DEAD ENDのMorrieバンドやCreature Creatureのドラマーにして、KANA-BOONやKEYTALKなどのドラムチューナーとしても名高い、笹渕啓史(Dr.)率いる轟音オルタナティヴロックバンド、CQ。2014年の結成以来、ライブ会場限定で販売してきたアナログ盤による過去作品が全て完売するなど、既に一部では強烈な支持を受ける彼らが遂に初のCDを全国リリースする。まさかの共演&共作で度肝を抜いたクリトリック・リスとのコラボ作品『1989』を経て、今回のニューアルバム『Communication,Cultural,Curiosity Quotient』で5人は新次元へと突き抜けた。つまらない枠組みを一瞬で破壊する、本物の轟音を味わって欲しい。
「“何でもやって良い”ということがはっきりしたんだと思います。“それが自分たちなのかもしれない”と思えたんじゃないかな」
●CQは2014年に現メンバーで結成されたそうですが、(大場)和香さんは一度脱退しているんですよね?
大場:私は最初、オーディションを受けて入ったんです。でも色々あって辞めることになって…。辞めてからは連絡も取っていなかったんですけど、去年の冬頃に笹渕さんとご飯に行く機会があった時にCQの話になって再加入するキッカケの話をしました。
●そもそも一度辞めた理由とは…?
大場:最初の時はみんなが怖くて、全然喋れなくて…。シブジュンさん(※澁谷)とは脱退が決まってから喋れるようになったんですけど、他のメンバーとも辞めてから結構喋れるようになったんです。
●最初はメンバーが怖くて、喋れなかったと。
大場:みんな怖かったです。私が何か喋っても、怒られるイメージしかなかったので…。
笹渕:それは怒られるようなことしかしていないからだよ(笑)。
渡辺:他のメンバーがどう思っていたかはわからないんですけど、俺としては同じバンドに入ってスタートした時点で“メンバー”という意識だったから対等に見ていて。だから納得いかないところは「納得いかない」と言っていただけなんです(笑)。
●対等に接していたからこそ、求めるものも大きかった。
渡辺:(大場は)たぶん変な感じに萎縮していたんですよね。こっちは期待をかけていったので、それに応えられないことがだんだんプレッシャーになっていったのかなと。
笹渕:そしてどんどん肌が荒れ、何も言えなくなり、心を閉ざし始めて、爆発して…「辞めます!」と(笑)。
菅原:彼女が脱退する前のベストアクトは、辞めると言った後で最後にやったライブなんですよ。その時が凄まじく良かったんです。
●解き放たれたんでしょうね。
菅原:全ての重圧が取れて、まるで羽が生えたかのように凄まじく良いプレイをして。「人ってすごいな」と思いましたね。その時のライブがすごく良かったという印象もあったし、辞めていた期間に彼女自身の気持ち的な部分も色々と変わっていたので、もう一度入った時には「これはイケそうだ」って思えたんですよ。
大場:笹渕さんが「自由にやっていいから」と言ってくれてから、楽しくライブができるようになったのかなって思います。
●元々CQのメンバーに応募した時も、こういう音楽がやりたかったというのはあるんですよね?
大場:いや、そういうわけでもなくて…。
菅原:当時は、まっさらでしたからね。彼女が北海道から上京してくるタイミングでたまたま知人の紹介で知り合ったんですけど、ちょうど僕らが女性ベーシストを探していたところに重なって。だから聴いている音楽とか“何がやりたいか”ではなく、本当にファーストインプレッションだけで選んだというか。
●女性ベーシストを探していたんですね。
笹渕:そうです。だって、年長の男ばかりが集まってもしょうがないから…(笑)。
●ハハハ(笑)。笹渕さん、渡辺さん、菅原さんは元々一緒に東京酒吐座(トウキョウシューゲイザー)をやっていたわけですが、CQを始める時はそれとは違うことをやろうというイメージがあった?
笹渕:もちろん、そうですね。
渡辺:東京酒吐座の時みたいなジャンル縛りがないところで、もう1回やってみようかという感じでした。
菅原:東京酒吐座はバンド名自体がジャンルになっていたので、「それから解放されたらどうなるんだろうね?」っていう。だから今はどんどん曲も新しくなるにつれて、どんどん難しくなっているんですよ。
●難しくなっている?
菅原:難しいというか、間口が広がっているというか。色んな弾き方をしないと、対応できないんです。そういう部分が日増しに増えていって、今作はいよいよジャンルレスなものになっていて。
笹渕:そもそも僕は“ジャンル”というものが好きじゃなくて。1つのカテゴリーに当てはめられるのがイヤで、「どうしたら良いんだろうな?」と思いながら今までやってきたんです。自分たちの中で“次はこれをやりたい”っていうものがどんどん出てきているのに、「前はこういう音楽だったから◯◯系だ」とか言われることにもうウンザリしていて…。特に今回の作品に関しては、いかにそれを打破していくかということしか考えていなかったですね。
●初期の頃から比べると、音楽性は変化している?
笹渕:だいぶ変わっていますね。音像も全く違うし、180度くらい変わっているかも(笑)。最初の頃に出していた音源を今聴いてみると、なんて胃に優しいと言いますか…お茶漬けみたいなものですよね。さらさらっと入ってくる。
●初期はお茶漬けだったんだ(笑)。
笹渕:初期の作品がお茶漬けであれば、今回は油ギットギトのラーメンみたいな。
菅原:クセがひたすら強い(笑)。
笹渕:だから、きっと食べづらい人もいると思うんですよ。でもあっさり系のラーメンが好きだという人もいれば、油ギットギトのラーメンが好きな人もいて。たぶん、それがゴチャ混ぜになっているのがこのアルバムだと思います。
●あっさり系から油ギットギトまで全てあると(笑)。東京酒吐座の頃はシューゲイザーというジャンル縛りがあったことも含めて、聴く人を選ぶ音楽だったと思うんですよ。でも今回の作品は広い意味で言えば“ロック”というか、間口がすごく広がっている感じがしたんです。
菅原:まさにそうだと思います。
笹渕:前はそれがやりたくてもできなかったんです。こっちが(シューゲイザーと)言っちゃっていたから(笑)。「そういうところからもっと広げたいよね」という話は、メンバーともしていましたね。
●CQを始めてから、徐々にそれができるようになってきた。
笹渕:そうですね。我慢していたものをどんどん爆発させていった結果です(笑)。
渡辺:でもその片鱗は「Ian」(自主盤1stアルバム『what a Wonderful World』収録)という曲には既にあったと思うんですよ。当時はその1曲だけがヘヴィなサウンドだったので異色に感じたんですけど、それが“芽”のようになっていて。そこから芽吹いたものが徐々に育ってきた結果、今はそういうサウンドも同時に鳴らせるようになったという。
●「Ian」で芽吹いていたものが、クリトリック・リスとコラボした『1989』で花開いたと…。
渡辺:それは違います(笑)!
一同:ハハハハハ(笑)。
菅原:でもクリトリック・リスの影響は相当大きいですね。
●本当に影響を受けたんだ…。
渡辺:実際、影響がないとは言えないんですよ。クリトリック・リスがなぜ人から受け入れられるのか、俺もそこでちょっと実験してみたかったというのもあって。CQという名目はありつつも、(コラボ作品ということで)そうじゃない部分を前面に出したらどうなるかなというのをやってみたら、自分としては上手くいった感じがあったんです。そういうものが、今回のアルバム用に曲を形にしていくところでも影響している部分はありますね。
笹渕:今作を作る前に『1989』のレコーディングがあったので、その時点で“次はこうしたいな”というものがあって。だから、“実験するなら今だな”という気持ちはありました。
●『1989』はまさに実験的でしたからね(笑)。あれをやってしまえば、もう何でもできるんじゃないかなと。
菅原:本当にそうなんですよ。スギムさん(※クリトリック・リス)と一緒にやったことで、作品でもライブでもここまでハジけられるようになったから。
●実際、今回のアルバムを聴いた時もすごく開けた印象があって。それは澁谷さんの歌も大きいと思うんですよ。シューゲイザー的な“ファー”ってオケに馴染むような感じではなくて、ちゃんと声を張って日本語の歌詞をしっかり聴かせるスタイルだから言葉が耳に届いてきて、キャッチーで開けた感じに聞こえるというか。
澁谷:それはあると思いますね。昔はそういう“ファー”っていう感じで歌いたかった時もあるんですけど、自分はそういう声じゃないことに気付いて。“ボーカルがいるなら、ちゃんと歌わないと”っていう気持ちはあるから。声も楽器の一部という使い方ではないですね。
●シューゲイザーやポストロックでは、そういう歌の使い方をしたりもしますよね。
澁谷:そういうのも嫌いじゃないんですけど、僕がやることではないなと思うから。自分が歌うからには…というのはあります。
笹渕:僕らからするとhoneydip(※澁谷がCQ以前に所属していたバンド)のイメージが強かったので、激しいサウンドをやった時にどういうふうに歌うんだろうというのが想像できなかったんですよ。でも初期では一番激しかった「Ian」をやった時に、“イケるな”というのがわかって。そこから“もっともっと”という感じになっていった結果が、今作につながった感じですね。
●たとえば今回のリード曲でもあるM-2「Primal」のように、ヘヴィなサウンドの上に澁谷さんのクリアな歌声が乗るというのがCQの個性につながっている気がします。こういう歌い方だから開けた印象があって、幅広いリスナー層にも届くものになっているというか。
笹渕:前よりは、確かに開けていると思いますね。
●渡辺さんも殻をやっていた頃からすると、こんなにポップな曲を書く人だったんだという驚きがあって…。
渡辺:本来は、ポップな曲を書く人なんですよ。
菅原:でもあの頃はドロドロした曲を書いていた印象しかない(笑)。
笹渕:それが『1989』を経て…。
澁谷:結局、そこに戻るんだ(笑)。
●ハハハ(笑)。
笹渕:そう考えると、やっぱり『1989』ってターニングポイントだったんだな(笑)。
渡辺:実は「Primal」も自主の1stアルバムを出した頃から、デモとしてはあったんですよ。でも「このタイミングじゃないな」ということで、ずっと寝かせていたんです。アレンジも今回みたいな形を想定していなかったので、そういう意味では今やったことでこういう形になったというのはありますね。
●こういう開けたサウンドになったタイミングだからこそ、今回は初めてのCDという形態で全国流通にも乗せたのかなと思ったんですが。
笹渕:それはありますね。色んなタイミングが重なったというか。
菅原:本当にちょうど良いタイミングでしたね。VINYL JUNKIE RECORDINGSが日本人アーティストを出すのが12年ぶりというのも1つのタイミングだし、そこでこういう楽曲が集まったアルバムを作れたというのも、その前に『1989』があってこそのベストタイミングというか(笑)。来るべくして来たという感覚があるし、まさにこの環境でこの状況でできるというのが良かったんだと思います。
●『Communication,Cultural,Curiosity Quotient』というタイトルにしたのも、このタイミングだからこそでは?
笹渕:そうですね。元々このタイトルって、“Communication Quotient(コミュニケーション指数)”や“Cultural Quotient(文化指数)”や“Curiosity Quotient(好奇心指数)”という感じで1つ1つが単語になっていて、IQとかと同じように何かの“指数”という意味なんですよ。この3つの単語の意味がかかっているので、その頭文字を取って“CQ”というバンド名になったんですよね。
菅原:バンド名を決める時に出てきたキーワード的なものなんです。
渡辺:だから、ここへ来ての原点回帰というか。不思議な感じなんですけど、戻って来たような感覚があるんです。「まだ、そうではないんじゃない?」みたいに感じながら色々とやってきて、やっと「これが自分たちなんじゃないか」というところに戻って来られたというか。「ここからまたスタートできる」という意味もあるのかなと思います。
澁谷:本当に1枚目みたいな感じがあって。これがデビューアルバムという感じがしますね。
●ここから新しいスタートを切る?
笹渕:そうですね。やっとバンドの方向性的にも固まってきたところがあるから。
渡辺:“何でもやって良い”ということがはっきりしたんだと思います。“それが自分たちなのかもしれない”と思えたんじゃないかな。
Interview:IMAI