代々木ゼミナールCMソングとなったオンラインシングル『スーパーノヴァ』を1月に発表し、配信プロジェクト“LOVE LETTERS”として4ヶ月連続で楽曲を配信(後にCD&BOOKLET『LOVE LETTERS』としてリリース)、そして11月には主催フェス“BUTAFES 2018”をソールドアウトさせた神戸発のロックバンド・alcott。目まぐるしく駆け抜けてきた2018年、彼らは大切な人たちとのめぐり逢いから生まれた想いが結晶化したアルバム『あまのじゃくし』を完成させた。かねてからサポートだったDr.小浦哲郎が正式メンバーとなり、心を1つにして作り上げた同作とツアーについて訊く、Vo./G.貴田 宰司インタビュー。
「ぶつかることで解散とか、バンド抜けるとか…そういった生ぬるい考えでバンドをやっているわけではないんです。ぶつかるのは、喧嘩するのは、ただバンドを良くしたいから」
●今年は代々木ゼミナールCMソング「スーパーノヴァ」の発表や、配信プロジェクト“LOVE LETTERS”、11/14には7thフルアルバム『あまのじゃくし』リリース、11/23に恒例の主催フェス“BUTAFES 2018”開催、そして現在ツアー中と、とても慌ただしい1年だったと思うんですが、振り返ってみるとどうですか?
貴田:本当にたくさんの人と出会った1年でした。今回のアルバムはMastard Recordsというレーベルから出させてもらったんですが、そういうチームと出会えたことも大きなことで。もっと遡ると、2017年5月にアルバム『YELL』を出して色んな所に行った上で、今年の“LOVE LETTERS”で全国に行かせてもらって。全国に繋がりが出来て、alcottを知ってくれている人が増えた年でした。だから出会いというかめぐり逢いというか。
●充実した1年だったんですね。
貴田:よくツアー先で「ただいま」っていうMCをされているバンドが居ると思うんですけど、僕はそういう風に言えなかったんです。実際そういう風に思えなかったから。でも今年1年活動をしてきて、今は「ただいま」と言いたくなる場所が増えてきたかなという気がします。
●それと今年9月にドラムの小浦さんが正式メンバーになりましたよね。これも今年の大きなトピックスの1つだと思うんですが。
貴田:はい。2年間ずーっとサポートしてもらっていたんです。前のドラムが抜けたのが2年半くらい前で、その半年後くらいから哲郎さん(小浦)に叩いてもらっていて。そこからずっとサポートしてもらっているんですけど、哲郎さんは僕らより年上なんですよ。内田と谷と僕の3人は同じ大学の同級生で、一緒に軽音楽部で出会った仲なんですけど、ずっとドラムは代わり続けていたんです。安定しなくて。
●はい。
貴田:僕ら3人は付き合いが長いから、何か問題があったときの解決の仕方が似てくるんですよ。でも哲郎さんは違う方向からアイディアをくれるし、メンバーのように一緒に音楽も作ってきたし、ずっと前から「正式に加入してほしい」と言っていたんですけど、うまくかわされ続けていて。
●かわされ続けてた(笑)。
貴田:「今とちゃうやろ」みたいな(笑)。でも今回、アルバム『あまのじゃくし』が完成して、僕らにとって本当に大切な1枚が出来て達成感も高かったし、「ここから行くぞ!」と4人でがんばりたいと。1人がサポートのままステージに立ちたくないという気持ちが強かったんです。4人でやってるけどやっぱりどこかで“哲郎さんはサポートや”っていう気持ちがあるし、その気持ちは音に出ると思うんですよ。それにサポートだと、どうしても一歩退いて僕らを応援するじゃないですか。
●確かにそういうのって、ステージに表れますよね。
貴田:うん。だからここからはこの4人で、alcottの本当の音を鳴らしていきたいと。だから本気で「入って欲しい」と告白したんです。そうしたら「そうやな」って。「お前らと音楽やりたいから」ということで入ってくれたんです。
●さっきおっしゃっていたように、アルバム『あまのじゃくし』をどうしても万全の体制でリリースしたかったのは、作品に込めた想いの強さも、完成したときの手応えも、今まで以上のものがあったから?
貴田:そうですね。タイトル曲のM-6「あまのじゃくし」は2017年の暮れから作り始めたので、今作はざっと1年くらいかけて作った作品で。僕の場合、“書きたい!”という衝動から曲にすることが多いんですが、人に会ったときにそういう衝動が沸き起こることが多いんです。メンバーに書いたり、スタッフに書いたり、縁のある人に書いたり、家族に書いたり。
●最初に「たくさんの人と出会った1年だった」とおっしゃいましたけど、そういう大切な経験の中で生まれた作品だと。
貴田:そうですね。
●歌詞は一見恋愛的な内容とも受け取れるんですが、人との出会いで生じた気持ちが楽曲の根幹にあるんですね。
貴田:はい。もちろん好きな人に対しても書きますけど、メンバーがいちばん近いところにいつも居るので、スポットを当てやすいんですよね。想いやすいというか感じやすいというか…それを恋愛に重ねることはめっちゃあります。だから男とか女とかあまり関係なく、“好きやな”って思えるし…これ勘違いされることも多いんですが(笑)。
●BLとかですか(笑)。
貴田:はい(笑)。“あたし”という言葉もよく使うし、女性的な言葉を歌詞の中で使ったりもするんですけど、それは自分の気持ちをそういう言葉で表現した方が響きやすいと思ったからで。
●表現の方法が違うだけだと。
貴田:そうですね。男女間の限定した話ではなく、大きな意味でのラブソングだなと自分でも思います。
●近しい人に対しての気持ちを歌にすることに、恥ずかしさや照れはないんですか?
貴田:僕、「言わないとわからない」ということは、いつもメンバーと話しているんです。「絶対に思ったことは話そう」と言いますし、何度も何度もぶつかってきたし。“嫌や”と思っていても“ここが嬉しかった”と思っていても、言わなかったら伝わらないじゃないですか。例えばライブが終わった後とかに「お前のここが好きや」みたいな、言わないと気持ちが伝わらないということは長くやってきて痛感しているんです。
●ほう。
貴田:人間は何か嫌なことがあったら避けたいと思うし、そこで話すことはすごく労力が要ることですけど、ぶつかることで解散とか、バンド抜けるとか…そういった生ぬるい考えでバンドをやっているわけではないんです。ぶつかるのは、喧嘩するのは、ただバンドを良くしたいから。「alcottを良くしたいからちゃんとぶつからないと前には進めない」っていつもメンバーと話しているんです。
●いい関係性ですね。
貴田:M-9「予報外れのラブソング」でも今話したようなことを歌っていて。この曲は姉に書いた曲なんですけど、その姉は僕が音楽をやっていることを最初はすごくバカにしていたんです。「くだらないこといつまでやってんの」みたいな感じでずーっと見られていたんですけど、結婚する際に「歌ってほしい」と言ってくれて。
●うわ。
貴田:「予報外れのラブソング」で“話しようよ 喧嘩しようよ”と歌っていますけど、それはずっと一緒にいると決めたからなんですよね。もっともっと仲良くなるための喧嘩なら僕は全然いいと思うので、バンドも人も、どんどんぶつかっていこうと思いますね。
●もっと仲良くなるためにっていいですね。
貴田:切り込み隊長みたいな感じです。あ、女性に対しては全然ダメなんですけど(照)、男同士とかチームとかだとバンバンいきます。
●女性に対してはバンバンいけないんですか(笑)。
貴田:女性には勝てないんですよね。弱いというか(苦笑)。
●でも貴田さんは、そういった“弱さ”の部分も歌にしていますよね。
貴田:この1年、『スーパーノヴァ』や『LOVE LETTERS』で色んな人に協力してもらったんですけど、その中でalcottはどういうバンドで、どういう人間がやっているのかをもっと知ってもらいたいと思うようになったんです。なので今回のアルバムのジャケットは自分の顔にしたし、包み隠さずに自分たちのことを伝えていけたらなという気持ちがすごく強かったんです。
●包み隠さずに。
貴田:僕は、かっこつけようとしてもどうしても格好がつかない人間なんです。だから今まで以上にありのままを出せたらなという想いがあって。ウチのメンバーはめちゃくちゃ個性的で、プレイとしても全員我が強いんですけど、みんな歌や言葉を大事にしてくれるんです。アレンジも、歌詞を読んで楽曲の世界観に歩み寄ってくれるというか。だから自分をより素直に出せるようになったのかもしれないですね。
●人との出会いが“曲を書きたい”という衝動になるということは、今作を聴く限り、色んな人と出会ってきて、色んな気付きや発見があった1年を過ごしてきたということがわかりますね。
貴田:この1年間は色々と考えさせられました。このアルバムはとにかく自分たちのありのままを描きたいと思っていたので、僕たちのような“あまのじゃくし”な人たち…僕の天の邪鬼なところと子供っぽさ(=おたまじゃくし)を合わせて“あまのじゃくし”という言葉を作ったんですけど…“あまのじゃくし”な人たちに届いたらいいなと思います。
●このインタビューが公開になる頃には主催フェス“BUTAFES 2018”も終わっていてアルバムリリースツアーが始まっていますが、ライブは楽しいですか?
貴田:楽しいですね。どんどん楽しくなっていきます。
●それは以前と比べても全然違う?
貴田:全然違いますね。お客さんと近づけるかどうかというのは、いいライブが出来るかどうかにかかっているというか、僕ら次第なんですよね。少しずつ自分たちが出来ることっていうのも理解してきたし、自分たちのやりたいことも明確になってきているんです。
●自分たちがライブでやりたいことのいちばんは何なんですか?
貴田:何よりも“歌”を表現したい。それがすごく大事だなと思っていて。楽曲をどういう風に伝えたらいいか、お客さんにどう届けるか…そこを明確に描くようになってからは、やることは決まっているというか。迷わなくなってきたんですよね。
●自分たちの音楽の中心には歌があるということを自覚したから、迷わなくなった。
貴田:そうですね。その上で曲によって楽しめることはいっぱいあるので、曲それぞれでライブを楽しめばいいし、お客さんの顔を見て“届いているな”と実感できたら僕らも楽しいし。来てくれた人たちがalcottの曲を聴いて何かを持って帰ってくれたらいいなと思います。
●以前は迷っていたこともあったんですか?
貴田:迷っていたこともありました。曲を作っているときと、レコーディングしているときと、ライブをしているときでは、時間が経っているので、同じ鮮度で表現するっていうのはなかなか難しいんですよ。でもそうじゃないんだなって。
●そうじゃない?
貴田:ライブでは“その曲をここでどう歌いたいか”という部分が大事だということがわかってきたというか。例えば「あなたが好きだから、ちゃんと想いを込めてこの曲を歌いたい」とその場で思っていないと届かないっていうか。そういうところを1つ1つ大事にして歌わないとダメだなっていうことがわかってきて。
●それはライブの説得力や、届くかどうかに関係するんでしょうね。
貴田:弾き語りの機会に改めて気づいたんです。哀しい想いを書いた曲であれば、哀しい想いで歌わないとダメだし、楽しい歌なら楽しんで歌わないとダメだし。1つ1つの想いを表現することが大切なんでしょうね。ライブで淡々と歌ったり綺麗に歌おうとしても意味がないんだなと思いますし。以前と比べて、よりそういうところが大事なんだということがわかってきた段階ですね。
●今の話は、最初の「1人がサポートのままステージに立ちたくない」という話にも共通していると思うんですけど、音楽を表現する上で嘘をつきたくないというか、誠意を持って表現しないと届かないという自覚があるんでしょうか?
貴田:その自覚はすごくありますね。ライブはそのときのチームの状態がめちゃくちゃ出ると思うんです。だから状況を整えていきたいと思うし、準備をしていきたいと思うし、哲郎さんに入ってほしかったのも、心が1つになった俺たちを見せたかったからなんですよね。
●はい。
貴田:精神状態はライブに直結すると思っているので、それまでにバンドを良くするために何度も話して、何度もぶつかって。それは待ってくれているお客さんたちに対する誠意だと思うんですよね。
interview:Takeshi.Yamanaka