音楽メディア・フリーマガジン

FORN

不特定多数の“誰か”ではなく目の前の“あなた”に届けたい

 “切なさ”をバンドコンセプトに、日常の中で生まれた何気ない感情をエモーショナルに表現し続ける3ピースロックバンド、FORN(小文字表記から大文字表記に変更)。前作からおよそ10ヶ月のリリースとなる両A面シングル『あなた / ブレイブチェイン』は、深みと広がりのあるサウンドの奥に曲を通じて誰かの力になりたいという意志が現れている。昨年は3ヶ月で43本、1年で全96本と、まさにライブバンドと表すに相応しい数のライブを敢行した彼らが、数多くの出会いを経て得たものとは何なのだろうか?

Interview

「何気ない生活の中で、何気ない感覚で作った、何気ない音楽。道ばたを歩いててパッと思い浮かぶくらい日常的な部分を出している」

●前回のシングルから約10ヶ月ぶりのリリースという事ですが、その間も精力的にライブを行っていましたよね。

川上:自主企画やリリースツアーを通じて全国各地を回ってました。まさに一期一会と言えるような素晴らしい出会いがあって、そこからまた新しい場所に行って…いろんなところを放浪してましたね。

●その中で学んだ事もたくさんありましたか?

川上:人の話はちゃんと聞かないとダメだなと思いました。

●え?

川上:熊本に行った時、あるライブハウスのオーナさんに"地獄温泉"という有名な温泉を紹介してもらったんです。ケータイのナビを見ながら行ったんですが、着いた先が明らかに1回200円くらいの銭湯で。"これ絶対言ってたところと違うよな"と思いつつ入ってみたら案の定違う場所で、おっちゃんばかりの地獄みたいな温泉(銭湯)だった。やっぱり人の話はちゃんと聞かないとですね。

●それは…ショックでしたね。ある意味"地獄温泉"には違いないですけど(笑)。

川上:地獄違いですけどね(笑)。

●でも、昨年ほどではないですが今回もかなりロングスパンのライブでしたよね。

川上:3ヶ月間で43本のツアーがあったんで、それに比べたら結構コンパクトではありました。それでも長かったですね。

●それだけ一緒にいると、家族みたいな感覚なんじゃないですか?

川上:そうですね、子どもを2人見てるみたいな。

一同:あはははは!!

川上:「あれした? これした? 忘れ物ない?」って。僕は打ち上げで結構飲むんでいつも2人に荷物を任せるんですけど、だいたい何かひとつ忘れて来てくれるんですよ。しかも忘れてない時は何か違うものを持って帰ってくる。移動距離が近ければ取りに行くんですけど、そろそろ自分の持ち物くらい把握して欲しいですね。本当に面白い家族ですよ。

●なんだか楽しそうですね。個人的にはもっと聞いていたいんですけど、そろそろ曲の話に入りましょうか(笑)。M-1「あなた」という曲なんですが、どういうタイミングでこの曲が生まれたんですか?

松村:特にタイミングがあった訳ではなく、パッと浮かんで出来た曲がこれだったんです。この曲は"人の出会いって素晴らしい"っていう曲なんですよ。

川上:いろんな人と出会ったりお世話になったりして、そういう部分が現れたんじゃないでしょうか。

●それも感情もツアーで得たもののひとつなんですね。ストレートな表現が多かった前作に対して、"曇り空"のような比喩的表現が印象的ですけど、何か心情的な変化が?

松村:僕的には、自分はこうだっていう明確なものがない状態を"曇り空"だと思ってるんです。人と出会っていく中で、自分はこうなんだっていう何かを見つけた感じを出したかった。

川上:たぶん、根本的に人があんまり好きじゃないんですよ。基本的にメンバー全員がネガティブなんで、暗く考える事が多いんです。だから何もない事を晴天ではなく曇り空で表現したかったけど、一期一会の出会いの中で僕らも変わってきた。自分の中でも"希望を捨てずにやってる、頑張ろう"っていう啓発にもなってるかな。

●だから最後には"私の空は晴れる"んですね。前回のインタビューで「Mdibという曲で実験的に英語を使った」という話がありましたが、今回の「あなた」にも英詞が入ってますよね。

松村:ホンマや。

川上:たぶん今回はその言葉を使いたかっただけ(笑)。語弊があるかもしれませんが、僕らって何気なくやってるバンドなんです。何気ない生活の中で、何気ない感覚で作った、何気ない音楽。道ばたを歩いててパッと思い浮かぶくらい日常的な部分を出しているから、お客さんにも伝わりやすくなってるんじゃないかなと思います。何気なく本気でやってる。彼(松村)の顔を見てもらえば分かると思いますけど。

●あ、何となく伝わりました(笑)。凄く自然体な表情ですね。今回の曲は全体を通して今を大事にしているような印象を受けたんですよ。歌詞でも"明日さえ要らないくらい"という言葉がありますし。

川上:どう?

松村:全力っす。

●今を全力で生きてるという事?

川上:常に全力でという気持ちは、自分達の芯として根底にある部分なんです。毎日を全力で生きてるからこそ明日も楽しく生きていけるし、過去もいいものに見えてきたりする。僕らにとって"今"は大事な物で、1分1秒を大事にしたい。

松村:その通りです!

●全力の"その通り"頂きました(笑)。それではM-2「ブレイブチェイン」についてお聞きしたいんですが、このタイトルの由来は?

松村:そのまま直訳すると"勇敢な鎖"というタイトルなんですが、この曲を作ったきっかけが、友達がヘコんでたからなんです。その子の話を聞いてるうちに、この曲が浮かんだ。その人の気持ちが100パーセント理解できる訳じゃないですけど、何となく共感出来る部分ってあるじゃないですか。"ひとりじゃないよ"っていうのを伝えたかったのと、何か力になれたらいいなっていう感じで出来た曲。

●"空を飾り花に敷き詰めて"っていう表現が凄く印象的で。"空に"じゃなくて"空を"なんですね。

松村:分かりにくいかもしれないんですけど、僕的にこの曲のイメージが箱庭の中に空や花を作っていく感じなんです。何かを一緒にやってる時って、作業に没頭てるうちにふとにおかしさが込み上げてくる事があるんですよ。どうしてなのか理由は分からないけど、自然と笑っちゃう。そうやって笑いあって元気になろうって意味なんです。"ひとりで悩まないで"と。

●なるほど。ちなみに、その友達はこの曲を聴いた事があるんですか?

松村:どうだろ? 「お前のために作ったから聴いて」っていうのも好きじゃないんで、僕の知らないうちに聴いていて欲しいな。

●それを聴いて元気になってくれたら嬉しいですよね。ところで、今回はレコーディングが面白い環境で録れたという話を聞いたんですが。

川上:今回、ベースとドラムは一発取りで録ってるんです。ギターに関してはフレーズによってエフェクトも違うので何回か録ったんですけど、お願いしたエンジニアさんが所有している機材が他では見ないようなヴィンテージもので。ヴィンテージだけど音も保存状態もいいアンプだったので、僕らもひとしきりテンション上がりながら楽しくレコーディングが出来ました。ギターに関してはほとんどがアンプ直じゃないかな。エンジニアの方がどの楽器にも精通してる方で、特にギターアンプとドラムセットに関して詳しい方だったんですよ。凄く勉強になりましたね。

●全体的に勢いもあるんですけど、音に立体感というか、奥行きがあるなと思って。

川上:広がりだけじゃなくて深さも欲しいという話をしながらギターのフレーズを録ったんです。プリプロの時点でエンジニアさんと一緒にアレンジをしていたので、凄くスムーズに進みましたね。

●なるほど。

松村:音も抜けるようになったし、歪みが少ない分フレーズをきっちり弾かないといけないので、そこは気をつけました。

川上:結構ガチャガチャ弾くタイプなんで、基本的に音量さえ上げておけば歪むんですよ。実は僕、ずっと"それ以上歪まさないで欲しいな"と思ってたんです。でもギタリストからするとその歪みが気持ちいいらしくて。そこを減らして欲しいなと思ってたので「そのアンプいいアンプやからそんな上げんでも結構歪むで、大丈夫大丈夫!」とか言って松村を持ち上げながら(笑)。

●プリプロからエンジニアさんと相談してレコーディングを行ったという事ですが、どうしてその方にやってもらおうと思ったんですか?

川上:実はそのエンジニアさんが前作を録ってくださった方なんですよ。昔はレコーディング中にずっと音を聴いてるのがしんどかったんですけど、そのエンジニアさんに録ってもらった時に初めてレコーディングが楽しいと思ったんです。僕らは人の意見を聞いて取り入れていくタイプなんで、いろんな意見をもらえるのもよかった。エンジニアさんのおかげで曲の深みも広がりも格段に増しましたね。

松村:構成はそのままにフレーズを少し変えてみたり、尺を伸ばしたり。結果的に大満足です。

●前作リリースから1年弱というスパンであえてライブ会場限定、しかもアルバムではなくシングルを出した理由は?

川上:シングルにしたのは、僕の中でこの2曲で勝負したい気持ちが大きくあって、一刻も早く出したかったからなんです。それに流通だと誰が聴いてくれてるか分からないんで、どうしても会場限定にこだわりたかった。「あなた」という曲なので、顔を見て目の前で直接渡したいというか、目を見て買って頂きたかったんです。近い距離で話が出来て、顔を見ながらCDを買ってもらうっていうのが僕ら的にも気持ちのいい事なので、もっと気持ちよくなりたいなと。

●会場に来てくれた"あなた"に一刻も早く届けたかったんですね。「ブレイブチェイン」はライブで盛り上がりそうな曲で、手を挙げて一緒になれるような感じがします。

川上:一緒に声出してもらったりもしてるので、僕らも楽しくやれるし、楽しんでる反応ももらえるんで。これを音源にする事でもっと広がればいいなと思います。大それた言い方ですが、歌詞をもらった時に、聴いてもらって何か力になればという気持ちで歌おうと決めたんです。ライブでも常にその気持ちを持ってますね。

●歌詞もそうですけど、メロディや声も本当に訴えかけるものがありますよね。「ブレイブチェイン」の歌詞は、まるで誰かに話しかけているかのような歌詞なのでなおさらそう感じます。

川上:ライブでは毎回僕らを楽しみに観に来てくれてる人もいるので、そういう人達に向けてという気持ちありきで歌ってますね。誰だってひとりひとりは弱い人間だけど、みんなが集まれば怖くないじゃないですか。もちろん僕ら自身も弱い部分を持っているから、お客さんに助けてもらう事もたくさんある。その人達に届けるという意味でも今このタイミングでこの2曲を発売出来るのが嬉しいし、かなり気合いが入ってます。

●前回は特典でDVDがついていましたが、今回も何か特典があるんですか?

川上:実は、今回は別の形で用意しております。発売の日にAtlantiQsで2マンライブをやるので、その会場に来てくださった人限定にスペシャルな映像を流す予定です。松村が編集してるんですけど、効果音とかも入っててバラエティ番組かってくらい凝ってますよ(笑)。

●それは気になりますね(笑)。今後のリリースツアーの予定は?

川上:どういう形でやらせてもらうかっていうのはまだ検討中なんですけど、今回は自分達からアクションを起こして巻き込んでいくのがひとつの目標なんです。「ブレイブチェイン」なんで自分達から勇気をもって繋がりを作っていきたいですね。

●アクションを起こしてみんなを"抱きしめて"いくと。

川上:そうです、抱きしめたいんですよ。抱きしめ合えばいいと思います。愛があってなんぼだと思ってるんで。

松村:愛です。

●なるほど。これから詳細も決まっていく事ですし、HPをこまめにチェックですね。

松村:あ、そうそう。実はサイトもリニューアルしたんです!

川上:ブログも新しくアメブロになりました。最近携帯をiPhoneに変えて綺麗な写真が撮れるようになったんですけど、前のサーバーだと画像が重過ぎてUP出来なくて。せっかく画像をあげれるようになったし、芸能人登録をしてみようかなと。毎日更新して、殿堂入りを目指します!

Interview:上田雄一朗・森下恭子
Edit:森下恭子

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