第10プチ 〜楽器業界版はれのひ事件〜
今からボーカルレコーディングだ!
この記事を書き終えてから向かう。歌うたいで花粉症やったらめっちゃキツいやんってたまに思うな。どうしてるんやろ?ズッルズルのままやったら声自体変わるやん。と言いつつ、あれって突然なるらしいから僕も油断は出来ないけれど。
最近飲み始めてん、コーヒー。美味さがわかってきた。
先日、なかなか衝撃的なニュースが流れた。あれね、楽器店の店主が客から預かったギターとかを質屋とか(?)に売りさばいてた事件。“楽器界のはれのひ事件”って見出しが踊ったりしたね。実はあの楽器屋さんは良く知ってて、僕も実際に愛用のFender Telecasterを調整してもらったり、アンプ試奏させてもらったり、カポとかパーツ買ったり、、ギタースタンドも確か買ったな。何回も行ったことあるわ。
最初、駅からすぐのところに立派な店舗があって、数年後ちょっと離れたとこに移転してBar兼楽器屋みたいなちょっぴり斬新な店舗になって、また移転して駅からもうちょい離れた店舗になって、、って経緯を見てきた。
僕は被害を受けてないけれど、実際に僕の先輩は預けたギターが返って来ないって。被害にあったミュージシャンの方々だけではなく、楽器屋さんや工房の人たちにとってもなかなかショックだろうなと思う。今後、僕もそうやけど大事な楽器を預ける事に不安が出てくるからね。例えば、ピックアップ交換とかでも数日預けるわけやし、カスタムとかももちろんね。そう考えると、なかなかの衝撃だっただろう。
さて、捜査は警察のお仕事なのでそれはいいとして、”返ってこないものってどうなるの?”って事について、民法に定められているので法律面から書こうと思う。
今回の件は”業務上横領”にあたるだろうし、これを書いてる段階では事件詳細がわかっていないので今回の事例に当てはまる話では無いが、この事件をきっかけに僕らの日常の中で”返ってこないものってどうなるの?”について知っておこうか。
民法第192条(即時取得)
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
。。。ちと言葉が難しいよねこの条文。まあ法律の条文全般に言えるが。
簡単に言っちゃうと、『取引によって、君が何も知らずに、ふつーに手に入れたものはもちろん君のもの。』って事が書いてある。「そんなの当たり前だろ!」って声が聞こえてきそうだが、当たり前とは言い切れないんだ。
具体例を出そう。登場人物は、吉田とベーシストAとギタリストB。
僕、吉田はベーシストAからエフェクターを借りていました。
浪費グセのある吉田はお金に困ってしまい「ええい、これ売っちゃえ」って感じでエフェクターをギタリストBに5000円で売ってしまいました。
ギタリストBはそのエフェクターはもちろん吉田の私物だと思ってました。
さて、エフェクターは誰のものになるでしょうか??
ここで考えられるのは、
① 持ち主でもなんでもない吉田が勝手に売っただけなんだから、本来の持ち主である「ベーシストAのもの」でしょう。吉田は借りてただけで売る権利なんてないし。
② もともと誰のものであれ、そんなの関係ねえ。ギタリストBがお金払って
買ったんだから「ギタリストBのもの」でしょう。
上記2パターンよね?考えられ得る結論は。
答えは、②ね。何も知らずに買ったギタリストBのものになる。これを『即時取得』という。本来の持ち主であるベーシストAにとってみたら「えー!!??なんで!?」となるよね。「吉田に貸してただけなんだ!返してくれよ!大事なものなんだ!」ってなる。
さて、何故民法はこのような結論にしているのだろうか?
想像してみて欲しい。あなたがどこかで何かを買った数日後に、いきなり本当の所有者と名乗る人物が出てきて「それ俺のなんだわ。返せ。」と言われたら困っちゃわない?こんな事が日常で起きたら誰も安心して取引が出来なくなり、大きく言えば経済が停滞してしまう。
なので民法はこんな風に定めて、取引ってものの信頼性を担保してるって感じかな。「心配せずじゃんじゃん取引してください!」って方針。
それだと本当の所有者に対してちと厳しくないか?と感じるかもしれない。
上記の例で言えば、本当の持ち主であるベーシストAはエフェクターを吉田に貸してただけなんだから。それを勝手に売られてしまい、買った奴に「それ俺のんやねん!吉田が勝手に売っただけやねん!あいつに売る権利なんて無いねん!返して!」と言ってもダメなんやから。
ただし、もし買ったギタリストBが心の中で「あれ、、このエフェクターは確かベーシストAのものじゃなかったかな。。吉田に貸してるって言ってたぞ。。」って感じで、吉田のものじゃない事に気づいてた場合とかは『即時取得』は成立しない。
そんな風に、本当の所有者の権利を保護するような決まりも入ってる。
本当の所有者も保護したい。何も知らずに買った人も保護したい。。。。吉田は論外。そんな想いが民法192条に示されてる。
つまり、
・ベーシストAと吉田の間にある貸し借りの関係
・吉田とギタリストBの間で起こった売買
両方別々の取引なんよね。ベーシストAにとってみれば、勝手に売られてしまったんやからその責任は吉田に追求するしかない。
ベーシストAとギタリストBとの間には関係が無いんだから、「返してくれ!」とか言えないってこと。
このように僕らの日常には様々なトラブルが起こる。それらを法律の条文にするのは至難の技なわけだ。実際、民法だけで1000条超えてる。法律はシンプルに、かつ十分な内容を盛り込まないといけない。もう一度、上に書いた民法192条を見てみて欲しい。非常にシンプルにかつ十分にまとめられてる。
”善意”って言葉は法律に頻繁に出てくる。”何も知らない”って意味で使われる。例えば、”善意の第三者”って言葉はほんとによく出てくるよ。
僕らの日常で”善意の第三者”って言えば、”いい人!”って意味で捉えるよね(笑)
それとは全く違う意味で使われる。”事情を知らない第三者”って意味になる。
さて、事件の詳細についてまだわからないんやけども、色々明らかになったらそのことについて書いてもいいかな。あくまで法律面からだけね。
今回は業務上横領のケースではなく、即時取得について書いてみた。では、良い音楽ライフを。あーあーあー、声ちゃんと出るかな今日。
■プロフィール
ロックを基調にシンプルかつ印象的なメロディーを紡ぐシンガーソングライター。ふてぶてしくも古き良きロック魂を漂わせる佇まいがライブハウスシーンやレーベル等業界の重鎮達からも注目を集める中で西原誠(ex.GRAPEVINE)に見初められ、2016年7月にGt.西川弘剛(GRAPEVINE)参加曲含む、初の公式音源となる1stalbum
『forthemorningafter』をリリース。
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