圧倒的なまでのスピードでその活動規模を拡大させ、類い希なるソングライティングのセンスと驚異的なライブパフォーマンスで、唯一無二のパーマネントなバンドとしてその名をシーンに轟かせているNothing's Carved In Stone。今年6月には早くも2ndアルバム『Sands of Time』を発表し、7月から9月にかけてワンマン公演8本と追加公演1本を含む22本のツアーを敢行した。そして12/22、9/25に迎えたツアーファイナル赤坂BLITZ公演の模様を収録したライブDVD『Time of Justice』のリリースが決定。ライブを重ねるごとに進化を続け、枯渇することのない欲求で突き進む彼らを、誰の手にも止めることは出来ない。
「色々と試していくなかで徐々に掴めてきて、最終的に“曲が自分たちのモノになる”という感覚があった」
●今回のツアーは追加公演を入れて全23本の公演がありましたが、改めて振り返るとどうでしたか?
生形:普段メンバーと一緒のいる時間が少ない分、今回は色んな話が出来たし充実していましたね。2ヶ月くらい間が空いて久しぶりに集まったから新鮮だったし、ツアーが始まってからの期間がものすごく濃く感じて。
●特に印象的だった場所はありますか?
大喜多:強いて言えば横浜BAYHALLですね。ツアー初日で緊張もあったけど、お客さんの待ってくれていた感が伝わってきて、とにかく嬉しかったです。
●前半の13本は対バン形式でしたが、ワンマンとはまた違います?
生形:うん。どのバンドも俺たちが持っていない素晴らしい部分があって、自分たちのライブの前にそれを観ることが出来るっていうのはすごく刺激になるんです。もっともっと色んなバンドと知り合いたいですね。
●今回リリースされるDVD『Time of Justice』では、オフショットの様子でバンドが今とても良い雰囲気なんだということが伝わってきて。でもライブのMCで言ってましたけど、ケンカもしたらしいですね(笑)。
生形:ケンカって言っても音楽のことですよ(笑)。大体が呑んでる時に熱くなってそうなるんですけど、みんながこのバンドを本気でやっているから言うべきことは言うし、言われた方も自分の考えがあるから当然言い返すし。
●拓さんが泣いてしまったらしいじゃないですか(笑)。
一同:(笑)。
大喜多:拓は泣き上戸なんですよ(笑)。酒を呑んで熱い話になると大抵最後は何でも泣いてますよ。
生形:ビックリしたのが、仙台終わってあとは東京で終わりという時、仙台から東京に帰ってる途中で「赤坂BLITZのリハ終わったらスタッフ全員集めて写真を撮ろうよ」って俺が言ったら拓ちゃんが目をウルウルさせているんですよ。
●え?
生形:写真を撮っている場面やツアーの行程を思い出して涙腺がゆるんじゃってるんでしょうね。拓ちゃんにはそういうツボがあるみたいで(笑)。ステージで泣くことは無いみたいなんだけど、とにかく感情が豊かなんだと思います。
●ハハハハ(笑)。でも、そういうことも含めてメンバーの新しい部分を発見することも多かったんでしょうね。
生形:そうですね。普段から一緒にいる時間が少ないから、ツアー中にわかることが圧倒的に多くて。わりとみんな寂しがりやで、一人でいることがほとんどなかったですね(笑)。
●音楽の面では、ライブで演奏することでアルバムの楽曲に変化が生まれたりしましたか?
生形:ありましたね。リハの段階で「Memento」や「Slow Down」のアレンジを変えたんですよ。この2曲は同期の音数が割と多いんですけど、ライブのことを考えるとそれを減らして楽器のアレンジを足したほうがいいなって。
大喜多:1stアルバムの曲でも「Words That Bind Us」は今回のライブ中にどんどん変わっていったんですよ。お客さんの前で演ることでパっと閃くこともあるから、誰かが変化をつけるとみんながそれに合わせてアレンジを加えていくという感じで。
●その場の空気で変わっていくというか。今回映像を観ていて「Sands of Time」の時、曲調がそこまで攻撃的というわけじゃないんだけど、曲自体が持っているエネルギーをすごく感じて。それはただエモーショナルに歌ったり演奏しただけでは伝わらないもので、激しいことをやっているわけでもないのに感情を上げられる不思議な感覚があったんですよね。
生形:俺の個人的な話なんですけど、実はツアーが始まってからもなかなか「Sands of Time」の演奏がしっくりこなかったんですよね。みんなにそれを伝えて、テンポを上げてもらったり細かいことをいろいろ試していく中で徐々に掴めてきて、最終的に“曲が自分たちのモノになる”という感覚があった。単純にテンポが合ったということじゃなくて、何かありましたね。
●ツアーを通して曲が身体に付いたというか。改めて考えると、2ndアルバムはどんな作品だったと思いますか?
大喜多:ライブでやるとすごくパワフルなアルバムだと思います。演奏もそうなんだけど、ずっと心地いい緊張感がつきまとっているからサラリとは出来ないんですよ。
●あ、そういう感覚があるんですか。
大喜多:うん。エモーショナルになる曲ばかりで力も感情も入るし、とにかくエネルギーを使う曲ばかりだなと。
生形:アルバムを聴いた印象って、バンドサウンドなんだけどすごく繊密に感じると思うんですよ。
●確かに。すごく繊密な音楽だと思います。
生形:でもライブになるとその繊密さを含めて全部爆発させられるんですよね。「Rendaman」や「Sands of Time」が特にそうだったんですけど、ライブで進化させることが出来たし、それがやりがいでもありますね。
●演奏する立場として、アルバム『Sands of Time』は音源とライブだと感覚的に距離があるんですか?
生形:あ。でもそれがこのバンドの特徴らしくて、よく言われるんですよ。「音源とライブは印象が違う」って。俺らの感覚としても音源とライブでは違いがあって、レコーディングの時は頭をフル回転して4人の中でやっている。でもライブは外に向いてるから、その部分は全然違うと思います。
●CDを聴いた時には“ライブが想像出来ない”という印象はなかったんですよね。でも実際にライブを見ると印象が全く変わるんです。
生形:僕POLICEが好きなんですけど、彼らも音源を聴くとすごく繊密なんだけど、特に初期のライブなんてパンクバンドみたいだし。そういうバンドはかっこいいなって思ってるから個人的にはそうなりたいっていう気持ちはあるかもしれない。
●ということは、ライブのリハーサルというのは、繊密というよりライブ用のアレンジを組み立てる作業でしょうか?
生形:そうかもしれないです。ライブではどれだけ自由に解放できるかどうかが自分たちの中ではポイントになっている。もちろん曲の形を崩さず、その上にどこまでやれるかに重点を置いていて。気持ちが変わるとプレイも全然違ったものになりますからね。
●メンタルも含めてインプロビゼーション的な要素があるんですね。ライブ前に緊張とかするんですか?
生形:どうかな? みんなわりとリラックスしてると思いますよ。ギリギリまで普通に喋っていて、くだらないことを言いながら俺はギターを弾いたり、拓ちゃんは声を出したるそれぞれのことをやっている感じです。
大喜多:楽屋を出てステージ裏に行ってから「よし、やろうか!」って一気に集中しますね。「今日はアイコンタクトをしっかりやっていこうか」とか、何かしら声を掛け合って臨むんですけど。
●DVDにもそういう場面が収録されていますね。今回リリースされるDVD『Time of Justice』は赤坂BLITZの模様が中心になっていますが、改めてあの赤坂BLITZ公演はどんなライブでしたか?
生形:ファイナルということもあって、ツアー中にあった色々なことを思い出して感慨深かったですね。
大喜多:実際にステージに上がって2曲目くらいまでは、色んなことを考えていました。普段演奏している時は身体が自動操縦みたいに動くんだけど、それが隅々まで意識していないと止まってしまうんじゃないかと思うというか。頭をフル稼働させて良い意味で緊張感を保っていて、時間の流れもゆっくりに感じたし、「よし、いいぞ」という感覚がハッキリありましたね。
●頭の中は冷静だったということでしょうか?
大喜多:冷静を飛び超えて覚醒していたというか。冷静に演奏をこなしていくんじゃなくて、頭のなかがカオスなんだけどスッキリしていたんです。これは赤坂BLITZだけでの感覚だったんですけど。
生形:やっぱりあの日は追加公演が残ってたとはいえ、ファイナルを迎えたということに尽きますね。結局すぐどうでも良くなるんだけど、最初は「カメラあるし絶対ミスれないな」という変な緊張感もあったけど(笑)。
●ところでライブの時、客席は見てるんですか?
生形:ずっとではないけど、見る時は限界まで目を凝らして2階席も見ますよ。
●あ、そうなんですね。
生形:うん。お客さんのことを見ておきたいというか。
大喜多:俺はすぐ反応出来るようにメンバー全体の動きを見ていて、その合間にお客さんを見ているんですけど、あの日のお客さんは凄かった。俺たちよりタフなんじゃないかって思うくらい。それぞれのやり方で凄い楽しんでくれていたのが見えました。
●メンバーの視点で、ということで訊きたいんですが、Nothing'sのライブの面白さはどういう所にあるんでしょう?
大喜多:吹っ切れているというか、限界まで動いて力を込めて演奏している所ですかね。頭はクールで演奏は熱い感じなんだけど。演奏している人にとってはその状態が一番理想だと思うんです。このバンドのライブではその状態になれる。
生形:Nothing's のライブはスポ-ツみたいですよ(笑)。意識的にこういうライブをしようって決めたわけじゃないし、きっとオニィ(大喜多)もFULLARMORとまた違ったライブをすると思うし。
●ライブバンドだから、ツアーを経験するとバンドの成長も実感するでしょうね。
生形:もちろん実感するし、逆にツアーをやらないとバンドは成長しないと思うんです。だから今後も毎年リリースして、出来るだけツアーに行く事が理想ですね。
●今回のツアーの中、次のアルバムに向けてアイデアが出たりとか?
生形:それはあります。曲数も増えてきてるから、1stアルバムのツアーの時ほどは感じないけど、ライブを重ねる中で盛り上がる感じを掴むとそういう曲があと3曲くらいは欲しいなと思ったりするし。
●セットリストにも変化が出てきそうですね。
生形:セットリストはまずはツアーの前のリハで考えるんですけど、最初の10本くらいはところどころ入れ替えての繰り返しなんですよ。感触が変わってくるのもそうだし、何よりずっと同じことをやって予定調和が生まれてしまうのが嫌で。1曲が変わるだけで気持ちは全然違いますね。
●ああ~、なるほど。そういう話を聞いて思ったんですけど、Nothing'sは常に意図的に新鮮さを課しているとこがありますねよね。
生形:言われてみればそうですね(笑)。でも俺らの場合は良く悪くも会う機会が少ないから、新鮮にならざるを得ないところもあって。それでもツアーが始まるとどうしてもそうじゃなくなってくる。それがすごく嫌だから色んな手を使って変化を求めていますね。
●バンドによってはツアーを通してセットリストを変えない場合もありますけど。
生形:そうですよね。ライブを1つのショーにすることもあるとは思うんです。でも俺らはそうじゃない。今回はツアーの途中で敢えてSEをなくしたんですよ。お客さんもどこで声をあげたらいいかわからないみたいな感じだったし、そうするとこっちも緊張感がものすごくて。
●発想がドMですね(笑)。
生形:(笑)。今もSE無しでやってるんですけど、そういう細かいところで常に新鮮さがあるようにしてますね。決行するのは勇気がいりますけど。
●現時点で、次回作をどんなものにしたいという構想はありますか?
生形:2~3曲くらいの構想がなんとなく出来ているんですけど、さすがにまだわからないです(笑)。同じことをやらないようにしてるので、これまでの2枚とは違うものが出来てると思いますけど。
●曲を重ねていく中で全体像が見えてくるんでしょうね。
生形:「これがNothing's Carved In Stoneだ」と言える根幹の部分は絶対に変えたくないし、多分変わらないと思うんです。その中でもさっき言っていたみたいにライブの盛り上がりを前提に曲を作ることもあるし、音楽的なアイディアとしてそれぞれがやってみたいと思うことを試すこともある。そう考えると、今回は後者が多くなるかもしれないですね。
●バンドをやっていく中の1つの傾向として、お客さんとライブの時間を共有すればするほど、曲調もキャッチーになっていく場合があると思うんですよ。“もっとお客さんを盛り上げたい!”という想いが曲作りに直接作用するというか。
生形:そういう場合はありますよね。
●Nothing'sとしてはその辺はどうなんでしょうか?
生形:うーん、“キャッチー”という言葉の捉え方が難しいんですけど、4人ともキャッチーな音楽は好きなんですよね。でも、絶妙な加減でこのバンドでしか出せないポップさを出したい。もしかしたら聴く人によっては全然ポップじゃないと思うけど、それは全然気にしてないかも。
大喜多:うん。でもそういうのは1stアルバムや2ndアルバムの中にすでに含まれていることだと思うんです。Nothing'sを好きな人たちが思う“Nothing's的ポップ”というものがあって、それはきっと次のアルバムにもあるはずですよ。
●そういう意味では、Nothing'sの芯は絶対に変わらないまでも、次に作品がどういう方向になるかわからないですね。
生形:うん。幅が広がってもいいと思うし、逆に1つに絞ってしまってもいいと思ってる。売れるか売れないかは別として、なにかひとつの筋が通っているものも個人的には好きだし、どうなるかは自分たちでもまだわからないです。
●その“売れる”ということは意識してるんですか?
生形:意識していないと言ったら嘘ですよね。なるべく気に入ってくれる人が多いに越したことはないし。そもそも誰かに聴いてもらいたくて曲を作ってライブをやっているから、それが多くに人に届いたら嬉しいですからね。
●確かに。
生形:さっきも言ったようなNothing'sのキャッチーさやポップさというのは少数派だとは思ってないんですよ。逆に僕らが“誰もがポップだと思う曲”を作ったところで、良いと思ってくれる人がいるかといえばそれはわからないことだし、そもそもそんな曲は狙って作れないと思うし。それなら自分たちがやりたいことをやって、聴いてくれる人がどれだけいるかに挑戦したいです。
●なるほど。今後、会場の規模やツアーの本数での目標はあるんでしょうか?
生形:ライブをやるからには上げれるだけ規模を上げたいです。もちろん小箱もやりつつ。本数も可能な限りやりたいと思ってるし。それこそ、アルバムツアーを2回に分けてやるでもいいと思ってるんですよ。
大喜多:1つの会場が埋まったら次にその地域に行く時はもう一つ大きな会場でやりたい。Nothing'sでまだ行ったことがない場所もあるからそこにも行きたいし、その繰り返しですね。
●ライブバンドだから当然でしょうけど、今回のツアーもお客さんから得るものが大きかったでしょうね。
大喜多:ライブだと常に刺激をもらうんだけど、今回特に言うならみんなの笑顔がすごかったですね。思いっきり歌ってる人がいたり、楽しそうに暴れてる人もいたりして、そういうのを見ると愛を感じるし、俺たちももっともっとライブをやるぜってなりますね。
生形:俺たちにとってはその場に行くのが10回目だとしても、そこが一番近い会場だからって何時間もかけて足を運んでくれたり、その1回のライブの為にずっと前からチケットを取って、その日を楽しみにしていたという人がいるということを絶対に忘れちゃいけないと思うんですよね。
●ライブを観ていて不思議なのは、あくまで演奏しているのはステージにいるバンドなんだけどお客さんも一緒にライブを作っている感じがありますよね。
大喜多:そうですね。お客さんからはものすごくたくさんの力をもらいます。相乗効果以上のものがあって、どんどん先にいけてしまうくらいの感じで。
生形:ワンマンライブになるとそのエネルギーが比べものにならないすごくて、同じライブハウスでも広さが全然違って感じるんですよ。赤坂BLITZのように広い会場でも、不思議とお客さんのことをすごく近くに感じるんです。一度たりとも同じ感覚のライブはないし、ツアー初日もファイナルも、会場の大きさが違っても“いいライブをする”ということだけは変わらずに続けたいです。