2018年に結成20周年を迎えたthe band apartが、再録や新曲も含む2枚組ベストアルバムと合わせて、初のトリビュートアルバムをリリースする。トリビュート盤には、彼らと所縁のある錚々たるアーティスト陣が参加。先輩にあたるバンドから同世代、新進気鋭の若手まで、それぞれにリスペクトと愛情を込めたカバーを収録している。そんな中で1曲目を飾る「fool proof」を担当したのが、cinema staffだ。20周年記念という二度とない機会にthe band apart・川崎 亘一(G.)とcinema staff・辻 友貴(G.)による、激レアすぎる対談が実現した。果たして、その行方は…?
「the band apartのライブを見ていると、みんなすごく自然体で。“これを20年間ずっとやり続けているなんて、すごいな”って毎回思うんですよ。僕らもそういう感じでバンドを続けられたら良いなって、いつも思っています」(辻)
「“色々と考えてくれたんだろうな”というのは感じましたね。俺らが想像している範疇外のことをみんなやろうとしているのかなという感じがすごくして。良い意味で裏切られたので、聴いていて楽しかったですね」(川崎)
●今回は川崎さんと辻くんという激レアな組み合わせの対談が実現したわけですが、これまでにも2人で話すことはあったんでしょうか?
辻:基本的には打ち上げで喋るくらいですね。
川崎:そうだね。前にツアー(※2015年9月の“cinema staff × the band apart presents 2 strike 2 butter TOUR”)に誘ってもらったことがあって。でもその時はすぐ後にレコーディングが決まっているのに曲が足りなかった関係で、俺らはツアー中もずっと曲を作っていたんですよ。だからすごく失礼な話なんですけど、打ち上げにも全然出られていなかったんです。でも辻くんが最終日に“どうですか?”と誘ってくれた時はさすがに申し訳ないなと思っていたので、ようやく打ち上げに出たんですよね。その時に結構喋ったのは覚えています。
●そこで初めて、じっくりと話したわけですね。
川崎:それまではあまり機会がなくて。イベント会場で会うことはあっても、そんなに長く話したことはなかったですね。cinema staffの存在はもちろん知っていたし、“話してみたいな”という気持ちはずっとあったんですけど…。
辻:以前から会った時に挨拶くらいはしていましたけど、ガッツリ話したのはその時が初めてで。そこから、わりと深く話すようになりました。
●深い話もできるようになったということは、初めて話した時に盛り上がったんでしょうか?
川崎:盛り上がったんじゃないかな…? 確かその翌日は(辻が)ウチの機材車に乗って、帰っていましたからね(笑)。
辻:そういえば、そうでした(笑)。
川崎:それくらい打ち解けました。
辻:優しくしてもらえたので、ありがたかったです。
●今では緊張せずに話せている?
辻:緊張は…酔っ払ったら、何とか大丈夫ですけど。
川崎:何とかって(笑)。
辻:今こうやって話している時も、ちょっと緊張していますもん。
川崎:そうなんだ? 俺も緊張していますけどね(笑)。
●こういう機会はなかなかないですからね(笑)。辻くんが緊張するのは、やはりthe band apartへのリスペクトが強いからでは?
辻:僕が中学3年の時にthe band apartの1stシングル『FOOL PROOF』(2001年)が出て、Vo./G.飯田(瑞規)に教えてもらったのをキッカケに聴くようになったんです。それがちょうどバンドを結成したばかりの時期だったんですよ。そこから当時のメンバーみんなで名古屋ダイアモンドホールにライブを観に行って、“これはヤバい!”となって。飯田はその時から自分のメールアドレスに“the band apart”の名前を取り入れるようになったくらいですからね(笑)。
川崎:へぇ〜、そうなんだ(笑)。
辻:そういう感じで僕らはずっと好きでライブも観に行っている立場だったので、最初は“まさか一緒にツアーがまわれるなんて”という感じでした。
●本当に憧れの存在だったわけですね。川崎さんは初めてcinema staffのライブを見た時の印象を覚えていますか?
川崎:“大丈夫なのかな?”って思いましたね。
辻:ハハハ(笑)。
川崎:“あんなにむちゃくちゃ動きながらライブをしていて、大丈夫なのかな?”っていう(笑)。すごくアグレッシヴなんだけど、“静と動”みたいな感じもあるのがカッコ良いなと思って。(シールドや機材など)色んなものがグッチャグチャになっているのにそのままライブを続ける姿が、面白いなと思いましたね。
●辻くんのパフォーマンスが印象的だったと。
川崎:ライブ中にお客さんと手をつないだりしているのを見ると、すごいなって思いますね。俺もライブ中に“ワ〜ッ!”とアガる感じは好きだけど、そうなると演奏はそっちのけになっちゃうところがあるし…。あれでちゃんとプレイできているんだから、“しっかりしているな”と思います。
辻:僕も演奏がそっちのけになっている時はありますけどね…(笑)。
●辻くんのプレイスタイルは、自然とああいう形になっていったんですか?
辻:バンド名がcinema staffに変わったあたりから、センターでああいう感じでギターを弾くようになった気がします。ハードコアとか色んな音楽を好きになってから、“もっと違うことがしたい!”となって。そこからはずっとそういう感じですね。
●自分の中にある衝動を吐き出している感じ?
辻:そうですね。普段がもうこんな感じなので…、つい閉じこもっちゃうんですよね(笑)。
川崎:ハハハ(笑)。
辻:だからライブをしている時とお酒を呑んでいる時は、解放的になりたいっていう。
●川崎さんもそういう感覚はわかりますか?
川崎:何となくわかるような気はしますね。“楽しみたい”という気持ちもあるし、(ライブは)ワガママを言える場所なのかなと思っているんです。観ている側のことをあまり考えていないというか…。良いか悪いかは別として、そういう感覚で自分はやっています。
●普段は表に出せない想いも解放できる場所というか。
川崎:やっぱり非現実的な部分もある場所だから、楽しみたいなという想いはあって。それであまりにもトラブルが起きすぎてブルーになることもたくさんあるんですけど、それもそれで良い経験かなと思っています。どちらかと言うと、上手くやるよりは自分のワガママを通したいなと思う場所ではありますね。
●辻くんもそういう部分はある?
辻:ありますね。the band apartのライブを見ていると、みんなすごく自然体で。“これを20年間ずっとやり続けているなんて、すごいな”って毎回思うんですよ。僕らもそういう感じでバンドを続けられたら良いなって、いつも思っています。
川崎:なるほどね。逆に自然体じゃないのって、どういう感じなんだろう…? 自然体でやらない方向性というのが、自分の中ではあまり馴染みがないというか。やっぱりカッコつけたい気持ちもあるから、ライブの時は俺も作っている部分は多少あるんですよ。でもそういうふうに見えているというのは面白いなと思います。
●考え方や姿勢がライブでの佇まいにも出ているのかなと。
川崎:俺らはやっぱり嫌なことは“嫌だな”って言いたいところはあるし、嬉しい時は“嬉しい”と言いたいんですよね。自然体に見えるのは、そういうところなんじゃないかな。
辻:最近のライブを見ているとやっぱり20周年だから、昔の曲をやることも多くなっているじゃないですか。僕の場合、昔の曲をやってお客さんが盛り上がっている感じを見ると“今のほうがカッコ良いのに…”と思っちゃうことがあるんですけど、the band apartはそういうことを全然思っていない感じがするんですよ。
●昔の曲をやることに全く抵抗がないように見える。
辻:昔の曲を自然にやっているというか、“自然にセットリストに入りました”という感じがするんです。僕らも最近はなくなりましたけど、ちょっと前までは“ここに昔の曲を入れるのは嫌だな…”とか思うところがあったんですよね。
川崎:俺らは昔の曲をやりたくないわけではないけれど、なんか…“バカだったんだな”と思っちゃうんですよね(笑)。
辻:わかります(笑)。
川崎:“若い感じがするから今はやりたくないな”とか色々思うところはありつつ、これくらいの歳になるとそういうものも意外とやれるようになるんだなっていう。そこはcinema staffが今一番、バンドとして脂が乗り切っているからじゃないかなと思うんですよ。俺らみたいになってくると…たとえば□□□と一緒に作ったアルバム(□□□ feat. the band apart『前へ』)なんて、あんな曲(「スニーカー feat. 川崎亘一」)を自分がやれると思っていなかったですから!
●まさかの川崎さんの弾き語りという(笑)。
川崎:あんなクソみたいな曲を…(笑)。でもそれを自然と自分の中で受け入れられるチャンネルができあがってくるのは、やっぱりキャリアがちょっとあるからかなと思っていて。そういうところも面白いですよね。だからcinema staffも20周年になったら、きっとすげぇワケのわからないことをやるんだろうなって期待しています(笑)。
辻:ハハハ(笑)。
●今回のトリビュート盤でcinema staffは初期の曲である「fool proof」をカバーしているわけですが、これを選んだ理由とは?
辻:僕らにとっては“出会いの曲”だったというのもあるし、昔まだオリジナル曲もほぼないような頃にバンドで1回コピーしたこともあったんですよ。でもその時はコピーできなくて、ライブでやれなかったんです。その時にできなかったという記憶もあって、“もう1回やったら面白そうだな”というのはありましたね。「fool proof」ってthe band apartが好きな人はみんな大事にしている曲だから“ウチらがやるのはどうなんだろう…?”という気持ちはあったけれど、“もうやっちゃえ!”という感じでした(笑)。
川崎:原曲と全然違っていて、すごいことになっているなと思いました(笑)。トリビュート盤って、原曲をそのままやる人も結構いるじゃないですか。ウチらもたまにそういうことをやるんだけど、(今回のcinema staffによるカバーは)そういうものじゃないのが良いなと思って。素晴らしかったですね。
●原曲と変えようというのは意識していた?
辻:僕らは今までも何度かカバーをやってきているんですけど、“自分たちの曲にしたい”っていう気持ちが強くて。原曲を一度解体して、cinema staffの曲としてやるくらいの気持ちでやっているんです。原曲は原曲として既に良いものがあるから、それをどう自分たちらしくやるかということをいつも意識してやっています。
川崎:本当にそうなっていたね。
●ちなみにcinema staff以外の参加者のカバーを聴いて、どう感じましたか?
川崎:“色々と考えてくれたんだろうな”というのは感じましたね。俺らが想像している範疇外のことをみんなやろうとしているのかなという感じがすごくして。良い意味で裏切られたので、聴いていて楽しかったですね。
辻:やっぱりみんな、愛がすごいなと僕も感じました。
●トリビュート盤というのは、長く活動しているだけではできない企画というか。それだけ多くの人に影響を与えたり、リスペクトされていないと実現できない企画だと思うんですよ。
川崎:自分たちにとっても記念だし、聴いてくれている人たちにとっても記念になっているというのは本当に嬉しいですね。初期の曲って実はコピーさせまいとして、わざと難しいことをしていたりするんですよ。でもそういう曲も今作には結構入っているので、悔しいなと思っています(笑)。
●意外とみんな弾けてしまっていると(笑)。20周年という記念のタイミングだから、実現できたところもあるのかなと。
川崎:そうですね。昔、10周年や15周年を迎える時にも、何か企画をやるかどうか話し合ったことがあったんですよ。その当時は若かったから“ダセェ!”と言って、やらなかったんです。でも20周年に関しては周りの人がすごく祝ってくれるし、それが僕らも嬉しいから乗っかろうという感じでしたね。
●元々は20周年ということも意識していなかった。
川崎:実は自分たちでもthe band apartがどこから始まったのか、正確にはわかっていなくて。でも自分の中で、身体が動く限りは絶対にバンドはやりたいなと思っているんです。だから、もう(メンバーの)誰かが死ぬまではやろうと決めているんですよ。他のメンバーはどう思っているのかわからないですけど(笑)。
辻:そこは僕らも同じような感じで。高校生の時にバンドを組んではいるけれど、名前も途中で変わっているし、正確に結成から何年なのか自分たちでもよくわからないまま来ているんです。だから20周年くらいになったら、もう自分たちから“20周年です”と言えば良いかなって(笑)。
●自己申告で(笑)。
川崎:今回はっきりわかったこととしては、“周年はやったほうが良い”ということですね。色んな意味で“ラッキーチャンス”だと思うから(笑)。今考えると“本当に俺らはバカだったな…。何を考えていたのかな?”っていう感じです。
●20年活動してきたからこそ、昔は変な抵抗感があったことも素直にやれるようになったのでは?
川崎:“本当に何も知らないガキだったんだな”と思いますね。それもあっての“今”だから、別に良いんですけど。今回のベストアルバムにもそういう全てが入っているから、“あの頃はバカだったんだな”とか自分で思いながら聴けるのも、それはそれで良いなっていう。色んな想い出がパッと出てくるというか。自分の人生の中でこういうことをやってもらえるなんて思ってもいなかったし、良い思い出にもなって、本当に人生の宝物の1つになりましたね。
●では最後に辻くんから、川崎さんに何か訊いておきたいことがあればどうぞ。
辻:……大丈夫です。何かあったら、プライベートで訊きます!
一同:ハハハハハ(笑)。
Interview:IMAI