1stフルアルバム『記憶の中と三秒の選択』を2015年11月にリリースしてから1年…。ユビキタスが3rdミニアルバム『孤独な夜とシンフォニー』を2016年11月にリリースしたのに続けて、わずか2ヶ月というスパンで4thミニアルバム『ジレンマとカタルシス』をリリースする。ジャケットを並べてみるとわかるように、それぞれが“夜”と“昼”というテーマで関連付けられている今回の2作品。“今ここで変わらないといけない”という強い覚悟の下で生み出された全14曲には、葛藤や困難を乗り越えて新たな道のりを切り拓く大いなる可能性が秘められている。
「“今ここで変わらないといけない”というのは、メンバー全員が本気で思っていることだから。ここで何か新しいキッカケを作りたいんです」
●1stフルアルバム『記憶の中と三秒の選択』から1年ぶりの新作として3rdミニアルバム『孤独な夜とシンフォニー』を出したと思ったら、その2ヶ月後には今回の4thミニアルバム『ジレンマとカタルシス』をリリースするという…こういう流れになった理由とは?
ヤスキ:元々は“コンセプトアルバムを作りたい”という話をしていたんです。そこから2作品のジャケットを組み合わせたら1枚の絵になるというイメージが浮かんで、ミニアルバムを1枚ずつ制作していって。だから間を空けずに、できるだけ早く出したかったというのはありますね。
●2作品のつながりを大事にした結果だと。『記憶の中と三秒の選択』からは1年空いたので、制作期間的には余裕があったんでしょうか?
ヤスキ:いや、結局はギリギリになりましたね。
ニケ:特に『ジレンマとカタルシス』は、レコーディングの直前で収録曲がほぼ全て変わっているんですよ。
●えっ、それはなぜ?
ヤスキ:僕の個人的な感覚なんですけど、“何か今じゃないな…”という感じがあって。そこまでにあったものを白紙に戻して、新しく書いたものが今回は多いですね。そういう理由で見送った曲は、(この2作に収録した曲と)同じくらいの数があるとおもいます。
●ストックは大量にあったけれど、今作のイメージにはそぐわなかった?
ヤスキ:そうですね。この2作でのコンセプトを考えた時に自分の中で『孤独な夜とシンフォニー』は“夜”をテーマに、『ジレンマとカタルシス』は“昼”をテーマに書こうと決めていたんですよ。でもそこまでに作っていた曲は僕の思う“昼”のイメージとは違っていたので、納得がいかずにやり直したんです。もうレコーディングまで1ヶ月くらいしかない時期だったので、泣きながら曲を書きました…(笑)。
●『孤独な夜とシンフォニー』は“夜”で、『ジレンマとカタルシス』は“昼”というテーマがあったんですね。
ヤスキ:『孤独な夜とシンフォニー』は自分と向き合う感じの曲が多くて、すごく内面的で。逆に『ジレンマとカタルシス』は、外に向いているような志向性の作品になったんじゃないかなと思っています。
●先にリリースした『孤独な夜とシンフォニー』のほうは、そこまで苦戦しなかったんでしょうか?
ヤスキ:いや、こっちもバタバタして作りましたね。
●あ、こっちもそうなんだ。
ニケ:1stフルアルバムを出した時に、自分たちの中でそこでいったん完結したようなイメージがあったんです。2016年2月にリリースツアーのファイナルを終えた後に、“この後はどうするのか?”って考える時間がすごくあって。それまでにも自分たちの代表曲と呼べるものはあったんですけど、“次のユビキタスはどういう感じでやりたいのか?”ということをずっと考えていました。そこから「イナズマ」ができるまではすごく長かったですね。
●「イナズマ」は、ユビキタスが次に目指す方向性を象徴している?
ニケ:そうですね。『孤独な夜とシンフォニー』の中でも、一番最後にできた曲なんです。
ヒロキ:そこまでは自分たちの中で“これや!”っていうものがなくて。でも「イナズマ」ができた時に、“これや!”ってなった。今までにない感じがしたんですよね。
●ヤスキくん自身はどうだったんですか?
ヤスキ:元々は“自分がバンドを始めた頃に好きだったようなギターロックのサウンドを今の時代にやってみたら、どういうふうに反映されるのかな?”っていう興味から作ったのが「イナズマ」だったんです。哀愁のあるギターロックなんですけど、そこにユビキタス節もちゃんと入れられていて。この曲にメンバーがしっくりきたというのもあって、“これでいこう!”となりましたね。
●最後にリード曲の「イナズマ」ができたことで全員しっくりきたと。でも『ジレンマとカタルシス』はもっと苦戦したということですよね…?
ヤスキ:『ジレンマとカタルシス』のほうは、ほぼ全曲リードやと思って作ったんですよ。結果的に、どれもイメージの濃い曲が多くて。その中で最後にできたのが「カタルシス」でした。3〜4曲は1ヶ月以内に書いた感じなので、ホンマに泣きながらやっていましたね…。
ニケ:実際、病んでいましたからね。毎日、僕が電話していました。
●電話で励ましていた?
ニケ:優しい言葉をかけながら、煽っていましたね(笑)。何しろ曲を持ってきてくれないと、僕らも大変だから…。
ヒロキ:曲がないと、レコーディングできない(笑)。
ヤスキ:ただでさえプレッシャーを感じているところに、毎日ニケから「調子はどう?」っていう電話があって…。「言われなくても、わかっているわ!」っていう(笑)。
●そういう状況を何とか乗り越えたと(笑)。
ヤスキ:最後に「カタルシス」ができて、ようやく顔を上げられたという感じですね。結果的に、すごく等身大な1枚になった感じがしています。
●「ジレンマ」と「カタルシス」の2曲は、歌詞の内容的にもつながっている気がしました。
ヤスキ:僕は本来1曲ごとに物語を作るタイプなんですけど、今回は制作期間が短かったせいか「ジレンマ」と「カタルシス」の歌詞に関してはつながっているようなものになっていますね。でも実際は、無意識にそうなったというだけなんですよ。
●今作は葛藤が伝わってくるような「ジレンマ」で始まって、最後は「カタルシス」で前を向いて進んでいくイメージがあるというか。
ヤスキ:いったん落ちてから、色々とあって最後はちゃんと顔を上げて進むという流れはありきたりなのかもしれないですけど、やっぱりハッピーなほうが良いなと思って。今こういう環境で音楽をやらせてもらっていることは、すごく恵まれていると思うんですよ。ここから自分たちでどうやって道を切り拓いていくかということを考えてきた1年間だったので、リード曲は前向きな歌を歌いたいなと思って「カタルシス」を作りました。
●実際、曲を作っていく中で徐々に前向きな気持ちになっていったところもあるのでは?
ヤスキ:僕は1曲できるたびに、テンションレベルが20ずつくらい上がっていくんですよ。「ジレンマ」と「君の居場所」が同時に出てきた時に電話で弾き語りをニケに聴いてもらったら、「これはリード曲でもイケるんじゃない?」って言われて。自信満々で提出したらプロデューサーに「もうワントライいこう」って言われて、それで僕のテンションレベルが60くらい下がるっていう…。
●2曲できて40上がったテンションレベルが一気に、マイナスになった(笑)。
ヤスキ:でもそういう出来事も経験した甲斐があったなと思いますね。
●2曲同時に出てきたということは、その頃には調子が上向いていたんでしょうか?
ヤスキ:元々あったのが「10」と「スモールワールド」で、それ以外に用意していた5曲を1回全部ナシにしているんですよ。その後で最初に作ったのが、「ジレンマ」と「君の居場所」ですね。
●そこから調子が良くなった?
ヤスキ:でもその後も「カタルシス」はレコーディング2日前くらいまで歌詞ができなくて、「R」なんかは前日にようやく書けたんです。たまたま美術館に絵を観に行ったら感動して、その時に思ったことを書いたら1日でできましたね。
●美術館で誰の作品を観たんですか?
ヤスキ:アルフォンス・ミュシャの展覧会ですね。「R」というタイトルも、ミュシャの時代に起こった“アール・ヌーヴォー”という美術運動から取っているんです。
●そういうことだったんですね。
ヤスキ:ミュシャの絵は、昔の作品やのに色使いが今見てもすごくて。そこに自分たちを無理やり重ねたというか。クリエイターの人って見えないところですごく努力をしているものだし、僕らだって何十時間も練習したりしている。そういう部分を上手く歌詞に乗せられたらなと思って書きました。
●“四分弱の世界にさ 全てを預ける事はない こんな奴もいるくらいでいいのです”という部分は、バンドのことですよね?
ヤスキ:完全にユビキタスのことを言っている感じですね。僕自身もミュシャの展覧会に行って、初めて“こういう人がいたんや”っていうことを知って。同じようにもしユビキタスを知らない人に観てもらった時に、“こういう考えをしているヤツらもおるんやで”っていうことを言いたくて書いたんです。押し付けるんじゃなくて、寄り添いたいというか。そういう音楽でいたいんですよね。
●「スモールワールド」で“一緒に行こう 小さい世界超えて イメージの向こうへ”というのも、自分たちのことを歌っているのかなと思ったんですが。
ヤスキ:そうです。僕は恋愛の歌詞って、あまり上手に書けなくて。そういうふうに見えている曲があれば、基本的にメンバーとのことを書いているものなんですよね。
●「カタルシス」の最後に“僕は今から夢を叶えてくるよ”と歌っているのは、バンドとしての意思表明的な部分もあるんでしょうか?
ヤスキ:“今ここで変わらないといけない”というのは、メンバー全員が本気で思っていることだから。ここで何か新しいキッカケを作りたいんです。
●この2枚を作ったことによって、生まれた自信もあるのでは?
ヤスキ:そうですね。個人的には“曲を生むということに対して、すごく甘く考えていたな”というのを感じて。“こんなにしんどいんや…”ってホンマに思いましたけど、すごく良い経験をさせてもらいました。この2枚ができたことによって、次の自分が見えてきたというか。
ヒロキ:“もっと売れている人はこんなもんじゃないんやろうな”って思うと、怖くなりましたけどね。でも先のことをイメージして勝手にビビっていても仕方がないので、今は目の前にあるものをしっかりと消化していかないといけないなと思うような作品になりました。
●まずは今作をリリースしてから、ツアーが予定されているわけですからね。
ヒロキ:作り終えてみて良いものができたと思うんですけど、2枚合わせて14曲出したわけじゃないですか。もし(1本のライブで)全部やるとなると、過去の曲はできなくなっちゃうんですよね…。セットリストも全く新しくなるので、楽しみも不安もあって。でもそこから新しい道が見えてくるのかなと思うので楽しみです。
●対バンシリーズでは持ち時間的に難しいでしょうけど、ワンマンシリーズのほうでは全曲やろうと思えばできるのでは?
ヒロキ:14曲全部はやらないかもしれないですけど、大半はやると思いますね。
ヤスキ:歌詞や曲の流れも考えた上で、既存の曲とこの14曲が上手く絡んでくると思います。『ジレンマとカタルシス』の曲は現段階ではライブでまだ「カタルシス」しかやっていないので、1月にリリースしたら一気に増えるというのが楽しみなんです。どうしてもやりたい曲がいっぱいあるんですけど、リリース前なので今はメッチャ我慢していたりするんですよ。早くライブでやりたいですね。
●ツアーが自分たちでも楽しみで仕方がない。
ヤスキ:ワンマンも東名阪で3本あるし、新しい自分たちを見つけられるんじゃないかとワクワクしています。
ニケ:今回のツアーでは初めて行く場所もあったりして。色んなところに行った後で東名阪のワンマンがあるんですけど、特に名古屋は初めてのワンマンなのですごく気合いが入っています。楽しみにしていて下さい!
Interview:IMAI
Assistant:森下恭子
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