させた。
受け取ってほしい。音楽に身を捧げ、音楽を通じてのみ人と繋がることができる彼らの問いかけと答えがここにある。
●今作『Q&A』はサウンドやメロディ、歌詞だけではなくて、音の一粒一粒に生命力があるというか、エネルギーに溢れているという印象が強くて。今までの作品はもう少し"身投げ感"というか、"投身自殺感"があったと思うんですが(笑)。
タカハシ:"投身自殺感"はありましたね(笑)。今回のアルバムのコアになったのは、タイトルにもなっている「Q&A」という曲なんです。いちばん最初に"わたしはあなたの答えだよ あなたはわたしの問いかけで"という一節がありますけど、あるとき急に歌とコードのメロディが出てきたんですよ。そこで"これを曲にしたいな"と思ったんですけど、バンド全体の音として説得力のある形になかなかまとまらなくて、何度かトライしたんです。
●それがまとまったのは?
タカハシ:1回エゴをなくして音に身を任せて、全部ルート、ビートは8ビートでいいから、楽曲の世界観を活かしてみようと思ってバンドで合わせたらすごくいい感じになって。そのときにアルバムの方向性がパッと見えました。
●最初の一節はヒョウリさんが1人で作って持ってきたんですよね?
タカハシ:そうです。今回は僕の弾き語りから作った曲が多いんですけど、この曲は自分の潜在意識の中からふわっと上がってきたような感覚で、自分のコアとすごく近い部分から生まれた曲だと思っていて。それがストレートな形でアレンジできたから、これはアルバムの象徴でひとつのコアとなるだろうなと。
●"わたしはあなたの答えだよ あなたはわたしの問いかけで"って、言ってしまえば禅問答なんですけど、関係性のひとつの形のような気がするんですよね。
タカハシ:やっぱり一体感なんですよね。コミュニケーションの中で最もすごいことは、多分ひとつになること。境界がなくなってしまうというか。僕にとって、ライブをやっていて"本当にいい"と思うときは境目がなくなる感覚があるんです。人間と音楽の境界もそうだし、人間と人間がお互い向い合って、日々全然別の人生を歩んでいる人が、音楽というひとつの場所に集まって境界をなくすことはすごいことだと思う。あの瞬間の一体感は、コミュニケーションのひとつの形としてすごく綺麗だなと。ああいうものを言葉と風景で表現できたらなと思って作ったんです。
●ヒョウリさんは以前のインタビューで「1stアルバム『ドアたち』では地下の自分だけの世界でやっていたけど、2ndアルバム『イギー・ポップと賛美歌』では地上への出口から出ようとしている感じがある」とおっしゃっていましたよね。コミュニケーションを取りたいという想いは強くなっている?
タカハシ:僕はわりと人見知りというか、斜に構えたところからのスタートになるので、なかなかストレートには出せないんですけどね。ただ、音楽とは"知りたい"とか"触れたい"という。みんな日常の中で疑問や気付きがあると思うんです。それと結びついてストンと落ち着く感じが、音楽とか文化の力なのかなと思います。それを自分なりに丁寧にやってみたいなと。
●この曲ができたことによって、現時点でのオワリカラ自体も"魂が触れ合えるような音楽"がひとつの指針になった?
タカハシ:そうですね。すごく思ったのは、ポジティブなエネルギーを与えることがやっぱり文化なんだなということ。それはどんな形でもいいんですけど、必ず何か背中を押すものだと思うんです。例えばめちゃくちゃいっぱい人が死ぬ映画があっても、悪意だけで作られているものではないと思うんですよ。もしも悪意しか感じられないのならそれは文化としてダメで。それに触れたときに日常に何らかの輝きを見つけられること…それが文化の宿命なのかなと。
●「今作は弾き語りで作ってきた曲が多かった」とおっしゃいましたが、今まではバンドで合わせながら作ることが多かったですよね。その違いは何か理由があるんですか?
タカハシ:今作はバラエティに富んだ作品にしたかったんですけど、イメージとして詞は1本の線が通っているようにしようと思ったんです。アルバムの世界観を統一しているものは言葉。だからこそ、曲がいろんな方向にいっても1本の線が通る。そんなアルバムにしたいと思ったので、詞が完成していないにしろ言葉のストックというか詞のイメージはちゃんとあって。そこへ向けてアレンジの舵を取る感じだったんです。
●つまり歌詞を書く以前に、言葉やフレーズがテーマとしてあった?
タカハシ:そういうことです。1枚のCDを通して1人の人間にしたかった。1人の人間から出てくるいろんなもの、という。人間だからいろんなブレや側面があると思うんですが、全く別の人間ではなく1人の人間の違う面を表現する、ということがテーマとしてありました。
●その1人の人間とは、タカハシヒョウリなんですか?
タカハシ:そうですね。タカハシヒョウリなんですよね。
●今まで以上に自分の"素"を投影したいということ?
タカハシ:そうですね。
●例えばM-9「壁男(あらわる)」とかは人間の内面の心情がすごく出ている楽曲というふうに感じたんですけど。
タカハシ:そうですね。でも最初にこういう曲を入れるかどうかはすごく迷ったんです。今回は全体的なテーマが"コミュニケーション"で、リスナーに1対1で向かい合っているようなアルバムにしたいという想いがあったんです。でもこの曲とM-10「夜戦ちゃん」はコミュニケーションとは違うんですよ。自分語りというか、自分の中に入っていっている曲なんです。でも1人の人間が人と向き合って歌っているとしても、必ず孤独なときもあるだろうし、ものすごく鬱なときもあると思って。
●確かに。
タカハシ:そういう影となる瞬間を表現している曲も入れたら、きっと立体感が出てひとつ先の深みも出るだろうなと思ったので入れることにしました。
●ヒョウリさんはあまり感情を表に出さないタイプの人だと思うんですけど、内面を出すことに抵抗はなかったんですか?
タカハシ:今回はなかったです。必然的にここになくちゃいけない気がした。今回は曲が主導のものが多いんですよ。バンドよりも曲の方が偉いんです。
●バンドより曲の方が偉い?
タカハシ:曲の持っている雰囲気や世界観がいちばん偉いし、正しいんです。だから「どうぞお願いします」と提供する感じで(笑)。
●そういうことか(笑)。コミュニケーションを歌った最もわかりやすい例なのかもしれないですけど、M-7「ともだち」というすごくハッピーな曲に驚いたんです。ハッピーというか、人間味があって、こういう曲はオワリカラのイメージになかった。
タカハシ:アルバム全体を"今の自分なりのコミュニケーション"というテーマにしたくて、「Q&A」では音楽とのことなんですけど、でも普遍的なものを歌っていて。だけど「ともだち」というのは、もっと小さな単位のコミュニケーション。例えば、一億人のお客さんを前に一億人のバンドが演奏したとして、そこに生まれる魂の触れ合いの本質みたいなものは、1対1で向き合って"伝わった"と感じるときに生まれるものとは、大きさは違えど、コアにあるものは一緒だと思うんです。
●そうですね。
タカハシ:そう思ったときに最小単位のものも入れたいなと。でも僕がアコギでやったら四畳半フォークになっちゃうじゃないですか。じゃなくて、男も女も歌っていてみんなにとっての普遍性がある曲にしたかった。きっとみんな友達に対して思っていることって、こういうことだと思うんですよね。僕なんてこの曲で歌っているように、学生時代にお金を借りたままで、会うのが気まずい友達がいっぱいいるし。
●それダメじゃん。
タカハシ:で、各自が自分に引き寄せられるように、曲自体を中性的な存在にしたいなと思ったんです。だから僕じゃない人も一緒に歌うといい具合になるんじゃないかと。
●だからゲストヴォーカルが入っているんですね。
タカハシ:ねごとのさっちゃん(Vo.蒼山幸子)です。あの子の歌は女性らしさがあまりなく、中性っぽくて少年みたいな透明感があって。この曲をデュエットするのに女性らしいセクシーな人はイメージと違うんですよね。僕も女っぽい中性的な声で歌って、女の人の方もちょっと少年っぽく歌って、曖昧で不思議な感じになって、独特の透明感が出たらいいなと。
●今までオワリカラはアンダーグラウンド色というかサブカル色の強いバンド…ある意味マニアックなものが核にあるバンドだと思っていたんですが、今作を聴いたり今日の話を聞く限りでは、そのマニアックさはバンドの核ではないのかもしれないと思えてきました。
タカハシ:もちろんサウンド面での影響はあると思いますよ。憧れの存在なので。でも僕がオワリカラを始めてから一定して前に進んでいる感覚があって、すごく誇らしいというか、バンドにとっていいことだなと思っているんです。これからも進むということは大事にしていきたいと思いますよ。
●今は音楽をやっていて幸せなんですか?
タカハシ:幸せですよ。曲ができた瞬間と、ライブで本当によかった瞬間…その2つの瞬間くらいしか人生でいいと思う瞬間がないので(笑)。
●少なっ!
タカハシ:だって、あれに勝るものはないんですよ。少なくとも僕の中では。
●でもその2つは瞬間じゃないですか。その瞬間が過ぎたら後は余韻でしかなくなるわけですよね?
タカハシ:もちろんそうですね(笑)。だから次の瞬間を探すんです。もしかしたら瞬間じゃなくて場所のようなもの、そこに到達したら"もういいや"と思えるような場所があるかもしれないから、それを探しに行く感じです。
●聖域というか、ゴールというか。
タカハシ:でもきっとないと思うので"まだか? まだか?"と探しながら死んでいくんだろうなと予想しているんですけど(笑)。
●逆に音楽をやっていて苦しみを感じることは?
タカハシ:もちろんあります。つまり「壁男」のような状況ですね。
●"タカハシヒョウリ"というキャラクターからは、「壁男」のように苦しんだりするような印象をまったく受けないんですけど。
タカハシ:そうですねえ…でも満足いったことはなくて、完璧だと思えたことはないんです。どうやっても居心地が悪いというか、もっといけるはずだという感覚がずっとあります。それは音楽をやる原動力にもなっているんですが。
●タカハシヒョウリも人間だったんですね。モヤモヤがあると。
タカハシ:さっき言った2つの瞬間…曲ができた瞬間とライブで本当によかった瞬間…にはそのモヤモヤがないんですよね。それに何でも複合的じゃないですか。一面的なものってないと思う。だからモヤモヤする中にはすごくいろんなものがあって、ポジティブなものもきっとある。それは絶対に言葉にはできなくて、きっと何億語を費やしても無理なんです。でも時として、音楽はそれを一発で当てはめることがあるんですよ。例えば僕が高校生のとき、言葉にできない虚無感のようなものがあったんです。そのときにデビット・ボウイの「Rock 'n' Roll Suicide」を聴いて"自分の今の気分がそのまま形になっている!"と衝撃を受けて。そういうことが音楽にはできるんですよね。
●タカハシヒョウリの音楽観は、音楽的な要素だけではなくてすごく人間的なことが重要だったんですね。
タカハシ:やっぱり漂ってくるものなんですよね。洋楽も邦楽もいろんな音楽を聴くけど、僕はそこから漂ってくる匂いに惹かれるんです。
Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:Hirase.M