“目の前の海に飛び込んで溺れて死んでしまえば
罪悪感か何かで後悔させられるかな” (M-3「二色浜」)
Vo./G.平部雅洋が昔の彼女にフラれて「いつか有名になって、フッたことを後悔させてやる」と思い、バンド名を付けたという3ピースバンド“reGretGirl”。彼らを最も特徴づけるのは、その切なくも“女々しい”歌詞だろう。
冒頭に引用した一節は平部が「今までで一番“失恋”という感じでした」(以下「」内は平部の発言)と語る、最初の大失恋のエピソードを元にした歌詞だ。そして、この時に抱いた想いがreGretGirlを始める契機にもなったのだという。
10代後半の「大人と子どもの狭間みたいな時期」に付き合った彼女との別れは、かつてないほどのショックを与えるには十分だった。「僕が好きの絶頂の時にフラれたので、落ち込んでしまって。その落差が大きかったから、キッカケになったのかもしれない」。
そこから現在のようなテーマで歌い始めたという平部。「フッたことを後悔させてやる」と思いつつも、実際に歌の根底にあるのは別れた彼女に対する決して消えない想いだ。その想いが歌うことだけでなく、生きることの原動力にもなっている。
“後悔させたい君に 後悔させられる中で
今は会いたい気持ちだけで生かされているんだ” (「二色浜」)
“後悔させたい君”のことを想うほどに、頭に浮かぶのは自分がやってしまったことへの後悔ばかり。“「もっと思ってること口に出せばよかったのに」なんて”(M-1「ホワイトアウト」)、“そしてなかなか「会いたい」が言えなくなった”(M-5「クラムジーミーツ」)。
あの時言えなかった言葉、その積み重ねで至った別れ、胸の奥に残された後悔と痛み。それら全てを平部は曲に変えていく。「その痛みのおかげでここまで来れているから。どんなに痛くても、良い方向に持っていけるなら“痛めつけられて良かったな”と思っています」。
歌という形に昇華しても、その痛みは消えないのだという。「歌うから消えるということはないですね。一生残るものを見せているだけという感じです」という言葉のとおり、自分の中にある傷すらもさらけ出してしまうのだ。それは時に、恥ずかしげもないほどに。
“「お願いだからどこにもいかないで」
そんなことしか言えず
しまいには君にすがりついて
大声で泣き出す始末”(「ホワイトアウト」)
いわゆる“男らしさ”とは真逆をいく、“女々しさ”の極致とも言えるような内容を歌えるのもreGretGirlならではだ。失恋をすれば誰でも落ち込むし、泣きたくもなる。そういう時でもカッコ良く振る舞えるのがモテる男なのかもしれないが、それができる人間はこんな歌はそもそも歌わない。
「惚れやすいんですけど、フラれまくっています。誕生日にフラれそうになったこともあって。“なんで今日やねん!”みたいな(笑)。フラれる天才なんじゃないかなと思いますね」という平部だから紡げる言葉があり、この世に数多くいる不器用な人間の共感を大いに呼ぶのだ。
「reGretGirlの曲は全部失恋ですね。まだ幸せな歌はない」からこそ、聴く者の胸をこんなにも締め付けるのだと思う。そして、何度でも繰り返して聴きたくなるのだ。「ホワイトアウト」のMVがYouTube上での公開から半年足らずで既に60万再生回数を超えていることが、そのことを証明している。
“僕の知らない誰かに
僕の知らない君をみせないで” (M-2「デイドリーム」)
「死ぬまでずっと君の元カレだ」とは平部のTwitterでのつぶやきだが、言い得て妙だと思う。たとえ相手には忘れられたとしても、自分が想い続けている限りは死ぬまでずっと“元カレ”のままでいられるのだ。それは相手に新しい恋人ができても関係ない。
その新しい恋人と「一緒にライブを観に来てくれても良いですよ。今カレに“俺はこれだけ想っているぞ”というのを伝えられるから。良いライブができるかもしれない」と言える平部はある意味、とてつもなくメンタルが強いのかもしれない。
だが「僕のことを思い出してくれたら良いな」というのは、誰もが思うことではないだろうか。「元カノの中から一生、“僕”が消えないように作った」という今作『my』の楽曲たちは“平部雅洋”の個人的な歌でありながら、他の誰かにとっても“私の歌”になる可能性を秘めている。
一度聴いたら忘れられないキャッチーなメロディと、心の奥に突き刺さってくるような切なくも女々しい歌詞。3ピースながらパワフルなバンドサウンドに乗って届けられるreGretGirlの楽曲は、普遍的な魅力を放っているのだ。
音源でもライブでもWebでも良い。何にせよ彼らの言葉と音に触れてもらえれば、きっとわかってもらえるはずだから。“reGretGirl”という名を覚えておいて、絶対に損はないと思う。
Text/Interview:IMAI
Assistant:室井健吾