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摩天楼オペラ

様々なことを経て辿り着いたこの場所から見える世界は美しい

2017年の結成10周年イヤーを経て、昨年G.JaYが加入、そして2019年1月からDr.響が正式加入し、現体制になった摩天楼オペラ。そんな彼らが、メタルをコンセプトにした2部作『PANTHEON -PART 1-』(2017年4月)・『PANTHEON -PART 2-』(2017年11月)以来となるフルアルバムを完成させた。今までの摩天楼オペラを彷彿とさせつつ、現在の5人の個性が融合した音を存分に詰め込んだアルバム『Human Dignity』。人間の生きる力を描き、重厚で荘厳な世界をより進化させた最新型のサウンドは、聴いた者の眼前に美しい世界を描き出す。

 

「これからまた新たなことが出来そうな雰囲気があるんです。バンドを始めた頃の“奇跡を起こしてやるぜ”みたいな感じで満ちている」

●今年の1/1に響さんが正式メンバーとして加入されましたが、それまでサポート期間があったんですよね?

響:そうですね。サポートとしては7ヶ月くらい活動していました。

●響さんから見て、加入前と加入後では摩天楼オペラの印象は変わりましたか?

響:印象が変わったというか、それまでは知らなかった部分が見えた感じはありますね。僕はこのシーンにあまり詳しくなかったんですけど、それでも昔から摩天楼オペラのことは知っていたんです。なぜならメタルを基調としている音楽性だったので。

●はい。

響:そういう音楽的な部分の印象は変わらないんですが、実際に関わってみると、人間性とかが見えてきて。これは正式加入を決めたいちばんの理由なんですけど、摩天楼オペラは人間関係がすごくいいんです。僕は今まで2つバンドをやってきて、それ以外にサポートもかなりの数を経験しているので、色んなバンドを見てきているんです。そういった経験の中で、バンドをやる上で大切なのはやっぱり人間関係だと思うんですよね。

●なるほど。

響:どんなに有名になったとしても、人間関係がダメになるとバンドを続けられなくなってしまう。そういう考えが僕の中ではあったので、摩天楼オペラに関わってメンバーそれぞれの人間性を知れたことはすごく大きかったですね。

●他のメンバーから見た響さんはどういう方ですか?

苑:よく出来た人間ですね。7ヶ月間ずっとアラ探しを続けていたんですが、無かったです。

●すごい。

彩雨:未だに僕はアラ探しをしているんですが、響に足りないのは炭酸が飲めないところくらいですね。

響:はい。炭酸飲めないんです。

●それ欠点ですか(笑)。

彩雨:ビールも飲めないので、ツアーとか行ったら打ち上げで困るなと思って。でもウーロンハイとかジャスミンハイを教えてあげたら美味しそうに飲んでるので、良かったです。

●ハハハ(笑)。燿さんはリズム隊ということで接点も多いと思うんですが。

燿:サポートを頼むとき、摩天楼オペラの曲を最低限叩けることが条件だったんですけど、響は実際に合わせてみると必要以上にドラムが上手くて、更に人間性も良くて。僕も例に漏れずアラ探しをしていたんですけど、ついさっき、コーヒーもあまり飲めないことを発見しました。

響:コーヒーも苦手なんです。

一同:ハハハハ(笑)。

●飲み物に弱点があると(笑)。JaYさんから見た響さんの印象はどうですか?

JaY:俺は響と年が近くてバンドの中では若い世代になるんですが、同じ時代を生きてきているのになぜこんなに俺と違うんだろう? と思うんです。

●それはどういう部分で?

JaY:響はめちゃくちゃ真面目で、若いのにしっかりしてるんです。本当にバンドマン? と思うくらい。ドラムも上手いし。すごいです。

●そんな新メンバーを迎え、現体制で初めて作ったのが今回のアルバム『Human Dignity』ということですよね?

苑:そうですね。今作はこの5人で初めてアルバムを作るので、今までの摩天楼オペラらしさ…僕と彩雨、燿の3人が持っている部分…と、JaYと響が持っている部分…ラウドな要素…を混ぜ合わせることが出来たらいちばんいいんだろうなと考えて取り掛かったんです。それで、JaYが持ってきたM-1「Human Dignity」のイントロのリフを聴いて“この曲だ!”とピンときたというか。この音に僕がメロディを付けて、このメンバーで肉付けしていったら、今の摩天楼オペラになるんじゃないかなと。まず最初に「Human Dignity」を作って、そこからアルバムに膨らませていきました。

●「Human Dignity」で、手応えを感じた。

苑:はい。「Human Dignity」はしっかりとこの5人を意識して作った最初の楽曲なんです。この曲は去年の夏頃に作ったんですが、その少し前に「メンバーになってほしい」という話を響にして、「一緒にやりましょう」となったタイミングだったので、“この5人で何が出来るか?”というところを意識していた時期で。その中で「Human Dignity」がまず生まれたんです。

●「Human Dignity」のリフは、JaYさんはどういうイメージで作ったんですか?

JaY:この曲を作るとき、アルバムの1曲目というイメージがあったんです。アルバムを再生したら最初にSEが流れるパターンってあるじゃないですか。それとは逆に、再生したら最初にバーン! とギターが入ってくるものにしたかったというか。

●インパクトのある幕開けにしたかった。

苑:JaYらしいギターリフだし、僕たちが色を混ぜやすい曲だったんです。“これを完成させたらかっこいい!”という手応えがあったので、アルバムの主軸となる楽曲に選びました。

●「Human Dignity」で歌っている内容は作品全体に通じるものがあると感じたんです。具体的に言うと、“生”と“死”。その2つが作品全体に共通していますよね。

苑:そうですね。“Human Dignity”は“人間の尊厳”という意味なんですが、この曲の歌詞については、人間の生きる強さだったり、その人の覚悟やプライドを強く打ち出すようなものにしたんです。さっきの話に通じるんですが、JaYが持ってきたリフを聴いたとき、人間味を強く感じる感覚があったというか。単純なロックでもないし、単純なメタルでもない、深みのあるリフだと思ったので、そこからイメージしたときに、人間が持つ“強さ”を歌詞でも表現したくなった。

●感情に響く音だった。

苑:そうですね。拳を振り揚げて「がんばろうぜ!」っていうようなストレートな歌詞というよりも、もっと人間の内面を描きたくなったんです。

●なるほど。今作は印象的な楽曲が多いと感じたんですが、例えばM-7「箱の底のMUSIC」はミクスチャー的なアプローチですよね。今作の中でもかなり斬新な楽曲で。

JaY:この曲は1分20秒くらいしかないんですけど、1回のライブで何度も出来るかなって。

●ライブでオーディエンスとの一体感も作りやすいというか。

苑:この曲はクラップが入っていますけど、ああいうアイディアもアレンジを練っていく中でどんどん加えていったんです。実はこの曲、1分20秒しかないのにいろんな要素が満載なんですよ。

●え? というと?

苑:クラップがあったり、インディーズ時代の…10年以上前に作った曲の要素が一瞬入っていたり、数年前の楽曲の歌詞が丸々入っていたり。仕掛けが多い楽曲なんです。

●あっ、そうなんですか。そこまでは気づきませんでした。

苑:摩天楼オペラを10年以上知っている人だったら気づく仕掛けというか、そういうアイディアが詰まった1分20秒なんです。「何かおもしろいことをやろう!」っていう気運が最近はバンド内に溢れていて、そういうアイディアが各メンバーから飛び出ることが多いんです。

●いいことですね。

苑:この「箱の底のMUSIC」も、短い楽曲ですけどちょっとひとクセあった方がおもしろいなと思って。だから仕掛けをいっぱい入れて、「みんな何個気づくかな?」という感じ。

●そう思って改めて聴くと、ファンの方はより味わい深くなるし、そういうトリックを発見したときは嬉しいですね。

苑:どういう要素が入っているか全部説明したいくらいなんですけど、ここまでにしときます(笑)。

●ハハハ(笑)。あと1点非常に気になることがあって、アルバムの9曲目に入っている「Cee」は饒舌なギターが印象的なインスト曲ですが、この曲がこの位置に入ることによって、作品全体の流れがすごく物語的になっているというか。

苑:ほう。

●アルバムを通して聴いたとき、M-1「Human Dignity」からM-8「actor」までの楽曲では、“渇望”や“葛藤”など、ちょっとダークな感情を表現している印象があって。

苑:そうですね。

●でもインスト曲の「Cee」を経た後は、楽曲の中にある感情が変化したような気がするんです。

苑:なるほど。厳密に言うと、意図してそういう流れにしたわけでもないですし、意図してそういう歌詞にしたわけでもないんです。でも確かに、アルバムのこの位置にインストが挟まることによって、ストーリーが切り替わる感じは出ていますね。それまでは“渇望”や“葛藤”を描いていて、「Cee」で切り替わった後は、アルバム最後に向かって“希望”を描いているというか。

●そうそう。バラードのM-10「見知らぬ背中」の後、M-11「SNOW」からM-12「The WORLD」への流れがストーリー性を際立たせていて、おっしゃったようにアルバムを聴き終わったときにすごく“希望”を感じる。

苑:そうですね。でも当初は別に、そういう風にアルバムを作ろうとは意識していなかったんです。でも結果的に曲順にもストーリーが生まれたのは、曲順を考えたメンバーのアイディア勝ちですね。曲順については、楽曲が全部出揃ってレコーディングが始まってからメンバーで決めたんですけど、その中でこのような流れになりました。

●特にアルバム最後の「The WORLD」で、すべてが救われたような気持ちになったんです。他の楽曲で描かれている“渇望”や“葛藤”を全部受け入れたというか。

苑:アルバム序盤の楽曲は人間の暗い部分を切り取って歌詞にしたんですけど、「The WORLD」は人間の美しい部分を前面に出したんです。みんなもがいてがんばっているんだけど、「それでいいんだよ」と言いたかった。別に「The WORLD」を作ったのは制作の最後の方ではなかったんですが、最後を見据えて作ったんです。この曲はあたたかいメロディで、サウンドから膨らませたイメージがこの歌詞で表現した“救い”に繋がったんだと思います。

●あたたかいですよね。この曲は他の曲とは違って、楽器全部でメロディを歌っているというか。

苑:「楽器全部で歌っている」っていいですね(笑)。わかります、みんながメロディを活かそうとしているアレンジになっていますね。この曲はみんな、最初にアレンジを付けたときからメロディを活かすものになっていて、逆に「もっと自由にやっていいよ」と僕から言ったくらいなんです。でももともとのメロディが強かったから、自ずとこういう形で完成したんだと思います。

●まさに最新型の摩天楼オペラを表現したアルバムになりましたが、リリース後のツアーはどういったものにしたいですか?

苑:今のバンドの状態は、これからまた新たなことが出来そうな雰囲気があるんです。バンドを始めた頃の「奇跡を起こしてやるぜ」みたいな感じで満ちているので、それをファンの人と共有出来るようなツアーになればいいなと思いますね。みんなもライブを観たら「今の摩天楼オペラはヤバいな」ってなると思うんです。それで次のステップへと進むことが出来る手応えがあるので、色んな人に観に来てほしいと思います。

interview:Takeshi.Yamanaka

 

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