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ゆーきゃん / ロータリー・ソングズ

富山県生まれ、京都在住のシンガーソングライター。ゆーきゃんの囁くような歌声は、その透明度と小ささの故に、かえってひとの耳を惹きつけてやまない。彼のライヴを観たくるりの岸田繁は心を揺さぶられるあまり直々に打診し、主宰するNOISE McCARTNEY RECORDから“ゆーきゃんwith his best friends”名義でアルバム『sang』をリリースしたほど。『ロータリー・ソングズ』はソロ作品としては7年ぶりのリリースとなる。

“ゆーきゃん”という歌うたいがいる。京都に10年暮らしたのち、東京に2年足らず住んで、また京都に戻った。くるり岸田繁から山本精一まで、多くの音楽家たちが彼のうたを賞賛するが、本人はどこ吹く風。千人の聴衆の前でも、5人足らずのお客さんの前でも、ただもう一心不乱に歌い(ちなみに声はものすごく小さい)、歌い終えた後は実に満足げな顔をしてビールを飲んで笑う。
そんな彼が、7年ぶりにソロアルバムを出す。10/12、ヒップホップやエレクトロニカ、その他ジャンルを問わず個性的なアーティストを輩出しているレーベル・術ノ穴からのリリース。タイトルは『ロータリー・ソングズ』というのだそうだ。
なんでもこの名は、直接的には、彼が東京在住時に在籍したレコードショップの窓から見える高円寺駅のロータリーに由来するということなのだが、その景色について歌った「ファンファーレ#0」という曲から始まり、京都に戻って最初のライブ録音「天使のオード」で終わるという6曲の構成は、それ自体がぐるっと回ってゆく円環=ロータリーのようにも思える。ニック・ドレイクの名盤『ピンク・ムーン』に倣ったというボリュームは30分足らず、絶妙な長さでもう一度リピートしたくなる。
作品に関わった人脈もすばらしい。音楽評論家でエンジニアでもある高橋健太郎は録音・MIX・ギターで参加、キーボードにはエマーソン北村、ベースには元・渚にての田代貴之、そしてコーラスに埋火の見汐麻衣。誰もが、透明で豊かな彼の声をいとおしむように、はぐくむように、音を重ねている。
友人として彼を見続けてきた僕は、ずっとその不遇に苛立ち、心配し続けてきた。が、この作品を前にして、そんな心労は無用になった気がする。彼はこの先も歌い続けるだろう。そして素晴らしいミュージシャンとリスナーが彼を支えるだろう。もうそれだけで世界の片隅はある意味救われているのかもしれない、そんな風にさえ思うのだ。

もうひとりのゆーきゃん

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