今年8月に日比谷野外大音楽堂公演を大成功に収め、その場で来年3月の幕張メッセ国際展示場でのワンマンを発表した、lynch.。4人体制での活動再開以降も、バンドはその進む速度をどんどん増しているかのようだ。そんな中で、新たな作品『BLØOD THIRSTY CREATURE』が11/8にリリースされる。シャウト連発の超攻撃的なナンバー「BLØOD」から始まり、凄まじい勢いと刺激的なサウンドを轟かせるリード曲「CREATURE」、ライヴで進化を続けるインディーズ時代の名曲「THE WHIRL」の最新ヴァージョンまで鮮烈にして濃厚な3曲を収録。さらに【数量限定生産盤】のBlu-rayには野音ワンマンの完全ノーカット版だけにとどまらず、活動再開を果たした4月の新木場STUDIO COASTからも3曲を収録するなど、ライヴ映像も盛りだくさんだ。再始動から現在に至るまでのストーリーを凝縮したような今作をたっぷり味わいつつ、13周年という彼ららしい“不吉”にして記念すべき年の大いなる飛躍に期待したい。
「“CREATURE”というのは、僕が若かりし頃の姿勢や覚悟のことというか。その時のパワーというものは、とんでもないと思っていて。その“CREATURE”が、自分をここまで連れてきてくれたという感じですね」
●8/11に日比谷野外大音楽堂(以下、野音)で初めて行ったワンマンは、いかがでしたか?
葉月:思ったよりも、普通にできたというのが一番の感想ですね。昔イベントで野音に出た時は音響面でストレスが多かったのもあって、今回もそういうところで苦労するだろうなと思っていたんですよ。でも今回はツアー(TOUR‘17『THE SINNER STRIKES BACK』)のスタッフをそのまま全て投入できたこともあって、ストレスなくやれたので良かったです。
●やる前は不安のほうが大きかったと。
葉月:でもステップアップしていくための重要な登竜門の1つではあるので、押さえておかないといけないとは思っていて。実際にやってみたら、すごく楽しめましたね。
●自分たちのイメージしていた音が出せた?
葉月:そうですね。逆に外音を出しすぎたというか。メチャクチャ大きかったみたいで、本番中はお客さんの声がほとんど聴こえなかったんです。自分たちの音で消えてしまっていたという。
●現場のMCでも「あまり大きな音を出しすぎると、施設側に止められることがあるらしい」という話をしていましたよね。
葉月:今は“冗談じゃないかな”と思っています。それくらい、あの日の音はデカかったですからね。あれ以上出したら、普通の会場でもスピーカーが飛ぶと思いますよ。
●容赦ないくらいの爆音だったと。本編終了後には来年3月の幕張メッセ国際展示場でのワンマン開催も発表しましたが、これまで目標にしてきた日本武道館をキャパシティ的にはいきなり超えてしまったというか。
葉月:ずっと日本武道館でやりたかったんですけど、改修工事に入ってしまう関係でものすごく人気になって、会場が取れなくなってしまったんです。かといって改修後にやるとなると、2022年とかになっちゃうんですよね。そこまではファンの人もテンションを保てないと思ったので、同規模の大きな会場を目標として打ち立てて、そこに向かってやっていこうという話になりました。
●目標が一気に大きくなったわけですが。
葉月:今回はかなりの“段飛ばし”かなと思います。ある意味では、冒険というか。でもそれによって生まれる熱もあると思うので、そこにも期待していますね。
●今回のシングル『BLØOD THIRSTY CREATURE』のM-1「BLØOD」でも、“"now closer" to the promise land”という歌詞があるように、夢見ていた場所や約束の地に近付いている実感はあるのでは?
葉月:こういう感じの歌詞は昔から多いんですけど、「BLØOD」は逆にそれを皮肉っているというか。日本語で書いた歌詞を元に英訳していることで、ちょっと違った意味で伝わってしまうところもあるんですよ。元の日本語詞ではもうちょっと皮肉っぽくて、“俺らが目指してきた約束の地は今ではもう生ヌルいよ”という意味だったんです。
●目標にしてきた場所が、今ではもう生ヌルく思えている?
葉月:元々、僕は「Zepp Tokyoが最終目標」と言っていたんですよ。3,000人キャパの会場が満員になれば理想の景色だと思っていたんですけど、実際にそこまで来てみるとそれも“普通”になってしまって。“もっと先に行きたい”というシンプルな気持ちがありますね。幕張メッセもそうなると良いなと思います。
●ちなみに「BLØOD」の歌詞は、いつ頃書いたものなんですか?
葉月:この曲を作ったのは、野音よりも後ですね。歌詞はさらにギリギリで、歌録りの当日に書きました。
●ということは、野音の時点ではまだ歌詞も曲もできていなかったんですね。
葉月:「BLØOD」もM-2「CREATURE」もまだできていないけれど、発売は決まっていて。でも“こういうものかな”というイメージは頭の中にぼんやりとあったので、何とかなるかな”とは思っていましたね。野音が終わってから時間もしっかり取れるようになったので、一気に作り上げました。
●野音を終えての心情も楽曲に表れているのでは?
葉月:それは歌詞というより、曲の姿勢とかに出ていると思います。派手な感じというか。ツアーが終わって、“今こういうモードです”というのが出ているんじゃないかな。
●曲調的にはすごく攻めている印象が強かったです。
葉月:幕張メッセに向かっていくところで、キャッチーな歌モノを出すというのもどうかなと思って。タイアップを狙うわけでもないし、だったらlynch.らしい曲にしようということになりました。
●自分たちらしいものを目指した結果、こういう曲調になった?
葉月:lynch.らしいんだけど、初めて聴いた人に“うわっ!”と思わせられるような破壊力のあるもので攻めたほうが効果はあるのかなと思って。lynch.としては王道だし、そんなに奇抜なことはやっていないですね。
●今作はタイトルにも“CREATURE”というワードが入っていますが、どういうイメージで使っているんでしょう?
葉月:“CREATURE”というのは、僕が若かりし頃の姿勢や覚悟のことというか。今考えると自分でも“頭がおかしいな”と思うんですけど、僕は高校を中退していて。その理由は“バンドで食っていくつもりだから、授業を受けている時間がもったいない”というものだったんです。1秒でも多く歌を練習したいし、音楽に取り組みたいと思ったから。でも当然、周りの大人は止めるわけですよ。
●普通はそうですよね。
葉月:「高校くらい出ておかないと、バンドを失敗した時に職にも就けず野垂れ死ぬぞ」と言われた時も、本当に何の心配もしていなくて。「死んだら死んだでそれで良い」と思っていたんです。でも今だったら、そんなことはできないと思うんですよ。(結果的に)今は上手くいっているから良いですけど、本当に失敗して定職にも就けない状態になっていたらきっと後悔しただろうなと。
●今は大人になって、そういう現実的な面も含めて考えてしまう。
葉月:でもその時のパワーというものは、とんでもないと思っていて。僕はそれ自体のことを“CREATURE”と呼んでいるんです。その“CREATURE”が、自分をここまで連れてきてくれたという感じですね。
●その気持ちは今でも失ってはいない?
葉月:いや、だいぶ丸くなりましたよ。その頃と比べると、薄れまくっています(笑)。
●lynch.を結成した当初は、そういう気持ちだった?
葉月:まだそんな感じでした。“お金なんていらない。カッコ良ければ良い!”みたいな。今思うと、“おぉ…”っていう感じですけど(笑)。
●そこから次第に色んなことが見えるようになって、考え方も変わってきたのでは?
葉月:その時は何も見えていないですから。“とにかくカッコ良い音楽をやるから、お客さん増えろ!”みたいなことだけで。今は色んなことを考えるようになっちゃいましたね。“こういうことをしてみたいけど、ああなるだろうからやめておこうかな…”とか考えるようになって、やっぱりそこのパワーは薄れましたね。
●昔は深く考えずに突っ込む、猪突猛進的なパワーがあった。
葉月:昔は“猪”でしたからね(笑)。
●“CREATURE”をそういう意味で使いつつ、歌詞全体ではどういうことを歌っているんですか?
葉月:これはライヴの空間について歌っています。
●そう考えると歌詞内に出てくる性的な表現は、ライヴで絶頂に達する様を表している?
葉月:すごい時は本当にすごいですからね。非現実的な場所というか。普通に生きていたら、あんなに大勢の人から“キャー!”っていう歓声を浴びることなんてないから。自分の歌を聴いて絶頂に達している人もたくさんいるわけで、もうたまらないですよ。だから“すごいな。気持ち良いな”となる時があるんですよね。
●実際のライヴ中にも、そういう瞬間を迎えているんでしょうか?
葉月:ずっとそうではないんですけど、ライヴの後半くらいに訪れますね。たとえばアンコールだったり、ある程度まで盛り上げてきて成功がもう約束されているような状態で、手放しで楽しめるようになったタイミングが多いです。最初は“(ライヴを)成功させなきゃ”という使命感があるんですけど、後半は何も考えていなくて。その時が一番楽しいですね。
●いつも終盤にやることが多い「pulse_」の時はそういう状態?
葉月:いや、意外と「pulse_」は我に返りますよ。“あっ、もう「pulse_」か…”と思って。日曜日の『笑点』みたいな感じ(笑)。
●ハハハ(笑)。終わりが見えることで、寂しい気持ちになってしまう。
葉月:急に我に返ってしまいますね。最後のブロックの真ん中あたりが一番楽しいです。
●M-3「THE WHIRL」は『THE BURIED』(アルバム/2007年)に収録していた楽曲の再録ですが、今のライヴでもよくやっている曲ですよね。だから今回、再録したんでしょうか?
葉月:最近もこの曲はライヴで結構やっていますね。昔録った時はクオリティがまだ低かったので、“録り直したいな”とここ2〜3年ずっと思っていて。今のクオリティで録っておきたい曲の現状1位だったんですよ。シングルのカップリングならそういう遊びも許されるだろうし、ファンにも喜んでもらえるかなと思って再録しました。
●再録にあたって、アレンジを変えたりは?
葉月:歌は全部一緒ですし、アレンジもあまり変えていないです。でも悠介(G.)くんは結構変えたみたいですね。ベースに関しては、2007年に録ったテイクをそのまま使っているんですよ。
●ベースはリリースした当時のものを使用しているんですね。
葉月:当時はベーシストがいないから、音源では僕がベースを全部弾いていたんですよ。でも元々のベースが難しいので、耳コピするのが大変で。逆に当時のほうが上手いくらいじゃないかなっていう。だから音は作り直したんですけど、テイク自体は今録ってもそんなに変わらないと思ったんです。
●今作でも葉月さん自身がベースを弾いているそうですが、前作のように色んなサポートメンバーに入ってもらうことは考えなかった?
葉月:ここでまた新たに誰かに頼んでも良かったんですけど、前回のインパクトを超えるのは難しくて。もちろん偉大なベーシストは他にもたくさんいますけど、lynch.のストーリー的にはあそこがMaxだったのかなと正直思っているんです。ルーツという意味では僕が弾くというのが一番lynch.らしいはずだし、意外と喜んでくれる人もいるみたいなのでそうしました。
●活動を始めた当初以来に自分でベースを弾くということで、原点回帰的な部分もあるのでは?
葉月:それはどうでしょうね…? でも今回の曲は、昔っぽいんですよ。意外と流行りを気にするタイプなんですけど、僕が“あっ、これは新しいリフのパターンがきたな!”と思ったのは2013年が最後なんです。そこでそのパターンを『EXODUS-EP』(EP/2013年)や『GALLOWS』(アルバム/2014年)ではガッツリ取り入れて、新しいlynch.ができたんですよね。でもそこから次の新しいものが出てきていなくて、海外のバンドもまだそれをやっているし、最近ではラウド系だけじゃなくてヴィジュアル系の若いバンドたちも同じような感じでやり始めたりしていて。
●2013年頃に生まれたリフのトレンドが、今に至るまで続いているんですね。
葉月:それを自分たちが今やるのは嫌だなというところがあって。だからあえて1周まわって、古いほうに行ったというか。「BLØOD」なんて、僕の中では2000年くらいのLinkin Parkなんですよ。Chester Bennington(Vo.)がああいうことになってしまった(※2017年7月に急逝)ので追悼の意味も込めて、あえてLinkin Parkっぽくしてみました。
●あえて少し前の手法を取り入れていると。
葉月:「CREATURE」では、lynch.が始まった当初に一番流行っていたチューニングを使っていて。“ドロップC#”というものなんですけど、当時はみんながやっていたから“絶対にやらない”と思っていたんです。でも今は他にやっている人があまりいないので、しれっとやってみました。
●誰もやっていない今だからこそ、自分たちがやる意味を感じている。
葉月:そうですね。誰もやっていないから新鮮かもと思って取り入れてみたら、(結果的に)昔っぽくなったんですよ。
●なるほど。今作のタイトルに“BLØOD THIRSTY”と付けたのも“血に飢えている怪物”というイメージで、昔のような衝動を取り戻していることを象徴しているのかなと思ったんですが…。
葉月:いや、そこにそんなに深い意味はないですよ。先に「BLØOD」と「CREATURE」という2曲があって、そこからタイトルを考えていった時に『BLØOD THIRSTY CREATURE』という言葉が良いなと浮かんだだけで。
●アグレッシブな曲調のイメージにもつながっているのでは?
葉月:強くて攻撃的なイメージはあって。(言葉から浮かぶ)イメージがやっぱり大事で、それ以上の意味は求めていないというか。パッとタイトルを見て“おっ”と思ってもらえたら、それでOKなんです。響きが良くて、バンドのイメージとリンクしていれば良いなと。
●今作の音にも通じているし、lynch.らしいタイトルかなと思います。ちなみに今作の【数量限定生産盤】に付属のBlu-rayには8/11の野音公演がノーカットで入っているそうですが。
葉月:本当にノーカットなんですよ。お客さんがアンコール待ちしている場面まで入っていますからね。アンコール待ちの間も楽屋裏にカメラが入っていて、その映像はBlu-rayでしか見られないんです。DVDではカットされている部分も入っているので、ぜひBlu-rayを手に入れて欲しいと思います。
●Blu-rayでは、舞台裏の貴重な姿も見られると。
葉月:幕張メッセの告知映像がアンコール前に流れている時に、その様子を僕が裏から見ている場面もカメラでめっちゃ抜かれているんですよ(笑)。みんなが盛り上がっている姿を舞台裏で見ながら喜んでいるんですけど、そこは昔だったらカットしていたと思います。今はそれも“お客さんに喜んでもらえるかな”という感じなんですよね。
●幕張メッセの告知映像は、すごくストーリー性のある内容でしたよね。
葉月:頭の中にイメージがあったので絵コンテを描いて「こういうものがやりたい」と伝えて、それを映像化してもらった感じです。愛知県の蒲郡市というところまで行って、廃墟の中でズブ濡れになって撮りました。顔には泥も塗られたりして…、過酷な撮影でしたね。
●どういうイメージがあったんですか?
葉月:あれは処刑台の13階段に向かっているイメージなんですよ。幕張公演には“GALLOWS(=処刑台)”というタイトルがついているんですけど、来年は13周年だから。階段の1段1段を1年にたとえて“13段目の頂上から見える景色は?”というところで、“幕張メッセ公演をやります”という内容になっています。
●普通は“13”というと不吉なイメージですが、それをアニバーサリーにしてしまうのもlynch.らしいというか。
葉月:13周年って、ものすごく不吉だから良いなと思っていて。『GALLOWS』というアルバムも出ているし、“ここで幕張をやるしかないでしょ”となりましたね。
●年内にはTOUR'17 “THE BLØODTHIRSTY CREATURES”を予定されていますが、年明けからは今のところ3月の幕張メッセまでライヴがないんですよね…?
葉月:ツアーに関しては幕張に向けての階段みたいな感じで、1段1段昇っていく気持ちでやっていこうかなと考えていて。年明けから3月まで間が空くのは怖くもあるんですけど、空けたら空けたぶんだけ返ってくるものもあるはずだから。溜めて溜めて、“ドーン!”と放とうかなと思っています。
Interview:IMAI
Assistant:室井健吾