音楽メディア・フリーマガジン

松江でちょっと考えたの巻

読者の皆様にはナンの関係もない話でございますが、前回でジャングルライフの担当みかりんが退社されてしまったのであります。いきなり。びっくりしたなあもう。このグズグズした連載をああだこうだと支えてくれてありがとうね、みかりん。まあみかりんは去ってもまだ連載は続けることができるみたいですけども。

最近、一時期は減っていた出張というものが徐々に又増えてきて、嬉しい限りでございます。出張好きなもんで。いろんな場所に行っていろんな人に会っていろんな食べ物やレコードも買えたりする出張!素晴らしい出張!
もちろん仕事もするけどさ(笑)。

先日は松江というところに行きました。松江市の美術館の庭で行われたコンテストの審査員をして欲しいとのことで。島根県って10年以上前に出雲で仕事をしたことがあるくらいでほとんど何も知らない。だからまあ逆に楽しみではあったんですけどね。
出雲空港から出迎えの人と落ち合い、某レコード会社の女性と3人空港沿いの道を車で移動。そしたら宍道湖が見えてきて。事前に島根のあれこれをネットで調べてはいたものの、初めて見る宍道湖の風景にちょっと感動しましたね。そりゃ大きさは琵琶湖なんかよりずっと小さいんだけれども、あの対岸がバッチリ見える感じ、いいよなあ。出迎えの方にいろいろ質問をしたんだけどね、宍道湖というのは遠浅で深くても5,6メートルしかない。岸から大分奥のほうに行っても足のつく深さなんだとか。別に泳ぐわけでもないので、あまり役に立たないんだけど、そういう情報も嬉しい。
30分ほど走って会場の美術館に到着したんだけども、これがまた出来たばかりの綺麗な美術館で。生憎仕事なので美術館で行われている展覧会なんかは見れなかったんだけどね、夕日が綺麗だったら美術館のロビー全体がオレンジ色になるんだとか。カップルや女性同士のお客さんが大勢いらっしゃってましたね。
本来の仕事であるコンテストはつつがなく終わり、夜は出演者や主催者の皆さんと地元の居酒屋でお酒も入りながらお食事。地元で音楽をするということ、についてあれこれと教えていただきましたよ。こういうその土地その土地でバンドや弾き語りをしている人達と話すのはとても勉強になります、ホントに。この日の出演者は30歳以上の方がほとんど。しかも松江からだけでなく、岡山や広島や山口なんかからも参加した、いわゆる山陽山陰地方の地元に密着して、別に音楽で食って行こうとかそういうことではなく日々生活をしつつ楽しみで音楽活動をしていらっしゃる方々が集まっていました。
自分の仕事がレコード会社の新人ミュージシャンを見つける担当ということもあって、以前ならそういう地方の自分より年上だったりもする人たちに会って話すのはまあ付き合いだよなあ、なんていう気持ちで参加してましたが最近はちょっと心持ちが違うのね。自分が歳をとってきたから? というのもあるだろうけど、自分の周りの現状を考えるともっと積極的に様々な場所の人の話を聞いておこうとか思うようになっているんですよ。
よく東京を離れた地方で車に乗せてもらって(免許持っていないので)郊外の道をドライブしてたりすると、本当に日本はこれで大丈夫なのか? と思う。どこに行っても風景が一緒。カラオケ、コンビニ、大きなショッピングモール、ホームセンター、ファミリーレストラン、千葉でも青森でも群馬でも滋賀でも宮城でもどこでもいっしょ。代わり映えなし。
そんな代わり映えのない国道沿いを持つ街の、その場その場に住む人たちは果たしてどんな考えで生きているのか!? まあそんな大それた話ではないですけど、人はその土地その土地で違うわけで、話してみてようやくその土地の持つ状況が見えてくるんだよなあ。人と接しないとホントにわかんなくなりつつあるんですよね。
今回もそうでしたが、昨今いろんな場所の人と話してみて痛感するのは東京の状況や送り出される状況はほとんどカットされてしまっているんだな、ということ。僕らが東京に住んで当たり前のように享受されているものや情報が地方の人たちにとってはほとんど未知のものになっているんですよ。東京の僕らにとって宍道湖の水深が何メートルか、なんてことはほとんどの人にとって関係のない情報なんだけど、僕らが送り出してる「これが今後のキモ! 」っていう情報も同じように地方の人にとって関係のないものになっているんですよね。この状況を打破しよう! なんて大それたことはなかなか難しいけどね、知っておく必要が絶対ある。そのために話す必要があるなあ、と思ってます。
松江では様々な年代のミュージシャンや関係者の方々と話しましたが、もはや年齢関係なく新しいものや流れを知らない。好き嫌いじゃなくそれが重要ではない。自分がそれまでで知り得たものが全て。やってる側がそうだから聴く側も推して知るべし。
もちろんその土地その土地で「そんなことはないよ! 」というミュージシャンやイベントを行っている人もいるでしょう。地元で頑張っているたくさんの人を僕も知ってる。そういう人を応援もしたい。でもさ、その人たちがこんなものもあるよ!とオススメしている新しいミュージシャンや新しい潮流を見るべきなのは多くの、それまで体験したことがないような人たちであったほうがいいじゃないですか? でもそれが難しくなってきていることを痛感してしまうのですよ。
よく「これからはライヴありきだよね。全国回ってさ。メディアの情報なんてアテにならなくなってるし。CDも売れなくなったしさ。」なんて意見を目にしますが、あのー、きっとそのライヴツアーで借金負うよ。だって知らないミュージシャンを見よう、なんて人がどんどん地方は少なくなっているんだから。そんなに甘いもんじゃない。そのライヴツアーのためになんらかの情報出しがやっぱり必要になって、それは地方の場合やはりまだメディアの情報が一番有効だったりするんだなあ。ネットが、とかいいますが、地方でわざわざ未知の音楽の情報をもっと!なんてネットで調べる奇特な人が何人いるのか。ネットは知ってるものをさらに知るためのツールなのです、一般的には。
まー厳しいことを書いたりしてますが、出張での旅先の会話はその厳しいことを痛感する旅ですよ。
で、松江で一泊して次の日。僕を東京から呼んでくださった昨夜のコンテスト主催の方が車を出して松江近辺の名所をあちこち見せてくださいました。同行のレコード会社女性のお願いで山の中にある松江の観光スポット、八重垣神社というところにいったんですよ。八重垣神社、ネットで検索していただくとおわかりの通り松江の縁結びスポットとして有名なところ。車じゃないと絶対行けない場所なんですけど、本当にたくさんの観光客が訪れていて。そのほとんどが女性同士のグループ。びっくりした。
その八重垣神社で最も有名なのは鏡の池っていう、紙に10円玉や100円玉を乗せて早く沈んだら願い事が叶うという占いをする場所なんですけど、ここも占い待ちの女性が一杯でしばらく待たないといけなかったほど(一応やってみるのね、オレも・笑)。
松江の街に流れる川を使って行われている観光遊覧船も見学。街の間を縫って流れる堀川を使った遊覧船巡りは97年に始まったそうで、これも待ちの人がいっぱいいらっしゃいましたね。
あと玉造温泉という温泉街の中にある玉作湯神社という神社にも行った。ここも「願い石」「叶え石」という縁結びのスポットらしいんだけどね、現地の人によると、人気が出たのは近年で、以前は全く人が来ないような場所だった、と。そこにも八重垣神社同様女性のお客さん達がいっぱい。
そんな縁結びスポットや遊覧船を見て回っていてなるほどなあ、という気持ちになりましたわ。こと自分が関わっている音楽をめぐるあれこれは不況でCDが売れません、とかいろいろ景気の悪い話でいっぱいですけど、ここには東京や大阪や福岡からわざわざやって来る人(しかも女性同士)でいっぱい。八重垣神社や松江城のような昔からのスポットだけじゃなくて、ここ10数年で出来たものもたくさんあって、ちょっとしたイベントのようなものがそれぞれにあって、それがまた賑わっている。各所で配られている観光パンフレットも女性を意識したかわいらしいデザインで手にとりやすい。
昨夜はそのまま店に入ったのであまり見ていなかった街をあらためて見てみれば、国道沿いはまあほかの地方と同じような感じでしたが、地方の街中によくありがちのシャッター通りのような寂しさがあまりない街でしたね、松江。人は少ないけど動いている街でした。
空港に向かう帰りの車中でぼんやりと、不況ってあんまり理由にならないんだなあ、なんて思いましたわ。単にCDが売れてません、音楽が危機、なんていうのはたぶん音楽を巡る状況が多くの人が思っていることとずれてしまっているからかもな、なんて。いや、ネットで不法にダウンロードしちゃっててーとかそういう理由もあるかもしれませんよ、知らんけどさ、でもそんな理由をあれこれ並べ立てるよりも、もう一度全体で環境を見直して、リスナーが喜ぶ些細なことを用意することで音楽を巡るあれこれももう少しだけマシになるかもなあと思いましたよ。
ほんの小さなイベントやちょっとした気配りで賑わうんだもん、人間って。大きな玉(願い石)に小さな石をくっつけて(叶え石)願い事を紙に書いて石と紙を袋にしまって持って帰る、そんな些細なイベントで人が全く来ない神社に人が来るようになるんだもん。

些細な部分をバッサリと切っちゃうと外した時に大きな痛手を受ける。その痛手が今の地方での音楽の捉えられ方だと思ったりね。

そんなことを思った松江旅行、おっと、松江出張なのでございました。

松江でお世話になった皆様、だんだん(ありがとう)

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