2012年、オズは全国各地で数多くのライブを重ねる中で、圧倒的なライブパフォーマンスとオーディエンスからの支持を獲得してきた。そこでのたくさんの出会いから刺激も受けつつ、自分たちを別の視点から見つめ直して表現することに挑戦してきた彼ら。前作の1stアルバム『オズと魔法使い』から約1年半ぶりに完成させた新作には、その成果が明確に表れている。今年2月にはバンド結成のキッカケを生んだG.いっせーの“卒業”という大きな転機を迎えながらも、変化を恐れずポジティブに進み続けたことが新たな進化を生んだ。核にあるものは強固なまま、変わり続けていく3人の進化と飛躍はまだまだ止まらない。
●今年2月にG.いっせーさんが“卒業”すると発表したわけですが…。
NARUMI:急だったので、私たちもびっくりしました(笑)。
SHIN:今回の制作が始まる直前くらいに、本人から申し出があって。でもこの3人はもう5年くらい一緒にいて固まっているので、不安はそんなになかったですね。それにいっせーさんは沖縄でスタジオを運営しているので、今後もバックアップはしてもらえる感じなんです。
●今後も関わってはいくんですね。
NARUMI:だから脱退じゃなくて、“卒業”という言い方にしたんです。今回の作品にも今までどおり、いっせーさんと一緒に作った曲もあって。いっせーさんはこのメンバーを集めた発起人なのでオズに対する思い入れが強いからこそ、中にいたら客観視できないところがあるみたいで。外に出ることで初めて客観視できるようになって思うことや「こういう曲はどう?」っていうことも言えるんじゃないかと、本人も楽しみにしているんですよ。今後も関わり方は変われど、ずっとメンバーという気持ちはありますね。
●常に心の中にいるような感覚というか。
NARUMI:外に出て行くんじゃなくて、逆にオズのもっと真ん中に入ってくるという感覚があるんですよね。ずっと心の中にいるし、その想いも背負って私たちは挑戦して行きたい。だから変わることに対して恐れや不安もないし、逆に今はワクワクしているくらいなんですよ。
●新メンバーを入れるという話にはならなかった?
ナオヒロ:いずれは入れたいなという気持ちはあるんですけど、いきなり正式メンバーというのはなくて。まずはサポートでやってもらって、もしウマが合う人がいればという感じですね。
NARUMI:ある意味では、色々と試せるチャンスでもあるわけじゃないですか。“新しいサポートギターの人と音を合わせた時にどんな化学反応が起きるんだろう?”っていうワクワク感が今回のレコーディングでもあったんですよ。そのワクワク感は大事にしたいなって。
●今作の制作でも色んなことに挑戦している?
NARUMI:“オズっていうバンドを自分たちでこうだと決め付けるのではなく、別の角度から見たらどう見えるんだろう? もっともっと自分たちの伸びしろを試して、成長したい”という気持ちが今回はすごくあって。今作の『NOTiCE』というタイトルは“気付く”っていう意味なんですけど、自分たちもまだ知らない“自分たち”に気付きたいし、オズっていうバンドにもっと可能性を見出したかったんですよ。実際、“あ、こういうのもアリなんだ”と気付けたし、私たちがそうやって挑戦することや気付くことを恐れずに作った曲を聴いた人が“私にもできるかもしれない”とか“本当はこういうのが好きだったかも”と気付くキッカケになってくれたらいいなと思います。
●自分たちもリスナーも、新しい何かに気付けるような作品になっている。
NARUMI:レコーディングをしながら、私自身も気付くことがあったんですよ。たとえば、“ナオヒロはこういう考え方をするようになったんだ”とか。あと、今回はSHINが制作をリードした曲もあったので、そこでも新たなエッセンスが加わって。“気付く”というコンセプトで今回の制作をしたことで、新しい未来が開けたというか。
SHIN:曲を作ってみるにあたっては、“NARUMIさんが歌うんだったら、こういう曲が良いんじゃないか”と今まで思っていたものを形にしてみたんです。そこで“やっぱり良いな。こういうアプローチもありじゃん”と思えたことがすごく自信になったし、武器も増えましたね。メンバー1人1人の新しい良さにも気付けたところがあって。
●新しい一面と言えば、今作のジャケット写真のNARUMIさんは今までと雰囲気が違いますよね?
NARUMI:これも私の中にいる1人なんです。今回は挑戦するという気持ちが強かったので色んなパターンの歌詞を書いていて、1曲1曲に違う主人公がいるんですよ。このジャケット写真では、今回のリード曲になっているM-4「Loveless Child」の主人公になりきっていて。自分の中に1割〜2割くらいしかない部分で、ライブや普段でも一瞬しか垣間見れないような部分が前面に出ています。
●この曲は作詞クレジットが“NARUMI/harumi”となっていますが。
NARUMI:この曲では、初めて歌詞の共作をしてみたんです。プロの作詞家さんに依頼して書いてもらったものに、自分の要素を合わせた感じですね。この曲の主人公は子どもの頃から親に愛されて来なかったから、自分が人を愛することすらままならなくて。でも私はどちらかというと家族に愛されてきて、自分もみんなを愛したいというタイプだから自分の中には本当にない部分で、なりきろうとしてもやっぱり自分の言葉の中には足りなかったんですよ。
●自分の中にない一面だったので、作詞家さんにお願いしたわけですね。
NARUMI:でもレコーディングで歌録りをして、どんどん自分のものになっていった時に“ゼロじゃないな”と思って。元々、自分の中のどこかには潜んでいた部分だったんだと気付けた。私はなぜ歌が好きかといえば、1曲1曲でその歌の主人公になりきれたり、歌うことでその世界観に入り込んでいけるからなんですよね。そういう根本の気持ちに、逆に戻れたというか。今までは自分の世界だけを歌ってきたけど、ここに来て“違う!”と思ったんです。自分の中の“1”を出すことも面白いし、自分の世界の中に色んなストーリーを作ってあげるのも面白いんだなと。もしかしたらこの曲を歌っていくことで次は自分の中からそういう部分が出てくるかもしれないし、良いキッカケだったと思いますね。
●ジャケット写真上の言葉に込めた意味とは?
NARUMI:ジャケットに映るこの子が思うことというか。“自分の中にいる自分に気付いているのかな?”とか、“あなたは本当のあなたなの?”ということだったり。まだ知らない自分に気付いたら、“変わりたい”と思うものなので。女の子って“自分もああいうふうになりたい”という憧れの人に会った時に、“かわいい!”と思うのと同時に“でも私なんか…”と思っちゃう子がたくさんいると思うんです。でもそこで“変わりたい”と思った気持ちを大事にして欲しくて。自分の中に1%でもあることに気付いたなら、その1%を育ててあげることで絶対に素敵な方向に行くと思うから。そういう意味でも今回は自分の中にある1%を思いっきり前面に押し出すことで、“私にもできるんじゃないか”っていう気持ちにもなって欲しいという想いがありましたね。
●ちなみにM-3「パイレーツ」は、誰の気持ちで書いたんですか?
NARUMI:これは海賊の気持ちですね。円周率を歌っているんですけど、π(パイ)の数字が連なった“パイ列”と“パイレーツ”をかけていて。円周率って永遠に続いて割り切れないように、人と人もつながるとなかなか関係が切れない。そういうクルー的なつながりの強さを、私は海賊にめっちゃ感じていたんです。
●これはSHINくんが作った曲なんですよね。
SHIN:作っている段階から、この曲に関してはNARUMIさんを自由にさせたいなというイメージがあって。実際に曲を渡したら、ヤバいのが返ってきましたね…。この曲の歌詞はNARUMIさんの良さが詰まっているというか、NARUMIワールド全開じゃないかな。
NARUMI:この曲を最初に聴いた時に何か面白いことがしたいと思ったので、等身大のNARUMI+エンターテインメント性ということで考えて。“何か楽しいよね”っていう感覚を大事にしようと思って考えてみたら、“円周率をどこまで言えるか歌ってみようかな”と浮かんだところから、“パイ列…パイレーツだ!”と広がっていった感じですね。自分の中でも冒険に出た曲です(笑)。
●遊び心が前面に出た曲というか。
NARUMI:自分のワールドみたいなものは追求していくけど、遊び心も忘れたくなくて。一番好きなことを一番好きなメンバーと一緒にやっているんだから、だったら思いっきりやりたいじゃないですか。まだNARUMIは自分が何者でもないと自覚しているからこそ、まだまだ吸収したいし色々やってみたい。そこで受ける刺激や吸収することはいっぱいあるはずだから。そういうのを忘れたくないなと、作品ができあがって思いましたね。
●今作を作ったことで再認識したものがあったと。
NARUMI:歌が好きだっていう一番の核は忘れずにいれば、1曲1曲で主人公が違うアルバムがあってもいいし、等身大のアルバムがあってもいいんだなって思いました。1曲1曲で(別々の主人公に)なりきってるから“こういう感じなんだな”っていう発見があって、自分で聴いていても楽しいんですよ。
●本当にタイトル通り、“気付く”ことができた。
ナオヒロ:曲に対しても活動に対しても、考える上での視野が広くなった気がします。自分の役割が増えてきて、今はすごく楽しいですね。
SHIN:“こういう曲もできるんだ”っていう幅が広がって、新しい部分も見えたんです。良い意味で今までの作品とは全然違うものになったと思うし、今後もまた違うタイプの曲を生み出して行きたいですね。そういう意味で今作はちゃんと1曲1曲で全然キャラクターが違っていて、自分たちでも最高の作品になったと思います。
●幅は広がりつつ、オズらしさも凝縮された作品になったのはやっぱり3人が固まっているからでしょうね。
NARUMI:3人が固まっているからこそ、変化を恐れていないんですよ。固まっているからこそ変わっていくことがただの“変化”じゃなくて、オズとしての進化になっているんじゃないかと思っていて。だから、今年のオズのテーマは“進化”なんです。
SHIN:ライブも良い意味で変わってくると思います。
●レコ発ツアーはどんな感じになりそうですか?
SHIN:サブタイトルが“オズ海賊団へようこそ”なので、衣装にもちょっと期待して欲しいなと。観ても楽しいし、聴いても楽しい、その空間にいるだけで楽しいっていうものを発信して行きたいツアーなんです。なので、今までのオズとはちょっと違いますよ。
ナオヒロ:エンターテインメント感は出したいですね。あとはサポートギターが入ってオズのキラキラ感も増しているので、そこを観てもらえたらなと。
NARUMI:去年のツアー中から、私は“LET'S SHOW TIME☆”という言葉を大事にしてきて。“IT'S”じゃなくて“LET'S”と言うことで、「オズのライブは“みんなで一緒に”なんだよ」っていうことを伝えてきたんです。普段はみんな楽しいことばかりじゃないし、だからこそ今この一瞬を大事にして欲しい。みんなを“観て楽しい、聴いて楽しい、一緒に楽しい”というところに持って行きたいなと思っているので、本当に期待していて欲しいです!
Interview:IMAI