Dr.吉田大祐、Ba.馬場義也、G.久慈陽一朗がステージに現れ、ソールドアウトのフロアから向けられたたくさんの拍手の中、黒い衣装を身にまとったVo.瑞葵が3人の真ん中に立つ。「青い鳥」から始まったライブは、数ヶ月前に観たものとは比べ物にならないくらい進化していた。
その最たる変化は、フロアに視線を強く据えた瑞葵。彼女が身体全部を使いつつ、感情を乗せて発せられた歌はどこまでも深く、そして広く響き渡り、以前よりも大きく開けたその精神性は観る者の心を強烈に惹きつけていく。エモーショナルなサウンドが押し寄せる「言葉は嘘をつく」へと続き、その表現は更に深みを増す。ぽろぽろと感情を揺さぶるアルペジオに哀しく歌を絡ませる。言葉のひとつひとつを丁寧に吐き出していく瑞葵は、表現者として誰にも真似の出来ないステージで魅せた。
「脳に溶け込むように届けたいと思ってます」と言って始まった「56番線」、馬場と吉田が組み上げた強固なリズムの上で、瑞葵が瑞葵の歌に音を寄り添わせてメロディを繰る「侵緑」、いったいステージからなのかフロアからなのかわからないが堰を切ったように感情が溢れ出した「それはとても美しいのでした」。突き放しもせず、かと言って巻き込むわけでもなく、冷たさと温かさが同居した、この4人でしか生み出せない不思議なイツエの世界。それはまるで音が脳に溶け込んだかのような感覚。
楽器隊3人が輪を作って音をぶつけ合ったインストを経て、瑞葵は白い衣装で再登場。そこからは新作『優しい四季たち』に収録された新曲を次々と披露。まるでコンテンポラリダンスのように踊って歌う瑞葵と、細やかにアンサンブルを重ねていく3人が対照的な「時のゆらめき」。言葉と言葉を切らずに心地よさそうに歌われた「海へ還る」。悲痛な叫びとも歓喜の声とも受け取れる曖昧で絶妙な「はじまりの呼吸」。
ライブ最後のブロックに新曲を並べた挑戦的とも言えるセットリストを、完成度の高い演奏と歌、そして抜群のグルーヴで魅せつつ、本編最後は「冷たい春」。美しいギター、温かいベース、力強いドラム、そして冷たくて優しい歌に包まれたまま、アンコールの「セトラ」はまるで祈るようにフロア全体と記憶の中で鳴り響く。
終演後に残った記憶は、どれも曖昧かつ鮮明で、強くて弱く、音と情景と感情が入り交じっていて心地良い。バンドとして、表現者として観るたびに大きく深く進化するイツエ。彼らはいったいどこまで到達するのだろうか。
TEXT:Takeshi.Yamanaka