優れた音楽性とシーン最強のアンサンブルを武器に目覚ましい成長を遂げ、4月にはニューシングル『In Future』&『MAZE』アナログ盤のリリース、そして5月には日比谷野外音楽堂ワンマンライブを控えているNothing's Carved In Stone。当連載は、同バンドのフロントマン村松が、様々な“表現者”とガチのぶつかり合いを行い、その際に起こる化学反応を赤裸々にレポートしていく村松拓強化プロジェクトである。
村松拓が「会いたい人に会いに行く」という当連載、前回のネジ工場の社長さんとの異業種対談に引き続き、今回のゲストはなんと宇宙物理学者で理学博士、宇宙や科学・物理に関する多数の著書がある小谷太郎さん。映画『インターステラー』から重力波、表面の不思議から113番元素まで発展したたっきゅんとの対談は、いったいどのようなビッグバンが起こったのだろうか?
主な著書
『知れば知るほど面白い 不思議な元素の世界』(大和書房)
『知れば知るほど面白い宇宙の謎』(三笠書房)
『理系あるある』(幻冬舎)
『宇宙一わかりやすい 相対性理論 図解イラスト超入門』(すばる舎)
『科学者はなぜウソをつくのか――捏造と撤回の科学史』(dZERO)
『宇宙の謎が手に取るようにわかる本』(中経出版)
『周期表でスラスラわかる! 「元素」のスゴい話 アブない話』(青春出版社)
『宇宙で一番美しい周期表入門』(青春出版社)
『科学者たちはなにを考えてきたか』(ベレ出版)
『数式なしでわかる相対性理論』(中経出版)
※今回は長いので3部構成です。
たっきゅんの受け身の美学 Vol.11(その2)
たっきゅんの受け身の美学 Vol.11(その3)
「すごくロマンがあると思うんですよね。小谷さんのように研究されている方が居て、その研究内容やお話を聞いて僕たちがそこにロマンを感じる」(村松)
まずは読者の方にわかりやすい話からお聞きしたいと思うんですけど、普段はなにを研究されているんですか?
専門は天文学、宇宙物理なんですけど、「天文学」って聞くと大抵の人は望遠鏡を覗いているところを想像すると思うんです。
天文学は、可視光で観測するとは限らないんですよ。X線とかガンマ線とか電波で観測すると、出てきた天体の情報っていうのは写真になっていないんですよ。ダーッと数が並んでいるだけのデータなので。
そうです。天文学の中で、私が博士論文を書いたり、大学院で勉強していたのは、X線天文学という分野なんです。X線望遠鏡をロケットで打ち上げて、その望遠鏡で天体からのX線を観測するんですよ。
そうすると、目では見えないX線を出す星についてがわかりますよと。X線を出すのは、目で見える星とは違った性質を持つ星なんです。
例えばブラック・ホール連星系とか、中性子星連星系とか、昔超新星爆発を起こした残骸だとか、あるいは超巨大ブラック・ホールとか。要するに肉眼では見えない天体が見えるんです。
X線で見た宇宙。天の川銀河が中心にくるように作図してある。光点は1個1個がX線を放射するX線天体。X線観測装置「MAXI(マキシ)」によるデータ。MAXIは日本の研究チームが作ったX線監視装置で、国際宇宙ステーションに搭載され現在も活躍中。
提供:中平聡志、JAXA/RIKEN/MAXI Team
そういう研究をしていました。…そうすると、ASTRO-Hの話もしなきゃいけないかな。
日本は世界でも珍しくて、独自のX線望遠鏡を打ち上げて観測するっていうことをやっている国なんです。それが単独でできるのは…技術力だけじゃなくて予算が付くかどうかっていう大きな問題もあるんですけど…限られた国で、日本とアメリカとドイツなどの数国なんです。
日本は伝統的にその分野に強くて研究をやっていたんです。ついこないだ(※2016/2/17)、ASTRO-HというX線天体望遠鏡が打ち上げられまして。
今はまだ打ち上がったばかりで性能を確かめている状態でまだ観測は始めていないんですけど、これが稼働すれば、日本独自のデータを次々と出してくる。
そうですね。まあ最近は執筆活動で忙しくなっちゃってるんですけど(笑)。
例えば僕が最近気になるのは、話題になった重力波なんですけど…。
ハハハ(笑)。小谷さんはつい最近、Japan Business Pressというwebメディアで重力波検出に関する「重力波検出のすごさ、子どもに説明できますか?」という記事を書かれていましたよね。
はい。「子どもに説明できますか?」という部分は編集者の方が付けられたんです。別に私は子どもとか一切意識せず好き勝手に書いたんですけど。
私が生きている間に重力波が検出されるなんて思っていなかったんですよ。ものすごく微弱な振動なので。
検出するのはものすごく大変なんです。とにかく馬鹿でかい装置を作って、重力波がやってくると、その馬鹿でかい装置の長さが微妙に変わるんです。どれくらい微妙かというと、原子の中の原子核よりも更に小さいサイズくらいしか変わらないんです。
確か、重力波を検出した装置は検出部の長さが4kmくらいあるんですよね?
そうです。アメリカにある2台のレーザー干渉計重力波観測装置「LIGO(ライゴ)」が検出したんですけど、温度を冷やして熱による雑音を少なくした状態で、レーザーで何回も反射させて振動を増幅させるようなことをするんです。
それを見ると原理的には重力波が検出できるはずだって言うんですけど、その研究は何年も続いていて、「もうすぐ見えます」「もうすぐ見えます」「もうすぐ見えます」って、ずーっと言ってきたんですよ(笑)。周りは「またか」とか「見られるといいですね〜」みたいな反応だったんですけど。
重力というのは、質量があるところに発生する、と考えていいんですか?
はい。重力というと、普通はリンゴが落ちるところを想像しますよね? あれが地球の重力です。でも地球があっても、激しく振動しないと重力波は発生しないんです。
重力源が激しく振動すると、重力場の振動が宇宙空間を伝わる性質があるんですね。
すべてのものに引力があるっていうことは、そもそもニュートンが17世紀に発見したんです。(※引力は引っ張る力。重力はすべてのものが持っている引力)
そうです。リンゴが落ちる話ですね。ニュートンが万有引力を見つけたきっかけは、リンゴが落ちてくるのになぜ月は落ちてこないんだ? というところから始まったんです。当時、月というのは天界にある特別な物質でできていて、特別な物理法則に従っているから落ちてこないんだ、と思われていたんです。
だけどニュートンが引力について研究した結果わかったのは、実はリンゴも月も同じように落ちてくると。月は別に特別な物質ではないし、月だけではなく地球もリンゴもボールも人間も、みんな引力を持っているということを発見したんです。
でも当時の人は「そんな非常識なことがあるか!」とびっくりしたんです。月とリンゴが同じ法則に従っているというのも驚きだし、すべてのものがみんな引力を持っていることも驚きだし。当時、力というのは接触したら伝わる、という考え方が常識だったんですよ。でも地球の重力はポーンと真空を飛び越えて月に伝わっちゃう。「そんな馬鹿な!」とみんな言ったわけですよね。「離れたものに力が伝わるなんて!」と。
はい。私も物理学を大学で教えるので、重力の法則も教えるんですけど、みんななかなかわかってくれないですよね(笑)。17世紀に発見された法則なんだけど、現代でも納得してもらうのは難しいです(笑)。
赤外線天文衛星「あかり」で撮像したオリオン座。赤外線で撮像すると、肉眼では見えない宇宙の塵が浮かび上がる。明るい場所は星生成領域で、ガスが集まって新しい恒星が生まれている。オリオンの右肩の輪のような構造は、過去に爆発した超新星の名残。
提供:JAXA/あかりチーム/制作:土井靖生(東大)