唯一無二の声を持つ女性ヴォーカル・YUCCIとトリプルギターを擁し、美しい旋律とパワフルかつオルタナティブなサウンドを創り出すS.H.E。昨年10月に4thアルバム『ScHrödingEr』をリリースした彼らが、待望の5th アルバム『BUBBLES』を完成させた。リリース直後となる今月号では、ネクストステージへと繋がる可能性を秘めた今作について、S.H.Eのメンバーとレコーディングエンジニアである樫村治延氏のスペシャル対談を敢行した。
左から
樫村治延 (STUDIO CHAPTER H[aus] ) Dr.KAZUKI
G.RYOSUKE G.SEIJI Vo./G.YUCCI (S.H.E)
●S.H.Eは8/3に樫村さんが運営するレーベルからアルバム『BUBBLES』をリリースされましたが、前作『ScHrödingEr』から同レーベルに所属していますよね? そもそも、S.H.Eと樫村さんが出会ったきっかけは何だったんですか?
樫村:もともと、ウチからリリースしていたBErgamot Velmail SoloといわきSONICで対バンしたんですよね?
RYOSUKE:そうです。5〜6年前に。
樫村:S.H.Eの存在は知っていて、アーティスト写真のインパクトが強くてずっと覚えていたんです。RYOSUKEさんは新宿LiveFreakで働いていたんですけど、新宿LiveFreakに行ったときにすぐに気づいて、話すようになったんですよね。よくよく聞いたらウチからリリースしたBErgamot Velmail SoloとAlice tea Partyのスプリット『My favorite Dual cuts』をRYOSUKEさんが持っていたとか、シューゲイザーとかオルタナティブとか好きな音楽の共通点が多くて、盛り上がったというか。正直なところ僕は洋楽系の人間なので、最初のS.H.Eの印象はJ-ROCKっぽいバンドだと思っていたんですけど、YUCCIさんの声質が特徴的でずっと耳に残っていたんですよね。いい意味でカテゴライズしづらいバンドだなと。そこが結構おもしろいなと思って。
RYOSUKE:そういう流れでお互いが「録ってもらいたい」「録りたい」という話になり、レーベルとしても関わってもらうようになったんです。
●S.H.Eはシングル『HOPE』とアルバム『ScHrödingEr』、そして今作『BUBBLES』と合計3枚樫村さんに録っていただいていますよね? バンドからみた樫村さんの印象は?
YUCCI:信頼度がものすごく高いですね。レコーディングのときは“もう1人のメンバー”という感じで。
SEIJI:「こうして欲しい」とこっちからお願いしたときの対応度というか再現度がすごくて。「俺はこれを想像していた」という音を作ってくれるんです。
RYOSUKE:他のバンドにCHAPTER H[aus]を紹介するときに言ってるんですけど、「初めてレコーディングで音に触れる感触を覚えた場所」なんです。
●おお!
RYOSUKE:今まで僕らが経験したレコーディングは、ショーケースに陳列されたものに対して「あれをこっちに移動してほしい」とお願いするしかなかったというか。でもCHAPTER H[aus]だと手に取って触れるんですよね。
●音のリアルな感触がある。
RYOSUKE:それ以来、ここ以外でレコーディングすることは考えられない。機材もすごいよね。
YUCCI:うん。行くたびにワクワクする。
SEIJI:「これヤバい。俺も買おう」みたいな。中には非売品の機材なんかもあるんだよね。
RYOSUKE:うん。樫村さんの豊富なコネクションと圧倒的な知識量というか。すぐにでもどこから何でも出てくる引き出しの多さと、それが整理されている感じがすごいんです。
●ほう。
樫村:一般的な日本のスタジオやエンジニアだと、なんとなく録って、ミックスのときになんとかしようっていう日本人気質的な進め方が多いんですよね。でも後からなんとかするのははっきり言って無理なんです。録るときにこだわってストライクゾーンの8割くらいに達してないと、無理なものは無理。しかも雇われエンジニアだと時間的な制約もありますけど、ウチは僕がオーナー兼エンジニアなので、納得するまで好き勝手できるという。実際のところ、S.H.Eも引き算のミックスをするようになったのが大きいですよね。
RYOSUKE:僕らの場合は特にそうですね。
YUCCI:うん。メンバーが増えてからは特にそう感じます。もともと4人だったのが5人に増えて、トリプルギターになったんですけど、CHAPTER H[aus]でレコーディングをするようになってから勉強したことが、今のバンド活動にすごく活きている(笑)。アレンジとかは特に。
SEIJI:エフェクターを踏むんじゃなくて、シールドをいいものにするだけで音が聴こえるようになるということを知ったり。
YUCCI:そうそう(笑)。電源を良くするとかね(笑)。
●シールドや電源?
SEIJI:僕がいま使っているシールドは3万円くらいするんですけど、CHAPTER H[aus]では実際にそれを試すことができるんですよね。“3万円あったらとエフェクター1個買える”と思うんですけど、エフェクターくらいシールドですごく音が良くなるっていうことがわかったんです。
RYOSUKE:イキがいいトラックを録らないとダメっていうか、引き算をする前にいい素材がないと活かせないっていうか。
樫村:特に歪み系のギターは一度録っちゃうとつぶしが利かないんですよね。ウチは欧米のスタジオのコンパクト版を作ろうと思って、建物をゼロから設計したんです。テナントだと昼と夜で電圧が変わるし、天井の高さも防音して2.5mくらいなんですけど、ウチは3.2mくらいあるんです。やっぱり天井の高さも音に関係してくるんですよね。ドラムとかは特に。
●ドラム良かったですか?
KAZUKI:良かったですね。俺はシンバルの位置が高いんですよ。だから毎回レコーディングするときにエンジニアに嫌がられていて。マイキングとか、どうやら録りにくいみたいで。だからCHAPTER H[aus]で初めてレコーディングするときも「俺はこういうシンバルなんですけど、やっぱり低くした方がいいですよね?」って聞いたら「いやいや、そんなことしなくていいですよ」って。
一同:ハハハ(笑)。
KAZUKI:それで実際に録ってみたらめちゃくちゃ音が良くて。
●今回のアルバム『BUBBLES』の録りはどうでした?
SEIJI:録りはかなりサクサクだったよね。
RYOSUKE:うん。今回は本当に詰まらなかった。
YUCCI:でもM-8「recall」がいちばん苦労したよね。
KAZUKI:あ、俺だ(笑)。
YUCCI:S.H.E史上、最も遅いBPMで。
樫村:ああ〜、あれか。バラードっぽい曲ですね。
YUCCI:はい。あれでかなり苦戦しました。KAZUKIは今までそういう曲をやってこなかった人なので(笑)。
KAZUKI:今までは4ビートでガンガンいくような曲しかやったことなかったんです。
RYOSUKE:180(BPM)からの男だからね(笑)。
●ハハハ(笑)。
KAZUKI:ノリがよくわかんなくなっちゃった(笑)。何回やっても全然良くならなくて。
RYOSUKE:この曲はチャレンジだったね。
●樫村さんはレーベルとしても関わっておられますが、プロデュース的なことはされるんですか?
樫村:いや、あくまでお手伝いするというスタンスですね。
SEIJI:でも録りのジャッジとかは「これどっちがいいですか?」と訊いたりします。そしたら「こっちの方が活きてますよ」って。だからメンバーみたいなもんです(笑)。
一同:ハハハハハ(笑)。
樫村:S.H.Eは形態だけで言うと「トリプルギターで女性ヴォーカルのバンド」ですけど、その形態だけとっても日本ではあまり居ないじゃないですか。それに加えて、最初に言いましたけどYUCCIさんのふくよかだけどちょっとえぐ味がある声っていうのかな…そういうところがバンドとしての武器だと思うんですよ。だからいい意味でカテゴライズしづらいんですけど、いまはカテゴライズしづらいとフェスとかでもどこに入れていいかわかんなくなるというか。
YUCCI:うんうん。
樫村:でも逆に言うと、自分たちでムーブメントを起こせる可能性があると思うんですよね。どこかのシーンに合わせる方法もあっていいと思うけど、同時に自分たちとムーブメントを起こして、より大きな展開をしているバンドといい繋がりを作っていけばいいなって思ってるんですよね。僕的には、どこに属さなくてもいいと思っているんです。いままでのS.H.Eは、カテゴライズしてもどこにも入らないというか、隙間をついてきているようなイメージがあるんですよね。
YUCCI:そうですね。だからブッキングとか誘われるイベントも本当にバラバラで。“女性ヴォーカル”という括りの場所に行くと明らかに私たちはゴリゴリなので浮いてしまうし(笑)。
RYOSUKE:あと、一時期はいっぱい居たと思うんですけど、女性ヴォーカルのエモ/スクリーモ系のイベントに呼ばれると、今度はポップなバンドになってしまう。
YUCCI:うん。「歌モノだよね」って言われたり。
●ああ〜。
YUCCI:結成10年目なんですけど、自分たちでもずっと立ち位置を悩んでいた状態だったんです。でも今回は初めてアルバムコンセプトを決めて作ったんですけど、バンドとしてのカラーを作りやすくなったという部分はあるかな。次に進むきっかけになる作品になったという手応えがあるし。
RYOSUKE:いままで作ってきた作品の中で、いちばん色濃い部分というか、いちばんパワフルな部分を出すことができたかなって。攻撃的でもあるし。
SEIJI:攻撃的でもあるよね。
RYOSUKE:それも無理しているわけじゃなくて、いままで持ち合わせていたものの中から濃い部分をスッと出せたというか。
SEIJI:これをどこのシーンに当てはめるか? というよりは、樫村さんが言っていたように自分たちで「これがS.H.Eだ」という感じでやっていった方が確かにいいと思う。
RYOSUKE:この方向を突き詰めていって、ムーブメントを作り出せるような力強い活動をしていきたいよね。
YUCCI&SEIJI&KAZUKI:うんうん。
●いまのシーンを見ていると、自分たちをプロデュースする能力が必要な気がするんです。そういう視点を持って活動しているバンドと、そうじゃないバンドの差が大きいというか、二極化しているような気がしていて。おっしゃっていたように、ムーブメントを作ろうとしているバンドはすごく増えたと思うんです。バンド主催のイベントなんかはその象徴で。そのためには、自らをプロデュースする能力が必要になってくるような気がする。
樫村:それにメロコアとかのシーンだと、ムーブメントが作りやすい土壌がありますよね。シューゲイザーとかと違って、体育会系というか打ち上げとかも含めてガンガン仲良くなって、バンド同士が強く繋がっていく文化がある。
●確かに。
樫村:さっき言ってましたけど、S.H.Eは無理やりカテゴライズする必要はないと思いますけど、既存のシーンと接点を持ちつつ、バンドとしての武器を増やしつつ、いろんなバンドとコラボできるようなチャンスを掴んでいければいいかな。
YUCCI:ずっとバンドを続けていると、対バンとかも含めてお決まりになってくる部分も増えたじゃないですか。でも2015年に現在のメンバーになって、やっとそれをぶっ壊せるような体制が整ったという感触があるんです。これだけメンバーが居るといろんな意見が出てくるし、誰かが目立たなくなったりするのは絶対に嫌なので、メンバー1人1人の意見を汲み入れつつ、絶対に全員が最強にかっこいい状態をどうやって作るか? をみんなで考えたり。
●建設的に新しいチャレンジができるようになった。
YUCCI:そうですね。だから昔よりもバンド活動が楽しくなったよね。
RYOSUKE:うん。それも単に楽しいだけじゃなくて、いい意味で全員が全力でぶん殴り合うような感じで切磋琢磨しながら作っていけてるんです。昔はレコーディングなんかでピリピリしていたことも多かったんです。でもメンバーそれぞれの技術も上がったし、成長もしたし。お互いが意見を言い合えて、お互いがその意見を採り入れながらできてますね。
樫村:やっぱりレコーディングも楽しみながらやった方がいいものができますからね(笑)。
一同:ハハハ(笑)。
interview:Takeshi.Yamanaka