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1stアルバムのリリースとレコ発ライブを経た吉田健児のアフタートーク

1stアルバムのリリースとレコ発ライブを経た吉田健児のアフタートーク

yoshida_a7年前に大阪から上京し、フィルターを通すことなく真っ直ぐにシーンを見つめて活動を続けてきたシンガーソングライター・吉田健児。西原誠(ex.GRAPEVINE)がプロデュースし、西川弘剛(GRAPEVINE)をゲストに迎えて制作された1stアルバム『forthemorningafter』を7/13にリリースし、7/28に渋谷La.mamaでのレコ発ライブを終わらせた彼は何を思い、何を感じでいるのであろうか? 本誌登場2回目となる今回は、飾ることなく、奇をてらうこともなく、そして悲観することもなく、ただ自分の歌だけを信じてきた吉田健児のリリース・アフタートークを敢行した。

 

「デビュー20周年くらいでみんながやるようなことを、すぐにやってみます。全部わかったから」

●1stアルバム『forthemorningafter』のインタビューが終わったあと、少し雑談させていただきましたけど、その時に吉田さんは「きっと今作はたいして売れないと思う」とおっしゃっていましたよね。

吉田:はい。言ってました。実際にアルバムをリリースしましたけど、枚数とか訊いてないし、そもそも期待してなかったという感じで。そういう意味では狙い通りと言えば狙い通りなんですけど。

●いきなりおもしろいな。

吉田:でもTSUTAYAレンタル導入が決まって、ほぼ全店くらいの勢いで入れてもらったんです。もともと、CDショップの店頭にたくさん並んでも僕はあまり意味がないと思っていて。だったらTSUTAYAレンタルの方がよっぽどいいと言っていたんですよ。でもそこはレンタルはTSUTAYAさん次第なので選考でどうなるか見えなかったんですけど。フタを開けてみれば異例の枚数になったのでそういう意味でも狙い通りだったのかなと思います。

●1stアルバムの反響はありました?

吉田:ありました。でも僕はCDっていうのは口実としか思っていなくて、“今の時代CD出すだけではどうにもならんやろ”というのがあって、CDを出したことによってこうやって取材やインタビューとかをしてもらったり、ラジオでパワープレイにしてもらったり、ゲストで呼ばれたり、そういうの苦手なんですけど露出していかないと無理だろうと思っていて。だからまぁ予想通りですよね。

●ほぼ想定内だと。

吉田:僕はあまり何も考えずに活動をしてきたんですけど、こういうインタビューとかを経験して、しゃべることで学んだことは多かったんです。

●確かに、こういう感じで「さあしゃべってください」という場を設けないと、なかなか作品や自分のことについて真面目に答えないですよね。

吉田:答えないし、ふざけりゃいいと思っているので(笑)。

●は?

吉田:“何か訊かれてもウケ狙いでいい”と思っていた節があって。でもインタビューで訊かれたとき“あ、俺はこういうこと考えてたんや”ということもわかったし、相手の人の反応とかを見ていて、自分がちょっとネジが外れていることもわかってきたし。

●あ、わかってもらえました?

吉田:わかってきました(笑)。インタビューだけじゃなくて、音楽関係の人達から「おもしろい」とか「おかしい」と言われることが多いんですけど、別にウケ狙いで話しているわけではなく、奇をてらっているわけでもないので、“なんで「おもしろい」とか「おかしい」って言われなあかんのかな?”と思っていたんですけど、そこがだんだんわかってきた感じですね。僕はたぶん、ミュージシャンとしておかしいんだと思います。一般人としては普通。マトモですね。

●吉田さんは自分を1ミリも飾ろうとしないし、背伸びしようともしていなくて、上昇志向が強いミュージシャンが多い中で、きっと新鮮なんだと思います。コマーシャルなこと言わないし。

吉田:本当は言った方がいいんでしょうけど(笑)。

●いや、でも例えば「今回のアルバムめっちゃいいんですよ」と本人が言ったとしても、それが読者の購買意欲に繋がるかというと必ずしもそうではないと思うんです。今の世の中は特に。

吉田:はい。だから僕、「CD買ってください」って言ったことないんですよ。もし僕が本を出していたら「立ち読みでもいい」と言うし、TSUTAYAの大規模なレンタルが決まったことが良かったのは、レンタルでもいいと思っていたからなんです。僕もCD買ってないし(笑)。

●ハハハ(笑)。

吉田:でもミュージシャンではあるので聴いてもらえると嬉しいかなって。TwitterでもCDのプロモーションみたいなのは僕からは一切言ってないし。作り手があまり言うのはどうかなと思うし、1stアルバムも後から考えたら“失敗したな”という箇所もあるし。

●CD出たとこや(苦笑)。

吉田:やっぱり作り手って反省点が残るじゃないですか。だからあまり告知しなくて良かったなと思います。失敗した部分とか言っちゃいそうですし(笑)。一般リスナーの反応もあまり気にならないし。

●そうなんですか。ファンの反応とか気にならない?

吉田:ならないです。それもいいのかどうかわからないですけど(笑)、CDを出せば、それ以降はあまり興味がないんです。僕自身の人格を悪く言われると嫌なんですけど(笑)、作品は自分とは別物という感じだから。

●直接言われたら嫌なのか。

吉田:実際に作品にも結構人格も乗っていますけど(笑)、反響を求めていたわけではないので、世間に対して「はじめまして」と挨拶するにはこれでいいかなと。

●第一歩にはなった。

吉田:そうですね。ストレートというより強めのジャブという感じに思っていました。それでK.Oしようとは思っていなかった。

●さっき「後から考えたら満足できない部分もあった」という発言があったじゃないですか。それはどういう部分なんですか?

吉田:ちょっとパッケージしすぎた感があるというか。僕の本当の根っこはもうちょっとフォークなんです。思いっきりフォークってわけじゃないんですけど。今は作曲モードに入ってて曲を作っているんですけど、フォークの色をもうちょっと強くしたいなと。今作はエレキばかりでアコギを弾いてないので。

●ロック色が強くなっているのか。

吉田:はい。西原さんが考えてたコンセプトでもあったんですけど、1stはわかりやすくと。でも次は2枚目だから…自分でも1曲はかなり力を入れた曲を入れたいんですけど…あとは結構フォーキーなものにしたいと思っていて。好き放題やろうかなと。1stはやっぱり最初なので少しだけおめかしした感じがあったというか。でもいいやと。素っ裸でいいやと。

●フルチンだと。ということは、“吉田健児”というミュージシャンの比率としては、フォーキーな要素の方が多いんですか?

吉田:そうですね。1stも普通に考えたら素っ裸に近い作品だと思うんですけど、でも次はもうちょっと自分の本来やりたかったものの片鱗を出した方がいいなと。

●その吉田さんが本来やりたかったコアな部分は、どろっとしているんですか?

吉田:どろっとしてるし、もっと素朴だと思います。曲にフックを入れるというより、次はアルバム全体がフックになるようなものになればと。もちろんさっき言ったように、その中で1曲だけはアドバルーン的なわかりやすいものはちゃんと書くんですけど。その他は特に意識せず。

●より自分らしく。

吉田:だから人に言わせれば「これ売れるわけねぇだろう」という部分が加速しているのかもしれないし、別にまぁそれでいいだろうと(笑)。その代わり、それまでの過程が大事だと思っていて。

●過程?

吉田:CDはどうがんばっても結果が知れているじゃないですか。だから過程というか、出し方や環境の部分で、ジャブじゃなくてちゃんと力を込めたストレートを打とうと思ってます。

●音楽としてはより自分らしく、出し方はよりわかりやすく。

吉田:僕の場合はどこかひねくれているので、どっちも達成したくないという気持ちがあるんですよ。わかりやすく出すのであれば、音源自体は「ん?」と首をひねるようなものでもいい。…というか今僕はこの場で思い付いたことをしゃべってるから、自分自身でしゃべりながら“そうだな”と思っているところがあるんです(笑)。これ、アイディアとして人に言うのは今が初めてなんですよね。

レーベルスタッフ:初めて聞きました。

●ハハハ(笑)。ところで7/28に開催したレコ発ライブの渋谷La.mamaでは、「ありがとう」と何度も言っていたらしいですね。

吉田:そうなんです。そもそも僕、サービス精神が欠落しているんです。自己中が強すぎて優しさとかが欠けてるんですよ(笑)。

●はい。それはしゃべってたらわかります(笑)。

吉田:思いやりとかがあまりないみたいで。なので普段のライブでは一切しゃべらないし、来てくれている人たちに対してMCで話しかけたり「ありがとう」とかもほとんど言わないんです。もちろん来てくれるのはありがたいんですけどそれを伝えようとしないんですよね。でもこないだのLa.mamaに関してはすごくありがたくて。

●ブログにも「嬉しかった」と書いてましたね。

吉田:“俺はこんなに支えてもらってるんや。温かいな〜”と思ったし、初めて“音楽をやっててよかったかも”と一瞬思いました。

●一瞬なのか(笑)。

吉田:共演者も西原さんもすごく楽しそうにしてくれていたし、ステージで僕のこともしゃべってくれていたし、そういうのを見ていると“ありがたいな”と。お客さんだけじゃなくて、共演者の人達にも初めてちゃんと感謝できたというか。ライブ中、「ありがとうございます」と5回くらい言ったかな? 普段は一切言わなかったのに。

レーベルスタッフ:5回どころじゃなかったです。びっくりしました。

吉田:それでびっくりされるのもどうかと思いますけどね(笑)。でも僕は基本的に人任せで来た人間なんですよ。

●前のインタビューでも言ってましたね。人との出会いに恵まれたと。

吉田:そうそう。言われたとおりにフラフラしていただけなんですけど、それに対して感謝もなかったんですよ。別にこっちから頼んでないし、みんな好きなように言ってくるだけやと。そういう部分があったんですけど、La.mamaのライブでは曲が終わったときに西原さんの声がちょっと聴こえてきたりとか、お客さんがしゃべっているのが聴こえてきたり、ステージからの光景とか…そこで“俺、音楽をやっててよかったな”と初めて思えたんですよね。充実したライブを初めて出来たかなと。

●なるほど。

吉田:だから自然と「ありがとう」って(照)。僕、本当に思ったら言うので。逆に言うと、今まで一切言ってこなかったのは思ってなかったからなんでしょうね(笑)。

●つい最近、イチローがメジャー3000本安打を達成して「僕が何かをすることで僕以外の人たちが喜んくれることが、今の僕にとって何より大事なことだということを再認識した」と言っていたじゃないですか。あの気持ちと同じですよね。

吉田:はい。僕ごときが言っても仕方がないですけど、まったく同じ気持ちです。

●ハハハ(笑)。

吉田:お客さんが喜んでくれていることが、目の前でわかったんですよね。だからあの日は「ありがとう」だけじゃなくて色々としゃべったんですけど、心境が全部出たのかなと。

●なるほど。ところで次の作品の構想の話がさっきありましたけど、次の作品に向けて曲作りは進んでいるんですか?

吉田:いや、やっと曲を書く姿勢を作るための環境ができたというか。ここ最近はずっと部屋を掃除していました。2週間くらい。

●は? 掃除?

吉田:それとやっぱりMTRが必要だなと思ったから、昨日MTRも買ったんです。それが明日届くし。だからそろそろ動き始めるかなと。

●実際に曲を作ってはいないけど、頭の中で曲の元となるものをイメージしている段階?

吉田:そうですね。次の構想はもっとフォークなものにするとか、MTRを買ったのもそうなんですけどコーラスで魅せるものにしたいとか。そういうイメージは色々とあるので、ギターを持ったらたぶん5〜10分ですぐ出来る状態には持ってきています。

●え? 5~10分?

吉田:いつもそうなんですけど、僕は準備がすごく長くて、ギターを持ったらすぐなんです。

●あっ、そうなんですか。あながちアホみたいな話ではなかったのか。

吉田:でも掃除をすること自体が楽しかったというのもあるし、そこまで考えてやっているわけではないんですけど(笑)。

●でも吉田さんの中で、例えば曲の元となる“音楽の種”みたいなものは何かあるんですか?

吉田:僕は“種”なんてほとんど無くて。掃除しながら色々と考えて再確認したんですけど、僕にとって“音楽の種”は1つくらいしかないんですよ。僕は結局、身近な人にしか届けることができないっていうのが結論なんですけど、例えば母親に対してでもいいし、誰か1人だけのためにすべての曲はあるというか。

●ほう。

吉田:「すべての人に届け!」なんてことは僕は出来ないし、そういう才能もないんです。見よう見まねで1stアルバムを出して、自分の欠点もわかったし、業界の色んな人と話していると今の売れ線はどういう音楽かということも、いちおう知識として入ってくるんですよ。西原さんとも話すし。でも僕の強み・弱みというのは…西原さんにも言われたし自分でもわかるんですけど…僕の武器は今の時代ではないこと。でもそれは逆に欠点でもあるから、苦労はするだろうなとは言われてて。

●なるほど。

吉田:だから着飾ってフックを量産するようなことは、やって出来ないことはないだろうけど、結局僕がやってもまったくものにならないだろうなと。じゃあ“これしか出来ない”というものが武器になるかなと。なので次は“僕にはこれしか出来ない”というところの究極をやろうと思っているんです。

●それが「次はもっとフォーク色の強い作品になる」という話に繋がるのか。

吉田:だからデビュー20周年くらいでみんながやるようなことを、すぐにやってみます。全部わかったから。

●ハハハハハ(笑)。

interview:Takeshi.Yamanaka

 

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