2016年5月にメジャーデビューを果たし、早くも第3弾となるシングルを発表したラックライフ。人との出会いを大切にし、ライブハウスという場所を大切にして、“想い”をステージで爆発させてきた彼らは、メジャーにフィールドを移した以降も以前と変わらないスタンスのまま、バンドの勢いをますます加速させている。そのステージはより感情的に、生み出す楽曲はより高い純度で。目まぐるしく成長を続ける3rdシングル『風が吹く街』からは、そんな彼らの気持ちとバンドとしてのプライド、幅広い音楽性、そしてどこまでも真っ直ぐな“生き方”を感じることができる。前回に引き続きVo./G.PONに、その想いと背景を訊いた。
「そういう人たちと過ごした時間とかいまだに思い出しますし、その人たちの言葉を思い出しては“がんばらなあかんわ!”と思うこともある。たくさんの人たちに支えられている」
「自分が歌っていることを曲げないような生き方をしたいんです。綺麗事にしたくないんです。本物にしたい」
●5/11にリリースしたメジャーデビューシングル『名前を呼ぶよ』のツアーで、6/24にshibuya eggmanでレコ発をされたじゃないですか。
PON:はい。
●あのときのライブがすごく印象的だったんです。要するにライブがすごく変わったなと。もちろん今までの延長線上なんですけど、MCも曲も、曲の途中で叫んだりすることも、全部その場で湧き上がったことというか。もちろん歌詞は以前に書いたものだけど、ライブのその場でそのときに感じているような鮮度があったというか。
PON:うんうん。
●PONくんが思っていること、メンバーが思っていることが全部その場で“ライブ”として表現されているというか。びっくりしたんですよね。
PON:今、俺らのライブめっちゃかっこいいっすよ(笑)。
●あら。褒めたら乗っかってきた(笑)。
PON:ライブが変わったという実感があるんですよね。吹っ切れたというか。
●吹っ切れた? いつ頃から?
PON:まさにshibuya eggmanの日くらいからですね。メジャーデビューしてから、やっぱりいろんなことを考えたんです。“俺たちはどうしていくのがベストか?”みたいな、身の振り方を。
●ほう。
PON:でもいろいろと迷った結果、あの日はそういうライブをしようと決めていたんです。“メジャーなんぼのもんじゃい!”みたいな気持ちがすごくあって、11年ライブハウスで生きてきて、今更メジャーっぽくするのは違うんじゃないかと。なんというか、「全員に好かれようとするのを諦めた」と言うと語弊があって、当然たくさんの人に好かれたいんですけど、でも例えば「ラックライフはちょっと思っていたイメージと違う」と言われたら、それはそれで仕方がないかなと思える心が身についたというか。
●へぇ〜。
PON:やっぱりメジャーデビューでアニメ(「名前を呼ぶよ」はTVアニメ『文豪ストレイドッグス』エンディング主題歌)のタイアップがついて、それをきっかけに知ってくれた人はたくさんいるんですけど、その人たちが結構「初めてライブハウスに来ました」みたいな空気もあったりして。
●はい。
PON:そこで「ナメんなよ!」と(笑)。やっぱりここで嘘をついたり、自分たちを飾って見せようとしたら11年が全部パーになるし、それがいちばん嫌やなと。もう来るところまで来てしまったから、もうええやろと(笑)。信じてくれている人がこれだけいるんやったら、今なら自信満々でやれると。そういう気持ちがすごくライブに影響していますね。
●ということは、吹っ切れたのはすごく最近の話なんですね。
PON:はい。今までも吹っ切れているつもりではいたんですけどね。でもいざメジャーとなったら考えることも多くて。“メジャーデビュー”っていうめちゃくちゃ大きな夢が1つ叶って、それが重くないわけないじゃないですか。
●そうですね。
PON:みんなめちゃくちゃ喜んでくれたし。でもそれが別にすべてではないんですよね。メジャーデビューだけが夢じゃないし、メジャーデビューよりも大切なものはたくさんあるし。メンバーもそうやし、一緒にやってきた周りの人たちもそうやし、支えてきてくれた人たちもそうやし。だからメジャーデビューに振り回されたくなかったというか。例えば今のレーベルの人も、今までそうやってやってきたラックライフを“いい”と思って一緒にやってくれているわけやし、だからそれを信じようかなと。気をつかうのはやめようと。
●まさに自分らしく。
PON:そうですね。
●そういうメジャーデビューに関する葛藤というか迷いみたいなことは、メンバーとは話したんですか?
PON:いや、全然。
●相変わらずだな(笑)。
PON:あいつらは何を考えてるんでしょうね〜。さっき話したようなメジャーデビューについての発言はなんにもないし、今まで通りなんですよ。今まで通り過ぎて怖いくらいです(笑)。
●ということは、ラックライフのライブが変わったことは、PONくんの心構えが変わったことによるところが大きいのか。
PON:そうですね。それに僕が変わればみんなが変わると思うし。感じてくれているところではあると思うんです。
●eggmanのときがそうでしたけど、暴れまくってますよね。
PON:暴れまくってますね。思ったことはすぐ言うし。そういう風に今までもライブを作ってきたつもりではあったんですけど、でも本当にどうでも良くなったんでしょうね(笑)。
●どう思われようがいいと。
PON:はい。ここで間違ったことを言ったとしても、そのときに俺は正解やと思って言ったんだからそれは正解じゃないかな、みたいな。終わってから反省しようと。まあそのときは「終わってから反省しようと」とすらも考えてないですけど。
●最近もイベントやツアーサポートなど、ライブの機会が多いですよね。ライブは楽しいですか?
PON:めっちゃ楽しいですね。また歌上手くなったんですよ〜。
●あら。今度は歌の自画自賛?
PON:思うように歌えるようになってきたというか、自分がイメージするものに近いものを表現できるようになってきたというか。そんな感じがするんですよね。
●思うようにというのは、どれだけ感情を込められるかどうか、みたいなポイント?
PON:それもありますし、単純にイメージ通りに声を出すことができることだったり。やっぱり思うようにライブをしようとすると、めっちゃ叫んだりするじゃないですか。だからどうしても喉にダメージを負ってしまうこともあるんですよ。eggmanのライブもまさにそれで、僕としてはズタボロのライブだったんですけど、そういうのも自分的にはすごく悔しくて。思ったように叫んだり、思ったように歌いたいという気持ちが第一にあるというか。だから前よりもちゃんと歌のことを考えるようになりました。だから今はめっちゃ楽しいですね。思うように歌いたいし、思うようにしゃべりたい。やっぱり自由がいいですよね。自由度が高いライブがいい。
●そして今回、11/2に3rdシングル『風が吹く街』がリリースとなりましたが、これは前作『初めの一歩』の後に作ったんですか?
PON:そうですね。『初めの一歩』に関するインタビューをしてもらったじゃないですか。あのときにインタビューでは「夏は少し暇になりそうです」と言ってましたけど、あのインタビューの直後に全然暇じゃなくなったんです。今回も制作は地獄の日々でした(笑)。
●なるほど。あの後に「次のタイアップが決まったよ」と言われたんですね。
PON:はい。インタビューしてもらった日に言われました。
●ハハハ(笑)。2回目となるTVアニメ『文豪ストレイドッグス』エンディング主題歌が決まって、そこから作り始めた?
PON:そうですね。でもエンディング主題歌は1回やったし、「もう思ったこと歌ってしまったしな」みたいな感じで悩んだんです。
●でも2回目ということは、『文豪ストレイドッグス』サイドには好評だったというか、「ラックライフおかわり!」ということですよね?
PON:そうなんですよ。だからすごく嬉しくて。でも2回目ってどういう気持ちで作ったらええんやろう? と思って、もう1回原作を読んだんです。タイアップというのは、僕的にはきっかけをもらうだけなんですよ。
●前もそう言ってましたね。原作の世界観に寄せるわけではなく、原作からきっかけをもらって自分の歌を作る、というスタンス。
PON:アニメサイドからもまったく注文はなく、今回もそういう感じで作り始めたんです。原作では、大事な友人を亡くしてしまったからこそ今の生き方をしている登場人物がいるんですけど、『風が吹く街』はそこをフィーチャーしたんです。
●ほう。
PON:僕らもバンドをずっとやってきて、別に死んでしまったりはしていないですけど、なかなか会われなくなってしまった人たちがいて。一緒に歌っていた人とか。
●11年も続ければ当然いますよね。
PON:めっちゃ山ほどいて。お客さんもそうで、お客さんが全然いない頃からずーっと応援してくれている人でも、環境が変わってライブハウスになかなか来れなくなったりとか。そういう人たちのことを思い出しながら作ったんです。そういう人たちと過ごした時間とかいまだに思い出しますし、その人たちの言葉を思い出しては“がんばらなあかんわ!”と思うこともある。たくさんの人たちに支えられているんです。
●はい。
PON:それがあったから今自分が歌えているんだなって。ちゃんと生きていかないとダメやなって思いながらこの曲を作ったんです。
●なるほど。「風が吹く街」というタイトルがすごく印象的な言葉なんですけど、なぜこのタイトルにしたんですか?
PON:風ってどこでも吹くじゃないですか。要するに、すべての街には風が吹いているんですよね。どこも“風が吹く街”なんです。
●そうそう。
PON:だから誰にでも当てはまるからイメージしやすいかなと。それと、僕らの地元の大阪府高槻市には明治製菓の工場があるんですけど、雨が降る前の日にはチョコレートの香りがするんですよ。
●雨が降る前の日?
PON:そうなんです。いつもは匂わないのに、雨の前日になったらチョコの匂いがするんです。だからみんな「明日雨やな」と思うんですけど(笑)。
●すごいな。
PON:だから「風が吹く街」というのは僕らにとっては地元の高槻で。そういうこともありつつ、タイトルをこれにしたんです。
●なるほど。ちなみに、シングルの候補曲は他にはなかったんですか?
PON:いや、タイアップの候補は3〜4曲あって、その中からこれを選んだんです。いくつかあったデモの中から、いちばんインパクトがあるものがいいかなと。エンディングとか関係なく、ラックライフの世界に引きずり込めるような力がある曲がいいなと。
●確かに「風が吹く街」はすごくラックライフらしさがありますね。カップリングのM-2「journey」M-3「デイルニハ」は、同じタイミングで作ったんですよね?
PON:いや、違うんですよ。「journey」は1年くらい前からあった曲で、「デイルニハ」は最近作り貯めていたストックの中の1曲なんです。
●「風が吹く街」をシングルにすることが決まって、カップリングとして何が合うか? という基準でこの2曲を選んだ?
PON:そうですね。
●「journey」は最初に歌詞を読んで、熱い曲かなと想像したんです。でも実際に聴いてみると全然違ったという(笑)。
PON:ゆるゆるでしたね(笑)。これは風味堂みたいな曲を作りたかったのがきっかけなんですけど、気付いたらチャリンコ乗りながら風味堂の曲を歌っていたんです。
●ほう。
PON:たぶん中学か高校の頃にカラオケで歌っていた記憶があるんですけど、「ナキムシのうた」っていう歌を口ずさんでいて、“そういえばこういうテイストの曲はラックライフに無かったな”と。それがきっかけで、鼻歌で作ってみたのが始まりなんです。ラックライフって気張り癖があるんですよ。
●はい、知ってます。
PON:でもたまには肩の力を抜いて歌ってもいいやろなと。
●「journey」の歌詞を読んで思ったんですけど、この曲はライブで目の前にいる人に対して歌うような曲ですよね。
PON:この曲は特にそうですね。まさにライブハウスで目の前に立っている人に対して歌うことを考えながら作ったんです。あなたが何をしようが、俺にとっては何のメリットも損害もないけど、でもなんかここで笑ってくれたら俺、明日からもがんばれる、っていう。そういう景色をイメージして、それぞれがそれぞれで幸せならそれで良くて、でもそれが交わったときがちいばん幸せやなって。そういうことを思いながら、そのままの気持ちを書きました。
●あと「デイルニハ」はしっとりとしたラブソングですが、これはどういうきっかけで生まれた曲なんですか?
PON:メジャーデビューが決まった日のことを歌った曲なんです。
●ラックライフのメジャーデビューが決まったのは去年のクリスマスでしたっけ?
PON:はい。バンドとか音楽には全然関係ない普段の生活を支えてくれる人たちのことを思い浮かべながら。
●ほう。
PON:そういう人たちって、バンドのことに興味がないというか。
●え? どういうことですか?
PON:興味がないというと違うんですけど、探ってこないんです。「最近バンドどうなん?」とか「CD売れてるの?」とか「人気あるの?」とか全然言ってこなくて、普通のしょうもない会話ばかりなんですよ。たまに僕が“この人らラックライフのこと応援してくれてんのかな?”と不安になるくらい、フラットに接してくれる友達というか。
●なるほど。バンド活動を特別視しているわけじゃなくて、それぞれがんばっていることの1つとして捉えてくれている。
PON:そうなんです。普通の一個人として接してくれている。そういう人たちに「メジャーデビュー決まったよ」と言ったら、すごく喜んでくれたんですよ。そんなに応援してくれてたんや! ってすごく感動して。
●普段全然聞いてこないくせに。
PON:そうそう(笑)。実はそんなに気にしてくれてたんや! って。それがすごく嬉しくて。こっち側でバンドをがんばることも僕にとってはすごく大切なんですけど、一方で普通の人として生きていることもすごく必要なことなんです。どっちが欠けてもだめというか。今まではこっち側(バンドで活動する世界)のことばかり歌っていたけど、たまにはこっち側(1人の人間として生きている世界)のことも歌おうかなと。
●確かにラックライフはバンドマンとしての曲ばかりでしたね。
PON:そうなんですよ。でもそれとは違う観点で、違う人たちに向けて歌いたいなと。
●なるほど。バンドのことを聞いてこないっていうのは、その人たちなりの優しさだったんでしょうね。
PON:その優しさに気付いたんですよね。すごく嬉しかったんです。だからこの感動を曲にしようと。
●だからしっとりと落ち着いた曲調なんですね。ライブを想像したとき、「journey」や「デイルニハ」ってライブの流れをガラッと変えることができるおもしろい曲だと思ったんです。
PON:そうですね。幅が拡がりました。
●そしてリリース後は対バンツアーとワンマンツアーがありますが、楽しみですね。
PON:楽しみですね。今回は久しぶりに自分たちのツアーでいろんな街に行けるので、ちゃんと思ったことをその場で言えるツアーにしたいという気持ちが大きいですね。だからそれまでに、思ったことをちゃんと胸を張って言えるような自分を積み重ねていきたいと思ってます。
●日々、ちゃんと生きようと。
PON:はい。いちばんかっこいい自分でステージに立てるように、ちゃんと日々を生きたいなと思います。
●ヴォーカリストの人たちからそういう話をよく聞くんですけど、日々の生活や考えていることがステージに直結しているという自覚があるんですね?
PON:めっちゃ直結していると思います。他のヴォーカリストがどうかはわからないですけど、自分自身は日々考えていることとか生き方が出ていると思います。
●なるほど。
PON:なんか…その瞬間に自分が胸を張れるかどうかなんですよ。悪いことをせずに、ちゃんと毎日一生懸命生きていないと、そこで胸を張っている自分に対して“汚れている”と感じると思うんですよね。
●おお、なるほど。
PON:そんなことは絶対に思いたくないし、真っ直ぐなことを歌っているんやから真っ直ぐな人間が歌わないと説得力もクソもないじゃないですか。だから自分が歌っていることを曲げないような生き方をしたいんです。綺麗事にしたくないんです。本物にしたい。
Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:中島千理