10-FEETはライブで唯一無二の空間を作り出す。オーディエンスと同じ高さの目線で綴られる彼らの温かく鋭いメッセージは、現実を真正面から見据えた者にしか出せない説得力を帯び、ハードなサウンドとキャッチーなメロディーに乗って独自の音楽世界を構築する。その場でしか味わえない奇跡の瞬間を、3人は何度も何度もライブ会場で生み出してきた。そんな彼らは今年2月にリリースした最新アルバム『VANDALIZE』。同アルバムのツアー”VANDALIZE TOUR 2008”初日のZepp TOKYOと、猛暑の中で想像を絶するパフォーマンスを見せた新宿ACB HALLの追加最終公演。そして第一回目の開催となるはずだった昨年、台風によって中止となった”京都大作戦2008”。それらのライブの模様に加え、長いツアーにカメラクルーが密着して撮り下ろした奇跡のドキュメンタリーDVDが完成した。10-FEETのライブDVDシリーズ第4弾は、共に泣き、共に笑い、共に叫んだ彼らの"今”の全てが凝縮された、唯一無二のドキュメンタリー作品。あの場でしか味わえない"奇跡の瞬間”が存分に詰まった同作は、10-FEETというバンドの本質が詰め込まれている。
「“京都大作戦”以降での感謝の感じ方が本当に変わりました」
●11/1から11/10まで行っていた、アメリカでのツアー"10-FEET WEST COAST TOUR 2008”はどうでした?
KOUICHI:良かったですよ。
●何が良かった?
TAKUMA:ボインちゃんがいっぱいいた。もうケツとかブルンブルン。
KOUICHI:金髪ばっかりだったしな。
TAKUMA:みんなノーブラだし。
●(無視して)今まで色々なバンドから海外に行った話を聞いてきましたけど、10-FEETが海外でやるとは想像つかなかったんですよ。
TAKUMA:いや、それは僕らもですよ。想像つかなかった。
NAOKI:みんな海外行った時、なんて言うてます?
●反応がダイレクトで、言葉が通じなくてもいいライブをしたらすごく盛り上がる、とか聞きますよ。
3人:ああ~。
●でも10-FEETって、サウンドだけではなくて、そこに乗せるメッセージだとか、MCを含めた全部でライブを魅せるという特殊なバンドだと思うんです。だから言葉が通じない海外で演るというのことが想像出来なかった。
●なるほど。
TAKUMA:3バンドともレゲエっぽい音楽で、テンポもちょっとゆっくりめだったんです。そこで探り探りやっていたんですけど、反応も上々だったんです。で、後半の3箇所はPour Habitというメロディックハードコアバンドと、前に日本で一緒に演ったINSOLENCEというハードミクスチャーバンド、それに1箇所フロントアクトでATAMAという日本のインストバンドと一緒だったんです。
●ふむふむ。
TAKUMA:そういうところでは激しい音楽を好むお客さんが多くて。何箇所かやって慣れてきたということもあると思うんですけど、感触も非常に良かったですね。
●そうだったんですね。
TAKUMA:意外でしたね。そんなにアウェーな感じでは無かったんです。一緒に回ったバンドがすごく親切にしてくれたというのもあったし、温かい感じでまわらせてもらいましたね。
●今回リリースするDVDにも映像が入っていますけど、去年3月の韓国と7月の台湾、そして今回のアメリカということで、10-FEETとしては海外をどういう視点で考えているんですか?
TAKUMA:経験ですね。海外は音だけで勝負しないといけないじゃないですか。海外にセールスとかシェアを拡げるという感覚じゃないですからね。でもやっぱり海外で一番違うのは、1分あれば色々話すことが出来る“言葉”というものが通じないところだと思うんですよ。細かいニュアンスを伝えることが出来ない。音で伝える瞬間でしかコミュニケーションのチャンスが無いんです。
●うんうん。
TAKUMA:去年の韓国と台湾、そして今回アメリカに行って。アメリカの6箇所を通して、ずっと見えていなかったものがやっと何か見えましたね。
●ほう。
TAKUMA:お客さんと抱き合ったり、お酒をおごってもらったり。女の人は片っ端から抱きついてくるし。
●ボインで?
TAKUMA:(無視して)行く前は絶対そんなのないと思っていましたからね。もうボロボロになって、服もビリビリに破られたまま日本に帰ってくると思っていた(笑)。
●でも韓国と台湾での経験が活きているんでしょうね。
NAOKI:うん。でもまだ韓国や台湾のほうが環境は良かったですよ。僕らのことを知っているお客さんが何人か居て。でもアメリカでは皆無だったし。
●そんな中、タイトルを考えるのが邪魔くさいからまた前と同じタイトルのDVDが出ますね。
KOUICHI:こいつ殴ったろかな。
TAKUMA:そんな事言う前に殴ったほうが早いぞ。
●今回のDVDは2枚組で、3/8から7/6までの“VANDALIZE TOUR 2008”と7/12.13に開催した“京都大作戦”に関する、ライブ映像+ドキュメンタリーという内容ですが、すごいボリュームですね。
KOUICHI:観てくれましたか?
●観ましたよ。一番面白かったのは、KOUICHIくんのドラムセットがライブ中にどんどん小さくなっていくところでした。
TAKUMA:あれ面白いですよね(笑)。
KOUICHI:念願だったんですよ。
TAKUMA:ロットングラフティーとの対バンの時ですね。
●というか、なぜここまでのボリュームになったんですか?
TAKUMA:結果的にですね。ライブを収録するためにこのツアーにはカメラクルーが入っていて、それに加えてオフショットを押さえておくつもりだったんです。でもオフショットが結構生々しい映像まで入っていて、カメラクルーからあがってきた映像がドキュメンタリーだったんです。
●あ、なるほど。
TAKUMA:それを観て僕らもびっくりしたんですけど、編集をしていくうちにこうなんったんです。
●ということは、当初はそういう意図ではなかったんですね。今までと同じようにライブ映像をメインにすることでオフショットが少し入るという。
TAKUMA:そうですね。誰でもそうだと思うんですけど、“ドキュメントを撮ろう”と思って撮ったら100%のドキュメントにはならないと思うんです。やっぱり意識するでしょ?
●はい。
TAKUMA:でも“オフショットだからほとんどの映像がボツになるだろう”というのが頭にあるから、基本的にツアー中はカメラを意識していないんですよ。カメラクルーはずっと僕らのDVDを撮ってきているから“ここらへんでこんなドキュメントもどうやろ?”とプレゼンしたりしてくれて。
●さっき話にも出ましたけど、10-FEETというバンドは楽曲だけではなく、メッセージだったり、その背景や他のバンドとの繋がりも含めてのバンドだと思うんです。だから単純に1曲を聴いただけでは本質を理解できないだろうし。一番わかりやすいのはライブだろうと思うんですけど、ワンマンくらいの尺がないと、その本質にまで触れることが出来ないと思うんですよ。で、今回のDVDは10-FEETというバンドの本質を伝えるツールとして最適な作品だなと思ったんです。
TAKUMA:うんうん。
●ただこの映像の中にはかなり生々しい部分というか、悩んだり苦しんだりしている姿も出していますよね。そういう部分をさらけ出すことに恐れはなかった?
TAKUMA:ありましたけど、躊躇はしなかったですね。それよりも“ドキュメンタリー”というものに対する興味のほうが勝っていたと思うな。
●今の時点だからこそ、こういうさらけ出した部分まで出せるのかなと。
TAKUMA:それはどういう意味ですか? すごい興味がある。
●勝手な想像ですけど、若い頃って自分をちょっと大きく見せたり、装飾したりするような意識ってどうしても働くじゃないですか。
TAKUMA:あ~はいはい。
●でも大人になっていく過程でそういうことがどうでも良くなるというか。投げやりという意味ではなくて苦しんだり悩んだりしているところもステージ上に繋がっているという自覚があるからこそ、ありのままをさらけ出せるんじゃないかなと。
TAKUMA:今回のドキュメントが、悩んでいたり苦しんだりしている姿だけがクローズアップされているんだったらたしかに躊躇していたと思いますよ。でも1本線が通っているんだったら、そういう姿を見せてもいいと思うんです。
●なるほど。そういうことですか。それと僕は『RIVER』の頃からインタビューさせてもらっていますけど、当初から10-FEETは「僕らは別に上からモノを言ってつもりはなくて。僕ら自信がダメダメなんだ」ということをずーっと言い続けてきましたよね。そういった今までの10-FEETの姿勢というか進んできた歩みが、このドキュメンタリーを観れば凄くリアルに伝わってくる。「百聞は一見にしかず」という。
TAKUMA:確かに。受け手側も僕らの姿勢やスタンスを認識してもらっていたんでしょうけど、歌になったりMCになったりしていましたからね。本当に自然でリアルな形にするのは始めてでしょうね。
●そうですよね。ちなみにさらけ出しているという意味では、さらけ出しすぎてモザイクがかかっている映像がありましたよね。全裸でライブのリハーサルをしているという。
TAKUMA:テンションをあげるためです。あの後、対バンする人たちとかライブハウスに入ってくるし、みんなに面白いバンドだと思ってもらいたくて。
●あまりおもしろいこととか言えないから。
TAKUMA:はい。
●TAKUMAくんとNAOKIくんしか映っていなかったんですけど、KOUICHIくんも脱いでいたんですか?
KOUICHI:脱いでいましたよ。全然映っていなかったですけど…。
●でもすごく良いツアーだったんですね。観ててなんだか羨ましくなりました。いい経験しているんだなって。
TAKUMA:あなたに何がわかるんですか?
●…え? なんでキレるの?
TAKUMA:(無視して)良いツアーでしたよ。それは今までのツアーもそうですけど。
●“京都大作戦”でも感じたけど、10-FEETは対バンからもらっているものがすごく大きいバンドだなと改めて感じましたね。楽しいだけじゃなくて、刺激を与え合ったりして。
TAKUMA:そういう意味で、色々な刺激を与えてくれたり、一緒に楽しんでガスを抜いてくれたり、綻んだところを直してくれたり、嫌なことに対して“でもそんなに悪いことでもないな”みたいなヘルシーな気持ちにさせてくれたり。そういうところは対バンの人たちの存在が大きいとKOUICHIもNAOKIもDVDを観て言っていましたね。
●うんうん。
TAKUMA:映像の中で、それぞれのバンドは時間にしたら一瞬しか出てこないじゃないですか。でも流れていかないというか、みんなガツンと入ってくれるんですよね。すごく印象に残っていることがあるんですけど、“京都大作戦”の打ち上げにカメラクルーも来ていたんですけど…あの頃はDVDの編集の最終段階だったんです。その打ち上げで「10-FEETの全てを見せるには、10-FEETの周りの人達を見せて、その人達が10-FEETのことを話すのが一番わかるんだ」と言っていて。
●ああ~、なるほど。
TAKUMA:そういう意味で常に誰かがいたんですよね。
●そうでしょうね。それに10-FEETのツアーはずっと対バン形式を続けていますけど、その意味を肌で感じることが出来たんです。対バンツアーというのは常にいい意味で比較対象がある状態だと思うんですが、そういう環境だと周りが見えなくなって驕り高ぶることが無くなりますよね。映像の中の3人は常に自分を省みて、常に120%の自分を出すために悩んでいましたけど、それは対バンの存在があるからこそだと思うんです。そういう意味で羨ましかった。
TAKUMA:あ~、それは対バンのおかげですね。でも別にお互い注意しあっているわけじゃないんですよ。一緒に対バンして、一緒に遊んでいるだけでそうなるというか。
●そうなんですね。今まで色々な話を訊いてきましたけど、このドキュメンタリーを観ないとわからないことってすごく大きい気がします。僕もこれを観て始めて理解出来たような部分も多い気がするし。
TAKUMA:え? ホンマですか?
●うん。今まではただのアホだと思っていましたから。
KOUICHI:嘘やん!?
TAKUMA:さっき「悩んだり苦しんだりしている姿を出すことに恐れはなかったか?」と訊かれたじゃないですか。
●はい。
TAKUMA:それについて今思ったんです。僕、前に喉を痛めてツアーを延期したことがあったじゃないですか。あれを経て、次にライブをした時にちょっと声が枯れたりしたら「喉は大丈夫?」と心配されるんですよ。もう無くなりましたけど。
●はい。
TAKUMA:このDVDで悩んだり苦しんだりしている姿を見せることによって、そういう不安を受け手に与える可能性が出てくると思うんです。例えば僕がちょっとライブで面白くなさそうだったら「おもしろくないのかな?」とか。ライブハウスの横で佇んでいたら「あ、今日のライブは良くなかったのかな?」とか。
●まあ、たしかにそういう可能性が出てきますね。この映像ではそういう姿も出しているわけですから。
TAKUMA:でもDVDを出した以降は、そういうことがあったら絶対にダメなんですよ。覚悟というか、もうこういうDVDを出したんだから、僕らもここを超えないといけない。
●そうか。超えないとこのDVDが言い訳になりますよね。「俺らホンマはこういうダメな奴らだから許してや」と言っていることになる。
TAKUMA:そうそう。それはもうめちゃくちゃかっこ悪い。このDVDを出すことイコールそういうことだという認識はありますね。
●なるほど。例えば彼女とかに今まで言えなかったこと…「実は高校生の頃までうんこを漏らしてた」みたいな弱みを言ったとするじゃないですか。
TAKUMA:…漏らしていたんですか?
●はい、1回だけ。
KOUICHI:アハハハハハハ!(笑)
●でも言えるということは、自分の中で消化できているからだと思うんです。だから、たとえこれからそういう失敗をしたとしても自分でケツを拭ける、と思っていたら言える気がする、覚悟というか。
TAKUMA:というか、“自分でケツを拭こう”という決心を見出したらですよね。
●そうそう。
TAKUMA:それを不格好ながらにもやっていたら一緒に感動していけると思っています。結果的に僕らはそこを選んだということです。
●このDVDには“京都大作戦”の映像も満載ですけど、あのイベントは良かったですね。
TAKUMA:良かったです。もうあの存在自体が綺麗すぎるでしょ?
●うん。ちょっと失敗があったほうが良かったんじゃないかというくらい、いいイベントでした。
TAKUMA:なんかもう、悪い人は行ったらアカンくらいの(笑)。
●そうそう。思い出の中で神格化してきてます(笑)。僕は2日間全バンドを炎天下で観て、火傷するくらい日焼けしてあの後数日間苦しんだんですけど、今から思い出してもいいイメージしかない。
KOUICHI:でもあれは来てくれているお客さんがいちばん楽しめていたとちゃいます?
TAKUMA:でもあれは来てくれているお客さんがいちばん楽しめていたとちゃいます?
●でもあれは来てくれているお客さんがいちばん楽しめていたとちゃうかな?
TAKUMA:そこNAOKIや!
●ライブにはああいう魅力があるんだということを知らないまま死んでいく人も多いでしょうね。それくらい良かった。
TAKUMA:だから来年はもうやらないほうが良いんちゃう?
●やらなあかんやろ!
TAKUMA:それに、あの日僕らが10-FEETとして演ったライブが、その後のライブに影響を及ぼしているとか、そういうものは一切ないんですよ。
●直接的な影響はないということですね。
TAKUMA:うん。あの日のライブを追いかけるつもりもないし。でもあの2日間を経て、あらゆる種類の感謝の想いというか、自分の中の“感謝”というものの形が変わったんじゃないかなと思いますね。
●なるほど。
TAKUMA:例えば、対バンに対しても、運良く天候に恵まれてイベントが出来たことに対しても、とてつもない数の人間が「これは僕の(私の)イベントなんや!」という目つきであそこに集まったこと、協賛やお店が協力してくれたこととか、怪我人が出なかったこととか…KOUICHIのお父さんだけが溝にハマって怪我しましたけど。
●子供の顔が見たいですね。
KOUICHI:ここにおるで!
TAKUMA:そういうモノに対する“感謝”って、いつも自分の中にあるじゃないですか。いつも「ありがとう」と心を込めて言うし思うしやってきたんですけど、なんか“京都大作戦”で本当に幸せになったことによって、長い間水槽の底に沈んでいた“感謝”というものが数年ぶりに水が全部抜けて“うわ~、こんなんやったんや”と見えた感覚というか。
●なるほど。そういう感覚。
TAKUMA:あの楽しさって、子供の頃の体育祭が終わった瞬間にしか感じられないようなものなんですよ。大人になったら、ああいう類のドーパミンというのは出ないと思うんです。“すげぇライブ”とかじゃないんですよ。自然に奥から溢れるように出てきた“ありがとう”だったんです。そういう意味で、“京都大作戦”以降での感謝の感じ方が本当に変わりましたね。
●NAOKIくんは“京都大作戦”を振り返ってみてどうですか?
NAOKI:TAKUMAが言うように、あの日以降でライブが変わったとかは無いんですよ。
●はい。
NAOKI:でもあの日はステージに出る直前までそれまでに無いくらい緊張していて、ステージに出てからはフワッと宙に浮いているというか…地に足が着いていないという話じゃなくて…そこの会場全てに包み込まれているというか。
TAKUMA:あったあった。なんか“あ、大丈夫や!”という感覚。
●へぇ。そういう感覚があったんですか。
NAOKI:そうそう。究極の自然体になれたというか。10-FEETを11年やっていて、そういう感覚って今までにあったかな? と思うくらい。一生の記憶に残るような感覚がありましたね。
●KOUICHIくんは?
KOUICHI:僕はもっと京都が好きになりましたね。
●というと?
KOUICHI:わからん。
●え?
KOUICHI:多分全員が京都出身というわけじゃなかったと思うんですけど、でも京都の人は多かったんですよ。それで改めて、地元の人をもっと大切にしないといけないなと思いました。
●何度も言いましたけど、本当にいいライブでしたね。そしてこの号が出るのが12/1でそろそろ年末ですけど、“VANDALIZE TOUR 2008”もあり、“京都大作戦”もあり、2008年は10-FEETにとって大きな1年だったんじゃないですか?
TAKUMA:そうですね。大きかったですね。アメリカに行ったことも含めて、今年は本当に濃い1年だったと思います。
●そんな今年を経て、来年はどうするんですか?
TAKUMA:音源を出しますよ。多分。時期は見えていないですけど。
●楽しみにしています。何か言い足りなかったことはありますか?
KOUICHI:このインタビューはいつ出る号に載るんですか?
●12/1です。ついさっき言いましたよね。
KOUICHI:そうですか。