※読者の皆様へ。前回の正式タイトルがCULTURES' BackPacker vol.15「音楽稼業七変化番外編〜音楽作家編〜」と記載がありましたが、正しくはCULTURES' BackPacker vol.15「音楽稼業七変化〜音楽作家編〜」 です。(*編集部注:訂正済)
すっかり6月らしい空模様と空気になりました。イギリスからやってきた三味線の弟子に「今日はじめじめするね〜」と言うと、「jime jime?どう言う意味?」と聞かれたので、湿気がすごいってことだよ〜と教えてあげました。日本には独特のオノマトペがたくさんあって、普段何気なく使ってるそれらに疑問を持たれることで、音や表現が本当に豊かな文化圏であることを思い知らされます。
楽器が表す効果音や雰囲気を彩る音の膜/幕とはまた異なる、言葉や音声、それらを束ねて織りなす"歌"は、やはり楽器では奏でることのできない何かを宿していると考えます。
今月はそんな"歌"の楽しさを噛み締めたあたしの、音楽稼業七変化をご紹介です。
もちろん、歌や音声などを発する人間の肉体的限界を超えてあらゆる音を奏でることができる楽器は世の中にたくさん存在します。それらは日々アップデートされ、さらには新たな楽器の誕生に向けて各国の精鋭たちが熱を注がれており、その魅力を発信するミュージシャンたちが軽やかで大胆、艶やかでスマート、などそんな心ときめく演奏をすることでユーザー、リスナーが広がっていくのではないでしょうか。
津軽三味線という楽器に出会い、入門から数年後に本格的に触り始めてから25年が経とうとするあたしですが、楽器やミュージシャンの魅力に取り憑かれ、様々な音表現の可能性やロマンを信じ、CHiLi GiRLは展開豊かな音楽を作れているのだと自負しています。
楽器というものの魅力は十二分に知っているからこそ、歌の凄さも解るのです。
歌は、リスナーへダイレクトに情景や心情、パワーや勇気を与えます。それから泣きたい時に寄り添ってもくれるし、開き直って前進するために背中を押してくれる、悪いことを教えてくれることだってあります。
シンプルに描写する歌も好きです。無理に訴えかけようとはせず、その言葉やメロディ、音声の質感が油画の絵の具のように、ビートやコードのキャンバスに乗っていく様もとても心地が良いのです。
あたしは元々歌は上手い方でしたが、よりプロ思考に視点を変えて、自然と勉強し始めたのはおそらく20歳を過ぎた頃。
東京藝大で長唄三味線専攻の副科目として「長唄(歌唱)」や能楽の「謡(うたい)」を勉強していた頃に、発声法の他にも、きちんと単語や文章を届けるための息継ぎや発音、メロディラインとは異なるニュアンスの付け方などを勉強しました。
それを学ぶと好きな音楽をより明瞭に、深く深く感じることが出来、ジャズやソウル、R&B、大好きな渋谷系を歌うにも、はたまた提供する楽曲としてアイドル歌唱や演歌、ロックなどの考察しディレクションするにも役立っているのは間違いありません。
あたしはボイトレに通ったことはなく、東京藝大時代の科目と、今でも石川きよ美師匠に習っている民謡歌唱をベースに、言葉を届けることに注力しながらポップス歌唱は独学で知見を得てきました。
これは今後のコラムや何らかインタビューにも登場すると思いますが、いつもあたしは、大成功例と大失敗例を比較する癖があります。素晴らしい歌には言葉で表現できない何かがあり、でもその理由を探る眼を養ってきましたし、逆に大失敗、すなわち歯に絹着せず言えば他人に届きにくい自己陶酔した酷い歌は明らかに何が悪いかは分析ができるので、良し悪しを常に観察、分析し続けてきたことで独学が成立したのだと思います。
そのことを最近友人に伝えたら、野村克也監督の言葉に「勝ちに不思議の勝ちあれど、負けに不思議の負け無し」という言葉があることを、つい最近教えてもらいました。
そうやって歌が大好きで、楽器と同じくらいの分量でパフォーマンスをしたくて、観察、分析、そして修正を繰り返してきて、かつて20歳頃に言われた
「三味線は日本一の実力だろうけど、歌は(それに追いついておらず)微妙」
の言葉を、今なら打ち返せる気がします。笑
CHiLi GiRLになってから、より自分の歌唱や歌詞について見つめることが多くなりました。今では「声が好き」「歌がうまい」「逆に何で、どんな経緯で三味線を持っているの?」と、プレイヤーからシンガーソングライターへと完全に逆転する場も増え、今にも浮かれてしまいそうな言葉をかけて頂くことが増えました。
とはいえ、分析癖は趣味であり武器なので、今後もあたしの歌に乞うご期待のほど、お願いいたします。
そこで、最近のシンガーワークスとしてぜひ紹介したいプロジェクトがあります!
ELECTRIC FOUNDATION
日立の名門Studio CHAPTER H[aus]のオーナー兼エンジニア・樫村治延と川嶋志乃舞(CHiLi GiRL)のエレクトロプロジェクト。樫村がエンジニア業務を手がける傍ら作り続けている"自分の好きな音楽"の数あるストックから、川嶋による牧歌的ながらも無機質な世界観を纏った英詞が乗り、幻想的かつ電子的、浮遊感と心身に響くサウンドが魅力のユニット。
間も無く、初となるリリースはシューゲイザーの名門企画「Total Feedback 2024」に収録される「Neo Suburbia」。(2024.6.26 発売)
◆公式トレーラームービー https://youtu.be/s9E88q3TMBY?si=V4Z3LjevUctCqgx4
◆購入予約
https://diskunion.net/jp/ct/detail/1008838718
また当楽曲のほか、FM川越にて第2,4水曜日 23:30-24:00放送「MUSIC TRANSLATION」にて、
・cinema template
・peel feel
の、表情の異なる軽やかでエキサイティングな楽曲も放送中。現在これら未リリース曲を聴けるのはこの番組だけ!要チェック!
FM川越 公式HP https://radiokawagoe.com/program/
【樫村治延 - かしむら はるのぶ】
STUDIO CHAPTER H[aus](スタジオチャプターハウス)代表
レコーディングエンジニア・サウンドクリエーター
Whirlpool Records/brittford主宰
専門学校非常勤講師、音楽雑誌ライターとしても活動
全国流通レベルのレコーディング、ミックス、マスタリング、楽曲制作を年間平均250曲以上手掛ける
スタジオについての詳細は http://www.chapter-trax.com/ をご覧ください
▶︎ CHAPTER H[aus]エンジニア 樫村治延の セルフRECはプロRECを越えられるか?
https://www.jungle.ne.jp/serial_post/chapter-haus-75/
2024.6.10
川嶋志乃舞( CHiLi GiRL ) 著