優れた音楽性とシーン最強のアンサンブルを武器に目覚ましい成長を遂げ、9月にニューアルバム『MAZE』をリリースし、“MAZE × MAZE Tour”と豊洲PITでのLIVE Album『円環 -ENCORE-』再現ライブ“円環 -ENCORE-”を大成功させたNothing's Carved In Stone。当連載は、同バンドのフロントマン村松が、様々な“表現者”とガチのぶつかり合いを行い、その際に起こる化学反応を赤裸々にレポートしていく村松拓強化プロジェクトである。
ストレイテナー ホリエアツシ、HUSKING BEE 磯部正文、the band apart 荒井岳史、そして先月号では前バンド時代から深い親交を続けてきたアルカラの稲村太佑と、村松拓が尊敬してやまないヴォーカリスト・フロントマンを迎えて対談を行い、バンドのインタビューとはまた違った村松の姿を浮き彫りにしてきた当連載。アルバム『MAZE』のリリースツアー“MAZE×MAZE TOUR”と豊洲PITでのLIVE Album『円環 -ENCORE-』再現ライブ“円環 -ENCORE-”を終えたタイミングの今月号では、突然の病気療養から見事に完全復活を遂げた村松拓に、現在のありのままの心境を訊いた村松拓の独占ソロインタビューを敢行。彼の濁りのない表情と言葉の節々から、現在の充実度が伺える内容となった。
大腸憩室炎という診断で1週間くらい療養されていましたが、すっかり元気になったみたいですね。
はい。6日間入院して、4日くらいは何も食べずにずっと点滴。もう1〜2日目とかは痛くて動けなかったんです。
はい。トイレに行くのも大変で、歩いてたら看護師さんに「大丈夫ですか?」と訊かれて「痛い…」と言ってもそのままスルーされちゃう、みたいな。
優しいんだけど、俺以上の人がいっぱいいるから。夜になると「お願いしまーす!」って何度も何度も看護師を呼ぶおじいちゃんがいたりして。だからずーっとイヤホンして音楽を聴いたり、本を読んでました。相対性理論が分かる本とか、月刊ムーとか(※チーフマネージャーの差し入れ)、宮下奈都さんにいただいた小説とか。
でも、割と余計なことを考える必要がなかったから、すごくいろんなことがリセットされてる。怪我の功名ですよ。夜の6時には飯を食って、9時には消灯なんですよ。そうするともう寝るしかない。
本当によかったです。いろいろとフラットになれたし、もうちょっとストイックになれそうな気がする。
うん。まだまだ精神面が弱いなと思って。みんなあると思うけど「この日絶対風邪ひかねぇ!」っていう日あるじゃん。でもその日、絶対風邪ひく現象ってあるじゃないですか。
ツアー中はそれが絶対にないようにしてて。ツアーがどれくらいの期間であっても、それをやっていたつもりだし。それをやっていたツアーが終わって、“円環 -ENCORE-”が終わったとき、“なんとか身体も保ったな。よかったよかった”って思った瞬間にパツンと緊張の糸が切れたっていうか。
それをもうちょっと保つ方法があるかもしれないと思えるというか。
そう。精神的な成長を促す生活を、もう少し意識的にした方がいいなと思ってて。前に「いろんなことを気にしないで、もっとわがままに生きればいいや」っていう話をしたじゃないですか。
それがもう少し発展していきそうな感じがあるんです。そういうところを持ったまま、オープンでもクローズでもないんですよ。だからすごく自然だし、人にも優しくできるし。
自分の大切なものもブレないし。そういう状態を作ることができているから、このまま強くなっていけたらいいなっていう状態になれてる。なぜか。
足りてない部分と、できていることの自信…そういうことでバランスが取れるっていうか。今できないこととか、敢えてやらないことを“できないから焦る”とかじゃなくて、“楽だ”と思えたというか。“別にこれでいいや”っていう。そういうこと自体を、自分にとってのプラスと感じることができていて。だから“フラット”っていう言葉が合うんですよね。
「出る杭は打たれる」って言いますけど、どこの世界でも意見を持っている人に対して、その反対の意見を持っている人もいて。で、なるべくそういうものを呼ばないモノの言い方をするのが、実は俺は好きなんですよ。
そう。それはずる賢い部分なのかもしれないけど、音楽って別にどっちでもいいじゃないですか。「こっちじゃなきゃいけない」っていう言葉を乗っけているつもりも全然ないし、音楽やバンドには、そういう余計な雑味を入れたくなかったんです。
だけど「俺はこう思います」とか「だから俺はこうやって生きていきます」とか「こういうときはこうするべきだよね」っていうことを、もっと普通に発信していくことを始めようと。
すごく根本的でプライマリーな衝動とか…“ああいうものになりたい”みたいな…だけでもいいんだけど、ウチのバンドではそれがとてもとても大事なことで。あとはファンとの繋がりとか。そういうものを曲に乗せたとして、今俺には発信する場所がブログもあるし、『たっきゅんの受け身の美学』もあるし、それが余計なものに感じなくなってきたんです。
つい最近ブログに書いたんですけど…俺、もう最近は携帯要らないなって思っていて。
うん。便利。だから使っちゃうけどね。でも例えばウィキペディアとか、ひと昔前だったら買ってるよねっていう情報がネットにはいっぱい載ってるわけでしょ。
でもそこには、ミュージシャンの生き方とか、なにかものを作っている人の生き方とは相容れないものの在り方が、ネットとか携帯の中にはいっぱいあるなと。でもそれを逆手に取って上手くやっている人たちが注目を集めているんだろうなと思うんだけど。
例えば哲学者っていたじゃないですか。“人間として進化していきましょう”とか“こういう風に生きればもっと生きやすくなりますよ”っていうことを教えてくれるのが、哲学者だと俺は思うんです。それを人づてに聞くのと、インターネットで調べるのと、本を買ってきて読むのと…実際は何も違わないけど、決定的な隔たりがあると俺は思うんです。
自分たちが生きている限られた時間を使って、その時間を価値のあるものに変えたらお金になりました…それが今の社会でしょ? そのお金を使って、自分の好きなものを買いますという行為…自分が払う対価とリスペクト…がないと、循環しないと思って。そんなに簡単じゃないよねって。自分でもよく思うんですけど、スマホでサッと見たものがずーっと残るかっていうと、そんなことあり得ないんですよね。
子供の頃に好きで自分のお金で買った本とかの方がよっぽど残ってる。だから俺は、自分の費やしてきた時間の対価とリスペクトを払って本を買うよ。その先に何かがあると思う…そういう内容をブログに書いたんです。
そういう考え方とかを、もっと発信していった方がいいと感じたんです。世の中の成り立ちに当てはまるというか。俺がわかってるとかわかってないとかじゃなくて、“でもそうかもしれない”と思うことをもっと発信していくことが大事かもしれないと思ったんです。フラットな状態になったからこそ、そういう心境になってるんです。
うん、よかった。すごくよかった。すごくバンドを見つめ直せた気がします。
ああ〜、なるほど。観ていて思ったんですけど、ここ2〜3年くらい、拓さんはどんどんライブで自由になってきていると思うんです。最近だと5/17の大阪のライブがそれまでの自由さを最も更新していた気がして。
その一方で楽曲的に言うと、アルバム『REVOLT』(2013年6月)に収録されている「Bog」をきっかけに、拓さんは時にハンドマイクでライブをするようにもなって。その後、アルバム『MAZE』では、拓さんのルーツがメロディに色濃く出た楽曲も増えたじゃないですか。
そういう自分を出せる楽曲が揃ったということもあり、ここ2〜3年拓さんがやりたかったことがこのツアーで形にできたような気がしたんです。だから自由さは過去最高だった。今回のツアーは「Discover, You Have To」、あの曲に尽きると僕は思っていて。あの曲のステージングや4人の感じは、それまでになかったもので。コンテンポラリーダンスとか演劇を観ているような感覚があった。
そういう意味での“解放”というか“覚醒”というか。「がんばりすぎなかった」とおっしゃいましたけど、それが形になって、自然に内から溢れ出てくるものを表現しているというか。
うん、自由になったのかな(笑)。まだまだ自由になりたい部分はいっぱいあるんです。いっぱいあるけど…。あのね、今作ってる新曲があるんだけど、オニィ(大喜多)が「歌詞を書きたい」って言ったんですよ。
俺はこのバンドで、歌詞の部分に自分の役割のウェイトをかなり置いてきていて。でもここ何作かで、自分の音楽的なポテンシャルがだんだん上がってきて、自分から音楽的な化学作用を起こせるようになってきたと思ってて。まだ全然足りないけどね。
きっと前だったら、オニィが「歌詞を書きたい」と言ったら“あれ?”と思っていたと思うんです。“俺の役割がなくなる”と思ってモヤモヤするだろうなって。でも今はそこでは、俺の中になんの濁りもなくて。なんというか、本当に自分がバンドのために何かをできているっていう実感…その感じ方がピュアなところに来れているのかなって思ってて。だから自由になってきてるのかな。ツアー中もそうだったし。“かっこわるくてもいいや”みたいな。
ダサくても、自分が求めている役割と、バンドのためになにができるかっていうこと…そういうすごく大切でピュアなものを追求していくと、自分が自然とそこに当てはまっていくじゃないですか。余計なことを考えなくてすむから、そこをめがけて自分を転がしていくっていうところに入り込めるようになったというか。だからある意味自由っていうか、そういうバランスのような気がしてるんです。
そうですね。いろんなことの相乗効果でそうなれたと思うんですけど。さっき言ってた「Discover, You Have To」の歌詞を書けたこともそうだったし、『MAZE』というアルバムを作れたこともそうだったし、本当にいろんな要素がある。
なるほど。今回のツアー中に、Twitterで「たっきゅんゴリラみたい」と言っていた人がいたんですよ。
それはきっと「Discover, You Have To」のことを言っていたんでしょうけど、あのステージングは“村松拓”の表現だと思うんです。
“村松拓”が感じるものを感じるままに表現しているステージというか。例えば日本でかっこいいとされる“ロックスター像”みたいな価値観があるとして、そんなものにも当てはまらないもの。それをあのステージングから感じたんです。
だから俺、ずっと言ってたんです。「村松拓になりたい」って。「Discover, You Have To」にそれだけのものを感じてもらえたんだったら嬉しいですね。
それがバンド4人で表現できているっていうことは嬉しいですよね。今作っている新曲が思いの外、新しい方向に向かっているんですよ。
はい。すげぇいいんですよ。単純に迷いがなくなってきたんだと思うんですけどね。例えば今回のコラムも無理矢理結論付けるんじゃなくて、ありのままを出してもらえればいいと思うんです。
いいところもわるいところも、「こいつ何が言いてぇのかよくわかんないな」みたいなところも(笑)、ありのまま。
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