優れた音楽性とシーン最強のアンサンブルを武器に目覚ましい成長を遂げ、9月にニューアルバム『MAZE』をリリースし、“MAZE × MAZE Tour”を大成功させたNothing's Carved In Stone。当連載は、同バンドのフロントマン村松が、様々な“表現者”とガチのぶつかり合いを行い、その際に起こる化学反応を赤裸々にレポートしていく村松拓強化プロジェクトである。
ストレイテナー ホリエアツシ、HUSKING BEE 磯部正文、the band apart 荒井岳史という名ヴォーカリスト・フロントマンを迎えて行ってきた当連載のスペシャル対談。当シリーズ4人目となる対談相手は、村松が前バンド時代から深い親交を続けてきたアルカラの稲村太佑。長く深い繋がりのある2人だからこそ聞き出せた数々の秘話は必読ですぞ!!
今日の対談イヤやわ〜。飲んでないときに話すなんか初めてやんな?
そうですね。ABSTRACT MASHのときにいっぱい世話になっていたんで。
アルカラはメジャーデビュー前からよく千葉に行ってましたよね?
そうですね、千葉のK's Dreamによく出ていて。拓のABSTRACT MASHは千葉LOOKでよくやっていて、OUTASIGHTっていう共通の先輩のイベントに呼んでもらって神戸や東京で一緒にやるようになったんです。で、打ち上げしたら(拓が)暴れているっていう。
僕、K's Dreamでのアルカラのワンマンとか観に行ってました。「アルカラが来るなら…」っていう。なんか、アルカラがみんなの兄貴的な存在だったというか。
当時、僕らは千葉に行ってもそんなに動員があったわけじゃないけど、お客さんの半分くらいがバンドマンで、しかもバンドマンもチケット買ってくれるんですよ。
お互い買って行く、みたいな。ABSTRACT MASHが神戸に来たらウチのメンバーも買って行く、みたいな。お互いそういうことをやってきてて、そこで人が集まるからこそお客さんも集まってくるというか。
そうですね。でも、2人であまり真面目にしゃべったことはないんです。ないんですけど、一方的に“同世代のいい先輩”と思ってる。一度、ABSTRACT MASHのツアーのときにアルカラに一緒に来てもらったじゃないですか。
うん。そのときも打ち上げでいっぱい熱い話したけど、覚えてないよな?
はい。全然覚えてない。でも「同世代で盛り上げましょうよ」みたいな話はしてたような。
そうやね。でも酒飲んで盛り上がっていくから、熱い話をしてても9割くらいがどうでもいい感じになる。脱いだり、全身の毛を燃やされたりとか、Tシャツを鍋で茹でたりとか。僕らそういう界隈でやってました(笑)。
アルカラはそういうシーンを作っていった人たちで、僕らは後からそこに入っていったっていう感じですね。それが10年近く前のことだから、こういう関係って他にはなかなかないんです。Nothing’s Carved In Stoneで活動してて、その頃のバンドで関われる人って少ないですもん。
当時は、お互い1年後がどうなってるかわからない者同士で、ただその日に如何にいいライブをするか。いいライブをするだけじゃなくて、如何にお互い高め合うかっていう。どっちがめっちゃ動員多いとかもなくて、なんならどっちも動員がない状態でやっていって…貴重な時間を一緒に過ごしたと思ってますね。
そこで、やっぱり人として好きになれるっていうところがないと繋がらないじゃないですか。動員がないというのは言い方を変えると窮地っていうか…ほとんどのバンドがそういう状況でやっているんですけど…そこで好きなバンドを誘って人を集めてやるんですけど、その先がどうなるかは誰もわからへんし。しかも、どんどん辞めていったりするやん、周りのバンドも。
そこで“高め合える”っていうところにアンテナが立つようになれたのは、やっぱりその時期があったからやと思います。振り返ればですけどね。そのときはただ楽しくて仕方がなかったからやってたんです。「今日打ち上げどこ行く?」みたいな。
僕、打ち上げも込みで神戸行ってましたもん。アルカラが拠点にしていた神戸ART HOUSEの人たちって飲み方がすごいんですよ。僕がゴミ捨て場とかに捨てられた思い出とかは全部神戸です。
むちゃくちゃでしたよ。ゴミ捨て場にダイヴするのとか流行ってて。
でも太佑さんはいつも飲むけど、立ち位置的にはみんなを指図して笑ってる兄貴的な感じでしたよね。
悪い先導役でしたね(笑)。やっぱり拓とかが神戸に来たときに、僕らとの関係は強くても、後輩のバンドとかは「初めまして」とかも多いじゃないですか。だから飲み会でそういう出番を与えてやることで、「あいつおもろいやん!」ってなったりするかなって。
それはやっぱりOUTASIGHTに教えられたから。ABSTRACT MASHとも、OUTASIGHTが繋げてくれたんですよ。「絶対にお前らと一緒にやった方がいいバンドがいるから」って。別にOUTASIGHTも僕らのためにバンドをやってるわけじゃないじゃないですか。でも、「お前らと絶対にやらせたいから今度連れてくるわ」っていうのがめっちゃ多かったし、そこから僕らも自分たちのイベントに呼んだり、逆に呼ばれたりするようになったりして、初めて行く土地でもみんなが迎えてくれるような空気ができて。
逆に言うと、自分たちの土地でしっかりといいイベントを作れていたら、いいところに自分らも迎えてもらえるって思えるからこそっていう。だから自分たちの持ち場…俺らで言う神戸…を盛り上げておこうっていうのはありましたね。
でも当時そこまで考えていたかというとそうではなくて、おもろいからやってただけという(笑)。
10年近く前からの関係とのことですが、お互いどういう印象なんですか?
僕、ABSTRACT MASHの頃にメンバーから「太佑さんのように、求心力っていうか、理屈じゃないオーラをお前も出せ」ってめっちゃ言われてたんです。
だから、きっとどこか意識してましたね。ライブに於ける姿勢というか、“かっこつける”というのはどういうことか? っていうところは、太佑さんを見て考えたり。
言ってみれば、ライブでも太佑さんはすごく作り込んで来るんだけど、その姿勢は俺にはまったく皆無だったし。それを全部、例えば「ミ・ラ・イ・ノ・オ・ト」のサビとかに解放させていける感じ。ただのファンみたいな話になってきちゃったけど(笑)、すごく意識してました。
ただかっこつけるだけじゃない美学みたいなものっていうか。曲もすごく真っ当で、ライブでただ自分たちが“かっこいい”と思っていることをやっているだけなんだけど、MCとかステージングとか、太佑さんのキャラクターを通すと裏側にあるものが見えてくるっていうか。そういうものが、僕にはなかったんですよね。それを自分のモノにしたかったというか、だから意識していたという事です。
なるほど。太佑さんは拓さんに対してどういう印象を持っているんですか?
最初に出会ったとき、“めっちゃええ声してる奴が出てきてしまった!”と思って。神戸のライブハウスでやってる後輩とかでも、気持ちが先に出てて中身が伴ってないっていうか、「こいつなんでヴォーカルしたかったんやろ?」って思うような(笑)、でも気持ちがすごくよくて仲良くなったようなバンドとかがいて、たまたまそういうところだから兄貴肌になれたのかもしれないですけど、拓は独特の声をしてるじゃないですか。「ライブなんて気持ちでなんとでもなるぜ!」とか言ってたのに、持って生まれたような奴と出会って。だから“早くこいつらを潰しとかんとヤバい”と(笑)。そう思うくらい新鮮やった。
ずば抜ける存在感っていうか、それが揺るぎない波長を持っていて、それを演奏が盛り上げるっていうか。で、打ち上げに行ったら、途中まではめっちゃ礼儀正しいんですよ。「アルカラと一緒にさせてもらって嬉しいです」みたいな。だから僕もそんなすごい奴に下から来られたらいい気持ちになって。かと思ったら、いつの間にか何本かビール瓶を空けてて「オイ! オーイ!」って(笑)。
それだけパッションが溢れてるんですよね。そういうところを見ていると、内なるものが出ようとしていて、こいつは更にヤバいと。“やっぱり早くこいつらを潰しとかんとヤバい!”と(笑)。
でも太佑さんが、そういう風に僕のことを見てたということがちょっとびっくりですけど。
見てたよ〜。拓はNothing’s Carved In Stoneに入ったときも、ABSTRACT MASHと両方やってたんですよね。「こっちを捨てる」とか一切ないし、そういうところがすごく好きやったんです。ABSTRACT MASHは結局活動休止しちゃうんですけど、その頃の後期をよく一緒にやらせてもらっていて。両方やるのは大変やったやろうけど、今まで自分が作ってきたものに対してメンバーとしての責任を持ってやっていくことっていうのは、すごく男らしいなと思ってました。
あと、当時から拓ってなんかちょっと危険なんですよ。飲んだら特にそうなるんですけど(笑)。ライブでも「いつでもヤバいスイッチ用意してますよ」みたいなところがギラギラしてて。Nothing’s Carved In Stoneのライブはすごくかっこいいんですけど、危険なスイッチを押したくなるっていうか。Nothing’s Carved In Stoneはオラオラ盛り上げるようなバンドではないじゃないですか。でもどんどん惹き込まれていくんですよね。世界観に。その入口には拓がいて、それはあの当時の“イケない拓ちゃん”がフィルターを通って見えてるというか(笑)。
入った当時はがんばらなあかん時期やったと思うんですけど、拓の中で責任っていうか、強くなろうという想いを持ってライブをしていたんだろうなっていう。だからそこでまた更に“早くこいつを潰さんとヤバい”って(笑)。幕末だったらとっくに斬ってますよ(笑)。
お互いこの10何年間生き残ってきたわけじゃないですか。その中には、今まで培ってきたものだったり、もちろん音楽的な蓄積もあるとは思うけど、それだけじゃなくて生き抜くだけの覚悟とかを持ってきたからこそ、ぶつかった(対バンした)ときにやっぱり得るものがあるなって思いますね。“同じ拓を見せてくるだろうな”と思ってても、全然違う感じで成長していて、“こいつええ大人になってるわ”と思ったり。会うたびに答え合わせができるっていうか、家族や親戚と年1回会うような感覚と似てますね。
そうですね。アルカラは東京に出てきたじゃないですか。でも“ネコフェス”をやっていて、東京に来ても活動のフィールドが変わんないですよね。自分のフィールドを持ち続けて、発信する装置があるから、それを使ってアルカラが本当に持っている混じりっけ無いものを広げていくっていう。それがすごくアルカラらしくて、誰にも媚びてないっていうか。バンドの楽しさ、アルカラのおもしろさみたいなものがブレないっていうか。やっぱり羨ましいですよね。
うん。僕はABSTRACT MASHを休止させたということが、今でもずっと引っかかっているというか。太佑さんはずっと地でやって、ここまで大きなものにしているっていう。めっちゃ羨ましいです。だから…めっちゃ斬り捨てたい(笑)。
僕からしたら、俺のできないこと…Nothing’s Carved In Stoneにはできないことをしている人たちですよね。
最近人に言われたことなんやけど…例え目的地が決まってたとして、でも楽しそうやったから途中で脇道にそれて、でもその脇道は目的地に繋がってなかったから戻らなあかんと。「でも自分が好きで選んだ道やから、戻るんも楽しい」って言われたんです。
いろいろとバンドをやっている中で、ABSTRACT MASHでやれなかったことを、もしかしたらこの先にできるときが来るかもしれないし。たまたま僕らは戻らないまま今もウニョウニョしてますけど、それは拓が選んでやったことだから、正解っていう言い方が合ってるかどうかわからへんけど、拓が選ぶべき道を選んでやっていると思ってます。
でも、太佑さんが僕のことをそんなに見てくれてたんだなって。それがすごく嬉しいです。俺に全然興味ないと思ってたから(笑)。
いやいや。先輩やけど、こっちが見ている立場のときもあったりするからね。だからまあ、ちょっとした嫉妬心もあるよ(笑)。
だから見てるけど見てないっていうか。あるやろ? 好きやけど「好き」って言わへんとか(笑)。
あります。アルカラは先輩だから直接「好き」って言いますけど(笑)、先輩じゃなかったら言わないでしょうね。
僕もそうですもん。なるべくチェックしたくないですもん。アルカラの新曲とかMVとか。
お互いそうですよね。僕もそう思ってますし、拓がそう言ってくれるのはすごくありがたいです。出会った頃は「助け合っていこう」というところが主軸だったので、お互い応援して、一緒に楽しい時間を作るっていう感じだったけど、今は逆にもう少し先の、お互いがお互いを嫉妬するくらいのことをやっていこうっていう。そういう高め合いの仕方になってますし、これから先どうなっていくのかはわからないし。
またベタベタする時期が来るのかもしれないし。人と人の関わり方って、恋愛とかと似ていて、老夫婦になるまでにはすれ違いとかがあったりして。そういう人間模様がバンドとバンド…拓と僕にもあるっていうのはすごくおもしろいことで。そういう含みもあった上で、例えば対バンしたときにお互いがお互いをイジってみたりしたときに、お客さんもこの2人のロック魂がどう育ってきたのか、どういう関係でやってきたのかを垣間見れる瞬間があると思うし、そこが楽しんでいただける1つにもなる。だからたまに酒でも飲みながら真正面から向き合って、そうしながらこれからもバンドをやっていくべきだし、それがライブにもプラスになると思うんです。お互いが出来る限り嫉妬しながらやれるっていう、そんな関係はやっぱりいいですよね。“バンドマン”っていう。
いいですね。拓さんはなぜ今回対談相手に太佑さんを希望されたんですか?
好きだからです。単純に、すごく好きなヴォーカリストだから。それと、太佑さんは俺の酸いも甘いも全部知ってるから、今までとは違う話もできるだろうなと思って。そう思ってたら…想像していた以上にいろいろと言ってもらって。嬉しいですね。
たっきゅんの受け身の美学へのメッセージや感想は
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