他に類を見ない独自の道を歩み続け、生命力溢れる音楽を鳴らし続けるFUNKIST。本物のエンターテイメントを体現し、完成度の高いステージでめくるめく世界へと誘う二人目のジャイアン。15年前から繋がりがある仲間同士が、幾多の困難を乗り越え、長い年月を飛び越え、奇跡のコラボレーションを実現させた。彼らが本気でチャート1位獲得を目指しているスプリットミニアルバム『TOP OF THE WORLD』のリリースが迫る今月号では、染谷西郷(FUNKIST)とMasa(二人目のジャイアン)のスペシャル対談を敢行する。
「昔だったら絶対に出来なかった作り方だと思うんです。メンバーからでさえ、歌詞やメロディに対して言われるのがすごく嫌だったから」(染谷)
「自分の想像するヴォーカリスト像と自分に差があって、その差に苦しんでいたんですけど、もういいなって。力はいい意味ですごく抜けてきました」(Masa)
●二人目のジャイアンは2014年にリリースした3rdアルバム『3枚目のジャイナ』のときにインタビューさせていただきましたが、そのときにMasaさんが「打ち上げで他のバンドとなかなか打ち解けられない」みたいなことを話していたのが印象的で。
Masa:はい。結成当初は尖っていたんですけど、対バンしたバンドの人に文句言ってました。
●あ、文句を言ってたんでしたっけ?
染谷:「文句言ってた」って(笑)。超おもしろい(笑)。
Masa:たぶんですけど、当時は色々と追い込まれて性格が悪かったんです。
一同:ハハハ(笑)。
Masa:だって取材のときに文句を言っていることを話すなんて、プラスになる要素1つも無いじゃないですか。それを言わざるを得ないくらい、周りを遮断していたんです。僕らのメンバーはサポート上がりだったので、結果を出していかないと心が折れるんです。バンドって「楽しいからやろうよ」と言って出来るものじゃないですか。でも当時はメンバーの中で「これでどれくらい儲かるの?」「タイアップとれるの?」みたいな話ばかりだったので、メンバーに対しても尖ってないと保てなかったんです。
染谷:なるほど〜。
Masa:逆に今はすごくぼんやりしてますけどね(笑)。「超楽しいからやろうよ!」っていうのがモチベーションになっている。
●すごくいいことですね。
Masa:いいことですね。今回のプロジェクト(FUNKISTと二人目のジャイアンによるスプリットアルバムリリース)なんてすごくふざけてるじゃないですか。これ、以前の僕らだと絶対に出来ないことなんですよ。
●そもそも、この2バンドの馴れ初めは?
染谷:Masaと知り合ったのは14〜5年前くらいですね。Masaは二人目のジャイアンを組む前にThree Piece of Communicationというユニットをやっていたんですけど、よく一緒にやっていた仲間のウチの1人だったんです。FUNKISTのフルートの陽子ちゃん(春日井陽子)や宮田がMasaたちのレコーディングやライブに参加したりとか。
●すごく長い付き合いなんですね。
染谷:でも、二人目のジャイアンを組んでからはずっと会う機会がなくて。結成前後くらいのときに「今度新しいバンド組むんだ」「じゃあまた一緒にやろうよ」という話はしたんですけど…きっとMasaが尖っていた時期だったんでしょうね…「いや、今一緒にやってもFUNKISTにおんぶにだっこだから何年か待っててくれ」と言われて。俺は“なんか嫌い〜”と思って。
一同:アハハハハハ(爆笑)。
染谷:その後何年か経って、二人目のジャイアンが渋谷CLUB QUATTROをソールドアウトさせたり出来る状況になって、「今度大阪BIGCATで企画やるんだけど出ない?」と誘われたんですけど、逆にそのときはFUNKISTが活動休止になるタイミングだったんです。
●あ、なるほど。
染谷:そんな感じですれ違いが続いたんですけど、ようやくまたFUNKISTがライブを出来るようになって2年前の“BEAT of LIFE TOUR”で声をかけたら、声をかけた箇所全部出てくれたんですよ。
●古くから想いは同じだったけど、お互いのバンドの状況が色々と変化していく中でなかなかタイミングが合わなかったと。ということは、今回のスプリットミニアルバムは満を持してという感じなんですね。
染谷:そうですね。すれ違いが続いていた中で、二人目のジャイアンは陽子ちゃんのために「太陽の子」という曲を作っていてくれて、「“BEAT of LIFE TOUR”で演っていいかな?」と聴かせてもらったとき、時間の流れとか関係なく、原点というかみんなでワイワイしていた頃を思い出せたというか。「あそこから始まって俺ら今ここに居るよな」みたいな。
●うんうん。
染谷:ツアーで一緒にライブをやっていく中で、FUNKISTの「Go Now」に二人目のジャイアンのホーン隊やパーカッションが入ってくれたり、Masaが入ってくれたりして、会場がドーン! と盛り上がるというか、一気に火が点いたような感じがあって。この2バンドは、物語があって、必然性があって、音楽性は全然違うけど、一緒にやると1+1が10にも20にもなる感覚があったので、「何か一緒にやれたらいいね」と。それが最初のきっかけですね。
Masa:この2バンドは音楽を発信する過程で、0から1にする部分と、9から10にする部分は同じだけど、その他は…例えば曲の作り方もアンサンブルの構築もメッセージも、全然違うんですよね。でもその「0から1」と「9から10」が大事だと思うんです。“音楽にどういう想いを込めるか”と、“ライブに来てもらった人たちを笑顔にして帰す”、その2つ。それが一緒にライブをしたらめちゃくちゃハマったんですよね。すごく楽しいというか。
●昨年の12/8、FUNKISTの“BORDERLESS TOUR” 恵比寿LIQUID ROOM公演のときに今回のコラボを発表しましたが、このプロジェクトはいつ頃決まったんですか?
染谷:去年の11月くらいですね。
●え、“BORDERLESS TOUR”中?
染谷:そうです。ツアーで二人目のジャイアンと一緒にやっていく中で「本当にやろうか」という話をして、11月に初めてメンバー全員に伝えました。
●ええっ!! それで12月に発表って…。
Masa:頭おかしいですよね(笑)。
染谷:だから発表したときは「4月にスプリットシングルを出します」と言っていたんですけど、動き出したら曲がどんどん出来てしまって、ボツにするのももったいないので5曲入りミニアルバムと配信限定1曲という…だから訂正に次ぐ訂正です(笑)。
Masa:曲が決まってないのに発売日から決めていくっていう。「FUNKISTっていつもそうなんだよ」と言われたんですけど、“人はこうやって麻痺していくんだ”と思いました。
●アハハハ(笑)。
染谷:Masaの場合は曲があることで物語が出来ていくんですけど、俺の場合は逆で。まず最初に「一緒にやる」から始まって、「じゃあいつがいい」ということを決めて、逆算していって最後に曲なんです。プロジェクトとしてゴールを決めて、それまでの流れを全部決めた上で「あとはいい曲を作るだけだ」と。二人目のジャイアンのメンバーはそれが「すごく怖い!」って。Masaはずっと「先物取引だ」と言っていたんですけど(笑)。
Masa:やばいやばいと思ってましたけど、実際にやばかったです。
●物事の進め方としては、すごく正しいと思いますけど…(笑)。
Masa:今回のプロジェクトは西郷が「楽しいのは当たり前だから、ヒットチャートで1位を獲るくらいの目標を掲げないとコラボする意味がない」と言って、“1位を獲る”という目標を立てたんですけど、それで西郷がM-1「TOP OF THE WORLD」の歌詞を書いてきて。そこで「サビが同じ歌詞で違う曲があったらおもしろいよね」と言って僕が「ヒットチャートを駆け上がれ」のもともとの歌詞を書いてきたんです。
●なるほど。
Masa:要するに「TOP OF THE WORLD」と「ヒットチャートを駆け上がれ」は対になっている2曲なんです。でも一緒に作っていく中で、「これは恋愛の内容に当てはまる歌詞だね」「だったら歌詞をこう変えてみよう」というやり取りがあって、「ヒットチャートを駆け上がれ」の歌詞が完成して。当初はその2曲を収録したスプリットシングルになる予定だったんですけど…。
●それがなぜミニアルバムに?
Masa:そういう2曲が出来て、「両方ともリード曲にしたい」という話から配信のリリースを決めて。同時に「インストも入れたい」「バラードも入れたい」「ふざけた曲も入れたい」…そういう話をしていたら、いつの間にかミニアルバムになってました。
染谷:「ミニアルバムになります」と発表した時点でも6曲が揃っていたわけではなくて、やりたいイメージがあるだけだったんですけど。
●ハハハ(笑)。想い先行型で完成した作品だと。
Masa:実際には、曲作りは2人で3〜4日間合宿して作って、アレンジは2バンドの全員でスタジオに入って詰めていったんですけど、全体的にスムーズだったんです。西郷は曲を作るのがすごく早くて、僕もサビとかは無限に出てくるタイプなんですけど、それでストーリーを作っていく作業がおもしろかったんですよね。1人で作るよりも楽でした。
●お。1人で作るよりも楽だったんですか。
Masa:いい意味で無駄なこだわりが無くなるというか。二人目のジャイアンだけだと「こうしなきゃいけない」みたいな、いい意味でも悪い意味でもこだわりがあるんですけど、今回はそれが無くて。逆に“今回だからこそ出来ること”がいっぱいあったりとか。“西郷は曲作りでこういうことを大事にしてるんだ”とか“西郷だったらこういう歌詞を書くんじゃないか”みたいなことを考えていくと、キャッチボールがうまくいくんですよね。
染谷:お互いキャリアがあって、お互いのバンドを観る側としても観ているので、客観視することが出来ると思うんです。Masaが書く歌詞のすごく強烈な強みに加えて、“こういうエッセンスが加わったらもっと届くんじゃないか”って俯瞰で見ることが出来るというか。たぶんMasaも俺に対して感じていることがあったと思うんです。
●ふむふむ。
染谷:例えばMasaは情景を上手く描いて物語を作っていくタイプの作り手だと思うんですけど、そこに“私とあなた”という1対1の視点を入れたら、聴いた人の気持ちをよりぐっと惹き付けることが出来るんじゃないか、とか。そういうことを話し合いながらゼロから作っていくと、「それいいね」「じゃあこうしたら?」「そっちのがいいね」みたいな連続だったんです。
Masa:うん。クリエイターが2人居て、ディレクターが2人居たような感じだったので、チームとしてはすごくやりやすかった。
●生産的な会話が出来たと。
染谷:それに俺は、昔だったら絶対に出来なかった作り方だと思うんです。メンバーからでさえ、歌詞やメロディに対して言われるのがすごく嫌だったから。
●え? 染谷さん昔からニコニコしてたけど、実はそういう人だったんですか?
染谷:はい。音楽に対して“画”みたいなイメージがあって、俺が描き終わった画に筆を入れてほしくないというか。メーカーに所属していた時代から、プロデューサーとは死ぬほど揉めてきて。
●えー!
染谷:だから今回共作で、ものを壊しながら作っていくことを自分が出来たことにちょっと驚いたんです。音楽の楽しみ方が増えたんだなって。
Masa:そう、楽しみ方が増えるんだよね。
染谷:昔は出来なかったけど、今は楽しんでやれるようになった。まだまだ足りないことの方が多いことも充分わかった上で、自信みたいなものも付いてきたんだなって。
●なるほど。
染谷:それに加えて、15年前から一緒にやってきた仲間ということも大きくて。たくさんの仲間が15年の間に夢とか目標を諦めていく…諦めることは全然悪いとは思わないですけど…寂しさはあるじゃないですか。でも今、お互い歯を食いしばって続けてきた仲間同士で一緒にまた遊んでいる。幸せだなって思いますね。
●先ほど染谷さんからMasaさんについて「情景を上手く描いて物語を作っていく」という話がありましたが、Masaさんから見た染谷さんはどういう印象ですか?
Masa:強力な1本の槍を持っているというか。僕はそういう人にずっと憧れていたんですよ。器用に色んなことの対応は出来るけど、ステージ上で突き刺さるひと言を発する人、突き刺さる1フレーズを歌える人に対してのコンプレックスがめちゃくちゃあった。
●ほう。
Masa:僕だったら照れくさくなって言えないような強いメッセージをまっすぐ発することが出来る。そういう西郷に対してずっと憧れみたいな気持ちがあって。でも今回、そんな彼と並んでも遜色のない自分になれたなって思えたんです。自分に無いものを素直に“素晴らしい”と思えるのは、自分に自信が付いたからだし。そういうことも含めて今回のコラボはおもしろかった。
●自分の弱い部分を受け入れることが出来たのかもしれないですね。
染谷:きっとそうでしょうね。最近よくそういう話をするんですけど、昔のMasaは付き合い辛かったんです。Masaと話しているんだけど、Masaが作り上げた何かと話している感じ。でも今回の制作でMasaの歌録りが難航した曲があったんですけど、そのときにMasaが「俺はヴォーカリストとして獲得しなきゃいけないものがまだまだいっぱいある!」と言っていて“うわ! 怖っ!”と思ったんですよね。この人がそれを出来るようになると無敵だなと。
Masa:自分の想像するヴォーカリスト像と自分に差があって、その差に苦しんでいたんですけど、もういいなって。自分の声も変わってるから好きじゃなかったんですけど、最近は好きになってきたんです。足りないものばかり見ていて自然じゃなかったんですよね。力はいい意味ですごく抜けてきました。
interview:Takeshi.Yamanaka