東京都府中市を拠点に活動している19歳の3ピースによるガールズ・オルタナティブロックバンド、Maxn。思春期にしか出せない感情や攻撃性を言葉と音に込め、“今”を全力でライブにぶつけるスタイルは、まさしくバンドのコンセプトである“感情爆発”を体現している。初の全国流通盤となる2ndミニアルバム『轟音』はタイトルからそのサウンドを象徴しつつ、十代ならではの加速度的な進化を遂げていく彼女たちの大いなる可能性を感じさせる作品だ。
「みんな違う形で、それぞれに感情爆発させながらライブしていますね」
●今回の2ndミニアルバム『轟音』のサウンドからは、1990年代のグランジ〜オルタナ的な匂いを感じました。でも世代的には通っていないシーンですよね?
ゆきの:世代は全然違いますね。自分たちの周りにいる先輩たちが、1990年代〜2000年代くらいの音楽を聴いてきた世代なんですよ。その人たちにも教えてもらって、今こういうサウンドでやっています。
●公式サイトのプロフィールによると、ゆきのさんはカート・コバーン(ニルヴァーナ)に出会って覚醒したということですが…。
ゆきの:カート・コバーンをキッカケに、グランジというジャンルを知って。そこから色んな音楽を漁って聴くようになったんです。私にとっての“入口”だったというか。
●元からそういう音楽が好きだったわけではない?
ゆきの:最初は本当に何も知らなくて。私たちは、全員が初心者のところから始まっているんですよ。だから高校の軽音部でコピーバンドを結成したばかりの頃は、その当時好きだった日本のバンドの曲を“とりあえずやっていた”という感じで。そこから自我を持ち始めたのが、ちょうどそういう音楽を聴き始めた頃だったんです。
●バンドとしての自我が芽生えた時期に、グランジやオルタナに出会ったと。
はす:私は洋楽とかも全然知らなかったんですけど、ゆきのから教えてもらって。“グランジとは?”みたいな資料を作ってきてくれたんですよ。
●資料?
はす:ゆきのが自分でジャンルの派生とか色んな音楽について調べてきたものを書きだした資料を、“これ読んで!”と渡されて。全然知らない世界だったんですけど、そこから色々と聴くようになりましたね。
ゆきの:統一性が欲しかったんです。こういう音楽をバンドでやっているのに、それについてメンバーが理解していないというのは良くないなと思って。“勉強だ!”と言って、色々と紙に書きだしたものを渡しました(笑)。
●グランジについての布教活動をメンバーにしたんですね(笑)。
はす:そういう感じでした(笑)。
味噌:私も音楽は詳しくなくて。そもそも高校1年生でコピーバンドを結成するまで、バンド系の音楽をちゃんと聴いたこともなかったんです。グランジやニルヴァーナについてはゆきのから教えてもらって、聴き始めた感じですね。
●ゆきのさんから勧められた音楽をすぐに受け入れられた?
はす:音源を聴いた時にカッコ良いなと思ったので、すぐに受け入れられました。“カッコ良いな!”と思うものは全員、一緒だったというか。
味噌:私も“こんな音楽をやるの!?”みたいな気持ちは全くなかったですね。ゆきのから“カッコ良いよ”と教えてもらったものに対して、私たちも“カッコ良いね!”って言う会話が3人の間ではスムーズにあったから。
ゆきの:みんな、そういう音楽を知らなかっただけだと思うんです。
●ヘヴィなサウンドになっているのは、ゆきのさんからの要望を反映していたりもする?
はす:そこは言われなくても、みんながそういう音を出すというか。
ゆきの:元々は、私が好きなバンドの音を伝えていて。“ドラムは激しく叩いて、ベースはすごく気持ち良さそうにうねって、ギターボーカルは暴れながら遊んで…”みたいなことを言ったのが始まりですね。大体の曲に関しては私がイメージを持っているのでそれを2人に伝えて、やってもらっています。
●ゆきのさんの中には、目指すサウンドのイメージがあるわけですね。
ゆきの:私は大きい音で“グワッ!”とくるようなものが好きなので、こういうサウンドになったという感じですね。自分が気持ち良いと感じる音が、これだったんです。
●歌詞も感覚的というか、ちょっと抽象的な表現が多いですよね。
ゆきの:基本的には身近にあった出来事というよりも、自分の頭の中に浮かんだ情景だったり、妄想みたいなものも入っていますね。
●曲名も短いものばかりで、ほぼ単語のような…。
ゆきの:私の脳内には、そういうものしかないというか。頭の中が単語で埋まっているので、それをくっつけているだけなんです。
●歌詞も短いものが多いなと。
ゆきの:よく言われます(笑)。逆に“歌詞が長い曲を作ってみよう”と思って作ったのが、M-6「あの日」ですね。
●「あの日」は恋愛の歌ですよね?
ゆきの:超・純粋な恋愛の歌です。
●この曲とM-7「幸あれ」は、今作の中でもわりと意味が読み取りやすい曲かなと感じました。
ゆきの:そうですね。「幸あれ」は、“ハッピーになるぞ!”という曲なんです。一番キャッチーで、聴きやすい曲になったなと思います。
●この曲は自主制作でリリースした1stミニアルバム『まだ、こんな。』(2017年)にも収録されていましたが、再録した理由とは?
ゆきの:前作は流通に乗せていなかったので、今回の流通盤に入れることでより多くの人に聴いて欲しいという気持ちがありました。やっぱりみんなに受け入れてもらうためには、一番聴きやすい曲を入れたほうが良いなと思って。
●より多くの人に届きそうな曲というか。
ゆきの:たとえば中学校時代の友だちだったり、普段はあまり音楽を聴かないような人たちにも、この曲の評判が一番良いんですよ。だから、これは入れておくべきかなと。あと、アルバムの最後に「幸あれ」が入っているというのが、私はすごく良いなと思うんですよね。
はす:「幸あれ」は、ライブでもいつも最後にやっているんです。
●ラストらしい曲というか。M-4「忘れた」の歌詞は、味噌さんとはすさんの共作になっていますが。
味噌:“3人で作った曲を1曲は入れたいね”という話になって。メロディはゆきのに作ってもらって、そこに歌詞を私とはすの2人で乗せました。
●“凛とした声を 活かす音を出せ 我らの音を”というのは、自分たちのことを歌っている?
味噌:そこは自分たちのことを歌っています。でも基本的にこの曲の歌詞は、ゆきののことなんですよ。“こんなこともあったよな”という感じで、今までの思い出をつらつらと書いています。
●ということは、“絶望と隣合わせの笑顔”をゆきのさんがしていた?
ゆきの:この曲は、私が一番ブルーだった時期の情景を歌っていて…。その頃、2人は大変だったと思いますね。思春期というか…。“部屋の隅から聞こえる物音”という歌詞も、私が部屋の隅で何かガシャガシャやっていたという情景を描いているんです。
●本人も歌詞に込められた意味を理解している(笑)。
はす:最初は“何の歌?”と訊かれたんですけど、“ゆきののことだよ”と言ったらすぐに伝わりました(笑)。
ゆきの:“おまえのことだよ”と言われて、“あ、なるほどね”っていう。本当にそのブルーな時期はひどかったんですけど、自分自身はもうケロッとして“忘れた”という感じなんです。
●それが曲名につながっているわけですね。プロフィールには“突然ライブで泣く。叫ぶ。”と書かれていたのですが…。
ゆきの:それは…思春期のことですね。
はす:今は全然そんなことはないんですけど、思春期にはライブ中にステージで泣きながら演奏していたこともありました。
●本当に泣いていたんだ…。
ゆきの:ライブのステージ上で発散しているというか。ありのままでやっていた感じだったので、まさに“感情爆発”しているっていう。
●“感情爆発”というのが、バンドのコンセプトなんですよね。
ゆきの:そうですね。活動を始めた頃は演奏も上手なほうではなかったので、“上手さ”で戦うのは難しいなと思っていて。同い年くらいのバンドでも上手い子なんていくらでもいるし、そこでは勝ち目がないから。だったら別のところで勝負しようということで、私たちにできるのは感情表現だったんです。そこから“感情爆発”をコンセプトにずっと活動しています。
●ゆきのさん以外の2人もステージで泣いたりは…?
はす:全然泣かないです。
●全員号泣しながらライブをやっていたら、面白いですけどね(笑)。
はす:それはちょっとヤバい…(笑)。
ゆきの:でもみんな違う形で、それぞれに感情爆発させながらライブしていますね。
味噌:そういったところは自分が一番出遅れていて、最近やっと2人に追いついてきた感があるというか。ゆきのが真ん中で“グワッ!”と大きな音を出して歌っているところに、周りのメンバーもちゃんとくっついていくようなパフォーマンスを目指してやってきたんです。
●そうしてきた中で、今は自分も追いつけている実感がある。
味噌:そうですね。やっぱり“やりたいもの”が一緒だから、やっているうちに同じようになってきたんだと思います。
●自分たちでも前作からの進化は感じている?
はす:1stミニアルバムとは全然違いますね。音楽的にも、前より詰まっている感じがあって。
●“詰まっている”というのは?
味噌:前よりも曲の細かいところまで、自分たちの想いを乗せられるようになったというか。前回は初めての作品だったというのもあって、何もわからずにそれこそ衝動をそのまま出したようなものだったんです。それはそれとして良かったんですけど、今回はそこからもう1段階上がって、“どう聴かせたいか”といった細かいところまでちゃんと詰めた上で作れたという感覚があります。
●衝動に任せるだけではなく、ちゃんと伝えるところも考え抜いた作品になっている。
ゆきの:やりたいことを自分たちのできる範囲でどれだけ表現できるかというところを、めちゃくちゃ深く考えたアルバムだと思います。
はす:今までと今回とでは、レコーディングに対する姿勢も全然違いましたね。自分たちの中での追い込み方も違ったし、作品に対する作り込み方や想いも全然違っていて。それこそ練習量もすごく増えたので大変ではあったんですけど、終わった後に“またレコーディングをすぐしたいね”という話も出るくらい充実した日々でした。
●タイトルの『轟音』は、英語で“次に進む”という意味の“GO ON”にもかかっているんですよね?
はす:前作の『まだ、こんな。』のジャケットには女の子が階段の1段目に足をかけるところが描かれていて、まだ1段目も昇っていないというイメージだったんですよ。今回のジャケットにも階段が描かれているんですけど、そこからもう少し昇っているものになっていて。“一歩進んだところから、また先に進む”という意味もタイトルには込めています。
●リリース後のツアーでもまた進化していくというか。
はす:今回のツアーを経てまた成長して、どんどん階段を昇っていきたいですね。次のツアーをまわった時に“おかえり”と言ってくれるライブハウスが増えていったら良いなと思っているので、1本1本を大事にしながらやっていきたいです。
味噌:今までよりも広い範囲をまわるので、新しい土地で新しい人たちに聴いてもらえる機会が増えると思うんです。そういう人たちに向けて、今は“みなさん、待っていて下さい”という気持ちですね。
ゆきの:とりあえずMaxnの名前を見た人は音源を聴くかライブに来るか、どちらかにして下さい。以上! っていう感じです(笑)。
Interview:IMAI