親しい友人たちによると、 最近私は良い感じに酒がまわってくると、「思い出が足りない」 と言い出すらしい。
当の本人はまったく覚えがないため、恐らく無意識的に日頃感じていることが、 ポロっと出てしまっているのだと思う。
それにしても、「思い出が足りない」とは何事か。
毎日それなりに充実しているし、笑顔で過ごしているつもりである。
どんなことも笑い話に変えられる強さだって、そこそこ手に入れた。
しかしその一方で、これも経験、それも良き思い出、と自分に言い聞かせて、すべての出来事に無理矢理かたちを与えてしまう癖もついてしまった。
消化しきれない出来事や、笑えないほど悲しいことも、 本当はたくさんあったはずなのに。
そして、上手くかたちにできない部分にこそ、特別なものが潜んでいたかもしれないのに。
それから私は、何かを取り戻すように、拾い集めるように、 曲を書いた。
そしてひとまず、この“アルバム”に、 そっとしまうことにした。
あの頃のきらめきや、あの時の感情が、 ただの思い出にならないように。
関取花