力強いベースサウンドとしなやかで自由奔放なドラムワーク、即興性と実験性に満ちたエレクトロニクスを武器に2012年から活動を開始した、DALLJUB STEP CLUB。元DACOTA SPEAKER.のGOTO(drum / dub / compose)とBENCH.(bass / voice)、そしてWOZNIAK、TESTAV、OUTATBEROでも活動する星 優太(machine / bass fx / voice) の3人を中心として結成し、2013年にはAlaska Jamのボーカルとしても活動する森 心言(synthesizer / rap)が加入して、現体制となる。異なるバックグラウンドを持つメンバーが紡ぎ出すドープな世界観と音像、プレイスタイルはバンド/クラブというシーン間の壁を軽々と飛び越えるような強烈な個性を放ち、その名をじわじわと広め続けてきた。その場にいる者の心を鷲掴みにし、躍り立たせる唯一無二のライブパフォーマンスはまさに必見。最近では“YATSUI FESTIVAL!”や“Shimokitazawa SOUND CRUISING”にも出演を果たすなど注目度を増している彼らが、3rdアルバム『SANMAIME』をリリースする。DubstepやJungle、Juke/FootworkからTechno/House、さらにHip Hopまで、あらゆるジャンルを取り込み昇華した真にAlternativeな音を追求しつつ、より大きな広がりも感じさせる全8曲を収録した今作。どこまでも自由な遊び心を持って突き進む4人は、ここを足がかりにネクストステージへと駆け上がっていく。
「もし“ラップで入って欲しい”と言われていたら、断っていたかもしれないです。でも“シンセサイザーで入って欲しい”という連絡をもらった時に、“この人たちは頭がおかしいな”と思って(笑)」
●2012年10月にTwitterでGOTOさんが“DACOTA SPEAKER.を解散した後、BASS、BEATだけでどこまでいけるか限界に挑戦しようと思い”(※原文ママ)DALLJUB STEP CLUB(以下DSC)を結成したとツイートされていましたが、このバンドでやりたいことが最初から明確にあったんでしょうか?
GOTO:そうですね。“こういう音楽をやりたい”というイメージがあって、まず2人(※BENCH.と星)に声をかけた感じです。
●BENCH.さんと前のバンドから継続して一緒にやっているのは、2人の間で通じる部分も大きいから?
GOTO:僕が中学3年の時から、BENCH.さんとは一緒にバンドをやっているんですよ。ずっと一緒にいたし、同じような音楽を聴いてきているので、通じる部分はありますね。
BENCH.:ごっちゃん(※GOTO)が1年間くらい構想を練っていて、そこから声をかけてもらった感じなんです。自分自身もまたバンドをやりたいとは思っていたので、誘ってもらった時は単純に嬉しかったですね。構想も面白かったので、ワクワクしていました。
●構想というのは?
GOTO:ゆっくりと…なんか楽しい音楽をやりたいなと思って結成しました。
●ツイートの内容と違って、すごくゆるふわなイメージですが…(笑)。
BENCH.:実際は全然、ゆるふわではなかったです(笑)。しっかりとした資料を作ってきたんですよ。曲に関しても具体的な例を出して“こういう感じとこういう感じを混ぜたい”とか、ライブに関しても“こういう演出でこういう照明を使って…”といったところまで具体的に書かれていて。そういう明確なコンセプトをまとめた資料を提出してきたので、こっちも“良いね!“という感じになりました。
●実際は明確なビジョンがあったと。
GOTO:とにかく自分のやりたいことをまとめた感じですね。まずはメンバーをやる気にさせないといけないなと思ったから、最初に“餌をまく”という意味でちゃんと資料を作りました。
心言:資料の中身に関してはずっと、ぼかすんですね…(笑)。
●確かに(笑)。内容は語りたくない?
GOTO:正直、内容に関しては自分でもあまり覚えていないんですよ。でも照明に関して“ブラックライトでやりたい”と書いたのは覚えていて…、まだ1回もやっていないんですけどね(笑)。
●やっていないんだ(笑)。星さんを誘った経緯とは?
GOTO:星くんはWOZNIAKというバンドもやっていて、前のバンドで対バンしたこともあったんです。2人で一緒に遊びにも行くし、“友だち”みたいな関係でしたね。それもあって、誘いました。
●まず人間関係ありき?
GOTO:そうですね。あと、構想段階から星くんにエフェクターに関して“こういうことをやりたいんだけど、どうしたら良いかな?”とよく相談をしていて。星くんはエフェクター関係にも詳しいので、入ってもらおうと思いました。
●自分が求める音を作る上で必要な人材だったと。星さんは誘われた時、どう思ったんですか?
星:そこは“やる”の一択でしたね。
●それはGOTOさんの構想をまとめた資料が魅力的だったから?
星:いや、プレゼン資料を持って“入ってくれないか?“と誘われた感じではなかったですね。メンバーが3人揃って、“これからどういう感じでやっていこうか”と話し合った時にそれを見せられたんです。自分としては元々やる気になっていたので、さっき言っていたように“餌”をまかれたという認識はなくて…。
GOTO:釣った後に餌を口の中に突っ込むような状況でしたね。
●餌とは関係なく、星さんはやる気になっていた?
星:新しいことをやりたいとは聞いていて、“何かあったら言ってよ”と言っていたんです。前のバンドでは基本的にギターボーカルの人が曲を作ってきて、リズム隊を組んでいたごっちゃんとBENCH.さんはそれを“演奏している”感じだったんですよ。でもバンドの活動が進んでいく中でミュージシャンとしても成長して、自我が芽生えたというか。“もっとこういうのをやりたいな”という気持ちが出てきたんだと思うんですよね。
●“こういうの”とは?
星:それがオルタナティブな感じではなく、ルーツっぽいベースミュージックだったと思うんです。ダンスミュージックにもっとコミットしているような音楽をおそらくやりたかったんじゃないかなと。だから色々あって前のバンドが解散した時に、そういうことをちゃんとやるために3人で始めたという…そういうことだよね?
GOTO:はい、それが全てです。
●星さんがまとめてくれましたね(笑)。
星:“人力ベースミュージック”みたいなイメージですね。実際、初期はそう謳ってもいて。今もまだ根幹にはあるんですけど、だいぶバンドサウンド寄りになったとは思います。
●“人力ベースミュージック”という言葉も出ましたが、ライブではエフェクトも含めて全てリアルタイムで演奏するというところにこだわりがある?
星:やっぱりバンドだから。
心言:少なくとも最初はそうでしたね。
GOTO:でも今となってはもう、あまり気にしていなくて。構想段階ではベースミュージックを生でやっているバンドは周りにいなかったし、そういうことをやったら楽しいかなということで始めたんです。
●今は全てを生で演奏することにこだわっていない?
GOTO:最初はまさにそれをやろうという感じだったんですけど、だんだん単純に“好きな感じでやれたら良いな”という方向に考え方が変わってきたんです。元々はガチガチにやりたいことがコンセプト的に決まっていたので、そのとおりに進んでいく感じだったんですよ。でも今回は曲に関しても、みんなでこねくりまわした感覚が強くなって。そうなっていくにつれて、“別にコンセプトはなくても良いな。みんなで一緒にやって、できたもので良いや”と思うようになりました。
●最初のコンセプトに沿って3人だけでやっていたら、かなりストイックな音楽性になっていたと思うんですよ。そこに心言さんのラップが加わったこともあって、キャッチーな部分や広がりも生まれたのでは?
GOTO:でも実はラッパーを入れたかったわけではなくて、元々は“シンセサイザーを入れよう”という話だったんです。
●えっ、そうだったんですか。
GOTO:だから最初はラッパーとして前に出るというよりも、サイドMC的な感覚でフロアと演奏者の間に入ってくれる“仲介人”みたいな役割を心言にはお願いしていたんですよ。
●元々はシンセサイザー担当として誘ったんですね。
GOTO:そうです。
BENCH.:元々は星がシンセとエフェクターを両方担当していたんですけど、曲の幅を広げるにあたって手が足りなくなったんですよね。
星:やりたいことが増えてきて、3人だと機材の量や物理的なところで限界が出てきたんです。たとえばAメロからBメロに移り変わる時に、4つくらいのボタンを同時に押さないと切り替えられないといった状況が増えてきて。だから僕は右手と左手と左肘で一気にボタンを押して操作する…みたいなことをやっていたんです。
●機材を操作する上で、物理的に手が足りなくなっていた。
星:“ここで一拍空かないと(物理的に)無理”という場面も出てきて、そのために曲の展開を変えて欲しいとお願いすることもあったんです。でもそれって音楽的には正しくないことなので、“なんだかな〜”と思うことも増えてきて。
GOTO:パソコンを使って同期すればできるんですけど、当時は特にそういうことに対して嫌悪感があったんです。今思えば、若かっただけだと思うんですけどね(苦笑)。
●歳を重ねるに連れて、そういう抵抗感もなくなってきたんでしょうか?
GOTO:そうですね。
星:ごっちゃんの作ってくる曲自体も、よりスピーディーな展開のものが増えてきたんです。操作が増えるということはつまり、そういうふうに音楽が変わってきているということで。あと、活動をしていく中で当時は次第にイベントへの出演オファーが減ってきている状況だったんですよ。
●その理由とは?
星:“やれる範囲が狭いね”と言われたこともあったし、自分たちのやっていることが狭くて深いシーンだということを体感し始めていて。そこでごっちゃんが“基本的に活動は自分1人にして、ライブもDJセットで出る。そしてバンドセットでライブをやる場合に、他のメンバーも加わって3人でやる時がたまにあっても良いという感じにしようかな”と言い出したんですよ。
●バンドの活動方法について変えようかというところにまで至ったんですね。
星:もしくはメンバーを増やして、もっとやれることを増やせば音も変わっていくだろうし、開けていく方向になるだろうというアイデアもあって。そのどっちにするかについて、バンド内で大きな会議があったんですよ。本人はいつもそういうことをすっぽり忘れているんですけど…。
GOTO:そんなこと、あったっけ…?
星:あったよ。ごっちゃんの空気的には前者を選ぶんじゃないかなと僕は思っていたんですけど、“後者のほうが良い気がする”と本人が言って。自分はごっちゃんのドラムもBENCH.さんのベースも最高だと思っているので、“もっとプレイ面でカマしていけたら絶対良くなるのにな”と感じていたんですよ。そういうところで後者を選んだので、これはきっと良くなるだろうなと思いましたね。
●GOTOさんは自分で決断したことを覚えていない…?
GOTO:僕は昨日やったことも忘れてしまう人なんです。
星:我々もそういうところはあるんですけど、ごっちゃんにとっては“今”が一番大事なんですよね。“今どうしようかな”ということだけを考えているんだと思います。
●なるほど。後者を選んだことで、音楽的に広がりも出たのでは?
星:そうですね。それが今につながっていると思います。
GOTO:やっぱり広げていかないと面白くないかなって。もっと色んな景色を見たいと思うから。
心言:僕もわりとそれを意識しているつもりです。
●心言さんは、誘われた時にどう思ったんですか?
心言:前のバンドの頃から知り合いだったので、まだ3人でやっている時もDSCのライブを観に行ったりしていて。自分自身はベースミュージックとかについて詳しいわけではないんですけど、単純にカッコ良いなと思っていたんです。そういう中で“DSCが新しいメンバーを入れようとしている”という噂を聞いて、僕は“あの3人が良かったのに、新しいメンバーを入れちゃうんだ…”と思っていたんですよね。そしたら直接“メンバーに入って欲しい”という連絡を頂いて、“僕だったのか…!”となりました(笑)。
●シンセサイザー担当ということに関しては、どう思ったんですか?
心言:もし“ラップで入って欲しい”と言われていたら、断っていたかもしれないです。自分がボーカルをやっているバンド(※Alaska Jam)も他にあるから。でも“シンセサイザーで入って欲しい”という連絡をもらった時に、“この人たちは頭がおかしいな”と思って(笑)。
一同:ハハハハハ(笑)。
●シンセサイザーの経験があったわけではない?
心言:経験は全然なかったです。だから“変な人たちだな”とは思ったんですけど、そういう変なことにも飛び込んで色々と経験したいなという気持ちになって。単純に好きなミュージシャンたちだったので、一緒にバンドをやれるのはすごく刺激的だなというところで加入しました。
●誘った側も、シンセサイザーの演奏経験を重視していなかったんでしょうか?
GOTO:技術的には簡単なものばかりなので、誰でも弾けるようなフレーズではあるんですよ。逆にちゃんと弾ける人が来ていたら、当時の音楽性的には“そんなに弾かないでよ”となっていたと思うんです。だから初心者くらいがちょうど良いなと思っていました。音楽をある程度知っていて、リズム感があれば良いという感じでしたね。
●キャラクターも大事だったのかなと。
GOTO:人柄が大事だなとは思っていました。結局、人が面白くないと、バンドは良くならないと思うから。
●結果的に今では、心言さんがバンドのアイコン的な存在になっていますよね?
GOTO:そうですね。侵食しやがって(笑)。
心言:すいません(笑)。
●ハハハ(笑)。心言さんのキャラクターやラップが、1つのフックになっている気がします。
心言:最初に入った時はあまり詳しくないジャンルだったから、おそらくドープな方向で刺激を受けることになるんだろうなと思っていたんです。もちろん今でもそういう刺激は受けているんですけど、加入してから4人でライブをしている中で感じたことがあって。BENCH.さんとごっちゃんのリズム隊の生み出すグルーヴに接してみて、この2人が“知る人ぞ知るミュージシャン”のままではもったいないなと思ったんですよね。そこをもっと色んな人に知って欲しいなという気持ちで、自分はラップをやっています。
●自分がフロントに立つことで、バンド全体を目立たせる役割をしているというか。
心言:オーディエンスとの距離感を上手く近付けられるような役目を、自分がしたいなと思っています。そのためにラップという音楽的な要素が増えていった感じですね。最初から“届ける”という目的はずっと変わっていないんですけど、そこに音楽的な要素としてラップが増えていったというか。
GOTO:元々やろうとしていたコンセプトからはどんどん変わってきているので、その中で“ラップをやって欲しいな”という感覚が強くなっていって、今に至るという感じです。最近の曲は大体、ラップが入っていますからね。
「歳を取るにつれて辞めていく人も多いんですけど、今でも残っている同世代はイケているヤツらしかいないと思うんですよ。やっぱりイケている人たちと一緒にいたいですからね」
●初期はもっとラップの割合が少なかった?
心言:ラップがない曲もありました。
BENCH.:楽曲がメインで、本当にサイドMCという感じでたまにラップが入るくらいだったんです。
GOTO:何なら当時は“インスト”と言われていましたからね。当初は言葉がメインではなくて。“ボーカルがいる”というよりは、素材として“声がある”という感覚でやっていました。
●星さんとBENCH.さんのパートに“voice”と書かれているのは、“声”を楽器の一部として捉えているから?
星:“歌”じゃなくて、“声”ですね。音としての声は、初期から今までずっと入っているんです。だから“インストをやっている”という意識は全くなくて。
●GOTOさんはパートに“compose”と記載されていますが、作曲のどこまでを担当しているんでしょう?
GOTO:原曲を作っています。ほぼ全部の楽器の素材とデモを作って、心言に歌詞を書いてもらうというスタイルです。そこからバンドで合わせて、メンバー同士で意見を交わし合いながら完成していくという感じですね。
●各パートに関しては、それぞれが主導している?
星:基本的にはそうですね。
GOTO:ベースに関しては僕とBENCH.さんの2人で色々とこねくりまわしながら、最近は作っています。
BENCH.:デモの段階で一応、ベースラインも入っていて。それに対して2人で意見を出し合いつつ、その場で新たに録って煮詰めていく感じです。
●なるほど。歌詞の内容やテーマは、心言さんに任されているんでしょうか?
心言:基本は任されているんですけど、前回までのほうがもっと勝手にやっていた気がします。それこそ“トラックがあって、ラッパーがいる”くらいの感じで、自由にやらせてもらっていて。でも今回は“このテーマは面白いかな?“とか、色々と相談しましたね。
GOTO:特にBENCH.さんはラップの内容も気にするタイプなので、その2人で話し合っていることが多かったかな。僕はラップに関してはあまり言っていないです。
星:自分も“心言が納得しているなら良いんじゃない”としか言ったことがないですね。歌詞については、完全に心言の管轄だと思っているから。
●BENCH.さんと心言さんで話し合うことが多い。
心言:そうですね。今回はBENCH.さんによく相談しました。
BENCH.:2枚目(※2ndアルバム『CHECK THE SHADOW』/2017年)の時は、完全に心言に任せていて。バンド的にも1枚目(※1stアルバム『We Love You』/2015年)から2枚目と徐々に開けてきている感覚はあったので、今回の3枚目ではやっぱり歌詞のテーマも面白いほうが良いだろうなと思っていたんです。最近はトラップ(※ヒップホップのジャンル)のラッパーの曲でも、“変なことを言っていてもカッコ良い”みたいなものが多いから。そういう観点で、心言の歌詞に対してジャッジはしましたね。
●今回の3rdアルバム『SANMAIME』に収録されているM-4「K.A.A.F.」の“肩 穴 空いた服”というフレーズなんかも、妙に耳に残るというか。
心言:今回は特にそういうところを意識しました。1st〜2ndでももちろん面白い歌詞やカッコ良い歌詞を書こうとはしていましたが、どちらかといえばラップをリズム楽器的に捉える意識がまだ強くて。別に何を言っているのかわからなくても面白かったり、カッコ良かったりすれば良いやというところがあったんです。でも2ndを聴いてくれた人たちからよく曲名が挙がるのは「KEN YAYOI」や「Pizza Pizza」だったりして、やっぱり言葉って重要なんだなと思ったんですよね。
●耳馴染みのある言葉やフックのあるフレーズを使った曲のほうが、印象に残るわけですよね。
心言:そこから“何を言っても良いんだったら、面白いことを言ったほうが良いや”と考えるようになって。それによって普段こういうジャンルの音楽を聴かない人たちに対しても間口が広がるかなと思ったんです。だから、BENCH.さんに相談したというところもありますね。
●M-8「甘く踊れば」の冒頭で“糖分”と“当分”をかけているのが、面白いなと思いました。
BENCH.:あれ、めっちゃ良いですよね。
GOTO:このアルバムの中で、あそこが一番良いと思う。あとは別にどうでも良いけど(笑)。
心言:いやいや!
一同:ハハハ(笑)。
●あれはどういうところから生まれたアイデアなんですか?
心言:デモの仮タイトルが「セックスアピール」だったので、そのちょっと妖艶な雰囲気は受け継ぎたいなと思ったんです。最初はストレートなラブソングにしてみようかなと思ったんですけど、BENCH.さんに相談したら“もうひとヒネり欲しい”と言われて。そこで考えてみた時に“食べ物や飲み物をモチーフにしたラブソングはあっても、逆はあまりないんじゃないかな”と思ったんです。ラブソングっぽいけど、本当は甘党の歌だったら面白いかなと思って書いてみました。
●歌詞の内容的に、他であまり見ない題材や切り口を意識的に狙っているのかなと思ったんですが。
心言:特に今回はそういうところをすごく考えましたね。
BENCH.:さっき言っていたラブソングというのも、ストレートすぎると恥ずかしいじゃないですか。それはそれでやる人がいても良いんですけど、DSCの面白いところって、そこからもう1つ裏の面みたいなものがあるところかなと思っていて。だからダブルミーニング的なものを仕掛けたほうが良いんだろうなと思いました。
●恥ずかしくならないような言葉選びのセンスが重要ですよね。
心言:そうですね。だから言葉自体は自分が考えていますけど、テーマやフックの部分に関してはメンバーみんなで意見を出し合って考えているんです。
GOTO:今回の作品は、本当にみんなでやっている感覚があって。そういうところも含めて、どんどんバンドっぽくなっていると思います。
●作品ごとにバンド感を増している?
GOTO:そうなっていると思います。あと、1枚目よりは2枚目のほうが開けているし、2枚目より今回の3枚目のほうが開けている感じがして。
星:明らかに開けていっていますね。今回は電子音を入れたりもしているんですよ。ごっちゃんのパッドの音もそうだし、自分も生演奏なんですけど、ソースとしてはパソコンから引っ張ってきた音を鳴らしていて。そういうところでも“イケていれば、何でもOK”みたいになってきていると思います。そこは初期ではあまり考えられなかった発想ですね。
●音楽に対する考え方も開けてきているというか。
星:昔はパソコンがステージ上にあること自体、“どうなの?”みたいな感じで。その時は自分たちがそういう選択肢を持っていなかったから、単に知らないことを否定していただけだったと思うんですよ。今はパソコンで色々とできるようになったことで、選択肢の1つとして捉えられるようになったのかなと思います。メンバー全員、ミュージシャンとしての活動の幅が年々広がっているので、よりフラットに“音楽としてイケているかどうか”を考えられるようになったのかもしれない。
●各メンバーの幅やキャパシティが広がったことが、DSCの音楽性にも反映されているんでしょうね。
GOTO:1stの時は“俺はこれがやりたい!”みたいな気持ちが強すぎたから。“こうじゃなきゃヤダ!”っていう、ただの子どもみたいな感じだったと思うんですよ。でも今は“みんなで作ったものなら何でも良いや”というテンションになっているというか。その点で、3rdは今までと全然違いますね。
星:しかも今作は8曲入りですけど、実はまだまだ曲がたくさんあるんですよ。
心言:そこは重要だよね。
●たくさん候補がある中から今作の収録曲を選んだ?
星:そうですね。しかも単曲としてはすごく良い曲だと思ったけど、あえて今作には入れなかった曲もあるんですよ。だから、余裕があるというか。時代の流れやアルバムの流れも色々と考えた上で“今出したら良いんじゃない”という8曲を選びました。
心言:これまでは“次のアルバムに入れる曲はこれ”という感じで決めてから制作していたんです。今回も最初は“次のアルバムはこの7〜8曲で行こう”という感じで作っていたんですけど、途中で“いや、もっとたくさん作ってその中から選ぼう”という話になって。結果的に全部で26曲くらい作って、そこから8曲を選びました。
●候補全体から1/3くらいを選抜したわけですね。
心言:そうです。バランスや作品の全体像を見た上で選ばれた8曲という感じですね。
●アルバムタイトルの『SANMAIME』は公募で選ばれたそうですが、作品の内容にも合っている気がします。良い意味で二枚目ではない、DSCの“らしさ”も表しているというか。
GOTO:そうですね。ちょうど良い案を出してくれた感じがします。
BENCH.:“次のアルバムタイトルをみんなに決めて欲しいです”ということで、専用フォームから案を送ってもらったんですよ。
星:何も情報がないとさすがにノーヒントすぎると思ったので、3枚目のアルバムだということと収録曲の曲名だけは知らせた上で考えてもらいました。
●そこも踏まえて応募してきたアイデアの中から、このタイトルを選んだと。
BENCH.:これは本当に公募で選ばれたタイトルなので、自分たちが勝手に決めたわけではないと言っておきたいです(笑)。
●自作自演ではないと(笑)。リリース後のツアータイトル“オレ達、二枚目じゃねぇからツアー”にもかかっているんですよね?
星:リリースツアー自体に(作品とは別の)タイトルを付けるバンドっているじゃないですか。自分たちもそういうことをやってみようという話になって、このタイトルを考えました。ライブもすごく大事にしているので、そういうところもちゃんと意識している感じを出したくて。
●ライブへの思い入れが出ている。
星:ライブをやることはめちゃくちゃ大事で、それが全てに近いというか。ライブをやりたいから、作品を出しているようなものなんですよね。最近はライブ制作に特化したスタッフをチームに招き入れたという変化もあって、そういったところを考える余裕も出てきたのかもしれない。
●バンドを動かす体制も変わってきているんでしょうか?
星:そうですね。人数が増えてきている感じです。音楽に関わる部分は変わらないですけど、運営面はだんだん変わってきていて。仕事としてやってもらっているというよりは、“一緒にやりたい”という気持ちが根底にある上でやってくれる仲間が増えてきている感覚はありますね。
●最近ではsora tob sakanaとツーマンをやったり、自主企画ではtricotやTempalayと対バンしたりしていて、毎回面白いイベントをやっている印象があります。
GOTO:tricotやTempalayに関しては、単純に“友だち”だからというのが大きいですね。
心言:仲が良くて、カッコ良いバンドというか。
星:sora tob sakanaの音楽プロデューサーは我々とすごく付き合いの古い照井(順政/ハイスイノナサ)くんなので、その時点で既に親近感があって。Tempalayとtricotに関しては呑み仲間で普段からよく会う人たちなので、そういう人間関係は今後も大事にしていきたいなと思っています。歳を取るにつれて辞めていく人も多いんですけど、今でも残っている同世代はイケているヤツらしかいないと思うんですよ。やっぱりイケている人たちと一緒にいたいですからね。
●それが結果的に、他ではない面白いブッキングにもつながっている。
心言:sora tob sakanaとツーマンをやったのもそうですけど、“面白いことをしたいな”というところが一番大きいのかなと思います。やっぱり面白くて、楽しいほうが良いじゃないですか。
GOTO:というか、もはやそれだけだよね。
●自分たちが本気で“楽しい”と思えることをやるのが大事なのかなと。
星:そうじゃないと続かないですからね。
心言:自分たちが楽しいことをやって、その“楽しい”をもっと大きくしていきたいんです。色んな人を巻き込んで、“楽しい”をどんどん大きくしていくことが一番の理想かなと思います。
Interview:IMAI
Live Photo:石崎祥子