2side1BRAINが前作『WAKE UP MY EMERALD』から約2年の時を経て、ニューアルバム『BLOOD EYES RED』を完成させた。
前作リリース後に各地をツアーしていた彼らだが、あの3.11にちょうど福島で被災したことがその後に大きな変化をもたらしたようだ。発売前から既にYoutube上で公開されているMVを見てもわかる通り、今作には彼らの伝えたいメッセージと想いが溢れんばかりに漲っている。
そんな強いメッセージ性を読み取りつつ最高のサウンドに仕上げたのは今、アメリカのロックシーンで最注目のエンジニアであるジョーイ・スタージス。
FACTやFear, and Loathing in Las Vegasなどを中心に新たなムーブメントが起こりつつあるラウドロックシーンへ向け、強烈な楔を打ち込む傑作を必ずや体感して欲しい。
●2010年11月に前作の1stフルアルバム『WAKE UP MY EMERALD』を発表して以来、約2年ぶりのリリースとなりますね。今作『BLOOD EYES RED』に至るまでは、どんな活動をされていたんでしょう?
SHUNTAROCK:2011年は僕らにとって、素晴らしい年でもあると同時にとても苦しい年でもあって。僕らは前作を出してから、かなり長いツアーを廻ってたんだ。そして3.11は福島にいて、あの震災を直に経験した。僕ら沖縄のバンドがあの日、あの場所にいた事は今でも奇妙に感じるよ。
●ちょうど被災地の福島で、震災を経験することになったんですね…。
SHUNTAROCK:ツアーを中断せざるを得なくて沖縄に戻ってからも自分達に出来る事をやったり、沖縄の音楽家達と集まってライブをやったりして義援金を集めたりしたんだけど無力感は埋まらなくて、とても悲しかった。音楽を描く事も躊躇してしまうほど、僕らにとってはショッキングな出来事だったんだ。前を向くまでに時間は掛かったよ。
●震災が楽曲制作にも影響をもたらした。
SHUNTAROCK:しばらくはドネイションやチャリティの活動をやっていて、曲を描く気にはなれなかった。だから今作では、僕は1曲も書いてないんだよね。もちろん、詞やメロディは僕が付けてるんだけど、曲はギタリスト2人が気持ちを込めて描いてる。だから、とても素晴らしい曲が出来たと思う。メンバー全員、勇気のある人間だ。彼らが背中を押してくれたから、僕もまた動き出せたと思ってる。
●メンバーも同じ経験をしていながら、勇気を持ってバンドが前へ進む後押しをしてくれたんですね。
SHUNTAROCK:考えこんでたのは自分だけじゃなくて、メンバー皆そうだから。ここに来て改めてメンバーが大好きになったし、それぞれに対する尊敬の気持ちはもっと強いものになったと思う。
●そして再び動き出したわけですが、実際に今作の制作に入ったのはいつ頃から?
SHUNTAROCK:具体的に、制作に入ったのは9月の終わり頃だったんじゃないかな。でも構想はある意味で、3.11から決まってたのかもしれないね。この作品に運命を感じてるよ。
●今作のテーマは、震災以降で感じたことと繋がっている?
SHUNTAROCK:この現状に感じる疑問、それぞれの人生、自分自身への裏切り。繋げなければいけない"希望"。詞を描いてる時はそういう事を考えていたから、そういうアルバムになったと思う。前作と明らかに違うのは、このアルバムにはどうしても伝えたいメッセージやコンセプトがある事なんだ。音楽が今出来る事を僕らなりに精一杯、描いたと思ってるよ。
●その点で前作とは明確に違うものになったと。
SHUNTAROCK:前作は平和だから唄えた作品というか。もちろん悪い意味ではないよ。作品はその時の僕らの心を表現したものだから、どの作品も僕らにとっては大事なものなんだ。
●前作のインタビューで「もう嘘が通じない世界がそこまで来ている」とおっしゃられていましたが、今作のM-1「UNDER THE WINTER SKY」でも"嘘はもううんざりだ"ということを繰り返し歌われています。"嘘"に対する嫌悪感のような気持ちは、前作以上に強まっているんでしょうか?
SHUNTAROCK:うん。嘘に対する嫌悪感は日々高まっていて、いい加減、誰かに止めて欲しいほどだよ(笑)。嘘の通じない世界で平気で嘘をつく、この国の現状が僕には異常に見える。
●M-4「THREE WORDS」では"支配"、"理由"、"無知"という3つの言葉を強調していますが、それも今のこの国の現状に向けたメッセージ?
SHUNTAROCK:"支配"する為の"理由"を造り、僕らから知を奪い"無知"にする。今の現状にピッタリだろう? でもこの曲で唄ってるのは、どんな犠牲を払おうと何度でも蘇る"自由"というイマジネーションの事なんだ。"自由"の意思は必ず"支配"を覆すから。それは人間の太古からの歴史だよね。こういう曲を描くっていう事は、僕らは真の意味でハードコアバンドなんだと思う。ジャンルとしてじゃなくね。
●この曲にも"血(blood)"という言葉が出てきましたが、今作はタイトルも『BLOOD EYES RED』となっています。また、ジャケットも鮮烈な赤ですが、"赤"や"血"といったものが今作のキーワードとなっているんでしょうか?
SHUNTAROCK:"血"は繋げていく約束。"瞳"は心を映し出す鏡。"赤"は情熱。さっきも言った"支配"、"理由"、"無知"を覆す為の3つの言葉をタイトルにしたんだ。
●余談かもしれませんが、前作と今作では共にジャケットの"瞳"が印象に残ります。そう考えると1stミニアルバム『Singing like flood』のジャケットでも猫の瞳が印象的に見えてくるんですが、そこにも何らかのメッセージを込めている?
SHUNTAROCK:猫は個人的に好きなんだ(笑)。でも余談なんかじゃなくて僕らがこだわってるところだから、訊いてくれて嬉しい。瞳は心を映し出す鏡。君自身の意思を強く持って欲しい。という大切なメッセージがあるんだよ。
●M-4「YOU SANG」や「UNDER THE WINTER SKY」では、"星"という言葉も象徴的に使われている気がします。この言葉にはどんな意味が?
SHUNTAROCK:同じ星空の下に生きている事実。同じ星の上に立ち、生きている現実。こういう意味でしかその言葉は使ってないね。
●ラストのM-10「SA YO NA RA」は日本語の"サヨナラ"だと思いますが、2side1BRAINの曲で日本語タイトルは珍しい気がしました。
SHUNTAROCK:拳銃に1発しか入ってない男が追い詰められた時「サヨナラ」と言って自分の頭に弾丸を打ち込むか、それとも…。っていうふざけたストーリーなんだけど…ちゃんと意味はあるんだよ。日本語タイトルは逃げている男が日本人っていう設定なんだ。わかるでしょ?
●この曲にも現状への辛辣なメッセージが込められている。「UNDER THE WINTER SKY」のMVには訳詞が表示されていたり、「THREE WORDS」のLyric videoをアップしたりと、今まで以上に"伝えたいこと"への想いが高まっていることを実感します。
SHUNTAROCK:うん、想いしかない。大きな力へのフラストレーションも人間の生み出してきた欲求を信じたいと思う気持ち、見ないふりをする自分自身への裏切り、どうにか希望を見出そうともがく、神への赦し。そういう気持ちをさらけ出して描いてるからね。
●"神への赦し"を描いた曲というのは?
SHUNTAROCK:M-6「GRACE」のことだね。この曲では、神への赦しや懺悔を唄ってる。こんなレリジャス(宗教的)な詞が出てくるなんて、自分自身でも思ってもみなかった。相当、参ってたんだろうね(笑)。でも結果として、美しくも醜い唄ができたと思ってる。聴けば聴くほど、好きな唄になっていくんじゃないかな。
●もう1本MVが作成されているM-2「YOU ARE BEAUTIFUL」も今作のキーになる曲だと思うんですが、この曲にはどんなメッセージが込められているんでしょうか?
SHUNTAROCK:"それでも君は美しい"っていう意味なんだけど、1人の女性に例えて人間を唄ってみたんだよ。強欲なところも、打算的なところも、たまにチグハグなところも全ての人が持ってるものだと思ってるんだ。現状をすごく客観視してみると色んな状況に振り回されながらも皆、それぞれ必死に輝いて見えた。僕も若輩者で人間の"に"の字もわかってないけど、人を歌で描く上で1人の女性に例えたら良く描けたんだよね。この曲は人間賛歌だね(笑)。
●辛辣なメッセージを描きつつも、最終的にはポジティブな方向に向かっているわけですね。ちなみに今作はジョーイ・スタージスのファウンデーション・スタジオでミックスとマスタリングが行われたそうですが、そこに至った経緯とは?
SHUNTAROCK:複数の海外のエンジニアとコンタクトを取ってたんだけど、その中でメールやスカイプで話した時に感触がとても良かったから。ほとんど直感かな(笑)。エレクトロハードコアバンドのミックスで名を上げた人だから意外に思う人もいるだろうけど、そんな事を全く感じさせない仕上がりだよ。実は彼自身もアーティストで彼の曲をスタジオで聴かせてもらったんだけど、すごく綺麗な曲を描くんだ。思わず「俺のバンドに入らないか?」って訊いたくらい(笑)。
●それくらい良かったと(笑)。
SHUNTAROCK:ジョーイはこのアルバムの歌詞を、メッセージ一つ一つ理解しながらミックスしてくれた。できれば、これからずっと彼と仕事をして行きたいと思ってる。次はプロデュースしてもらいたいな。
●具体的には、音にどんな変化があったんでしょう?
SHUNTAROCK:自分的には、よりオキナワン・ロックサウンドになった気がする。ジョーイも言ってくれたんだけど、曲を聴いてると沖縄がどういう場所かわかる気がするんだって(笑)。「THREE WORDS」では完璧にエイサーとか青い海が、ミックス中に見えた気がしたんだよね。疲れてたのかな? (笑)。
●疲労のあまり幻覚を見た?(笑)。ジョーイによるミックスとマスタリングも経て完成した今作ですが、自分ではどんな作品になったと思いますか?
SHUNTAROCK:確実に、2side1BRAINは新しい表現方法を手に入れたと思う。そして、背中を押してくれたファンの皆、勇気を与えてくれた関係者の皆のおかげでこの作品は出来上がったんだ。ここで感謝の意を伝えたい! ありがとう!
●今作リリース後には、日本国内でのツアーや海外でのライブも予定されているんですよね。
SHUNTAROCK:色んな国に行くよ。もちろん日本も。初めて俺たちの事を知る人も、いつも応援してくれてる人も必ずまた会いに行くから是非観に来てください。ライブに向けて色々と新しい挑戦もしてるところだから、良い形で皆に観せたいと思ってる。
●そういえば今年3月には、A Day To RememberとUnderoathと共に東南アジアツアーにも行かれたんですよね。そこで受けた刺激もあったのでは?
SHUNTAROCK:うん、とても刺激的だった。バックステージでは、お互いにこれまで廻った国の事とか食べ物の話なんかもしてたね(笑)。あと、どっちのバンドも震災後のこの国の事をとても気にかけていてくれてたのが嬉しかった。去年の年末に僕らは台湾のフェスに呼んでもらったんだけど、台湾の人達も本当にこの国の事を想っていてくれててステージで思わず涙が流れたよ。本当に…。マレーシアやシンガポールの人々だって、そうだった。だから僕らはどの国のステージでも、この国の人間として心からの感謝を伝えてきたよ。
●今回は色々と丁寧に答えて頂き、ありがとうございました! 最後に読者へメッセージをお願いします。
SHUNTAROCK:音楽で世界は変えられない。放射能も止められない。でも音楽はあなたの心の側にいつもいる事ができます。僕は今作を通じて、まだ音楽が出来る事を確信しています。どうかこの作品を聴いてみてください。良けれは信じてください、疑ってください。それは、あなたの意識をはっきりさせるキッカケになると信じています。共に繋げて生きましょう。
Interview:IMAI