「人を鳴らす音」をキーワードに、あらゆる境界線をボーダレスに「唄い」「奏で」「刻む」4ピースバンド、jimmyhat。昨年9月に発表した初のフルアルバム『ワンダーワンダーワンダー』で高評価を得た彼らが、新作ミニアルバムをリリースする。タイトル通り“心について”歌われた7曲は、今の時代に漂う不安感を捉えながらもその先にある希望を照らし出すかのよう。言葉を支えるサウンドの深みも増した彼らの進化は、さらに続いていく。
●昨年9月に発表した1stフルアルバム『ワンダーワンダーワンダー』は、2005年の結成からの集大成的な意味合いもあったのかなと思うんですが。
高倉:やっぱり初めてのフルアルバムということで集大成でもあり、1つの旗を立てた感じはありますね。元々は過去の曲や会場限定で発表していた曲を録り直して、ベスト盤的なものを作ろうと思っていたんですよ。でも制作途中で東日本大震災が起きたことで、ちょっと思うところがあって。これまでがあって今があるとしたら、“これから”を思わせるような曲も入れたいなと。その結果、集大成という枠を一歩出たようなものになりました。
●その延長線上に今作もある?
高倉:前作がキッカケになって、歌詞の言葉が本当にシンプルになったんですよ。たとえば「ありがとう」や「ごめんね」みたいなよくある言葉も、それを言うまでにああでもないこうでもないと考えているわけで。そうやって声に出すまでの時間軸や、感情の深さみたいなものをサウンドで表現したいなと思ったんです。
●サウンド面にも新たな変化をもたらした?
高倉:新しいチャレンジとして、打ち込みとの同期を使った曲も前作から取り入れ始めてはいたんです。それ以前はメンバー4人だけで出せる音じゃないとダメだと思っていたんですけど、今回は“この感情を鳴らすためにこのサウンドが必要だ”と浮かんだ時点で全部取り入れたんですよ。前作がキッカケになってサウンド面では深く、言葉はシンプルになった感じがありますね。
●言葉もシンプルだけど、深みがあるというか。
高倉:色んな経験をしていく中でまず根本のところから枝分かれしていって、途中でしがらみが生まれてきて、その後にまたシンプルを求めるようになるんですよね。前作をキッカケに今回の『心について』ではかなり根っこに近い部分まで来たので、ありふれた言葉でも自分の価値観で綴れるようになったんです。その姿勢は前作から変わっていないんですけど、今回のほうがより自分の辿り着きたい答えに近付けている感じがします。
●M-1「となりで笑わせて」を始めとして、今作には“笑う”という言葉が歌詞に入っている曲が多いですよね。
高倉:“笑う”っていうことが今回、僕の中でテーマだったんですよ。“笑う門には福来たる”とはよく言ったもので、笑うことで何か良いことが起きるんじゃないかと思って、自分はなるべく笑うように心がけているんです。身近にいる人との間に小さな笑いの輪がいっぱいできれば、きっと平和になるんじゃないかなと思うから。
●まずは身近なところから始めようと。
高倉:自分自身も以前から、周りのヤツが落ち込んでいたら笑わせてあげようというところがあったんですよ。それは、そいつが笑うと僕もテンションが上がるからで。他人は鏡じゃないですけど、そこを介して自分のところに返ってくるんだっていうことを強く感じてきたので、それをテーマに今回の作品は書いたんです。
●ここ最近でそういうことをより強く感じた?
高倉:震災もあった中でtwitterとかを見ていると、“正しさ”が誰の味方にもなっていない気がしたんですよ。誰かの“正しい”を別の誰かが叩いていたりして。広義な意味での“幸せ”や“正しさ”は僕にはわからないし、“世界を変えたい!”みたいな大きなことは思わない。だけど、自分の近くにいる人が笑う理由にはなりたいなということをすごく考えていて。そういうところがキッカケかな。
●世界を変えることは一方で傷付く人も生むけど、となりの人を笑顔にしても誰も傷付かない。
高倉:広い世界を変えようとして戦う人たちもいるんでしょうけど、僕は“僕のやり方をしよう”と思ったんです。“自分のやり方はこうだ”というものを提示できる状態になったんでしょうね。その想いが確信になって、できたのが今作なんですよ。
●身近なところから始めたことが結果的に、大きな動きにつながったりもするわけですからね。
高倉:ライブも同じで、最初は30人くらいの前でやっていたところからどんどん膨らんで行ったりする。“千里の道も一歩から”みたいな話ですよね。音楽をもう長く続けていますけど、1stミニアルバム『空〜haruka〜』の時のプロデューサーに言われた「続けることが答えになるんだ」という言葉が自分の中でずっと残っていて。答えって、変わるものじゃないですか。今日出した答えが明日の疑問になったり、逆に自分を悩ましたりもするけど、答えを探そうとする姿勢が答えになるというか。
●最初から答えがわかっていたら音楽で表現しようとも思わないだろうし、答えを探している姿勢が歌になったりするんだと思います。
高倉:そうなんですよね。人って、ちょっとした一言で変わったりするものだから。自分も日々変わるし、さっきも言ったように今日出した答えが明日の答えではないけど、中には一生の答えになっていくものもある。答えを探している状態を続けることが結局は答えだったりするので、それって一生ものなんですよ。
●そうやって日々考えていることが歌になっていくんでしょうね。どの曲も最終的には前向きなメッセージを伝えているのも、jimmyhatの特徴かなと。
高倉:最終的には、“賛美歌”が良いと思っているんです。“みんなで泣こう”よりも“みんなで笑おう”のほうがわかりやすいじゃないですか。パンドラの箱じゃないけど、悪しきものが全部出た後に残ったのは希望だった…みたいな。そう言うとキレイな話ですけど、やっぱり人は希望がないと生きていけないんですよ。
●前向きな言葉を表面的にキレイなだけじゃなく響かせられるのも、表現に深みを増したからでは?
高倉:そうやって言ってもらえることで、また自分の言葉に確信を持って歌えるんですよね。あとは聴き手がどう思うかだけなので、色んな人から感想を訊いてみたい。それを集約するものが、ライブなんでしょうね。そこで新たな発見もあるし、ライブを通じて曲がすごく育っていくんです。今回もツアーをまわるんですけど、ファイナルではもっと面白いことになっているんじゃないかなと思います。
Interview:IMAI