今年結成10周年を迎え、9枚目のアルバム『Mirror Ocean』を完成させ、秋には初となる武道館公演の開催を発表したNothing’s Carved In Stone。硬質で凶暴なアンサンブルと、唯一無二の歌を擁する最強のバンドは、この10年間何を感じ、何を大切にして、どういう想いでアルバムを作り、現在地に立っているのか。バラエティ豊かな新曲たちに込めた音、想いの断片を綴った言葉、曲によって目まぐるしく表情を変える歌。ニューアルバム『Mirror Ocean』についての話を通し、彼らの10年間を振り返った村松と生形のロングインタビュー。
「後から聴くと“これ結構マニアックだな”と感じたりして。それで結果的に今思うのは、“この音楽をよくこれだけの人が聴いてくれてるな”っていう」
●今年は結成10周年ですが、実感はありますか?
「毎年アルバムを出す」っていうことにこだわってきたわけではないんですけど、前作まではアルバムの枚数=年数だったので、“10周年に近づいているな”という意識はあったんです。それに伴って、今現在のバンドは脂が乗っている状態だという実感があるんですけど、ちゃんと経験を積んできたなっていう感覚はありますね。
●生形さんはどうですか?
俺も同じような感覚っていうか、今までがあっという間だったから“もう10年か”っていうのが最初の印象で。結成当初はサブプロジェクトと思われるのが嫌で…そういうことを俺はインタビューで何度も言ってきたと思うんですけど…そういう理由で活動をコンスタントにしていたんですけど、いつの間にかそれが普通になって。今はもう、その辺のバンドよりもアルバム枚数出してるっていう(笑)。
●はい。アルバム9枚も出してるバンド、なかなか居ないです。
フフフ(笑)。だからいつの間にかここまで来ちゃったなっていう感想ですね。
●結成した当初は、今の姿を想像していました?
いや、想像していないですね。当時想像していたことは極端で、めちゃくちゃ売れてるか、もしくはもう活動していないか。ただ、俺らのこの10年間の活動の仕方とか、作ってきた曲とか、改めて振り返ってみたり聴き直したりしても、とてもメジャーなものとは思えないというか。
●確かにそうかも(笑)。
改めてそう思ったんですよ。最初の頃は“一般的に受け入れられるだろう”と思って曲を作っていたつもりなんですけど、後から聴くと“これ結構マニアックだな”と感じたりして。それで結果的に今思うのは、“この音楽をよくこれだけの人が聴いてくれてるな”っていう。
●ああ〜、なるほど。
正直に言うと俺らはもっともっと先を見ていたけど、やっぱりアルバムを出す毎に…今の時代、チャートとかもはや気にしていないですけど…いつも10位前後には入ってて。そういうのはすごくありがたいことだなと思いますね。やりたいことをやってるのに。
●そうですね。「自分たちが鳴らしたい音」というのはNothing’s Carved In Stoneが常に大切にしてきたことで。
俺も今の姿っていうのは全然想像してなかったですね。俺自身は特に1年目、とにかくこのバンドでどれだけ自分を出せるかっていうことに必死だったので、周りからの評価みたいなものがどういう波として起こってくるかも想像がついてなかったし。だから真一と同じように、売れてるか、もしくはもう活動していないかっていう感じで結成当初は思っていましたね。
やっぱりね、バンドマンはイメージしますよ。めっちゃくちゃ売れている姿を。俺、本当にバカだったんですけど、高校生のときに初めてライブをやるときも、ライブハウスも知らないくせに“3000人くらい入ってるんだろうな”って思ってたんですよ。それで実際にライブハウスに行ってみたらびっくりしたんです。狭くて。“ライブハウスってこんなに狭い所なんだ”って。
実際にライブをやったらお客さんなんて全然居ないし。要するに…バカだったんです(笑)。
●ハハハハハ(笑)。
やっぱり最初はいろんなことを思っていて…誰もがそうなんですけど…現実に打ちのめされて、そこから這い上がっていくっていう。それはNothing’s Carved In Stoneも同じですよね。
●ほぼ1年に1枚というサイクルでここまで来ましたけど、言い方を変えれば「繰り返し」ですよね。その繰り返しのサイクルの中で、バンドに対して常に刺激を与えないとだんだん新しいものは生まれ難くなっていくような気がするんですが。
おそらくそういう時期も、メンバーそれぞれにあるんですよね。どの職業でも同じだし、人生もそうだと思うんですけど、ずっと同じことの繰り返しで“果たして俺は何をやってるんだろう?”とか“この先どうなるんだろう?”という時期は誰しもあって。
●はい。
でも10年続けてきて、“やっぱり続けてきてよかったな”とすごく思うんですよね。バンドのバランスが崩れた時期もあるけど、こないだとか平日の豊洲PIT(Live on November 15th 2017 at TOYOSU PIT)でお客さんがパンパンに入ったりとか。なんでそれができたか? と自問したら、やっぱり続けていたからだと俺は思うんです。
●なるほど。
今年は武道館でやりますけど、武道館なんてなかなかできる場所ではないじゃないですか。そもそも、取ろうと思っても簡単に取れる場所じゃないし。それができるのも、10年続けてきて、いろんな人が力を貸してくれたからだと思うんです。
●確かにそうですね。
10年やっていると、10年聴き続けているファンも居ると思うんですよ。俺ら自身が“新しいことを発信したいな”と思うことと、お客さんが“もっと新しい姿を見てみたい”と思ってくれる気持ちって、ズレていることももちろんあるとは思うけど、感覚的には近いと思っていて。
●はい。
何か俺たちが新しいことをしてお客さんを楽しませて、それによって感じるお客さんからの“期待”や“信頼”のような気持ちを信用して、それを刺激にしてバンドとして共有できてきたなっていう実感が毎年あったんです。例えば3ヶ月連続ライブ(2015年の“Monthly Live at QUATTRO”)をしたり、もともとは想像していなかった日比谷野外音楽堂で席ありのライブ(Live a 野音 2016, 2017)にもチャレンジできて。いいバランスで楽しんでくれるお客さんが居るっていうのはありがたいなって思いますね。
●支えてくれるお客さんが居るからこそ、より追求できる。
俺たちがやりたいことをやって、俺たちの主観でおもしろいものを作って、それに期待をしてくれて…その信頼関係があってこその今だと思うんです。さっき真一が言ってましたけど、それでこんなにたくさんの人が聴いてくれている状況を作れているのはありがたいですね。
「バンドとして昇華するレベルがちょっと上がったというか。要するに、かっこつけなくなったんじゃないですか(笑)」
●10周年を迎えてリリースするアルバム『Mirror Ocean』ですが、2017年はリリースが無かったことから考えると、じっくり作った感じですか?
“Live a 野音 2017”の少し前くらいから曲作りを始めて、半年くらいかけて作りました。
いつも特に作品全体のコンセプトとかを決めずに、それぞれが“いい”と思ったものを持ち寄ってアルバムを作るんですけど、今作もいつも通りな感じで。俺は今回も10曲くらいデモを作って、その中からみんなが反応した曲を何曲か採用したという感じです。
●何か意識した部分はあるんですか?
作曲で意識したことと言えば、メンバーそれぞれお互いのインスピレーションが沸くようにっていう部分ですかね。まあそれもいつも通りかな…。でも今作は「歌の幅が拡がった」といろんな人に言ってもらえるんですけど、そういう部分は意識したところかな。個人的な話なのかもしれないけど。
●いや、僕も“歌の幅が拡がった”というのはすごく感じたんですが、個人的な話ではないと思うんです。Nothing’s Carved In Stoneというバンドは、4人が持っている個性を組み合わせて、異物感を残したまま1つの楽曲として完成させるのが特徴だと思っているんですが、今作は…もちろん今までのように“どうやってこのアンサンブルを組み上げたんだろう?”と思うような異物感はあるんですが…4人が同じベクトルで鳴らしているというか、同じ画を見ているような一体感が今まででいちばん強くて。
●拓さんの歌の幅が拡がったのは、その表現の延長線上というか、4人が同時に見ている画をより高い精度で表現しようとした結果なのかなと。歌の技量云々という個人的な話というより、バンドとしての表現力の幅が拡がったと解釈したんです。
それ、最近俺がいろんなインタビューで話していることです(笑)。
●解釈が間違ってなくて良かった(笑)。
1曲ずつ作っていく過程の中で、その曲に対して湧いてきたものをより素直に表現できるようになるべきだなと。このバンドはそれが大事だと思ったんです。例えば「俺はこういう声だから、こういう歌い方は良くないよ」ということじゃない。「俺はロックヴォーカリストとして、例えばR&Bみたいな歌い方はしない方がいい」という話じゃない。
●うんうん。
作っている楽曲に求められている歌がそれだったら、まずはやってみよう。そこから先は俺の表現なわけで。そのスタートラインが、今までより基準として上がっていると思うんです。でもそれはメンバーみんな昔からやっていて、そこに俺が技量として追いついて来たんじゃないですかね。
●ああ〜、なるほど。
真一のギターも、ひなっち(日向)のベースも、オニィ(大喜多)のドラムもそうだし。みんな楽曲に合わせて音色を変えるし、曲によって“違うプレイヤーが鳴らしているんじゃないか?”と思うくらいのプレイもできるし。曲として1曲1曲クオリティが高いものを追い求めているバンドだと思うので、そこに俺の感性も追いついて来たのかなって思います。前はもっと独りよがりというか…それが俺の良い部分ではあったと思うんですけど…それをバンドとして昇華するレベルがちょっと上がったというか。要するに、かっこつけなくなったんじゃないですか(笑)。
●そうかもしれないですね。10年のキャリアがあるバンドに対して語弊があるかもしれないですけど、よりバンドになった。
●7thアルバム『MAZE』、8thアルバム『Existence』、そして今作という流れの中で、だんだんその度合を増してきたような印象があるんです。バンドで表現しようとするものに対して、4人がよりダイレクトに、より自然に鳴らすようになったというか。
2人:うんうん。
●今作の中で最初にできたのはどの曲なんですか?
最初に作ったのはM-2「Mirror Ocean」です。最初のデモの中に入っていた1曲なんですけど、最近チューニングを下げている曲があるんですよ。例えば「In Future」や「Honor is Gone」とか(共に『Existence』収録)。でもちょっと割合が少ないんですよね。ライブのことを考えたとき、そういう曲がもっとあった方がギターの持ち替えが少なくて済むなと。そういうところから作った曲です(笑)。
●そういうきっかけだったのか(笑)。
でも「Mirror Ocean」はすごく独特で、それが良さになってるんですよね。こういう曲調なのにチューニングを下げるとちょっと重くなるというか、大人になるんですよね。…というか、持ち替えのためだったとは。
●拓さんも知らなかったのか(笑)。
“バランスが悪すぎるな”と勝手に俺が思ってて。最近のライブでは「In Future」をやることが多いですけど、“1曲だけドロップC#なのもどうかな?”と。そういうきっかけで作っていったんですけど、作っていくウチに“この曲は今回いちばんNothing’s Carved In Stoneっぽくなるな”という手応えがあって。それでみんなに最初に聴いてもらったんです。
●確かに「Mirror Ocean」はNothing’s Carved In Stoneっぽいですね。
これは“生形節”ですよね。Nothing’s Carved In Stoneのいちばん最初からある個性。
●制作の最初にできた曲がアルバムタイトルになったのは、何か経緯があるんですか?
今回もタイトル候補はいろいろあったんですよ。多数決じゃないけど、みんなで話し合って『Mirror Ocean』にしたんです。
今作の歌詞は結構内面のことを歌っていて、制作していたときはちょうど俺がバンドのこととかいろいろと考えていた時期だったんです。今、バンドはすごくいい状態なんですけど、いい状態だからこそ、それぞれメンバーがいろいろと考えていることがあるのはお互いにわかっていて。それは人間関係とかいろんなものに通じる話なんですけど…日常生活の中で目に付く人って居るじゃないですか。“なんでこの人はこんな感じなんだろう?”と。
●はい。
●わかります。自分と同じキャラの人ってなんかむかつくんですよね。
コンプレックスになりますよね(笑)。相手を鏡として思うとか、周りにある現象や自分の置かれている環境とかを鏡として考えるとか。そういう1人の人間の周りにあるものについてを歌っているというか、その内面を歌いたかったんです。だからいろんなものを“鏡”として表現できたらいいなと思って、“Mirror Ocean”という言葉が思い浮かんで。
●なるほど。
歌詞の中でも、「Mirror Ocean」とM-3「Directions We Know」で“泡(あぶく)”という同じ言葉を使っていたり、M-5「シナプスの砂浜」に“合わせ鏡”という言葉を使ったり。意識的に同じ言葉を使ったんですよ。1つのストーリーとして完結させるために。
●意識的にそうしたんですね。
そうです。だからアルバムとして『Mirror Ocean』としたらまとまるかなと。
「真一の歌詞に“音”という言葉がよく出てくるんですけど、俺はそれがすごく好きなんですよ。それは俺たちだからリアルに感じて、俺たちの気持ちを汲み取ってくれる何かがそこにある」
●M-1「Mythology」は既にライブで披露されていますが、この曲はライブでどんどん変貌しそうな予感がするんですよね。
「The Poison Bloom」(『MAZE』収録)という曲、今ライブでやっていてすごく気持ちいいんですよ。あの曲の感じに似てるかも。
●「The Poison Bloom」は最近よくやってますよね?
●「気持ちいいからよくやってる」っていいな(笑)。
すごくバンドっぽいんですよ。やっててそう感じる。それに近い感覚が「Mythology」にもある。
●バンドっぽい。
●“演奏する”というより“音を合わせている”という感覚が強い?
そうですね。そういう感覚になる曲はたまにあって、最近は「The Poison Bloom」と「Mythology」かな。
●なるほど。「Mythology」はハンドマイク前提で作ったんですか?
ライブに於いてハンドマイクの曲の位置づけが段々重要になりつつあって「あった方がいい」っていう意識はあって、作っている段階で真一から「これハンドマイクいけるんじゃない?」という提案があったんです。
●なるほど。それと「Directions We Know」は、Nothing’s Carved In Stoneが持つキャッチーさとポップさ、その両方を兼ね備えていますよね。「Spilit Inspiration」と「きらめきの花」の両方の要素が入っているというか。
●英詞と日本語詞のパートでガラッと景色が変わるし、今後ライブでものすごい武器になるような感触があった。
●出た。ポップなアイディアを持ってくると定評のあるオニィのアイディア。
そうだね。サビも半分くらいひなっちが持ってきて、みんなであーだこーだ言いながら。そういう経緯でできた曲だから、言葉のはめ方もリズム重視になったんです。
●それと僕、アルバムのときはいつも生形さんがどの曲の歌詞を書いたのか考えるのが好きなんです。
いつもインタビューのとき、答え合わせ的にどの歌詞を俺が書いたか、言ってきますよね(笑)。
●生形さん、いつもアルバムでは2曲歌詞を書いていて。
●え! まじか!
●えー、3曲だったのか。…まず確実に生形さんの歌詞だと思ったのはM-4「Winter Stars」なんですが。
●あとはM-8「Stories」。
●やったー!
ハハハ(笑)。「Stories」は真一の曲ってわかりやすいですよね(笑)。
●…でもあと1曲がわからない。
●まじで…。意外だった。
●いや、弾き語りっぽく始まるので、拓さん発信なのかなと思ってました。
●あ、そうなんですね。
Ken Yokoyamaさんと対バンして、Kenさんがすごくいいことを言っていたんです。「忘れていっている。みんな忘れていっている。俺も忘れていっている。薄れていっている。だから薄れないように俺はこの歌を歌うようにしている」みたいなニュアンスのことを言って客席に降りて歌った曲があって。その姿を観て“素晴らしいことだな”と思ったんです。だから俺も忘れないように、そういうことを書いておこうと。俺たちが何かをしているというわけじゃないですけど、忘れないように書いておこうって。
●「青の雫」は弾き語りっぽく始まりますけど、作曲も生形さんなんですか?
●そういう曲だったのか〜。
今の話を聴きながら歌詞を読んでたら泣きそうになっちゃった(笑)。
ハハハハ(笑)。Kenさんだけじゃなくて、フェスで東北ライブハウス大作戦のステージに立ったりとか、今回の制作中にそういうことを思うことがちょこちょこあったんです。
●「青の雫」、いい曲ですね。
俺も今の一瞬で今回のアルバムのフェイバリット・ソングになった。
一同:アハハハ(笑)。
●ところで歌詞について、先ほど拓さんが「意識的に同じ言葉を使った」とおっしゃいましたけど、“泡”や“鏡”の他にも、共通する言葉というか視点があるなと思ったんです。
●それは“2人”という視点。多数じゃなくて2人。1対1。それはNothing’s Carved In Stoneのお客さんに対する視点というか姿勢の表れなのかなと。1対1がたくさん集まって、今のバンドの状況ができているというか、“伝えたい”という想いや、お客さんに対する姿勢が“2人”という描写に繋がっているのかなと。
前々から、「俺たちのパーソナルなものというより、この曲たちが聴いてくれている人たちに寄り添うようなものになって欲しい」と言ってきたと思うんですけど、そこにより近づけたいという想いは、年々強くなっているんですよね。
●うんうん。
思い切り独りよがりの歌詞もいいんですけど、それだけじゃなくて、ちゃんと情景が浮かんで、聴いてくれる人たちの気持ちが乗っかるような歌にしたくて。そういう意識が今回はすごく強かったんです。俺たちだけじゃなくて、みんな何かしらのコミュニティだったりグループに所属していて、その中で自分が何をするかっていう役割とかあると思うんですけど、生きてく中では結局みんな1人で、それぞれ“自分”というものがあって、“1対1”を何度も何度も繰り返して、それで輪を拡げていくと思うんですよ。
●はい。
だからいちばんわかりやすい関係性は“君と僕”。それでいいんだなって。無理に大きく話す必要もなくて、そこに全部詰まっているような気がしている。歌詞を書く上でそういうことを考えていたから、“2人”の表現は今回増えたと思うんですよね。
●更に、“歌う”という表現も散見されて、印象的だったんですよね。
なんか不思議なもんですよね。例えば真一の歌詞に“音”という言葉がよく出てくるんですけど、俺はそれがすごく好きなんですよ。それは俺たちだからリアルに感じて、俺たちの気持ちを汲み取ってくれる何かがそこにあるんです。そういう表現にしたくて、“歌う”という表現を使ったんです。それで伝わるっていうか、寄り添ってくれるかなって。
「“自分1人だけ”と思っちゃうと、どんどん落ち込んでいっちゃう。俺もそういうときはあるだろうし。でもそういうとき、俺は音楽で助けられたりした」
●今作の中でバンドが持つダークな部分を詰め込んだ曲は、M-9「Damage」ですよね。
Nothing’s Carved In Stoneのヤバい部分が出てますね。
●この曲、ものすごいエネルギーがあると思うんですが、ゼロからここまでエネルギーを放つ楽曲を作るなんてすごいことだなと。エグいですね。
まさにエグい曲を作ろうと思って、みんなで盛り上がりながら作ったんです。俺らが持っている凶暴な部分だし、Nothing’s Carved In Stoneにしか作れない曲を作ろうと。まあどの曲も割とオリジナリティがあると思っているんですけど、もっとウチにしかできない楽曲。
●過去のインタビューでは“全裸勃起感”と例えたこともありますけど(笑)、Nothing’s Carved In Stoneが生み出す“全能感”みたいなもの。
そういうものを更に更新しようと思ったんですよね。でも案外、こういう曲は悪ノリなんですよ。
誰も弾けないフレーズとか叩けないリズムとか。そういうのを詰め込もうと。
●真剣に遊んだんですね。
●拓さんの歌も、他の曲とは全然歌い方が違うし。
●だからこの曲はライブで聴くのがすごく楽しみなんです。
たぶんね、「Damage」はめっちゃ難しいんですよ。まだメンバーで合わせてないからわからないんですけど、尋常じゃないと思います。
これはエグいだろうな〜。オニィもひなっちも真一もそうなんですけど、ああいうフレーズを弾けてること自体がすごいけど、それを合わせるのがいちばん難しい。
全員が1つのリズムを共有しなくちゃいけないじゃないですか。その“点”に合わせるのがすごく難しいと思う。そうしないとグルーヴが出せないから。
●でもこの曲、4人の音を合わせるポイントが結構多いですよね?
多いです。だから難しいし、4人がバラバラでやっていても、グルーヴは出していかないといけないので。サビの後とかヤバい。
1サビの後ね。あそこどうやって歌うんだろう? って自分で思うもん(笑)。
●他人事じゃん!
フフフ(笑)。でもこういうの好きなんですよね。楽しいんです。
●ライブ楽しみですね。濡れちゃうかもな〜。
●一方で、M-5「シナプスの砂浜」はアンサンブル的には隙間が多い楽曲ですが、こういうグルーヴを出すのは難しくないんですか?
「シナプスの砂浜」は極端にギターを抜いてますよね。アコギが芯にあって、リズムが16ビートで、ハマったときにすごくかっこいいと思ったから、俺のギターはピアノのイメージで弾いたんです。ハーモニクス入れたり。
●先ほどの拓さんの歌の話と同じで、楽曲の世界観を最大限表現するためのギターアレンジを付けたと。
「シナプスの砂浜」は真一の音色がすごく輝いてますよね。それにも増してリズム隊のアプローチもすごかった。
うん。こういう曲に対して、ウチのリズム隊のアプローチはすごくセンスがいいっていうか。普通はなかなか出てこないですよね。それが出てきたときに、曲が完成したという手応えがあった。だからギターに関しては、後はコードを乗せるだけでいいっていう。
●それはもう、自己主張とは別の次元なのかもしれないですね。
でもね、それも自己主張なんです。俺のテレキャスの音って「ピアノの音ですか?」と言われることが多いんですけど、それも自分の引き出しの1つだと思っているし、そういうのが増えていくと、より曲はバラエティに富むし、アレンジも幅が拡がってくる。
●確かに今作は曲の振れ幅が大きいですよね。M-6「Flowers」も、全然他の曲とはタイプが違う。
●80sの雰囲気がありますよね。
「Flowers」はひなっちがイントロのフレーズを持ってきたのがきっかけで作ったんです。
ひなっちって、ちょっとジャズの匂いがするエレクトロニカとかがすごく好きで、そういう雰囲気をシティポップとかアーバンなものとして表現しようとしたというか。だから今の若い人たちのいうシティポップというより、ちょっと大人な雰囲気が表現できている気がする。
●ふむふむ。それと生形さんが歌詞を書いたM-4「Winter Starts」ですが、まさに歌詞の内容は生形さんらしいですね。
特定のものというより、いろんなことに当てはめて書いたんですけど、俺が好きな歌詞っていうのは、聴いた人が元気がでるものだとか、情景が浮かぶものが好きなんです。
●生形さんは以前から「歌詞はできる限りストレートに、飾らずに、さらけ出して書こうとしている」とおっしゃっていましたけど、それが結果的に、聴いてくれる人に寄り添うようなものになると思うんです。その度合はどんどん強くなっているような気がする。
そうですね。あとは、自分はどうしようもない奴だなっていうところなんですけどね。それは俺だけじゃなくて、誰もがそう思う瞬間ってあるじゃないですか。俺はダメだなって。
●はい。どうしようもない奴で本当にすみません。
ハハハ(笑)。そういう、誰にでもあることに対して“俺も一緒なんだな”って思いたい。
不思議ですよね。“誰かと一緒だと思いたい”という感覚って、原始的なものらしいんですよ。子供が成長するきっかけの1つというか。仲間になりたい、みたいな感覚。
●“共感”みたいな感覚?
でも“共感”は大事だよね。“自分1人だけ”と思っちゃうと、どんどん落ち込んでいっちゃう。俺もそういうときはあるだろうし。でもそういうとき、俺は音楽で助けられたりしたから、「Winter Starts」はそういう歌になればいいかなって。
●バンドって、キャリアを重ねる毎にどんどんさらけ出す傾向にあると思うんですが、それはおそらく、ファンの人たちとの結び付きがより強くなっていくからだと思うんです。自分のことを何も言わずに相手のことを知ろうとするのはなかなか難しいことじゃないですか。
●だから生形さんがよりそうなっているのは、最初におっしゃっていたように“10年続けてきたから”だと思うんです。
●いい人っぽいです。それがずるい。
そうそう、俺ずるいでしょ? 俺、全然いい人じゃないですもん。メンバーは知ってると思うけど、本当にそう思う。
●めちゃくちゃなところは少し知ってます(笑)。
そういう部分をさらけ出そうかなって。まあさらけ出したところで、何も変わらないですけどね。でも言っておこうって。
●それは音楽に対しての誠意だと思います。
●そうそう。
Jane's Addictionっていうバンドが居て、「Been Caught Stealing」という曲があるんですけど、それは万引きの曲なんですよ。もう歌詞は万引きのことしか書いてない。俺は今から店に入って、何かをバッグにこっそり入れて、出ていくんだ。そうしたらそれはもう俺のものなんだ。っていう。
●ハハハ(笑)。
俺、その曲が大好きで。なんだかわからないけど、中学生の頃からその歌詞が大好きで。“自分をさらけ出す”という意味では、それに近いものがある。さらけ出し方は全然違いますけどね。
●そういう表現って、技術とか手法とかとは別の次元で、伝わるものになるんでしょうね。
「自分たちの音楽とかライブとか活動のスタイルに共感してもらえるのは本当に嬉しいんですよ。だから、それはやっぱり他人じゃない気がする」
●リリース後は3/8からツアーがあり、10/7に武道館が控えていますが、武道館をやろうと決めたのはいつですか?
決めたっていうか、「ちょっと抽選に入ってみようか」という話になったのは、去年の夏くらいだったかな。10周年ということで。
●なるほど。
そこからいろんな力が加わって、なぜか俺らが取れたっていう。ものすごい確率の抽選だったのに。
だから取ろうと思っても取れない人が多い中で、何か縁があるんだろうなと。だから、すごく偉そうなことを言うと、やるべきなのかなって。
●武道館に対する想い入れみたいなものはあるんですか?
もちろん楽しみではあるけど、武道館に限らず俺はここ最近は特に場所に対する想い入れがあまりなくて。ていうか場所にこだわりたくないのかな。もっと言うと、デカい会場でライブハウスみたいなライブをやりたくなっちゃう。そういうライブになるとものすごく楽しいし、素晴らしいと思うんです。
●おお、なるほど。拓さんはどうですか?
俺はゴリ押ししましたもん。「武道館やろうぜ」ってみんなに(笑)。
●そうだったのか(笑)。
そこはみんなも「お前が言うんだったらやろう」と賛成してくれて。俺はやっぱりヴォーカルなんですかね。ああいう場所に立ってみたいという気持ちはやっぱりあって。あそこに立って輝いている人たちが居たから。それは日比谷野音楽堂のときもそうだったんですけど、輝ける人たちと同じ場所に立って、どういう景色が見えるのかを感じてみたいし、そこからバンドがどこに進んでいくのかっていうのもきっと楽しみだし。
●うんうん。
俺たち10周年だし、「せっかくだからどこか大きい会場でやらない?」みたいな話はずっとしていたんですよ。いろいろと話して、「じゃあ武道館でやろう」となって、実際に動き出したときに、本当に奇跡的なめぐり合わせで抽選も当たって。それに俺は前から「スタジアム級のバンドにしたい」と言ってきたので、それを有言実行したいんですよ。時間はかかってもいいんですけど、その第一歩にしたいなと。自分たちが作っていく階段の一歩として…まだ俺ら全然成功してないけど(笑)、まずはそこでお客さんに楽しんでもらって、いい夜にしたいなと。
●楽しみですね。泣いてしまうだろうな…。
●え! 1曲目は?
言わないっすよ(笑)。でも1人でいろいろと想像したら興奮しますもんね。
●本編最後は? アンコール1曲目は?
●まあ武道館は10月でまだ先ですけど、とりあえずはツアーが楽しみですね。
●しかもさっき「めっちゃ難しい」とおっしゃっていた曲もありますよね。
そうですね。でも“難しい”と思っていざやってみたら簡単な場合もあるし、本当に難しい場合もあるんです。やってみないとわからないんですよね。
●へぇ〜。
例えば前作だと「Sing」とか。あの曲ね、めっちゃ難しいんですよ。
●え? 「Sing」は簡単そうに思いますが。
意外でしょ? 「Sing」は『Existence』の中でいちばん難しいかもしれない。俺たちはそういうのがあるので、今回もやってみないとわからない。
●なるほど。
現段階では、アルバムの曲の幅が広い分、今回のツアーはいろんな景色が見えるライブになるだろうなとは思っていて。お客さんにも楽しんでもらえると思います。そういう彩りのある曲を使って、どうやってお客さんを熱狂させるか? という部分はNothing’s Carved In Stoneの腕の見せ所だと思うので、突き詰めていきたいですね。
●この10年間で、お客さんに対する想いは変わりました?
バンドって、聴いてくれるお客さんが居ないと成り立たないものじゃないですか。だからやっぱり、いろんな意味で感謝はしています、常に。自分たちの音楽とかライブとか活動のスタイルに共感してもらえるのは本当に嬉しいんですよ。だから、それはやっぱり他人じゃない気がする。なんとなく思うのは、何人いようが1対1でいたいと思いますね。実際のところ、1対1で話したりは無理だけど、ライブのときとか、何かを届けるときに考えているのは、1対1。そういうつもりで関わっていたいなと思います。
過去に、お客さんに対してどういう視点で接すればいいのか悩んでいた時期もあったんですけど、今思うのは…いちばん大事なのは、自分たちを曲げないで、自分たちを信じてやっていくこと、続けていくこと。そこに共感してくれていると思うので、もっともっと信じて、もっともっと磨いて続けていくことだと思うんですよ。この先どこまで行けるのかっていうのも、自分たち次第だなと思うんです。それを突き詰めていくことが、みんなが求めていることだと思っています。
interview:Takeshi.Yamanaka
LIVE PHOTO:Viola Kam (V'z Twinkle)