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CHAPTER H[aus]エンジニア 樫村治延の セルフRECはプロRECを越えられるか? 第97回

CHAPTER H[aus]エンジニア樫村治延の セルフRECはプロRECを越えられるか? 97


<特集アーティスト>

「ハイブリッド」なスタイルを強みに突き進むYU-DAIの音楽観

YU-DAI

Human Beat Boxer・MCとしてキャリアを重ね、これまで4枚のアルバム、2枚のEP、12インチシングルをリリース。

昨今はトラックメイカー・エンジニアとしても頭角を表し、年間400曲以上の楽曲提供・スタジオセッションをこなす。

特にヴォーカル、ラップ、ヒューマンビートボックス、外画吹替、ナレーション、家電音声等、声に関するレコーディング・整音技術には定評がある。

「作る」「歌う」「整える」全てを一貫して自ら行うからこそ生まれる感情的でも計算されたサウンドメイクは、類い稀なスタイルを確立している。


1. 音楽活動を始めたきっかけ

両親の影響もあり、幼少期から音楽が好きで沢山の音楽を聴いていましたが、The RootsのRahzelやAFRAさん、The Gospellersの酒井雄二さんの影響もあり12歳の時にヒューマンビートボックスを本格的に始め、

同時にMTRやMICも買い始めたので、アーティストとしてもエンジニアとしてもその時点から音楽活動にのめりこむようになっていきました。

2. 国内外の音楽シーンは、今後どうなっていくと思いますか

日本の音楽シーンに限定すれば、今までにあったムーブメントがアップデートされながら繰り返していくと思います。

具体例で言えば、80年代には沢山のアイドルが誕生。

90年代になるとR&Bやパワーポップス等音楽自体が進化した楽曲が流行り、2000年代もまた沢山のアイドルが生まれ、2010年前後はケロケロボイスにEDM、ポップスもコードがより複雑になり音楽自体が変化していきました。

今後も「アイドル時代」→「音楽自体の革命時代」という流れを音響技術の進化と共に10年周期で繰り返すと思います。

今までと大きく異なる点があるとすれば、影響を受ける「国」ではないでしょうか。

今までは曲調もサウンド面もUS(特に西海岸)やUKで起きているムーブメントを輸入してきたように見受けられますが、これからは韓国をはじめ、アジア圏の音楽からも影響を受けていきそうですね。

また、競争も激化すると思います。

昔はアーティストが作品を発信する方法は、レコード会社を介して作品をリリースするか、個人で何枚もカセットテープやCD-Rをコピーして手売りするかしかありませんでしたが、今は誰もが全世界に配信各社からいつでも手軽にリリースすることができるようになりました。

しかも買うだけでなく、"サブスクリプション"とか"リース"とかそんな方法でも。

いわゆる”有名"と言われている人達以外にも、国内外問わず優れた才能を持ち、最高峰の音楽を演奏・制作するアーティストは沢山いるはずなので、個人の才能を自由に発信できる昨今は、世界中のアーティストにとってチャンスであり、新たなジャンルや、未体験の感動的な音楽がどんどん生まれる可能性を秘めた音楽シーンになっていくと思います。

ただ、その分間口が広がった事で絶対数が増え、競争率は激化しますので、注目される存在になる為には、

より秀でたアプローチや技術がアーティスト本人だけでなく、プロデューサーやエンジニア等の製作チームにも求められていくのではないでしょうか。

3. 今後の展望

"ハイブリッドな音楽家”になる事です。

昔は1曲を作る毎に、作曲家、作詞家、アレンジャー、エンジニアもレコーディングエンジニア、ミキサー、マスタリングエンジニア、と沢山の人が関わる必要があり、制作に際しかなりの人件費やスケジューリングが必要でした。

でも昨今、制作予算が10年前、20年前に比べ大幅に減少している為、様々な技術を身につけているマルチプレイヤーが勝ち上がると思います。

例えば、REC, MIX, MASTER, 3人のエンジニアに5万円ずつ払うのであれば、8万円で全行程をFIXしてくれるエンジニアが1人いればクライアントの予算とエンジニア側の売上はWIN WINですし、スケジューリングも円滑になり、データの移動が不要な為、時間的なロスや送信時のヒューマンエラーも防げます。

また、機材の進化により作家自身がある程度のレベルまで家で仕上げることができるので、「この曲はMIXからお願い」とか、「この曲はマスタリングだけ」のように、あらゆる角度からの注文に対しマルチに対応できれば、クライアントから間違いなく重宝されます。

僕の例はレコーディングからマスタリングまで全てを行うことができますし、トラックメイクもしますし、スクラッチもコーラスも依頼があれば対応します。

このような話をすると必ず抱かれる懸念が「一つ一つのクオリティは大丈夫?」というお話ですが、それはもう努力するしかないですよね(笑)。僕も自信はあります。

また、僕は音楽制作に「Logic」は必要だけど「How to」は不要だと思ってます。

コード理論や音声に対する数学的な理論はしっかりおさえつつも、理屈にとらわれず直感や衝動、芸術観を大切に音楽と向き合っていきたいので、そういった考え方の面でも「エンジニア的思考」と「アーティスト的思考」を持つ、”ハイブリッドな音楽家”でいたいです。

T.H.P Official Webhttp://thp.main.jp

Instagramhttps://www.instagram.com/yudaibeat/

Twitterhttps://twitter.com/YUDAI_Beatbox

MV : https://youtu.be/MhtrQNrD7FY


【最新作】

2022.12.28 発売 

Not A Hustler 

 

発売元:ULTRA-VYBE, INC.

レーベル:T.H.P

配信:iTunes, AppleMusic, Spotify, LINE MUSIC, AWA, レコチョク etc...配信各社より絶賛発売中


【今月のMV307.temporary named)「You Are Not Mine

https://www.youtube.com/watch?v=3jmJdOtcQqY

“THE 1975 meets Autotune”といったキーワードがピッタリな、International感覚あふれるMV。

もろ洋楽チックな楽曲と、映像とのマッチングが素晴らしい。


【今月のちょいレア】TASCAM TM-180

 

プロ音響ブランドTASCAMが放つコンデンサーマイクの雄。

上位機種TM-280よりダイナミックマイク寄りで、「ガッツのあるコンデンサーマイク」とでも言うべきだろうか。現在は生産終了だが、状態の良い中古なら1万円ちょいで手に入ることも。


【樫村 治延(かしむら はるのぶ)】

STUDIO CHAPTER H[aus](スタジオチャプターハウス)代表

レコーディングエンジニア・サウンドクリエーター

Whirlpool Records/brittford主宰

専門学校非常勤講師、音楽雑誌ライターとしても活動

全国流通レベルのレコーディング、ミックス、マスタリング、楽曲制作を年間平均250曲以上手掛ける

スタジオについての詳細は http://www.chapter-trax.com/ をご覧ください

当スタジオで制作されたアーティスト作品の一部をご紹介します


 

CusperThe View From Above

Red House Painter のようなスローコア、サッドコアを軸に、オルタナティブロックまで幅広く表現された精神性の深いアルバム。帰国子女であるVo.Hamamoto氏の英詞と声音の絡みが絶妙。


 

307.(temporary named)Prologue

メロコア、オルタナ、パワーポップ、ギターポップなどがバランスよく組み込まれたミニアルバム。Blink182やTHE 1975あたりが好きな人に特に聴いてほしい。


 PorcoHONEY MUSTARD HOT DOG

ネオファンク、フューチャーオルタナといった2020年代洋楽サウンドを独自の世界観で表現するバンドのフルアルバム。国内外問わず、カルチャームーブメントが波及する可能性大。特にUS好きにおすすめしたい。


 

YU-DAI Not A Hustler

NYに渡米経験のあるYU-DAI氏のシングル。Hip Hop、トラップ、R&Bをベースに、多岐にわたるクラブミュージックの神髄を追求、表現するのみならず、常にOne & Only的存在を目指す姿勢に好感が持てる。


 

A’ monster「真理」

80~90年代国内ポップロックの系譜を推進しているシングル。以前のバンド形態からの流れも汲みつつ、現在進行形のサウンドが体感できる。

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