優れた音楽性とシーン最強のアンサンブルを武器に目覚ましい成長を遂げ、9月にニューアルバム『MAZE』をリリースし、“MAZE × MAZE Tour”と豊洲PITでのLIVE Album『円環 -ENCORE-』再現ライブ“円環 -ENCORE-”を大成功させたNothing's Carved In Stone。当連載は、同バンドのフロントマン村松が、様々な“表現者”とガチのぶつかり合いを行い、その際に起こる化学反応を赤裸々にレポートしていく村松拓強化プロジェクトである。
ストレイテナー ホリエアツシ、HUSKING BEE 磯部正文、the band apart 荒井岳史、アルカラ 稲村太佑…村松拓がリスペクトするヴォーカリスト・フロントマンを迎えて対談を行ってきた当連載、今回は初となる年下が登場する。記念すべき初の年下ゲストは、1月から3ヶ月連続でシングルをリリースし、4/10にはZepp Diver Cityでワンマンを開催するSUPER BEAVERの渋谷龍太。たっきゅんが嫉妬するほどの衝撃を受けたという渋谷龍太とのヴォーカリスト対談は、果たしてどのような展開を見せたのであろうか。
前の連載で、2014年を振り返る話をしていたとき「2014年に観たライブの中でいちばん印象に残ったのは?」と拓さんに質問したら、渋谷さんの名前が挙がったんです。
大阪で対バンしたんだけど、あの日のライブは本当にヤバくて。“こりゃ負けた”って思ったんです。
梅田AKASOだったんだけど、そのときのシチュエーションもSUPER BEAVERに合っていて。いいバンドだなって思ったんだよね。
ちゃんと対バンさせてもらったのはあのときが初めてでしたよね。僕もそのときにNothing's Carved In Stoneを観てめちゃくちゃビビりました。
あの圧力って、練習して出せるものじゃない気がするし、かといって歴を重ねればついてくるものなのか? っていえばそうでもないだろうし。あの4人の中でできているもの…僕は“圧力”としか言いようがないんですけど、ものすごく感じて。圧倒的なものを感じたんですよね。だからまさかそのときに拓さんがそういう風に感じてくれてたなんて、まったく思ってもなかったです。
いやいや、そんなことないよ。だって渋谷くん、ヤバいから、マジで(笑)。
確かに渋谷さんは、こうやってしゃべっている感じとは少し違いますよね。
去年ツアーに呼んでもらって高松で2マンしたときもそうだったし、こないだROTTENGRAFFTYのツアーに呼んでもらって3マンしたときもそうだったんだけど、ステージングもMCも、バンドに上も下もないっていうか、ステージはいつでも開けていて誰でも立っていいっていう姿勢自体がすごくバンドっぽくて、たくさんの人から共感を得る側面を持ってるんですよね。
だから渋谷くんはどういう意識でバンドをやってるのかが知りたかったんだよね。
ああ〜、僕はもともとジャパコアがものすごく好きだったんですよ。高校のときから20代前半までライブハウスに通ってジャパコアのライブばかり観てたんです。ハードコアがめちゃくちゃ好きで。
ああいう、エネルギーに満ち溢れているものにすごく憧れていて。
いろんなバンドのライブを観に行ったとき、ハードコアみたいな感じでバチバチにやって、その上で観ていて楽しいようなライブをやりたいなと。で、自分がバンドをやる側になって、せっかくステージに立たせてもらえるのであれば、人の何十倍ものエネルギーがあるものを観せられたらおもしろいなと。僕がお客さんのとき、それがいろんなものの活力になっていて、憧れの対象だったんですよ。だから一種のヒーロー像みたいなもの、フラットにやるのではなく、図抜けたヒーローみたいな存在になりたいなっていうのがそもそも自分の中にあったんです。それに突き動かされてバンドをやっているというか。
SUPER BEAVERのライブを観てて思うのは、渋谷くんの人間性とかがエネルギーの塊になってると感じるんだけど、いちばん重要なのは“そこで吐いている言葉が誰の言葉なのか?”っていうところで。渋谷くんの場合は、もう渋谷くんの言葉でしかないんだよね。それが観ていてわかるからいいバンドだなって思う。嘘をついてないっていうか、打算がないっていうか。でもエネルギーを見せていく方向がすごくポップで。
だから自己満足とか小さいものに憧れているんじゃなくて、すごく大きなものになろうという気がして。…なろうとしているというか、表現しているものがすごく大きくて捉えられないんだけど、その角度で来られたらわかっちゃうっていうか、すごく何気ない物事を拾っている。だからハードコアとうまくリンクしない(笑)。
たぶんその理由は、ウチは基本的に曲を作って歌詞を書いてるのがギターの柳沢なんですよ。
僕らは本当にバラバラの人種で、唯一共通しているのはポップミュージックなんです。4人でいろんなことを話して活動していく中で今のスタンスができた感じなんです。最近は僕がMCでしゃべったことを柳沢が拾って歌にするんです。その歌を僕が聴いて、またMCでしゃべって…っていうサイクルができているんです。だから僕らがハードコアとリンクしないのは、さっき言った僕のヒーロー像とは違うところに伝えたい事があるからだと思うんですよね。全部1つに集約するのではなくて、僕らが伝えたいことは“人と人”っていうところで。
僕ら20歳くらいの頃に一度メジャーデビューさせてもらったんですけど、その時期にないがしろにしてきたもの…そうしようと思ってやっていたわけじゃなくて、知らずに進んでいたんですけど…例えばライブハウスに行ったときにライブハウスの方と直接お話するだとか、対バンの人たちと一緒に打ち上げさせてもらうとか、当時の僕らはまったくなくて。
スタッフさんに「打ち上げするくらいだったら今から打ち合わせするから帰るよ」って言われたりして、「お先に失礼します」って誰だかわからずに頭下げたり。そういうことを続けていたら、当然のことに周りからどんどん人が減っていって。バンド結成当初はCLUB251のワンマンでチケットがソールドアウトしていたんですけど、メジャーデビューしてそんな感じでやっていたらお客さん3人とかになっちゃって(笑)。そのときは理由がわからなかったんですけど、その後メジャーとの契約が切れて、自分たちに何が足りなかったのか考えたんです。そこで“やっぱり人と直接対話する時間が少なすぎた”と思って、そこからは直接自分たちの足で行って、直接目を見て話す機会を作って、打ち上げにも全部出て。
そういうスタンスが4人の意志としてあるから、“人と人”をいちばん大切にしなきゃいけないっていうのは統一されているんです。だから僕がいちばん伝えたいことはそこなんですけど、でも自分の好きなヒーロー像っていうのがあるから、そういう方法で。
いやいや(笑)。怒りとかはないわけじゃないですけど、全部に中指を立てる、みたいなスタンスではないんですよ。
バンドって、ただ音楽をやりゃいいっていうわけでもないもんね。いま渋谷くんは28歳でしょ? 若いうちにいろんな経験をしてるってすごいことだよね。
拓さんがSUPER BEAVERのステージから感じたのは、そういう姿勢というか背景みたいなものなんでしょうか?
そうですね。俺らはたぶん一緒で、生き方が“バンドで生きていく”っていうところだと思うんだよね。だから1年365日あったとして、そのうちの1日に出会う人ってものすごく貴重じゃん。
そこで何ができるか? っていうのはいちばん大切だと思うんだけど、それが渋谷くんのステージから見えるっていうか。ライブでのっぴきならない感じがいつでもある。3回観たら3回ともある。ウチのバンドもそういう部分はずっと持っていたいし、今でも“ちゃんと持ってるかな?”と自問自答するというか。だから年齢関係なくライバル視してしまうよね(笑)。音楽やスタイルは違うけど、根本は一緒だなって思う。
最初に渋谷さんがNothing's Carved In Stoneについて「圧力」とおっしゃっていましたが、その“圧力”をもう少し具体的に訊きたいんですが…。
1人1人の個がめちゃくちゃ強くて、更に演奏がめちゃくちゃ上手で。要はそれだけでも僕はデカい武器だと思うんですけど、“真ん中が拓さんじゃないといけない”っていうのが僕はいちばんデカいような気がしていて。
4人なんですけど、やっぱり拓さんが真ん中に居るからNothing's Carved In Stoneなんだっていうのが見えるから。あの楽器陣で真ん中に立つ自信は、僕はないです。
そういうことじゃなくて(笑)、語弊があるかもしれないですけどあの3人を従えている感じっていうか。それがステージで見えるっていうのがすごいというか。逆に“置いてもらってるんだな”っていうのが見えちゃったら、僕はNothing's Carved In Stoneというバンドには魅力がないと思うんですよ。でもそうじゃなくて、拓さんが真ん中に立って、拓さんが引っ張ってるっていうのが見えるから、全部が活きるっていうか。
だから「演奏すごいよね…」ではなくて「上手いしあのバンド、ヤバい」ってなるんです。全部がプラスに転じるというか。それが僕にとっての“圧力”なんですよ。あれはものすごいです。
拓さんは、絶対に客席からは観れないじゃないですか。観てるとものすごいですよ。自分の出番前でも嬉しくなってピョンピョンしちゃうんですよね。
ライブやってると、だいたい俺の視界の範囲内で踊っててくれるんです。客席で(笑)。
こないだの山口でも、次は僕らの出番なのに最後の曲までNothing's Carved In Stone観てましたね。次は自分たちの出番だから準備しなきゃいけないんですよ。自分たちのライブがいちばん大事だし。準備しようと思ってシャツを着替えてたら「次はこの曲か!」って気になって観に行っちゃうし、“やべぇ準備しなきゃ”ってズボンを履き替えてたら「お、次はこの曲か!」ってまた観に行っちゃう。
もうめんどくさいから、最後まで観てそれからバチッと切り替えようって。でもそうしたくなるくらいのバンドと対バンできるっていうのは本望ですよね。
対バンの魅力ってそれだと思うんです。やっぱり一緒にやってるバンドを観て自分が奮い立ったり、一緒にやることで危機感を感じたり、ピリピリした感じだったり楽しい感じがなければ、僕は対バンをやる意味がないと思っているんです。だからあそこまで観たくなっちゃうっていうのはものすごく嬉しいことで。だから最後まで観ちゃうんですよね。たぶん観ちゃダメなんですけどね。
やっぱり観るでしょ(笑)。でもさ、もう既におもしろいことをやっている先輩たちっていっぱい居るじゃん。そういう人たちが作ってきたフィールドで満足していいのか? っていうのを俺はずっと思ってきたんだよ。
だからなんか、あまり媚を売らずにやっていく方がいいと思っていて。だからステージも、何年もかかって“ちゃんとヴォーカルが引っ張っていけるバンドにしたい”という想いでやってきて、だから渋谷くんがそんな風に感じてくれたのかなって思うと嬉しいんだけど。
確かに同じようなことはしたくないんですね。「◯◯チルドレン」とか言われちゃったりするのはおもしろくないし、すごくいろんなことを紐解いていけばそんなこと言ってられないかもしれないですけど(笑)、でも唯一無二っていうのは追い求めてますね。
やっぱり後輩だったら追い抜く精神で…まあ単にムカつくときもあるから見せ方もあると思うんですけど(笑)…どのスタンスで僕らを追い抜こうとしているのが見える後輩とか、“こりゃあしばらく敵わねえや!”っていう背中を見せてくれる先輩とか。自分の中でどこか畏怖するところを感じないと、一緒にやる人としての魅力を感じないんです。だから自分がどの立場でやるとしても、先輩からも後輩からも畏怖されるところがなければやる意味がないっていうか。バンドって、ステージに上りさえすればイーブンだと思うんですよ。だからこれこそが、人に対する敬意の表し方だと思うんです。同じバンドマンとしてはそうあるべきだろうと。
あとさ、最近思うんだけど、例えばSUPER BEAVERの歌詞や、渋谷くんの存在や生き方に共感する人がいっぱい居るってことは、みんな誰かが決めた自分じゃなくて、自分が決めた自分の価値を知りたいからなんだと思うんだよね。
バンドマンとか、何かものを作ったり、努力をしている人たちは、それを発信することが出来る立場にあると思うんだよね。上からじゃなくて。だからそれを腐らせずにやっていくには、よりいいものにしていくには、もう自分の価値を高めるしかないっていうか。そういうことを最近よく考えてるんだよね。
僕はサラリーマンだからよりそう思うのかもしれないですけど、バンドマンってまさに自分の価値を高めるしかないというか、それだけを信じて続けている人たちだと思うんです。だからすごく強く見えるんですよね。
そうですね。自分が“楽しい”と思えるところでやってて、他の人が“楽しい”と思っているのが自分の楽しさになった結果というか。だから使命感というより、せっかく楽しいんだから周りの人にも絶対に楽しんでもらった方がいいだろうっていう感じなんです。
バンドやってる奴がすごいとか、サラリーマンがすごいとかいう見方はなくて。ステージはいつでも開けてて、そこに立った奴がライブをやっていて。渋谷くんが言っていたように、おもしろい奴が居たからそこに人が集まってきたっていうことだと思うんです。
だからバンドをやる上では、人間の格を付けるようなことはしていないというか。“今日はウチのバンドでおもしろいことやってるからちょっと観てよ”っていう気持ち。もちろん“俺たちがおもしろいと思ってることがちゃんと伝わってるかな?”っていうドキドキというか緊張はいつもあるんだけど、大したことはやってないんです。ステージの上では闘いますよって。みんなほら、職場や学校で闘ってるじゃないですか。そういうのが俺らはステージの上っていう。
うん。そうですね。みんなフィールドがあって、それぞれのステージで闘っていて。僕らはライブハウスで露骨に目立つようなことやってるからバンドが目立っているだけで。パンを買いに行ったらパン職人はそこでステージに立ってるし、ご飯を食べに行けばコックさんがステージに上がってて。
場所が変わればステージに上がる人も変わっていくと思うんです。そこで見せるものっていうのはみんなきっとありますよね。
そうそう。だから緊張するんだよね。別のところでみんなそうやって同じ気持ちを持って闘ってるだろうから、俺のステージを観て“おもしろい”と思わせられる何かをちゃんと持ってるのか? っていう。その緊張感が常にある。
拓さんに今日、ステージに上がる前にどんなことを考えているか訊きたかったんですよ。というのは、ステージの上であんなに堂々としている人を僕はあまり知らないから。
見えますよね。なんでこんなに堂々としてるんだろう? って。緊張してるのかな? って。その余裕は、いろんなものに基づいているようなものというか。あれを見たときに“拓さんは何を考えているんだろうな?”って。
被せていい? 俺も渋谷くんに対して同じこと思ってたんだけど…。
言葉が湯水のごとく出てくるじゃん。“どういう思考回路してるんだろう?”って。だから緊張してないんだろうなって思うし、堂々としてるなって。
たっきゅんの受け身の美学へのメッセージや感想は
yamanaka@hirax.co.jpまで!!