学生のころマックでアルバイトしてたときの事。松原はドライブスルー担当で、その日は日曜。次から次へとやってくる客の対応に追われ、目の回る忙しさだった。あまりの忙しさにあせってしまって、「いらっしゃいませコンニチハ。マイクに向かってご注文をどうぞ!」って言うとこを、「いらっしゃいませコンニチハ。マイクに向かってコンニチハ!!」全身から汗がふきでた。モニターの向こうのドライバーも、「こ、こんにちは…」 とか言ってるし…それ以来、客でドライブスルーに行ってもトラウマが蘇り、上手く注文をする事が出来ない。誰しもが抱えるアルバイト時代の悪しき思い出。それは今も社会人の自分を苦しめる。
もう1つ32歳の松原を苦しめる思い出。それはダイエー鈴蘭台店で行っていたアルバイトの時。2年ぐらい働きマネージャーにも気に入られていてアルバイトなのに発注まで任されるクラスに昇格。発注と言ってもストックのない商品をチェックして発注するレベルだったが、それでもやはりやりがいを感じ、高校2年の冬休みは全てダイエーのアルバイトに費やした程だ。そんな矢先に重大なミスを起こす。明日特売予定のネピアトイレットペーパーの在庫が少なくなっていたので普段は20個ぐらいの発注なのだが特売という事もあって100個発注する事にした。しかし!なんと!間違って1000個発注してしまう。
ストックに届く、見た事の無いトイレットペーパーの数。背筋が凍る。マネージャーも驚愕。しかし今日はたまたまフロア主任が休みの日。マネージャーが落ち込む松原を励ます。「じゃー1000個売ろう!」スゴイ発想であり、考えた事も無かった1000個のトイレットペーパー。しかし売るしかないので必死に朝の開店から閉店までフルに働き(確かMAXで働く時間が定められていて、その時間からは時給の発生しない労働)800個近いトイレットペーパーを販売した。もちろんあの手、この手を使って販売した。最後は泣き落としもしまくった。配送代は松原負担で交渉してケースで買ってくれた心優しいおばさんまで登場した。この販売個数はダイエー史上記録した事の無い数字の様でマネージャーも大喜びしていた。そして翌日フロア主任が出勤して来て、この数字を目にする。驚きのあまりマネージャーに問い合わせる。するとマネージャーは松原の為だと思い、「この発注は松原が行ったんですが、彼は鋭い販売の嗅覚があるようです。まさか800個も販売するとは…」と言い放ったのだ。もちろん松原の株は上がり、次に売れる商品は何か?と聞かれるようになった。「違うんです!間違えて発注したんです!」とは言えず、主任に次の特売商品を選ぶ相談を受ける様になる。それが何故かある程度当たってしまい最初にトイレットペーパーを当てた事からペーパーレジェンドというあだ名まで付くぐらいチヤホヤされる存在となる。
そしてその付けられたアダ名がアダとなる日がやってくる。明日はネピアトイレットペーパーが特売商品。発注数を聞かれ「300」と答えると主任が「前回800売ったのに気が小さい事、言うなよ」とけしかけられる。気の大きくなった松原は「そうっすね!900っすね!」と答えてしまう。そして案の定、大量に売れ残り大目玉を喰らう。ストックに大量に積まれたいつぞやの光景。トイレットペーパーなのに水に流してもらえなかったトラウマは今も便所に入る度、松原を苦しめる。