偉大なる先人たちから受け継がれてきたロックの血脈をすくい取り、時代の最前線で自らを信じて鳴らすオワリカラ。
昨年12月にリリースしたシングル『シルバーの世界』に続き、待望の3rdアルバム『Q&A』を完成させた彼らの2ヶ月連続特集第2弾!
今回はカメダ、ツダ、カワノによる“タカハシヒョウリと『Q&A』放談”を敢行。愛しい音楽を鳴らすオワリカラを深く理解すべく、個性的な3人に話を訊いた。
●前号のタカハシさんのソロインタビューで、「『Q&A』は今まで以上に自分の"素"を投影した」という話があったんです。実際にパーソナルな感情や内面が音に出ている印象を僕は受けたんですが、そういうことをメンバーは感じましたか?
カメダ:歌詞が上がって来るまで分かんないんです。でも僕は"歌を聴くアルバムにしたい"と思ったんですよ。歌詞とかアルバムのテーマとかは当初まったくなくて、アルバムのコンセプトとかは出来上がるまでまったく分からなかった。たぶん、レコーディングの最後の最後、アルバムがパッケージングされるまで、誰も分かっていなかったと思います。パッケージングされて、アルバムを聴いて、みんな、今改めて考えている感じなので。
ツダ:でも、バランスよくしようということは考えていたんじゃないかな?
カメダ:それが結果的にパーソナルになったのかな。歌を主人公にすることが、タカハシくんにとっては"タカハシヒョウリ"を出してみることになったのかなと思います。だから、アルバムが出来上がってタカハシくんのインタビューを雑誌で読んで知りました。
一同:(笑)。
●いろんな雑誌を読みながら、"M-9「壁男(あらわる)」は辛かったんだ…"とか。
カメダ:そうです(笑)。アルバムタイトルを『Q&A』にした理由も、最近やっと腑に落ちたんですよ。ずっと分からなかったので。
ツダ:俺はそれは分かっていた。「まさにそれ! すげえいい!」って思った。
カメダ:あ、じゃあこの3人でもズレていますね。
カワノ:でも、分かっていなかったからこそ、タカハシくんが全面に出たのかもしれないですよ。歌と歌詞に関しては、完全に1人でやっていましたから。
●過去2枚のアルバムで少しずつ開くようになった心が、『Q&A』ではもう少し開いたという印象があるんですが、そういうところは?
ツダ:開いてきているとは思いましたね。普通の人間生活でも。
カメダ:それは開いていると思うね。
●あ、マジですか。
ツダ:僕はタカハシくんを昔から知っているんですよ。別バンドで対バンしていたころとかは、誰かれ構わずタメ語だった。
カワノ:本当に糞ガキでしたね(笑)。
ツダ:彼が19歳か20歳くらいのときです。あの頃は、もっと寡黙で、いきなりタメ語だったから"おおっ、タメ語だ…!"と思ったし、表情が乏しいというか。
●表情は今でも乏しいと思いますけど(笑)。
ツダ:それに、もっと喋っていなかったと思います。それを知っているから、2ndアルバム『イギー・ポップと讃美歌』を出してからフェスにも出て、いろんな人と会って、物販に立ったときはグルーヴの合うお客さんとか、いろんな人と話したりして。たぶん少しずつ外に出てきたんじゃないかな。そういうことなんやろなと思う。
カメダ:ちゃんと人と接するようになってきたというか、ちゃんと「ありがとう」と言うように少しずつなってきた。以前は、"俺のことなんて誰にも分かんねえよ"という感じがあったのかな。お客さんとも話さなかったんですけど、最近はわりとお客さんとも話すようになってきた。
●こういうアルバムになったのは、ある意味自然な流れだったんですかね。
カワノ:タカハシくん本人の成長記じゃないけど…。
一同:ハハハ(笑)。
ツダ:それプラス、僕らも、僕自身も、バンドを始めたときより"こうやって楽しませよう"とか"俺ら売れへんなあ"とか、いろいろ考えるものがあって、"もうちょっと聴かせたいな"と思った部分もある。あと、やっていたらいくらでもネタは出てくるから、今までやっていないことだと、歌が弱かったと思ったから、そこに重きを置いてみたことが、彼が柔らかくなったのといい感じにマッチしたんじゃないですかね。
●楽曲の着地点は、タカハシさんが決めるんですか?
ツダ:大まかにはタカハシくんですけど、みんながわりと落ち着くところというか。最終的にはタカハシくんですけど、最終的にはみんなが納得するところですね。
●4つの円が交わるところみたいな?
ツダ:うん。でもタカハシくんの円はデカいです(笑)。それにこのバンドって、ちょっと言ったことがすごく影響するところがあって。
●ちょっと言ったことというのは?
カメダ:例えば「ドラムを4つ打ちにしてみよう」と言ったら、4つ打ちにしてみた瞬間に曲ができるとか。いろいろ試していてたくさん失敗もするんですけど、1ついいのが出るとバーッと一気に進むんですよね。時間が長くかかる曲とすぐにできちゃう曲があるんですけど、みんながいろんなことを考えているのは、すごくいいのかなと思いますよ。例えば「Q&A」も、僕の中ではニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」みたいなドラムにしたいと思っていて。「ダサいんだけど合うんじゃないか」と言ったら、それぞれが違う解釈でそれに乗っかって、今の感じになったんです。
●なるほど。
カメダ:個々のイメージは全然違うんですけど、合わさったときにオワリカラになるということがすごくある。だから、僕らも完成形がまったく分からないんですよね。
カワノ:それに話し合いをすること自体が、意味を成さないと思うんです。全員でこうしようああしようと詰めていこうとしても、根本的に人間としてこの4人でやることには意味がない(笑)。
●だったら音を合わせる方が早いという(笑)。
カワノ:インタビューも、やりにくい人たちだと思うんですよ。
●うん。まあ、おもしろいですよ(笑)。
カワノ:そんな4人が集まって、机の前で「どうしよう?」と話し合ってもね…。
●たしかにコミュニケーションは難しいかもしれない(笑)。
カワノ:だから話し合いとかをしないんだと思う。"話し合っても意味ねえな"というのが、たぶんみんなの中にあるんじゃないですかね。
●タカハシさんはリーダーで、歌を歌っていて、歌詞も書いている。でも、オワリカラはタカハシさんのワンマンバンドではないと思うんですよ。とくにライブはそれが顕著に表れているし、それぞれで違う気はしますけど、自分なりに自分の存在意義を見出しているんですかね?
カメダ:そうですね。それぞれに"楽しみポイント"みたいなものが勝手にあって、それをやっているだけです(笑)。
●アハハハハハ(笑)。
カワノ:タカハシくんにバレなければいい、みたいな(笑)。たまにそれを「嫌だ」って言われるんですけど。ちょっとその数を多くしちゃうと「前もそれじゃなかったっけ?」と言われて"あ、バレた!"みたいな(笑)。
●ツダさんはどうですか?
ツダ:僕の存在意義は、ヴォーカル潰しとベーシスト概念の破壊。
●潰したり壊したり忙しいな(笑)。
ツダ:潰しにかかっているけど、今も一緒にやれているのは、彼が持っているものがあるからだし、そもそも持っているものがなかったら潰しにいかないですし。
●そうですよね。潰れてしまっても意味ないし。
ツダ:そんな奴とは組んでいないと思います(笑)。
●ライブではカメダさんとツダさんの変化がいちばん大きいと思っていて、その開け具合は『Q&A』にかなりリンクしていると思うんですよ。
カメダ:まあ、この2人(カメダ&ツダ)が唯一動けるので、ステージに対して横に動いていたものを、縦に変えた感じですかね。そっちの方がおもしろいかなって。
ツダ:ライブの変化と言えるかは分からないんですが、タカハシくんの向かっている部分は、外に向かって広がっているけど、その成分っちゅうか色が何かという問題で。俺はタカハシくんみたいな色は出されへんし、ずっとそれが過剰になってもできないというか、また種類が違うんですよね。俺は普段はマイクを使わないから滅多に喋られへんけど、喋れないとしてもそういう見せ方をして惹き寄せたいというか。
●そういうことを、だんだんしたいと思うようになってきたんですか?
ツダ:うん、したいかもしれない。
カメダ:したがっているのはすごく感じます。でも、チャンスがない(笑)。
●アハハハハ(笑)。
カメダ:ツダさんはマイクがないし、シャイだし、"盛り上げたいけど盛り上げられることを言えないだろうな"という感じだったし。
ツダ:それはたぶん、ベースが鎖みたいになっているんですよ。
カメダ:そんなことないでしょ(笑)。
ツダ:あのベースさえどけられたら…。
●「ベースさえどけられたら」って(笑)。
ツダ:タカハシくんとは全然見せ方が違うと思う。俺だったらステージに降りて煽るし。
カワノ:究極な話、ベースを持っていなくてもいいという(笑)。
ツダ:タカハシくんは絶対にステージから降りることはないじゃないですか。たぶん彼の中の美学にもないだろうし、もちろん興奮したときとか昔はやんちゃではあったけど、"ステージとお客さん"という関係性の中で、ステージから魅せる。僕も、タカハシくんはそういう見せ方の方が美しいと思うし、いいなと思う。でも、そこを関係ない感じにしたい気持ちはあります。しかも分かりやすく。だから僕もワーッ! と混じり合いたいと思うんですけど、ベースだからなあ…。
●ベーシストが他にいてもいいくらいの勢いですね(笑)。では最後に、タカハシヒョウリの好きなところというか、魅力を教えてください。こんなこと、今後一切言うことはないかもしれないですけど(笑)。
ツダ:初めて見たときから変わっていないのは、見た目と声。自分がベースを持ってバンドをやるなら、音としての声が特徴的で、「こいつしかこの声は出てへん」と言えるようなヴォーカルじゃないとやりたくなかったんです。なんとなくそれっぽい声でバンドが売れていたとしても、人間性が魅力的でも、僕はどちらかというとNOで、本当にそいつしか持っていない声というか材料が大切だった。それに、後から見た目もかっこいい男なんだろうということが分かって。ライブを含め、いちばんはやっぱり声ですね。ギターよりも声です。僕があんな声を持っていたら歌いまくりたいですもん。ベースなんかやりたくないです。
●さっきからちょこちょこ"ベース邪魔発言"が出ますね。
カメダ:タカハシくんの魅力…歪なところですかね。人間として、独特の歪さがあるというか。他に合わせようとして上辺だけで合わせるようなことをしないから、不機嫌なときは不機嫌だし、相手によって人当たりも全然違うし。そういう意味で嘘がないところはいいと思います。あと初めに会ったとき"すごく人見知りな人だな"と思ったんですが、"でも音楽はすごく好きなんだろうな"とも思ったんです。きっと溜め込んでいるものがある人なんでしょうけど、表現には"影"みたいなものも必要じゃないですか。だから、初めて会ったときに"バンドを組みたい"と思ったんです。
カワノ:フロントマン特有の、いろんな経験を積んで人間味で押せるようなカリスマ性ってあるじゃないですか。タカハシくんの場合は頭もいいけど、空っぽなところは本当に空っぽで、コミュニケーションが不器用だから、まだ全然人として完成されていないんですよ。
●ふむふむ。
カワノ:だからこそ、本物のフロントマンとして成長していく過程が見えるというか、伸びしろが見えるからいいと思う。お客さんにも俺らにも、誰が見ても『ドアたち』から3枚出して成長しているのが分かるじゃないですか。最初から"タカハシヒョウリ"ではなくて、だんだん変わっていく。すごくガキなところがあるのがいいなと思いますね。最初から完璧だとおもしろくない。僕らも演奏上は"がんばって上手くなろうよ"とは思うんですけど、成長の過程とすれば、タカハシくんにいちばん伸びしろがあると思うんです。ツダくんはこのキャラだし、僕は別に何もないし。そういう意味では、カメダくんにも伸びしろがあると思う。
●たしかに。
カメダ:この2人の成長していく過程をメンバーとして見ることができるっていうのは、すごくおもしろいですよね。別に上から見ているわけではなく、これから先「ガッ!」といくのはこの2人なんだろうなと思っています。
Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:Hirase.M