2006年奈良で結成。Vo./G.奥野が紡ぎ出す繊細で透明感のある歌とダイナミックなバンドアレンジ、感情溢れるステージで注目を集めるKIDS。2012年3月に1stミニアルバム『LとL』でメジャーデビューを飾った彼らが、今の想いを詰め込んだ2ndミニアルバム『奇跡の奇跡』を完成させた。たくさんの人との出会いと別れの経験は、KIDSを唯一無二のバンドへと昇華させた。これまでの軌跡を大切にしてきた彼らの奇跡は始まったばかり。4人が鳴らす音は夢を現実のものとする。
●KIDSは2006年結成で、まだ若いのにキャリアは6年にもなるんですね。
奥野:そうなんですよ。オリジナルメンバーは僕だけなんですけど、メンバーは加入前にそれぞれ他のバンドをやっていたので、みんなバンド歴は6〜7年くらいになるんです。KIDSは高校2年生のときに、文化祭に出ようというパターンで結成して。
●それが6年も続いているのは?
奥野:何回も辞めようと思ったんですけど、その度に辞められないような出来事があったり、もちろんやっていくうちに音楽が自分の夢になったり、いろいろ理由はありますね。就職しようかなって思ったこともあったんですよ。音楽を真剣にやり始めた頃に音楽で食っていく難しさを知って、そこへ飛び込むよりも音楽は好きなまま趣味でやっておいた方がいいかなと。
●でも真剣にやる道を選んだ。
奥野:17歳のときに結成して、たまたま「ライブハウスに出てみないか」というお誘いをもらってライブハウスデビューして、そこからだんだん真剣になっていったんです。特に何か具体的なきっかけがあったわけじゃないんですが、スタジオでこの4人で音を鳴らした一瞬で“楽しいな。もうちょっと続けたいな”という気持ちがあって、その延長でデビューまで来ることができたんです。デビューしてからは完全に音楽一本という感じです。
●この4人が揃ったのはいつのことなんですか?
奥野:2年前です。植田と片貝が入ってから3年くらいで、その1年後にベースが抜けて藤村が入りました。
片貝:僕はふわっとした夢しかなかったんですよ。ずっと“何かを表現したいな”と思っていて。
●“表現する仕事に就きたい”と。
片貝:そうですね。色々試してみたんです。僕は人と関わることが好きなので、やるなら人と関われることと何かを表現できることっていうのが小さいときから自分の中にあって。最初は教師になろうと思ったんです。子どもたちと触れ合えるのは楽しいと思ったし、授業を組み立てるのもおもしろい。でも音楽というものに出会って、音楽は唯一飽きなかったんです。でもバンドを組んでも上手くいかなかったので音楽は楽しい趣味としてやっておこうと思っていたら、涼に声をかけてもらって。
●先ほど奥野さんがおっしゃいましたが、この4人で音を出したときの感覚が強かったんですね。
奥野:そうですね。それがいちばんの沸点だったというか。“もう音楽しかない!”と強く思ったのは4人が揃ったタイミングですね。
●この4人の共通点は何なんでしょう?
奥野:メンバーは全員がメロコア出身なんですよ。Hi-STANDARD、TOTALFAT、BIGMAMA…その辺はみんなで共有できるところですね。
●KIDSも最初はメロコアだったらしいですね。
奥野:そうなんですよ。地元の奈良にオーバーアクションというバンドが居たり、先輩にBABY SMOKERというバンドが居てよく対バンしていたんです。でもある日のライブのリハで、瞬間的な話なんですけど“メロコアじゃあこの人たちに勝てへん!”と思ったんです。すごく冷静に客観的に。じゃあ何で勝てるのかを考えたときに、昔からKIDSが評価されていたのは曲の切なさだったんです。
●メロコアの時代も切なさはあったんですね。
奥野:パーティー野郎ではなくて、エモっていう感じで。だったら歌詞を日本語にしてみようかなと思ってそういう曲をやってみたら、それが自分にも周りにも大正解だったみたいで。そこで新しく音楽と向き合って、またモチベーションが上がって、改めてバンドでやっていきたいという気持ちが起こりましたね。
●自分に何ができるのかを考えたんですね。
奥野:そうですね。“これはできないし、これはあの人に勝てへん”という消去法で残ったのが日本語の切ない曲だったんです。バンドをやる前からバラードは好きだったし、いちばん響くのはバラードだと思っていたので、日本語にしてみようと。
●ちなみに、この4人の良さは何ですか?
奥野:仲の良さですね。自分たちより仲の良いバンドは見たことがないです。けっこう自慢です。
片貝:フフフ(笑)。
●なに笑ってんねん(笑)。
片貝:照れてるんです!
奥野:僕と藤村は高校が一緒なんですよ。だからずっと一緒に居たし、片貝は本当におもしろくて、後輩だけどすぐに同世代の感覚でタメ口で打ち解けられるような奴だった。植田は同じ時期に違うバンドを組んでいたんですけど、リーダー同士で、植田の家に6泊7日とかしていたくらい…。
●え?
奥野:ずっと隼人の家で遊んで、泊まって、遊んで、泊まって…。そういうこともザラにありましたね。ずっと一緒にいました。泊まりに行くっていうより、半分住んでいる感じ。
●同棲か!
片貝:デキていたんですわ(笑)。
●バンド内恋愛があったと(笑)。
片貝:うちはその辺が寛容なんですよね(笑)。
●ハハハ(笑)。作詞作曲は奥野さんがされていますが、メロコアの頃から切なさやエモさが特徴だった…そういった自分の個性は自覚があるんですか?
奥野:ありますね。これも消去法なんですけど、切ないメロディを作る方が得意というか、逆にみんなで盛り上がってみんなで歌えるメロディが作れなかったんです。これは今も悩みです。
●今も悩みなのか。
奥野:ワッと盛り上がる曲なんて頭にないんです。浮かばないんです。「Yeah!」も「Wow!」もなくて、「Ah〜」っていうコーラスが鳴っているものしか浮かばないから楽しい曲は無理だけど、切なくて痛みのあるメロディを作るのは得意だし、自分が作ったそういうメロディが好きなんですよ。だから、今はそっちを極めようと思っていて。
●曲を作り始めたのはいつ頃なんですか?
奥野:中学生のときにHIP HOPにハマっていて。
●え? 「Yeah」は言えないのに?
奥野:HIP HOPくらい短い「Yeah」は言えるんですよ(笑)。
●なんだそれ(笑)。
奥野:HIP HOPが好きな友達何人かで集まって、サンプラーで適当な音源を持ってきて、「ここからここまでのバースは俺がいくから、ここからはお前な?」っていう風に遊んでいたんです(笑)。
片貝:それかっこよくない? おまえLA出身なん?
●それは極端すぎるやろ(笑)。
奥野:作詞はそこで初めてやりました。作曲はバンドをやり始めてからなので高2ですね。学祭の次のライブハウスデビューのとき、“さすがにオリジナル曲がないとヤバいだろう”と思って作りました。
●どういう感じで曲を作るんですか?
奥野:基本的にアコギで1番だけ作ってみんなに聴かせて、あとはみんなが思いついたアイディアからいいものを1個ずつ採り入れて完成させます。
●最初にアコギで作るとき、どういうものをイメージするんですか?
奥野:今は特にそうなんですけど、どういう作品を作ろうかとイメージして“僕が聴くなら何曲目にこういう曲があってほしいな”ということを考えるんです。そのためには、こういうストーリーがあって、こんな奴とこんな奴がこういうふうに別れて、こんな言葉が生まれてきて、これをサビに持ってきて…という。
●かなり緻密に考えて作るんですね。
奥野:そうですね。7割くらいは失敗してできないんですけど、3割くらいは成功してちょっとずつ新曲ができていくというか。
片貝:知らんかった。
●知らんかったんかい!
片貝:ここまで考えているとは…。
●完成像とかストーリーのイメージを緻密に考えるんですね。
奥野:起承転結は作りたいですね。起承転結のない曲って後味が悪くて嫌というか。“結”だけしっかりしていればストーリーとして成立すると思うので、まずは“結”だけ考えて、そこへ向かう“起承転”は好き勝手にやって。なかなか難しいんですけど。
●今作の曲を聴く限り、自己の投影が多い気がするんですよ。でも、今の話だとフィクションでも作れるわけですよね?
奥野:そうですね。でもフィクションだとしても、自分の頭の中で考えていることって結局は自分の経験から出てくるもので。だから半分フィクションで半分自分というか。自分の曲として歌えるし、伝えようと思って歌うことができる。そのために、もっといろんな経験をしたり、映画を観たり、人の話を聞きたいなと思っています。
●なるほど。起承転結の“結”の部分は、ネガティブかポジティブかは置いといて、おそらく曲としての回答に当たる部分、自分なりの結論というか出口を見つけるわけですね?
奥野:そうですね。それを先に見つけます。どういう道のりでそこへ行くのかがおもしろさだと思うので。結局、結論なんて何個かに絞られてくると思うんですよ。ハッピーソングなのか切ない曲なのか、どういう道を辿るのかで全然変わってくる。同じ結論でも反対の道を辿ったら全然違うものになると思うし、そう考えるとおもしろいと思うんですよね。
●創作の面で、影響を受けているものはあるんですか?
奥野:うーん…僕ね、プラモデルが大嫌いなんですよ。
●は?
奥野:プラモデルが大嫌いなんです。でも、料理は好きなんです。それを1回悩んだことがあったんですよ。
●プラモデルのどこで悩むんですか?
奥野:プラモデルって、パッケージに「こうなりますよ」という見本が描いてあるじゃないですか。
●完成図ね。
奥野:それがおもしろくないんです。でも料理はどうなるか分からないじゃないですか。それは曲と一緒で、どう作っていくかによって味付けも色も変わる。プラモデルは完成が見えているから、結局「できたー!!」と思っても見本と同じなんですよね。“どんなものができるんだろう?”と思いながら作っていって、「こんなものができたー!!」と思う方がおもしろいし、感動を覚えるんです。
●へえ〜。
奥野:頭の中で完全にできてしまうようになったら曲は作らないですね。
●想像がつかない余白があるのからおもしろいと。
奥野:昨日は思い付かなかったのに、今日は水を飲んだ瞬間に浮かぶことがあるから、あまり決めすぎずに流れのまま。それが自分にとっても楽しみなんです。“いつどんな言葉が当てはまるんだろう?”って。だから自分が料理を作って、メンバーが盛り付けをしてくれる感じなんですよね。“俺が持っていった料理がどんなに綺麗になるんだろう?”という感じ。特に曲を聴いてイメージを膨らませるときは、ギターリフがいちばん大きいじゃないですか。違うバンドをやっていた頃から隼人に聴かせて「こんな曲ができたんやけどリフ入れてみて」という遊びもしていたんです。そんなときに隼人は自分の想像以上のものを作ってくれるので、曲作りがすごく楽しいんです。大体自分のイメージを超えてくるので。
●なるほど。
奥野:メンバーがガチっと固めてくれることで、僕が作った曲というよりもみんなで作った曲になる。
●奥野さんの場合、ソロでシンガーソングライターをやるんじゃなくて、バンドじゃないと駄目なんですね。
奥野:バンドじゃないと嫌です。メンバーが知らない人に向けて書いた曲はエゴというか僕が歌えば済む話だから弾き語りでやりますけど、メンバーも分かってくれると思ったりKIDSでこの曲を歌いたいと思ったりしたらバンドでやっているんです。KIDSに関してはメンバー全員で作ったと言える曲じゃないと、ライブも届かないと思う。そこは最近意識していますね。
●11/7にミニアルバム『奇跡の軌跡』がリリースされたわけですが、どんな作品にしたいと考えたんですか?
奥野:前作『LとL』のツアー中にM-3「四季」が頭に浮かんで、自分でもすごい曲ができたと思ったんです。それで“これを軸にアルバムを作りたいな”と。前作と共通しているんですけど、せっかくお金を払って買ってくれるんだから、色褪せることなくその人の思い出になる1枚にしたいと思ったんです。振り返ったときに“この曲を聴いていたなあ”と思えたり、これを聴いたときに“あのときはこんなことがあったなあ”と思い出せたりするような。だからこそバランスがよくて、ちゃんと伝えることができて、言葉もしっかりしている作品にしたいと思いました。
●ふむふむ。
奥野:『奇跡の軌跡』というタイトルは最後に決まったんですけど、僕は感謝しかないなと思っていて。いろんな人が周りで動いてくれていて、今メンバーが居てくれて、これはすごい奇跡なんです。極論を言えば、それは僕が今まで生きてきたからであって、死にたいことがあっても生きてきたからこその軌跡だから、奇跡に感謝するということは、これから先にも繋がるとも思ったし。逆に言えばお客さんがここに居てくれるのは、生きてきてくれたから出会えているわけで、“あなたが生きてきた軌跡にも俺は感謝するよ”という想いを込めたんです。
●今作のきっかけとなった「四季」ですが、歌詞は一人称が“あたし”なんですよね。それがまず印象的で。
奥野:これも初めての試みでした。歌詞がサビしかできていないくて、隼人のギターリフが乗ったときに、自分が思ったよりもいい曲になっていて間違いなかったと思った瞬間、曲に痛みを感じたんです。すごくグサッとくる曲調だし、ギターリフだし、メロディだし。それで歌詞をどうしようかと考えたときに、女の子目線の言葉の方がより痛みが増すだろうと。
●ああ、なるほど。
奥野:今までやったことがなかったけど、“あたしはこうなのよ”と言った方が、なんとなくキュンとくるし、グッとくるように思えたんです。
●フィクションを作るというよりも、表現としていちばん適した表現を選んだというか。
奥野:そうですね。そこからすぐに歌詞も書けたし、初めての試みで会心の一撃を出せたので、自分の成長も感じてこれからの可能性も見えて。すごくいい曲だと思うんです。
●さっきおっしゃいましたが、痛みを感じたというのはメロディから?
奥野:メロディからです。
●奥野さん的に痛い曲と痛くない曲というのがあるんですか?
奥野:「これは痛い」「これは切ない」「これはどっちも」とかありますね。
●痛くて切ない曲もあるのか。
片貝:あっさりとこってりで“こっさり”みたいなもん?
●うん、それは違うと思う。
一同:(笑)。
奥野:切なさはみんな分かりやすいと思うんだけど、痛みは感覚ですね。言葉では説明できない。
片貝:涼と一緒にいたらその感覚が分かるようになってきた気がします。僕も“これが涼が言っていた痛みなのかな?”と思うことがあって。聴いていてしんどくなるような、ギュ〜ッと苦しくなって聴けなくなるような曲ってありますね。
●歌詞というか言葉に関係はないんですか?
奥野:僕の中では言葉はスパイスです。後付けのもの。基本的にはメロディですね。
●なんとなくその感覚は分かるんですけど、「四季」のメロディにはすごく痛みを感じたと。
奥野:ここ何年かでいちばん痛みがあります。このメンバーになってすぐの頃、どういうバンドになりたいかと思ったときに、僕らは「Yeahー!!」っていうバンドではなくて。もちろんライブの最後には笑顔でいたいけどライブの中盤はバラードがいちばん沁みる時間だと思うんですよ。そのときにバラードをやる意味を考えたとき、単純に泣かせたいと思ったんです。えぐりたいというか。
●えぐりたいと。
奥野:語弊があるかもしれないですけど、「四季」で過去の辛いことを思い出させたいというか。泣くことっていいじゃないですか。医学的にも、老廃物を出すとかでスッキリするし。
●気持ちを開放するわけですからね。
奥野:泣いてスッキリして最後は笑顔でいられたら、ライブでいろんな感情が出てきてお得というか…(笑)。
片貝:すごくスッキリしますよね。
●泣いた後に笑えたら最高ですね。
片貝:ストレスフリー!
●ストレスフリーではないと思う。
片貝:…ですね!
一同:(笑)。
奥野:とにかく、痛みのある曲でえぐって、最後は笑顔になれるバンドがいいなと思ったんです。だから「四季」がそういう曲にいちばん近いのかなと。でも、ちゃんと曲の最後には少しだけ前向きなテイストも入っているので、僕が女の子だったらエンドレスリピートするんじゃないかな(笑)。
片貝:僕は男ですけど、これを聴いて泣いていますからね(笑)。刺さりすぎて、“俺ときめいていたわ…”とか“あのときそう思っていたのか…”と。性別関係なく聴けると思うんですよ。あの娘のことを想って“そうか…”と思うし、僕がその立場に立っても“ああいう風に思っていたんだな”と思う。グサグサさせてくれるよね〜(遠い目)。
●M-2「ミラーボール」はPVにもなっていますが、この曲はアレンジも含めて開いていますよね。ダンサブルだしアレンジも華やかだけど、100%明るいわけではない。新しいけどKIDSらしさもある。
奥野:メンバー全員のベクトルが同じタイミングで1つに固まったんです。今までは僕が半分くらい作って、「こういう曲にしようと思っている」と共有して、それぞれの思うイメージで色付けしてもらっていたんです。でも「ミラーボール」は何も考えずに僕がスタジオで弾いたリフにメンバーが乗っかってきて、途中までセッションでできたんです。「これで踊らせたいよな」という話になって、この1曲を同時にみんなで作ったというか。
片貝:ガチーンと合わさったもんな。
●へえ〜。
奥野:だからすぐにできたし、ライブでもエース的な存在でみんなが楽しめる曲になりました。セッション的に作ったことは今までもあったんですけど、ここまでエース級になったものは初めてです。
●複数の人間が共有するところがスタートだったから、ライブでも威力を発揮する曲になったんでしょうね。
片貝:以前はメロコアをやっていたから、みんなライブの楽しみ方を知っているんですよね。ライブハウスで同じ時間を共有している人がどういう風に感じてくれるのかを考えたとき、やっぱり“楽しませてやろう”というのが念頭にあって。そうなると、「やっぱりビートは四つ打ちやな」とか「踊れるようにしよう」という話になりました。でも、やっぱり涼が持ってくる歌詞の世界観があればそんなに安っぽい曲には絶対にならないとも思えたし。
●この曲の歌詞はフィクションなんですか?
奥野:完全にフィクションです。自分ではないですね。
●ライブハウスに来る1人の少年のお話。
奥野:これも初めての試みでした。今まで恋愛の曲が多かったので、書いていて楽しかったですね。
●この曲にはそういうストーリーが合うと思った?
奥野:そうですね。それこそ僕に「楽しもうぜ!」っていう部分があれば、こういう風にはなっていなかったと思うんですよね。もっと“Yeah!”っていう感じの曲になったと思うんですけど、自分にできることはストーリーだということで考えていって、こうなりました。
●深読みすると、自分では言えないけれど、主人公を別に立たせて言わせることならできるというか。
奥野:そうなんですよ。それにライブハウスの楽しみ方って、僕らはまだ6年目なのでまだまだですけど、お客さんを見ていて言葉で気持ちを聞くわけではないですから、どちらか分からないことがあるんです。“これがその人の最大の楽しみ方なのか、本当は暴れたいけど恥ずかしさがあるのか”みたいな。この歌詞に出てくる少年は、すごく勉強もできてエリートとして生きてきたんですけど、知らない間にライブでガーッとなってしまって、「もっと狂わせてくれ」と言うんです。それがライブの本来の楽しみ方だと思うんですよ。仕事や学校ともきちんと両立させたら親も文句は言わないし、どっちも真剣に生きることが、ライブハウスで許されたいちばんの楽しみ方だし特権だと思ったので、この少年に表現してもらったんです。こういう歌詞は初めての試みだったと言いましたけど、今作では「ミラーボール」、「四季」、M-3「ヒーロー」の歌詞で初めての試みをしたんです。
●その「ヒーロー」ですが、グッときますよね…(笑)。
奥野:いろんな人からそう言っていただくんです。特に男の人。
片貝:だってガチガチの友情モノじゃないですか。そんなの男の人は大好物でしょ?
●大好物ですね。
片貝:僕もめっちゃ好きなんですよ! これを聴いても泣きましたもん!
●歌詞はかなり具体的ですよね。
奥野:でもエゴになりそうでめっちゃ不安だったんです。自分が特定の人に歌うために、メンバーに「ドラムを叩いて、ギターを弾いて、ベースを弾いて」と言うスタンスにはなりたくなかったんです。でも、みんなそれぞれに大事な友達が居るし、最近同窓会とかも増えていて、今だからこそ言える話や謝れることがあると思うんです。
●うんうん。
奥野:親父にも言われたんですよ。久しぶりに会うだけだと思いながら「明日は同窓会やねん」と親父に言ったら「同窓会はいいぞ。ずっとあった確執みたいなものがそのときにやっと取れるから絶対に行けよ」と言われて。そのときは“何を言っているんだろう?”と思っていたんですけど、実際に行ってみてそう感じたんです。だから、今までは恋愛の曲が多かったけど、“軌跡”の部分として友達というものに向けて曲を作りたいなと。僕は学生時代に野球をやっていてそのときの友達に向けて書いた曲なんですけど、みんなで共有できる歌詞になったと思います。
●今作には今のKIDSが刻まれていると思うんです。M-1「film」や「ヒーロー」はまさにそういう感じで、それがバンドっぽさや人間っぽさに繋がっていて。「film」に“かっこ悪くて情けない でもちゃんと生きるよ”という歌詞がありますけど、自分がかっこ悪くて情けないと認めることは、すごくしんどい作業だと思うんです。どういうきっかけでこう言い切れたのかが気になるんですが。
奥野:僕は根がすごくネガティブなんですよ。かっこよく見せたかったりモテたいという衝動はかなり早い時期で、中学生とか高校生のときがピークだった。もうアホだったんです(笑)。今みたいに落ち着いて話もできなかった。でも、そういうタイプの人間を5〜6年で堪能したというか。それでだんだん落ち着いてきたんですよね。だから自分でも、今の若者らしい感じではないと思う。
●自分の弱さやかっこ悪い部分を受け入れられたからそう変わったんですか?
奥野:どうだろう…。でも、ちゃんと自分がどういう人間なのかは分かっていますね。音楽で上手くいかなかったら情けなくなったりネガティブになるし、この年になって親孝行をできているはずだったのになかなか恩を返せていないし、いろんな人に迷惑をかけていると敏感に感じるんです。だから死にたいというか、自分はこの世に要らないと思う瞬間が多くて。今はだいぶ落ち着いたんですけどね。
●そう思うことが多かったのはいつ頃ですか?
奥野:1〜2年前ですね。
●最近ですね。
奥野:でも寝たら治るっちゃ治るんですけど(笑)。
●どないやねん(笑)。
奥野:起伏が激しいんです。みんなとご飯を食べているときは楽しいんですけど、家に帰って部屋の電気を消した瞬間に死神が浮かぶくらいの感覚。
●死にたいと思っていたんですか?
奥野:“世界が終わればいいのに”と思ったこともありました。
●その感覚はわかる気がする。自分1人が死ぬよりも、世界が終わった方が楽ですもんね。
奥野:そうなんですよ。“世界がフッとなくなったらいいな”と思うこともあったんです。明日に希望がなくて、ネガティブなことを考えていました。
片貝:たぶん涼はめっちゃ繊細だから、いろんな人のいろんな感情を敏感に感じ取るんです。それを自分の中に投影することがきっとあると思うので、曲でもすごく優しいことを書けるというか。
●感受性が強いと。
片貝:こいつがもともと持っている性格というか気質もあると思うんですけど。
奥野:1〜2年前は自分をいちばん嫌いになった時期だったんです。何がっていうのは具体的にはないんですけど、親に対して申し訳ない気持ちだったり、頭の悪かった友達が就職してがんばって仕事をしていてヒーローみたいに見えたり、街を歩いていても“あの人は絶対に幸せなんだろうな”って、みんながキラキラして見えたんです。そうやって自分を下に置く癖がついてしまっていて、本当は世界が終わってほしくないのに、世界が終わればいいと思いたかった。
●逃げたかった?
奥野:そうなんです。逃げたかったんでしょうね。今はマシにはなったんですけど、そういう自分もずっと居るんです。そういうかっこ悪くて情けない部分があるけど、“ちゃんと生きるよ”という言葉を使おうと思ったんです。実はM-6「祈り」は亡くなった友達に書いた曲で、ベタかもしれないけど生きられなかった人の分を生きるというか。背負うものは大きすぎるかもしれないですけど、今は生きているし、明日も生きたいと思えているから、幸せだと思うんです。この1年くらいでちゃんと生きようと思うようになりました。
●最近のことですね。
奥野:だから「film」の歌詞は今しか書けないと思うんです。今の自分そのものの歌詞なので、すごく気に入っています。
●「祈り」に書かれているような出来事があり、そして「film」を歌えるようになったと。
奥野:人間的成長なのかな。
●“かっこ悪くて情けない でもちゃんと生きるよ”という言葉は、ライブにも共通することだと思うんですよね。かっこつけているバンドって、かっこ悪いじゃないですか。
奥野:おもしろいことに、そうなんですよね(笑)。
●KIDSの音楽はすごく洗練されているけど、ライブはいろんな感情が溢れているような印象があって。この“かっこ悪くて情けない でもちゃんと生きるよ”という言葉は、バンドとしての宣言にも聞こえたんです。
奥野:かっこつけることはしたくないですね。ライブは自分たちが表現するために与えられた最高の時間なんです。だからこそフロントの3人は動こうと思って動くんじゃなくて、表現しようと思ったら勝手に動いてしまっているし、人間臭くてがむしゃらな感じを出そうと思ってやっているんじゃなくて、楽しすぎてそうなっているのであって。バラードのときは世界観を作るのが大事なので切り替えますけど、それ以外は僕らが楽しめばみんな楽しんでいいんだっていう雰囲気になるというか。考えずに楽しんでますね。
片貝:僕はドラムなので冷静でいなきゃいけないから、最低ラインは守るようにしています。でもライブって生モノじゃないですか。だからその時々によって自分の感情が前に出てしまって、ウワーッと叩きたくなるときもあるんですけど、それでいいと思うんです。いろんなバンドを観る機会があって、すごく落ち着いて叩いていて、演奏もバッチリ決まっていて、“これがミュージシャンか!”と思い知らされることもありますけど、今の僕らに出せるのはがむしゃら感や一生懸命に何かをやることだと思うんです。
●そういう感覚は、ライブを重ねていく中で培ってきたんですか?
奥野:そうですね。演奏や歌唱力で伝わるものもあるんでしょうけど、自分たちの言葉がある以上は一周するくらい突き抜けたい気持ちで歌っているし、バンドをやっているんです。だから一生懸命に本気でぶつかり合うのがいちばんの近道だという気がしていて。
●曲についてひと通り訊いてきましたが、最後にM-4「流星群」。これもかなり具体的な歌詞ですが…生駒ですか(笑)。
片貝:おそらくそうでしょうね(笑)。
奥野:信貴山の方に向かって走ってたな…(笑)。
●こういう日常的な歌詞も書くんですね。
奥野:これも半分半分ですけどね。19歳の頃に書いた曲なんですよ。日本語になった直後。
●あ、そうなんですか。
奥野:だから歌詞がすごく青くて、自分でも歌詞だけ見たら恥ずかしいんですけど、すごく女性に評判がいいんです。
片貝:今回「ミラーボール」のPVに出演して下さった杉本有美さんも「この曲がいちばん好き」と言って下さった。俺は全部好きですけどね!
●4年前に書いた曲なんですね。
奥野:だから入れるかどうかすごく迷ったんです。唯一今のメンバーで作っていない曲だし、すごく恥ずかしかったんです。
片貝:なるほどね(笑)。
奥野:でもメンバーに認めてもらったし、今作の中でいちばん幸せな音が鳴っている気がしたんですよ。ラウドっぽいんですけど、歌詞とかメロディは終始ニヤニヤしていられる曲というか。
●そうですね。他の曲とはちょっと違いますね。
奥野:だからこの曲は今作の幸せ担当です。
●その話を聞いてメロディの話とも共通すると思ったんですけど、今作の曲には喪失感のようなものがあると思うんです。さっき奥野さんが「生きていくのがしんどい」と言っていましたけど、そこに関係するような気がして。
奥野:確かに。そう言われてみると僕が生きてきた中で感じたものがメロディに出ているのかもしれない。
●良いか悪いかを別にして、全部失ったものがある。たぶん「流星群」のように終始ニヤニヤできる曲って、今は書けないのかなと。
奥野:絶対に書けないですね。
●それと、奥野さんは「エゴにならないように」と何度かおっしゃいましたけど、曲を作ったり歌詞を書いたりする上では、自分のエゴと常に向き合うことになるとも思うんですが。
奥野:難しいけど、曲を作るときにある程度自分でイメージして、ライブでやったらどんな顔でどんな気持ちになるだろうかを考えている時点で、僕の中ではもうエゴではないんです。
●ああ〜、なるほど。
奥野:人が居て、今自分がやっていることが成立している。だからお客さんが居てくれて僕らができているというスタンスさえ崩さなかったら、エゴにはならないというか。逆に、お客さんを楽しませることに特化し過ぎて自分を殺すことは不安といえば不安だし、そこをどうやってコントロールしていくかが大事、と思っているというか。今のスタンスで続けられたら曲に関してはエゴにはならないと思うし。お客さんのことを考えて自信を持ったり、不安になったり。バンドは自分たちだけでやることじゃないから、それはエゴではないと思うんですよね。
●うんうん。
奥野:自分のお母さんに向けて書いた曲があるんですけど、本当にお母さんにしか分からないような歌詞を書いたとしたら、弾き語りでオカンに歌うべきだし、それをKIDSでやるのは絶対に違う。そういう感じで「この曲はKIDSだけどこれは違う」と選択しているというか。だから自分のエゴにはならないと思う。
●一方で、お客さんからもらっているものは何ですか?
奥野:いっぱいありますね。お客さんとは、お互いがその場を与え合っているような気がするんですよね。お客さんがいるから僕らがライブをできていて、僕らのライブがあるから楽しいと思ってここに来てくれている。それはお互いに与え合うことができているからだと思うし、そういう関係になりたいと思う。極論を言うと、バンドどころか生きていく中で人は必要じゃないですか。だから、重いかもしれないけど生きる理由の1つですよね。お互いがそうであってほしい。今の自分が、明日も明後日も来週も生きたいなって、未来を愛しく思える理由の1つです。
片貝:今の話を聞いていてすごく共感できたので、僕もそうだと思います。
●あっ、乗っかった!
片貝:いやいや(笑)。何も考えていなかったわけじゃなくて本当に(笑)。
奥野:だからツアーとかが決まったら嬉しいよね。
片貝:生きている感じがする!
●いいことですね。
奥野:別に売れることだけを思っているわけじゃなくて。どれだけKIDSが大きくなっても、ライブハウスでやっていきたいと思っています。
Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:Hirase.M