傑作ミニアルバム『NUMBER SEVEN』を携えて昨年12月、遂にメジャーデビューを果たしたTHE PINBALLS。リリース後のツアーでは渋谷CLUB QUATTROでのワンマンも成功させるなど、バンドとして確実に一段階上へ踏み出している。そんな良い状況の中で、彼らがメジャー1stシングル『Primal Three』を完成させた。“光の三原色”を表すタイトルどおり、独自のセンスと衝撃性を3方向に炸裂させたキラーチューン揃いの今作は、ここから先の4人が進むべき未来を照らし出すことだろう。
「自分の言葉選びが変わっているんだと思います。“こんなに楽しいんだ”ということを伝える時に、“細胞と細胞と細胞が脳”と表現したりして…たぶん僕は狂っているんですよ(笑)」
●今年2/23に渋谷CLUB QUATTRO(以下クアトロ)で行ったワンマンは、いかがでしたか?
古川:めっちゃ楽しかったです。
石原:楽しかったな〜。
森下:その一言に尽きると思います(笑)。
●バンドにとって1つの登竜門的な会場だと思いますが、自分たちにとってはどんな存在でした?
中屋:バンドをやっている人なら、誰もがやりたい場所なんじゃないかなと思いますね。自分たちはもう何年も活動してきている中でクアトロではまだ一度もやっていなかったので、“ロックバンドとしてやっておかないとな”と思っていました。
森下:前回・前々回くらいのツアーの時点でも“そろそろクアトロじゃない?”みたいな話はしていて、それが今回ようやく実現したんです。でもこれより前でも何か違ったなという感じがするし、次のツアーだとしても違ったと思うんですよ。本当に今回が良いタイミングだったなと思います。
●メジャーデビューして最初のツアーでのファイナルというタイミングにもふさわしかった。
中屋:そうですね。タイミング的にも“ここなんだろうな”と思いました。
●実際にステージに立ってみた印象は?
石原:僕はクアトロに行くのが初めてだったんです。元々持っていたイメージが華やかすぎて、いざステージに立ってみたら“意外と大きくないな”と感じましたね。
森下:僕も実際のステージに立ったことはなかったので、すごく広いイメージがあって。でもお客さんがフロアを埋めてくれて一体感がすごくあったので、あまり広さを感じることはなかったですね。ライブ中は、ただただ本当に“良い空間だな”という気持ちだけでした。
●ライブ自体の手応えも良かったということ?
森下:そうですね。
中屋:反省点もたくさんありますけど、それはそれとして、すごく良いライブができたと思います。
古川:自分の力の足りなさを反省した部分もあるんですけど、ライブ自体はすごく楽しかったです。お客さんがどんどんパワーを倍増してくれるような感覚がありました。
●お客さんから力をもらえたことで、より良いライブになったと。
森下:そういう感覚は常々あるんですけどね。今回はワンマンが名古屋・大阪・東京の3ヶ所だけで。今までも名古屋・大阪ではお客さんの力をすごく感じていたんですけど、東京もすごかったんです。
●というのは?
森下:今までは名古屋とか大阪のほうが熱気に包まれている感覚があって、東京のお客さんは“しっかり観る”というスタイルで参加してくれている人が多かったという印象だったんです。でも今回は、東京のお客さんもすごい熱量で。僕らも変わったんだろうし、お客さんの見方も変わったのかなって思いました。バンドもお客さんも一緒に、次のところに行けたと感じられたライブでしたね。
●今までとは違う感覚があったんですね。
森下:どちらかと言えば、今までは“しっかり演奏しよう”と思いすぎていたんです。特に東京では“ツアーファイナルだから、きっちりシメないとな”という気持ちがあって。でも今回は歌や演奏の調子がちょっとくらい良くなくても勢いよくやって、最後はみんなで“楽しかったね”と言い合えるライブができれば良いんだなと感じられたんですよ。
古川:まさにそういうことですね。さっき話した自分の歌についても、細かい話なんですよ。反省点が自分の中にあるというだけで、“ライブの良さ”みたいなものはすごく出せていたと思います。
石原:あと、今回のファイナルでは、古川がお客さんに“飛べ!”と煽るところがあったんですよ。いつもはやらないことをやった時のお客さんの反応を見て、僕は感動しました。
●ちゃんと反応してくれたことが嬉しかったと。
古川:自分たちが勇気を持って働きかけていけば、お客さんも返してくれるんだなということはすごく感じられましたね。だから自分自身も、普段よりステージ上で“素(す)”が出ちゃっていたと思います。
●あの日のアンコールで新曲のM-1「Lightning strikes」を演ったのも、特別なライブだったからこそなのかなと。
古川:ああいうおめでたい場所だから、聴かせたいなという気持ちはありましたね。バンドを始めたばかりの頃ってCDも出していないから、ライブに来てくれた人たちの前でやるしか自分たちの曲を聴かせる方法がないじゃないですか。元々はそこでお客さんの反応を見た上で、“CDを作りたいね”と考えたりしていたわけで。そういうことをイメージしながら演ったし、昔みたいにお客さんの前でどんどん新しい曲を今後も演っていきたいなと思っています。
●お客さんの反応はどうでしたか?
古川:すごく良かったですね。初めて聴くはずの曲でも自分たちがこれだけ熱量を持って演れば、お客さんもすごい熱量で返してくれるんだなというのがわかって。ずっとやっている曲みたいな感覚もあったし、“ウォォォ!”って(自分たちが)言って欲しいところでちゃんと反応してくれたりして、お互いの心が通じ合っているなと思いました。
●THE PINBALLSらしい曲だからというのもあるんでしょうね。
中屋:自分たちとして、得意なタイプの曲だと思いますね。単純にすごくカッコ良いなと。
森下:曲名もそうですけど“雷”のようというか、直感でガッと来てガッと行けるだろうっていうくらいの気持ちはあって。“聴けばわかるよ!”みたいな感じでした。
石原:この曲をやっている時が、あの日のライブで一番楽しかったかもしれない。僕はそこで一番興奮して、燃えた感じがします。
●曲を作っている段階から、自分たちらしい曲にしようという意識はあった?
古川:そこはあまり考えていなくて、とにかく自分が考える“カッコ良さ”みたいなものを出しただけというか。この曲に限らず、次のシングル作品は“とにかくカッコ良い3曲で行こう”みたいな感覚でしたね。
●“カッコ良さ”が共通するテーマとしてあったと。
古川:あと、シングルというよりも、“3曲入りの作品集”というイメージで作った気がします。たとえば(ミニアルバムで)7曲入りの作品集とかを作る時と、あまり(意識的には)変わらなかったかもしれない。だから激しい曲もありつつ、幻想的なイメージが湧くような曲も絶対に入れたいと思って、M-3「花いづる森」を入れたんです。
●そういう曲も“らしさ”の1つですよね。歌詞で言えば、「Lightning strikes」の“細胞と細胞と細胞が脳”という表現が古川くんらしいなと思いました。
古川:自分は“脳”とかが好きなんでしょうね。(インディーズ1stシングルの表題曲)「アンテナ」の歌詞でも“大脳”が出てくるので、シングルになると“脳”っていう言葉が出てくるのかなって(笑)。「アンテナ」には“大脳辺縁系が焼ける”みたいな歌詞があるんですけど、脳みそが焼けるような興奮が好きなんだろうなと思います。
●「Lightning strikes」という曲名や歌詞の内容は、曲を作った時点で既に浮かんでいたんですか?
古川:脳みそのシワが、雷(のマーク)みたいになっていたら面白いなと思って。そういうヴィジュアルのイメージがまずありました。何かを思い出すと脳内で電気信号が発生して、シナプスが連携していく感じというか。
●そういうイメージから生まれたんですね。
古川:でもあんまり深い内容ではなくて、本当に“音楽最高!”みたいな、カッコ良い音楽に出会ってビリビリ痺れるような瞬間の気持ちを描いているだけという感じです。
森下:僕の中ではもう少し暗い世界観の歌詞なのかなと思っていたんですけど、今聴いてみたらメチャクチャ楽しい感じの内容だったんですね。
●曲に対して抱いているイメージが違っていた?
森下:僕の中では、ちょっと“ヒリヒリした”感覚があったんです。
古川:そこは、自分の言葉選びが変わっているんだと思います。“こんなに楽しいんだ”ということを伝える時に、“細胞と細胞と細胞が脳”と表現したりして…たぶん僕は狂っているんですよ(笑)。そういう言い方が一見、暗く思われたりもするというか…。でもちょっと歪んでいるけれども、それが自分の面白いところなのかなという気もするんです。
●だからこそ、他にはない歌詞になっているんだと思います。
古川:確かに、差別化はできているかなと思います。
森下:もし先に歌詞の説明を聴いていたら、この曲のニュアンスも若干変わっていたかもしれないです。こんなにジャキジャキに尖った感じではなくて、優しい箇所もあるように作っちゃっていたかもしれないですね。
●歌詞の説明をあえてしないことが良い方向に出ている。M-2「Voo Doo」は、どういうイメージで?
古川:この曲のテーマは冒頭で言っているように、“固まらずに柔らかくいこう”ということですね。“氷のようにギュッと固まるのではなくて、水蒸気のように行こう”というか。メジャー1stシングルだからといって“こういうものにしなきゃ”みたいな気持ちはなくて、昔みたいにもっと自由に柔らかく“何でもアリ”の気持ちでいたいなっていうだけなんです。
●“Voo Doo”は、“まじない”や“魔法”みたいな意味で使っている?
古川:“Voo Doo”って自分の中でカッコ良い印象があるので、そういうイメージで付けました。今は科学の時代なんですけど、そういう時にこそ“原始的な古いまじないで俺たちは行きたいね”っていうスタンスの表明でもあります。
●“I playing like old Voo Doo”と歌っているのは、“バンドを始めた当初のように、凝り固まらず自由にやりたい”という気持ちにもつながる気がします。
古川:そうですね。上手くまとめて頂いて、ありがとうございます(笑)。
●ハハハ(笑)。「花いづる森」は、幻想的なイメージということですが。
古川:「花いづる森」は、“眠り”をテーマにしていて。眠ることが単純に好きというのもあるんですけど、“眠り”って自分の中で一番美しいものの1つなんですよ。それについて描いた曲ですね。
●“花いづる森”というのは、どういうイメージ?
古川:“花いづる森”というのは、僕の中では“死の森”というか。これから花開くんですけど、今の段階ではまだ『風の谷のナウシカ』(宮崎駿)の“腐海”みたいに毒とか血もあるんだろうなと思っていて。腐海では、毒が下層から浄化されていくじゃないですか。“浄化されてきれいになる前は色んなバクテリアがいたりするのかな”とイメージしながら、描いていきました。
●なるほど。この3曲で“光の三原色”を表す『Primal Three』というタイトルにした理由とは?
古川:今回は曲ごとの色が決まっていて。「Lightning strikes」は燃え上がる“赤”で、「Voo Doo」は擦り抜ける分子みたいな“青”、「花いづる森」は森の“緑”という感じでそれぞれに色を割り当てて考えていたので、このタイトルになりました。
●今回のシングルを経て、メジャー初のフルアルバムにも期待が高まりますが。
古川:アルバムはやっぱり作りたいですね。やっぱり今作の3曲を作っている中で、もう少しスケールの大きな作品も作りたくなったから。それは“性(さが)”なのかなと思います。
●クアトロでのワンマンも成功して、もう1つ上のステップに上がっていく時なのかなと。
古川:自分たちはあまり器用ではないので、とにかく毎回全力でカッコ良いものを作っていくだけというか。それでもっともっとお客さんに喜んでもらいながら、ちょっとずつ確実に進んでいきたいですね。素晴らしいほうに向かっていきたいです。
Interview:IMAI