CHAPTER H[aus]エンジニア樫村治延の セルフRECはプロRECを越えられるか? 第 98回
今回取り上げるのは、イギリスのスタジオ用スピーカーの超ハイエンドブランド「PMC」です。
元々は1991年にイギリス国営放送BBCから派生したブランドであり、BBCを始めイギリス最大手のレコーディングスタジオ「メトロポリタンスタジオ」にも導入されるなど、輝かしい実績を誇ります。
実績、実力ともに段違いで、他高級ブランドの追従を許さないPMCが、30年以上の歴史の中で初めてブランド名を冠したニューモデル「PMC6」をリリースしました。
私が今までいろいろな高級スピーカーを聴いてきた中で、一番リアルでワイドレンジ、スーパーフラットだと確信したスピーカーです。
それなりのランクのスピーカースタンド、インシュレーター、スピーカーケーブル、そして電源ケーブルで周辺を固めると、スウィートスポットが広くなり、10畳以上の部屋であれば、リスニングポジションをいろいろ変えても印象が変わりません。
その他にもデジタル入力があるだけでなく、縦置き/横置きの自動DSP補正機能、マルチチャンネル/イマーシブシステムでの吊り下げが可能なシーリングマウントヨークなど、魅力的な特徴を数々兼ね備えています。
好みの問題はあれど、将来本職でやっていきたいと思う方にはうってつけのスピーカーだと思います。
【大学生バンドのセルフREC】
95回で少し触れたマスタリングについて、いよいよ具体化していきます。
この20年で、プラグインを中心にアウトボードなども、マスタリング専用ツールが発展、進化してきました。
ただ、パソコンにデータを出し入れしただけで音質が変型するのは相変わらずで、変形を防ぐためにも出来れば信頼できるハードウエアで作業したいところです。
また、マスタリングの全工程については「真にフラット、かつワイドレンジ」なスピーカーで作業するのが本来の在り方です。ヘッドフォンだけでは限界があります。
下に示したのは、一つの理想形です。
この図を見ると、一般的なミュージシャンからするとかなり圧倒されてしまうのではと思います。
ただし(95回でも取り上げているように)マスタリングという行為は、昔も今も相当な職人技が要求されるので、これがいわゆる出発点であると考えています。
【今月のMV】Porcho 「Something Strange」
https://www.youtube.com/watch?v=WPG4BRVALWw
全世代のブラックミュージック、90年代のミクスチャー、2000年代のオルタナティブロックがセンシティブに融合した、2020年代における真のフューチャーロック決定版。
【今月のちょいレア】Audix CX112B
隠れた名品CX111の後継モデル。自然に半歩前になる音像の在り方が、他にありそうでない個性派マイクだ。下手なEQやコンプは不要かも。(生産完了品)
【樫村 治延(かしむら はるのぶ)】
STUDIO CHAPTER H[aus](スタジオチャプターハウス)代表
レコーディングエンジニア・サウンドクリエーター
Whirlpool Records/brittford主宰
専門学校非常勤講師、音楽雑誌ライターとしても活動
全国流通レベルのレコーディング、ミックス、マスタリング、楽曲制作を年間平均250曲以上手掛ける
スタジオについての詳細は http://www.chapter-trax.com/ をご覧ください
当スタジオで制作されたアーティスト作品の一部をご紹介します
THE Rick'n'roller 「Your dreams make me happy」
80年代青春パンクやR&Rがベースにありそうな、宮城在住ロックバンドのミニアルバム。ボーカルの倍音が豊かな声質が、一聴して脳裏に焼き付く。楽曲のバリエーションの豊かさも魅力の一つ。当スタジオではマスタリングを担当。
TRIPLETOPS「The Sounds」
茨城出身のガールズ・ユニットTRIPLETOPSの、約5年半にわたる活動の総集編となるフルアルバム。ブリットポップ、フューチャーEDM、ネオエレクトロニカ、ポストシューゲイザーといったオリジナリティーあふれる楽曲が満載の一枚。
ZERo「Beat Boutique」
ネオR&Bの定番を少し外した、大人のポップチューン。従来のZERo氏の楽曲とは一線を画する、新機軸となりそうな一曲。当スタジオでは楽曲提供、レコーディング全般を担当。
of Tropioque 「Buster Goes West」
ニューオーリンズ系バレルハウスサウンドが根幹にある、ルーツミュージックバンドのアナログ盤。年齢年代を問わず、USAエッセンスを楽しむことができる。今作は米国ワシントンD.C.にあるインディーレーベルElectric Cowbell Records からのリリース。
とりいそぎ「彼方の海にあなたを見たわ」
従来のポップスサウンドに、大胆なオーケストレーションをミックスアップさせた超意欲作。メンバー全員が音大出身というキャリアを、今までの彼らのどの楽曲よりもよく感じ取ることができる。