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CHAPTER H[aus]エンジニア 樫村治延の セルフRECはプロRECを越えられるか? 第44回

【dbxシリーズ第4弾】
今回取り上げるのは、2000年初頭にdbxが満を持してリリースしたデジタルマルチダイナミックプロセッサーQuantumです。
【表面】

【裏面】

Quantumは「デジタルマルチバンドコンプ」「シングルコンプ」「EQ」「Normalize」といった機能を備えた、いわゆるマスタリング用のアウトボードです。
当時プラグインとしてリリースされていたマキシマイザーやマルチバンドコンプと比較しても、相手にならないくらいのクオリティーを保っていました。

また、ハードウエアのライバル機種としてはT.C.electronic Finalizer96kや、Forcusrite MixMaster、そしてタイプは異なりますがWAVES L2(ハードウエア)などが挙げられ、Quantumと比較検討されていました。

【T.C.electronic Finalizer96k】

【WAVES L2】

この時代のアウトボードは、アナログ、デジタルのインプットとアウトプットの使い勝手の良さが秀逸です。例えばエントリーモデルのオーディオインターフェイスとつないで使用しても、かなりの威力を発揮します。

2018年8月現在、上記に挙げたようなアウトボードの現行機種はほとんどなく、中古で探すしかない状況です。レアで状態の良い物はなかなか入手困難ではありますが、Quantumでしたら3万円台(発売当時18万8千円)、Forcusrite MixMasterが5万円前後、Finalizer96kは6~8万円(発売当時30万円前半)、WAVE L2は10万以上といったところでしょうか。

QuantumとFinalizer96kを比較すると、音のレンジとワイドさはFinalizer96kが、ノーマライズでの音圧の上り具合はQuantumがやや勝っていると感じます。

DAコンバーターとワードクロックに関しては、個人的にQuantumの方が好みです。特にパンク、メタル、オルタナ、グランジ、シューゲイザー系に合うと思います。

マキシマイザー、マルチバンドコンプ系のプラグインは、この10年で相当の進化を遂げていますが、最新プラグインと2000年初頭のアウトボードを比較しても、ほとんどの面で10数年前のアウトボードに軍配が上がります。
アウトボードならではの「ガシッとした感じ」、音像の面積、体積がよりナチュラルに広がる感じは、実機を体験していただかないとわからないのですが、気になる方はぜひ手に入れて検証してみてください。

Quantumの進化系、QuantumⅡというモデルも2005年くらい?にリリースされていました。こちらもたまに、中古で3万円後半くらいで目にします。


【大学生バンドのセルフREC】
録りもいよいよ終盤、数曲のコーラス録り、Key録り、ソロも含むリードギター録りを残すだけになった。全部のパートを録り終わりミックスに取り掛かれる曲もあるのだが、残っているパートを録り進めたのちに、ミックスを同時進行で行うことにした。

今回は【4つ打ちダンスロック】のキーボード録り。
定番の音色(ピアノ、オルガン、エレピ、ストリングス、クラビネットなど)ではなく、アナログシンセのリフ2音色を、Bメロとサビに入れることにした。
【使用シンセ:Roland JD-XA】

打ち込みで同期パートに入れてもよさそうなパートなのだが、アナログシンセ特有の「音色の時間変化に伴う予測不可能な効果」を狙うため、あえて手弾きにした。

Bメロ①アナログシンセのフィルターがかかったリード系音色のリフ。弾く強さによって音色が目まぐるしく変わり、打ち込みでは実現しにくい偶発的なサウンドが期待できる。
弾いてみると音色の変化は良いがリズムがイマイチ。音色のうねり具合を調節し、2テイク目。
3テイク目でOK。音色の波形を少しエディットし、2Bと3Bにもコピペした。3Bは最後2小節のコードが変わるので、ここのみパンチインで対応。

サビは、音色は同じだがリズムのシンコペーションが間違いを引き起こしやすい。テイクを重ねるたびシンコペーションには慣れてきたが、それでもつまづく。なんとかOKのでたテイクをエディットし、2サビ3サビにコピペ。3サビは2回しあり、アウトロ前の2小節は違うコードなのでここはパンチイン。

次にモジュレーションのかかったシンセブラスのリフ。サビのみに使う音色だ。シンコペーションに左右されないフレーズなので比較的大丈夫かも。数テイクを録って、とりあえずOKに。それぞれのサビのフレーズが少しずつ違うのでコピペは使えない。順調に録音を進めていくが、急にアウトロにもブラスの音色を入れることになる。いきなりだったので間違いも多いが、やはりこのフレーズをアウトロにも入れた方が効果的だと意見が合致し、テイクを重ねることにした。間違った箇所をパンチインしたり、音色のうねりがつながらない箇所は通して弾きなおして、キーボードを録り終えた。
これで【4つ打ちダンスロック】は全パート録音を終えることができた。



【今月のMV】The Echo Dek 「Sister On The Family Bed」

PHOENIXにも通じる、フレンチダンスロックのキラーチューン。近々新作音源をリリース予定、今後の活躍が期待できる。



【今月のちょいレア】T.C.electronic 2240

2chのプリアンプ&EQの名機。2Mixを通して音作りが劇的に改善出来る、高品位な逸品。


 
【樫村 治延(かしむら はるのぶ)】
STUDIO CHAPTER H[aus](スタジオチャプターハウス)代表・レコーディングエンジニア・サウンドクリエーターWhirlpool Records/brittford主宰。専門学校非常勤講師、音楽雑誌ライターとしても活動。
全国流通レベルのレコーディング、ミックス、マスタリング、楽曲制作を年間平均250曲以上手掛ける。
スタジオについての詳細は http://www.chapter-trax.com/ をご覧ください。

当スタジオで一貫して制作されたアーティスト作品の一部をご紹介します。
エンジニアといたしましては、webや動画ではなく是非「CDで」音質をチェックしてほしい!!!

GREEN EYED MONSTER 「 1minute match 」


スペインをはじめとするヨーロッパツアーを敢行する、メロコアバンドのミニアルバム。最近では少数派になってきた硬派なパンク精神が、サウンド全体から感じ取れる。
   
music makes me... 「 ひかりを描きつけるもの 」

ネオアコ、ソフトロック、アノラック、スウェデッシュポップの有機的なエッセンスが堪能できる名盤。ポップスの真髄が凝縮されている。

CHIERI SUZUKI 「 - TONE 002 – 」


ネオフュージョン、映画音楽、ヒーリングミュージックあたりにカテゴライズできる、ファンタスティッ
クなインストゥルメンタルの決定盤。前作よりもブラッシュアップされた内容にも注目。

いこち 「 化物屋敷に灯が点る 」


ニューハーフVo.蠍ちか子率いるR&Rバンドの自信作。オーストラリアツアーも敢行経験あ
り、グローバル感覚みなぎる作品だ。全国発売中。

スキャナーズ 「 世界の裏側 」

R&Rの大御所との対バンも数多くこなす、スリーピースバンドのアルバム。コミカルな歌詞と
独自のボイスの絡みが耳から離れない。

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